少女は夜を綴らない


 「人を傷つけてしまうのではないか」という強迫観念に囚われている中学3年生の理子。
それは3年前に目の前で同級生が死んだ時から、理子にのしかかる強迫観念だった。
そのせいでカッターや包丁は触れず、医者にっても気のせいと言われ、理子は自らの衝動をノートに「創作」として綴っていた。
ある日、死んだ同級生の弟から、「姉を殺したことをばらされたくなければ自分の父を殺す手伝え」と脅迫される。
二人で計画を練りながら、やがて決行の日がやってきた。

 物騒な思いを抱える少年と少女。
さらに心の病の母とおかしな性癖の兄という、個性の強い二つの家族の話。
殺人の計画をずっと練っているため、全体的に暗くて剣呑で、読んでいて気持ちも暗くなる。
明るい友人たちにとても助けられているが、思春期特有の思い詰めたような感じが良く出ている。

我、鉄路を拓かん


 明治、政府により日本に初めての鉄道を通すことが決まる。
そのうち芝~品川間は、海上を走らせるという。海外から知識を持った人を雇い、全国から大工、石工などの工事を請け負うものを集める。
「築堤」部分の難工事を請け負ったのは、芝田町の土木請負人・平野屋弥市。勝海舟から亜米利加で見た蒸気車の話を聞いてから、どうにも興味が抑えられず、どうしても蒸気機関車を見たい、乗りたいという強い思いでひたすら進んできた弥市。
イギリスからやってきた技師エドモンド・モレル、官僚の井上勝らと共にこの難題をやり通す。

 2022年10月で、新橋~横浜間の鉄道開業150年となるそうだ。そして近年、高輪ゲートウェイ駅付近でこの時の石垣の一部が発見されたという。
弥市は、商人から土木請負人に商売替えをした変わり者。
それでも、土台を作る矜持があり、それが鉄道への情熱へとなる。
建っている建物だけが注目されるが、その基となる土台を作り、地図に残る仕事が誇らしいと語る弥市が頼もしい。

星影さやかに


 東京で教師をしていたが罷免され戻ってきた父。書斎にこもっている神経症の父を恥じながら、立派な軍国少年となるべく日々を過ごしていた良彦。
しかし戦争に負け、生活が一変していく。
引きこもり「非国民」とそしられる父を支え続けた母、一家に君臨し、地域でも大きな権力を持っていた祖母、東京で就職し、結婚した兄と、まだ小さな妹。
 父が亡くなり、遺品である日記から見えてきた、自分には見えなかった父の一面。

 良彦が見ていた不甲斐ない父の姿。そして母から見た父と、日記から見えてきた父の思い。
家族の思いを、それぞれの立場からに描いている。
特に、口を出すだけで何もしない祖母への感情はわかりやすく、良彦側と母側の比較ができて面白い。

お誕生会クロニクル


 「誕生日」にいい思い出はない。いつも家族の割を食うように生きていた母が、最も割を食った日。
小学校で「お誕生会」が禁止になって苛立つ娘に、サプライズで誕生日会を開いてやろうとした父親。
3月11日に生まれた双子たちに、震災の悲劇があったことを知らせないようにしていた母親。
誕生日がただ楽しくてうれしい日だけじゃない人たちの、生き方を変えるストーリー。

 誕生日をテーマにしているけど、一つ一つはもっと広い視野で描かれていて、親しくはないけど近くにいる人たちの物語。
誕生日は「誰もが自分自身と向き合う日」として、主に家族との関係を考えるものが多かった。
いろいろ納得もしたし、考えもしたけど、一番はやっぱり「男は皆、逃げる」かな。

探偵と家族


 高円寺にオフィスを構える銀田探偵事務所。
だが父は5年前、ある事件があってから仕事をしなくなり、代わりに母がペット探偵として家計を支えている。
そんなある日、フリーターの長女・凪咲は、父が仕事をしなくなったきっかけの事件の関係者から、うっかり依頼を受けてしまう。
ゲーム好きの長男・瞬矢を巻き込んで、凪咲は5年前の事件と父の出した結論の真意を知りたくなってしまったのだ。

 「黒猫」シリーズにたくさん出てきた、ちょっと変わった視点からのたとえを混ぜた表現が、「黒猫」シリーズよりも控えめに配置されている。
話の腰を折らない程度に脱線する比喩が、どことなく冷めた目で家族を眺める凪咲の立ち位置や心情を表しているよう。
頭のいい子供が、解決できる時が来るまでの時間稼ぎをどうするのか、そして大人がそれに気づいたとき、父がどうしたのか。
謎が解けてもしばらく考え込んでしまう。

Vネックのアランセーター



使用糸:大創産業 アクリルヤーン (10)
編み図:トラディショナルニット より
     Vネックのアランセーター
使用針:8号棒針 454 g

シェルター


 小さな安らぎを与えてくれるシェルターのようなカフェで、10代と思われるとても奇麗な女の子に声をかけられる。
行く先もなく、帰るところもないと心細げな彼女を、恵は拾ってしまう。
恵自身も、都会から逃げてきたのに。
 その出会いから始まる、守りたい事と逃げたい事の葛藤が、恵と彼女を行方不明にさせる。

 豪快な整体師の先生のシリーズだったようだが、これだけ読んでも充分不自然じゃない。
過去に後悔を抱える姉妹と、同じく過去に因縁を抱える兄弟弟子。
そこにふわふわした一人の男が混ざった時点で、とても柔らかい雰囲気の物語となっている。
過去の重さに似合わない軽さであっさりと読めるところは良いが、すぐに忘れてしまいそうなくらいキャラクターたちの個性も軽かった。

探偵は友人ではない


 海砂真史には変わった友人がいる。
敢えて学校には行かず、興味の向くままに暮らす、とても頭のいい友人・鳥飼歩。
バスケ部で2年先輩の鹿取さんと街で偶然出くわし、彼が突然疎遠になった友人とのことがずっと気になっていると聞き、真史はその相手が歩だと気づく。
二人を仲直りさせたい真史は、仲たがいの理由の謎を歩に聞くことにした。
 なぜかとても真史を慕ってくる後輩の家が営んでいる洋菓子店が作った、お菓子の家が当たるクイズ、美術室での教師の不思議な行動など、日常の疑問が気になってつい歩に相談してしまう真史。おかしな謎と不思議なふたりの関係。

 「探偵は教室にいない」の続き。
中学生のくせにやたら頭が良くて、素直じゃない歩の素顔がちょっと覗く瞬間がいくつかあり、それを見るととてもうれしくなる。
興味のある事だけに反応する歩だが、決して冷たいわけじゃないし、ちゃんと真史のことや周りの人たちを気遣ってくれるから、近づきたくなる真史の気持ちがよくわかる。
彼が大人になったらさぞ憎たらしい探偵になるだろう。

ミステリなふたり あなたにお茶と音楽を


 愛知県警捜査一課、通称“氷の女王”こと京堂景子警部補は、頭脳明晰の優秀な刑事。
彼女の一言で現場は緊張し、くだらないおしゃべりは一瞥で止める。
だが、そんな彼女は家に帰るとイラストレーターの夫に甘えるツンデレな女だった。
そして、料理の上手な夫・新太郎は事件の話を聞いてさらりと真実を察してしまう名探偵で、二人は食事の合間に謎解きをする。

 おいしそうな料理と紅茶の香りが漂ってきそうな短編集。
事件は、京堂警部補に憧れる新人刑事・築山瞳が足となり、頭脳の新太郎と指揮の京堂警部補の3人で進む。
ことさら意外な結末というわけではないが、3人で集まったことはないのに見事なチームワークでするする進むので楽しい。