少女の時間


 元刑事で現在フリーのジャーナリスト。そんな柚木に月刊EYES編集部経由で持ち込まれた、2年前の未解決殺人事件の再調査だったが、調べ始めた途端、関係者が死亡するという事態になる。
情報をくれる美人刑事に、調査対象の美人親子、柚木の周りに集まる癖の強い美女たちが、柚木の苦悩を増やして回る。

 シリーズだがとりあえず一つという程度で手に取ったが、意外に面白かった。
洗濯好きの女たらしという設定の柚木が、女たちに困らせられながらもさらりと口説く様が楽しい。
女たらしというより、やたらと女に絡まれる感じの人たらしで、それでも料理がうまく、もてなしもスマートなので、これでは嫌いながらも寄ってくる女たちの気持ちも少しわかる気がした。
推理も警察とうまく役割を分担しながらきっちりと詰めていくので流れがつかみやすく、事件としても興味が持てるため最後まで手が止まらない。

あなたのためなら 藍千堂菓子噺


 おっとり者の菓子職人の兄・晴太郎と、少々口は悪いが算盤や商いの上手い弟・幸次郎は、無口だが笑い上戸の職人・茂市と3人で「藍千堂」を営んでいる。
晴太郎が結婚して、男所帯が明るくなったところに、従妹のお糸の縁談話が舞い込んだ。
いつもはボンクラばかりを連れてくる叔父が今度はまともな男を選んできたと、皆は興味を惹かれたが、この縁談がとんでもない厄災を連れてきた。

 兄弟の言い合いが微笑ましい。
しかし今度も、簡単には癒えることがない傷を負うものが出てくる。
優しさにあふれたシリーズで、温かく優しい気持ちでいられ、お互いを思いあう場面が多い。
考えぬいてできる菓子も美味しそうで、華やかさを増す。
じっくりと読みたいシリーズ。

漣のゆくえ とむらい屋颯太


 事故でも自殺でも、人が死ぬと魂はいなくなり、直ちに腐り始める。
しかし生きている人にとっては、その抜け殻は大事な人の姿であり、すぐには受け入れられない。
そんな人々にとって、弔いはとても大事なものとなる。
「弔い屋」の主人・楓太は、そんな遺族の気持ちを救いとる。
 今回も、訳ありの死人を運んでほしいと依頼が入る。

 楓太自身も辛い過去を持ち、生き残った者として、残された人たちの気持ちに区切りをつけられるよう、細かい心配りをする。
新しい仲間も増えてにぎやかになるが、やや感傷が押しつけがましいと感じる部分もあった。
それでも暗い雰囲気にはならず、生きている人を一番に考える様子は力強い。

猫君


 江戸・吉原で髪結いをするお香に育てられていた猫・みかんは、やがて20年がたつという頃、病を得たお香に一つの約束を言い出される。
それは、近く自分は死ぬから、飼い主を取り殺したと言われて捕まえられる前に、逃げなさいという。
悲しみに暮れる暇もなく逃げ出したみかんを待っていたのは、猫又としての生き方を学ぶ猫宿と、先輩猫又たち。
しかし今年の新米猫又たちは、いつもと違う学びとなってしまった。

 登場人物が猫であることを忘れぬよう、話すセリフに時々「にゃあ」が加わることに慣れてしまえば、これまでの作品と同じように楽しめる。
つまり、何か問題が起き、仲間と共に、知恵を絞って切り抜ける。
いろんな個性が楽しい知恵を生み、それが猫たちだと思うと、集まっている様子を想像するのもまた楽しい。

ラグ


使用糸:毛糸ZAKKAストアーズ メランジェスラブ(22)
    ALPS ウォッシャブル 純毛中細(1)
材料:ダイソー 滑り止めシート
サイズ:65×83cm

死層(下)


 どうやらマリーノが騙されていたことが分かり、様々な方面から疑われる。
さらに、自宅の地下室で転落死したと思われていた遺体がずっと気になっていたケイは、そちらも調査を始めた。
すると、二つの事件がつながり、身近な人の裏切りも発覚してしまい、ケイは信頼する人達との時間を切実に求めていた。

 下巻も半分くらいはだらだらとした印象。
ベントンに近づいてくる女性と、何かとケイに触れてくる男のせいで、二人とも嫉妬していたり、何を考えているのかと勘繰ったり、そんな話ばかり。
最近ルーシーとマリーノの存在感が薄くなってきて、ベントンとケイの嫉妬話でうんざりさせられ、半分以上は無駄話としか思えなくなっている。
最後は事件も解決し、マリーノは動物に癒されて、いい雰囲気で終わっているが、あまり後味はよくない。

死層(上)


 ケイの元に、カナダの化石発掘現場で撮影したと思しき、耳の断片を映した謎の画像メールが寄せられた。
暗い画像なうえ、前触れもなく謎ばかりだったため、ケイは悩む。
そして、ボストンの湾内では、上下に釣られた女性の遺体が発見される。
発見時の不思議な様子に気を取られ、法廷に呼ばれていたにもかかわらず、遺体に向き合うことを優先してしまう。

 ケイが海から引き揚げた遺体は、少しの衝撃でバラバラになるよう上下に引っ張られていて、その様子だけでも興味を惹かれる。
でもその後遅刻して出向いた法廷での意地悪なやり取りに嫌悪感が大きく、行方不明の古生物学者や海の中の死体よりも印象が大きくなる。
まだ上巻ではケイが仕事をする場面は少なく、ただ居心地の悪い場所での嫌な経験と、命令を無視した部下にいら立つケイしかいない。もっと死体に向き合う場面がほしい。

蝉かえる


 16年前、災害ボランティア中に見た少女の幽霊のことが気になり、再度その場を訪れたの青年から聞いた少しのヒントで、魞沢は真相を語りだす。
交差点で起こった交通事故と、団地で起きた負傷事件の謎。
虫好きの魞沢が、その場の虫と共に語る真実。

 静かに、淡々と話す魞沢の話が、時に虫の話にすり替わり、その時だけは熱く語り始めるという変わった探偵。
短編集なのでそれほど込み入ってはないし、虫と言っても割と身近な虫たちなのでイメージも沸く。
魞沢の語り口が優しいので、犯罪者からも悪意は感じないため嫌な気持ちは残らない。
少年の頃の魞沢からも、すでにその優しい探偵ぶりがうかがえてほほえましくなる。

双子同心捕物競い


 そっくりの双子なのに、正確は正反対の二人。
兄の左京は真面目に父の跡を継いで同心になり、弟の右近は家を飛び出し地回りとして生活していた。
ある日、老人から「隠居したいので同心株を買わないか」と言われた右近。
何の因果か、二人は北と南に分かれて同心をやることになった。

 タイトルから、一つの事件でどちらが手柄を上げるか競うのかと思っていたら、そう簡単ではなかった。
それぞれが別々に調査し、話し合いなどしない。
しかし、反発してもそれは双子。どこか似た考えがあり、最後は少し歩み寄る。
二人が違う縄張りで同じように励んでいたら、きっと町はとても平和になるだろう。

アランジャケット


使用糸:パピー ブリテッシュエロイカ(134)
編み図:アラン&ガンジーニット より
    「アランジャケット」 778 g 12号針