霊柩車No.4


 父が港から車ごと海に落ち、死んだと聞かされた静香。警察が自殺だと結論付けようとしたとき、やってきた霊柩車の運転手が「自殺じゃない」とつぶやいた。
 些細な違和感から真実を読み取ったその運転手は、怜座彰光、39歳。
妻を事故で失うが、犯人が捕まっていないせいでいまだに乗り越えられずにいる。
ある日、怜座は仕事中知り合った女性キャスターが商売敵の陰謀を暴こうと動き始めたことを知り、手を貸すことになった。

 冷静に周りを観察し、違和感を追求する。
「千里眼」シリーズのような心理面とは違い、これは行動面の観察。
その観察と知識で裏をかく手管は爽快で、「千里眼」のような専門に偏っていない分親近感がわく。
キャスターの香織が取材先の病院で出会った患者のその後が思わせぶりだが、続編は出ていない。


 

スカーペッタ 核心(下)


 スカーペッタの携帯をマリーノと共にカーリーの部屋に探しに行き、マリーノは警察無線で見た男性の自殺中継を思い出す。
ベントンの元患者、テレビ番組の司会者、耳の悪い精神医学者、これまでの登場人物がすべて一人に結び付くことに気づいたベントン達は、まさに今そこにいるであろうスカーペッタを助けに向かい、ルーシーはバーガーを助けに向かう。

 皆が勇気を取り戻してきた。マリーノもまた頼もしい警察官として動き始めているし、ルーシーは行動力が功を奏し、スカーペッタも本来の仕事で知識を披露する。ベントンの強敵だった、取り逃していた一人の凶悪犯罪者もベントン自身の手で決着をつけた。
これまでのような、「危機の際に都合よくあらわれる助っ人」によって助かっていた場面が、「ちゃんと情報を得た者が走り寄る」ように変わったことで、納得のいく展開となった。

スカーペッタ 核心(上)


 クリスマス直前に起こった二つの事件。
有名投資家の失踪とジョギング中の女性の遺体が世間をにぎわせていた頃、スカーペッタが出演したテレビの生放送では、事件の目撃者だという人物と電話でつながり、さらに公表されていないはずの写真まで出てしまう。
スカーペッタが契約違反に憤りながら帰宅すると、フロントには不審は荷物が届いていた。

 急にこれまでのスカーペッタらしい流れに戻ってきた。
マリーノとベントンの関係は緊張ぎみだが、スカーペッタは遺体を観、警察の見解に助言する。
そして不審な小包が、二つの事件に関係するのか。
ここまで雰囲気が変わったのは、翻訳者の変更のせいか、作者の意向かと勘繰るほどの差。
それでも緊迫感あり頭脳戦ありのスピード感は、後半に期待させるのに充分で、ベントンの元患者の奇妙さ加減も不気味な追い打ちをかけてきて間を置かずに読みたくなる。

スカーペッタ (下)


 なりすましの人物から立ち上る噂が一段とひどくなる。
そして、頼ってきたはずのオスカーも、彼女の前から逃げるようにして消えてしまった。
それでもスカーペッタはオスカーを信じようとし、捜査の途中でマリーノとも再会する。
また昔のように4人がそろい、それぞれの得意分野を生かして犯人を突き止め、オスカーの身に起こった真実を解き明かした。

 シリーズ何冊か分のギスギスした物語がやっとなくなり、雰囲気も柔らかくなってきたせいで、穏やかに読み進められた。
オスカーの言葉がどれくらい本当なのかが明かされた点も、読み終わってほっとした。
これまでのように、途中で説明するのが面倒になったから勝手に推察してくれ、といったような突き放した終わり方ではなくなった気がする。
遺体や証拠品と向き合うスカーペッタも戻ってきた感じ。

スカーペッタ (上)


 ベントンの妻となり、二人でニューヨークへ移り住んだスカーペッタ。
そこに、恋人殺しの嫌疑がかかった青年から「スカーペッタにしか話さない」と言われ呼び出される。
ベントンの近くにいながらも、立場の違いから詳しいことは話せず、二人の間には壁があるように感じてしまうスカーペッタ。
青年がスカーペッタにだけ話した攪乱捜査は、何を意味するのか。

 恋人の死を疑われた青年に接見したというだけなのに、なぜか話のほとんどは1年前にマリーノがスカーペッタにしたレイプ未遂の件の暴露と嘘交じりの醜聞。
そして事件の方は、全く関係のなさそうな事件につながりがあるように見える、という「前と同じ」感。
ただの身内のいざこざの話になってきた。

こわれもの


 漫画作家・陣内。漫画は人気絶頂、婚約者もいて、陣内は幸せの中にいた。
ところが突然、恋人の里美が事故で死んでしまう。
衝撃のあまり、陣内は連載中の漫画のヒロインを作中で殺してしまった。
ファンからは抗議の嵐。しかしその中に、里美の死を予言した手紙がみつかり、陣内は差出人にコンタクトをとる。

 幸せから一転、絶望へと転がり落ちた陣内の行動は、動揺をそのまま表して一貫性がなくなってしまう。
そんな彼に寄り添おうとする手紙の差出人を、陣内が信用してしまうのは当然のことだろう。
最後のどんでん返しのための伏線もちゃんとつくってあり、混乱も大げさなくらいに次々と起こる。
でも、やっぱりどこにでもある流れ。「やっぱりか」としか思わなかった。

泣きの銀次


 妹を殺され、その時から死体を見ると大泣きしてしまう銀次。
大店の跡取りだったのに、犯人を捕まえるために岡っ引きになった銀次には「泣きの銀次」という二つ名までついた。
身投げや行方不明などの、いまだ真相がわからない事件を探るうち、銀次は不審な行動をする人物に目を付ける。

 安定の宇江佐真理。
読みやすく、心情も想像しやすく、軽快なストーリー。
銀次の人となりにも近づきすぎず遠すぎずで観察できるので、周りの人物の気持ちまで想像できる。
大の男が大泣きするシーンなど、銀次のキャラクターが面白く、人物も皆、嫌みがないので読後感も良い。

異邦人(下)


 人気テニスプレイヤーを殺した「サンドマン」を追うスカーペッタ。
ドクター・セルフに振り回されながらも、ルーシーの力を借りてなんとか真実を探り出す。

 意外な血縁関係が明かされる。
でもスカーペッタはもう検死をほとんどせず、証拠品の調査の方に力を入れているよう。
そしてベントンからは指輪をもらったのにすれ違う日々。
唯一ブルが固い雰囲気を和らげてくれた。

「再考し、配役を変え、一新する」という作者の言葉は、作品に魅力を足す結果にはならなかったようだ。
マリーノが心配。

異邦人(上)


 女子テニス界の人気者だったドリューが遺体となって発見された。
その様子は異様で、眼球がくりぬかれ、砂を入れられたうえで接着剤で瞼をくっつけられており、さらに複数個所で肉がえぐり取られていた。
イタリア政府から依頼を受けた法医学コンサルタントのスカーペッタは、ベントンと共に調査に乗り出す。

 もう過去の話となると思っていたベントンの脳の研究や、ドクター・セルフまで再登場してきた。
セルフとベントンのかみ合わない会話に息苦しくなり、マリーノの壊れ具合は痛々しくて見ていられない。
一貫してまっとうな人物であったローズにまで災難が訪れ、読んでいて気が滅入ってくる。
この雰囲気をがらりと変えてくれる人物が登場してきてほしい。

アクセントカラーのプルオーバー


使用糸:ハマナカ ソノモノロービング (92)
    毛糸ZAKKAストアーズ ごきげんWool(07)
編み図:おうちニット vol.4 より
      「アクセントカラーのプルオーバー」 510 g