Team383


 自分でもそろそろと思っていたもの、免許の返納。
タクシーの運転手をしていた葉介は、家族に進められ、返納の手続きを行った。
すると帰りに、同年代の小太りな男性に声をかけられる。
「ママチャリカップに挑戦しましょう」
近所の中華料理店を本拠地にして、70代の男女がママチャリレースに挑む。

 チームを組んだ5人は皆同年代。
練習のあとは中華料理店でビールを飲むという新しい習慣を手に入れた葉介。
そしてメンバーそれぞれの問題や人生を、それぞれの視点で描く。
病気や家族の問題など様々だが、割と普通で印象に残るようなものはない。
キャラクターの個性にしても、現実的な範疇で突飛ということもないため、身近ではあるが区別もつきにくい。

アイスマン。ゆれる


 山本知乃は、祖母の遺品である文箱の中から見つけた古文書の力を使い、男女の相思相愛を使ったことがある。
体の悪い母と二人暮らしのため結婚はあきらめていた知乃だが、ある日高校の同級生・東村と再会し、好きになってしまった。
しかしあの術は自分には使えない。
そんな中、同じく東村を好きになった友人から、術をかけてほしいと頼まれ、困惑した知乃の元へ、不思議な影が近づいてきた。

 古文書に書かれた禁忌の技だったり、魔女のような叔母だったり、夢の中のようにふわふわした物語。
術をかければ自分の体を削ることに気づき、次はないと影からの忠告まで受けてしまった知乃は悩むが、気の弱さと母の一大事で捨て身になったりしても、うまいぐあいに事が収まってしまった。
ただ、東村の礼儀正しさが胡散臭いほどで、投資の話が出た頃にはすっかり詐欺師だと思ってしまっていた。
小説というよりアニメのほうがあっているストーリー。

御師弥五郎 お伊勢参り道中記


 伊勢詣の世話役・御師の手代見習いとして修業中の弥五郎。
御師のくせに伊勢にはいきたくないという訳ありだが、ある日出会った武士のような商人の清兵衛に頼み込まれ、伊勢まで用心棒として伊勢参りに同行することになった。
清兵衛は材木商だが、不当に吉野杉を売買したという濡れ衣を着せられ、さらには命まで狙われていた。
清兵衛を狙う悪党に不審な点を見つけた弥五郎は、用心棒をしつつ事の次第を調べ始める。

 一生に一度は行きたいと誰もが願う伊勢参り。
だが弥五郎はそれに虚像を見、嫌悪していたが、清兵衛とのかかわりで少しずつ考えが変わってくる。
伊勢が人々にどんな夢を見せているのか、そして故郷に残してきた遺恨とのケジメ。
不利な局面も知恵で乗り切る様子は頼もしかった。
西條奈加ははずれがない。

コロナ狂騒録


 新型コロナウィルスの騒動が始まって1年。
東京では五輪へ向けて様々な裏工作と腹の探り合いが起こっていた。
そして、鉄壁の防疫を守っていた東城大学医学部付属病院で院内クラスターが起こる。
すでに医療は崩壊しており、いつも冷静に人をこき使う高階病院長もさすがに疲れ、うっかり田口に弱音を吐く始末。
乗り切る方法を一任(丸投げ)された田口は、さっそく病院内の再編成や大規模PCR検査をする決定をする。

 続編が出たということはそれなりに効果や同意があったのだろう。
またも、胸焼けするほどの悪口が次々と出てくるが、攻撃相手はくっきりと分けられており、現実に起こったことと沿っているために、世の中の動きを思い出しながら取りこぼしている情報を調べてみたりしていると、時間を忘れていた。
他の作品でワクチンセンターの設立の話があったなぁとかも思い出され、コロナ禍が収まっても長引いても、次作はありそうだと期待する。
どんなこともネタにでき、面白い視点で物事を見せてくれるので楽しみだ。

善人長屋


 巷で噂の「善人長屋」。
本当は裏にも家業がある者たちばかりなのだが、その反動か、日ごろの行いは善い事に偏ってしまうためそんな二つ名がついていた。
そこへ新しい店子がやってくる。
人違いで入居してしまった鍵職人の加助は、どう見ても善人だった。

 掏摸に盗人、情報屋に美人局、いろんな悪党が集まっている長屋に、たった一人、手違いで加わってしまった加助のせいで、皆は隠すのに大変気を使うことになる。
しかも加助は大げさなほど人助けをしてしまうせいで、長屋の連中は人助けのために悪事をするというありさま。
でもその加助のおかげでいろんな縁もつながり、知己に再会したり、過去の因縁を振りほどいたりと妙に良い方向へ進む。
長屋の人たちの近所付き合いが楽しく、人情味もたっぷりあって読みごたえもあり、でも重くなくてさっぱりとしていて気持ちがいい。

とんちき 耕書堂青春譜


 蔦屋重三郎の店・耕書堂へ、行き倒れ寸前でたどり着いた磯五郎。
戯作者になりたい一心で蔦屋へ来たと訴え、蔦重の言うことを聞いたら考えてやると言われてやる気を出す。
蔦屋には、口が上手く思いついたらすぐさま行動する威勢のいい大男・鉄蔵、能役者だが絵が好きで、存在感のない十郎兵衛、そしてひたすら気が弱い瑣吉といった個性豊かな変人が集まっていた。

 日々のどんなことでも戯作のネタとしようとする磯五郎は、商才があると太鼓判を押されながらも戯作への熱意を貫き通す。
しかし、興味があるというだけで人を追い詰めてしまう鉄蔵や、人にはない画力であっという間に売れ、そして姿を消す写楽に比べるとキャラクターとして弱い気がしていた。
ところが、これほど癖の強い者たちをまとめてしまう力はさすが。
いずれ大物として世に出る者たちばかりがこんな風に集まっていたのかもしれないと想像すると楽しくなる。

偽恋愛小説家、最後の嘘


 編集者の月子は、担当する小説家・夢宮宇多への恋心と、仕事へのままならなさに悩んでいた。
ある日、ベストセラー作家である星寛人が自宅マンションの屋上で死体となって発見される。しかも真夏にもかかわらず死因は凍死という不自然さで。
直前に星がSNSに短編小説の最高傑作ができたと投稿していたため、各出版社の編集者による大捜索も行われたが、死の真相も短編の行方もわからずじまいだった。
星の内縁の妻・長崎愛璃、月子の友人・浜岡有希、外部編集者の糸里、人間関係が様々に入り乱れる中、アンデルセンの「雪の女王」を夢宮の誘導で月子は少しずつ読み解きながら、真相を手繰り寄せる。

 言葉と、それを紡ぐ人の個性とをうまく解きほぐす夢宮の様子に、黒猫シリーズを思い出す。
黒猫のようなクールさも、深さもないが、その分身近な題材を用いてわかりやすくしているような感じ。
だけど登場人物の魅力という面では黒猫のほうがしっかりと人物像が作られているためイメージしやすい。
夢宮は、月子の妄想で生み出した人物のような雰囲気だったため、煙に巻かれて終わったような気になってしまう。
事件と、人物と、動機や真相といったことよりも、夢宮と月子の「雪の女王」の解釈が強く印象に残る。

就活ザムライの大誤算


 すべては良い会社に入るため、7年余りを就活にかけてきた主人公の蜂矢徹郎。
常にスーツを着込み、話し方も面接向けの言葉使いで、周りから「就活侍」と呼ばれても気にしない。
同志である就活生たちを敵とみなし、恋愛やサークルで楽しむ者たちを見下し、希望の商社から内定をもらう事のみに徹底していた徹郎が、気ままな同級生や胡散臭いオジサン聴講生にもまれて自分の道を見失い、また探り出す、就活エンターテインメント。

 学生や就活を極端なほどの個性で押し通し、滑稽で、笑い泣きさせるのが上手い。
デビュー作の「被取締役新入社員」を思い出させる。
自分の信念を7年も貫き通すパワーは変人を通り越して個性として認められていて、そんな彼を冷静に観察する目もあり、素直に受け止める人、単純に感動する人と様々な視点もあって、人に興味を持つための素材がたくさんあった。