ビューティフルワースト


 動画配信者の一人を執拗に叩く主婦・大越真佐美。
一人娘は不登校で、担任の水口は毎週のように訪ねてきてくれる。
しかしある日、配信者から「情報開示請求」があり和解金を提示され、困った真佐美は水口の荷物にあった100万円を盗んでしまう。
だがその金は、娘のひなみが水口を脅して持ってこさせたものだった。

 悪意の循環。
誰もが自分が被害者だと感じている。
そしてその原因と思う相手に悪意を向け、そこから広がる人間関係も保身と悪意でひたすら暗い。
誰かへの攻撃がメインで常に嫌な気分になってしまった。
流れも関係性もよくここまでと思うほどつながっているが、続けて読むと気分が落ち込んでしまった。

猫の耳に甘い唄を


 売れないミステリー作家の冷泉彰成は、弟子の久高享に創作テクニックを仕込みながら、執筆を続ける日々を送っていた。
ある日冷泉にファンレターが二通届く。
1通は女性からの純粋なファンレターだったが、もう一通は「愚民死すべし」と書かれた怪文書だった。
その後訪ねてきた刑事たちにより、冷泉のファンの女性が何者かによって殺されたことを知らされる。
彼の書いた本のトリックに見立てた様子で。

 冒頭の注意事項はほとんど忘れて読み進めていたが、後半でいきなり様子が変わる。
弟子の久高による真実の告白というていだが、これまでを一転させ手全部作り話にしてしまう。
その変わりようが急に白けさせ、事件にも冷泉にも興味を失わせた。
最後はまた同じ手法でひっくり返し、すべての物語を無意味にさせた。

地上最後の刑事


 アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀ペイパーバック賞受賞
小惑星が地球に追突することが確実となった世界。
新米のヘンリーは、ファストフード店のトイレで首を吊った死体を見つける。
未来を悲観して自殺したのだと思われたが、ヘンリーはその死体が、身につけている衣服の中で首を吊るのに使ったベルトだけが高級品であることに違和感を持つ。
世界はもうすぐ終わるというのに、同僚たちにあきれられながらも、殺人の可能性を感じて捜査を始める。

 世界の終わりが見えてきて、自殺者も多い世界。
槍の子としたことをするために仕事を辞める者、悲観して死を選ぶ者など様々ななか、一人殺人の捜査を始める。
人物の特徴がつかみにくく、人々が自分勝手でイライラする。
そして物語に引き込む魅力ある人物や出来事がない。

十字路の探偵


 時計屋の二階に居候をしている探偵は、古本屋の主人から買った本を読んで、十字路に飛び出した。
その本には、まさに今起ころうとしている事が書かれていたのだった。
そしてその時出会った少女と共に、探偵は「誰かが死ぬ前に事件を解決する」と決める。

 誰も死なせないと決めた探偵だが、現在起こっている連続殺人事件が解けずにいた。
拾った少女と共に事件に挑むが、特に推理するでも観察するでもなく、ただゆったり眺めている。
勘を働かせるのはむしろ少女のほうで、ゆるっとした雰囲気でずっと進み、ぬるっと解決する。
なんだか薄い話だった。

優しい幽霊たちの遁走曲


 ホラー小説家の津久田舞々は、新作が描けずに悩んでいた。
すると担当編集者から「ホラー作家を欲しがっている」という過疎化した町を紹介され、黄金の国と呼ばれていた町・古賀音を訪れる。
依頼は、その町に移住して町の小説を書くこと。
田舎には不釣り合いな洋館で、食も住もすべてを用意してもらえるというできすぎた依頼だった。
ところが庭にある祠の封印を解いてしまったところから、舞々の常識と生活は一変する。

 住まいも光熱費も、食費もすべて費用は町持ち、さらに別に報酬まで出るという胡散臭い依頼だが、追い詰められていた舞々は乗ってしまう。
そこで出会った人ではない者たちと、おかしな体験。
最初は現実を受け止めきれずに戸惑う舞々だが、やがてどこまでが現実か訳が分からなくなってくる様子はホラー。
最後は「クラインの壺」のように混乱して終わるのかと思ったが、タイムリープの様子も含まれていてまだ続きそうにも感じられ、終わりのない恐怖に包まれる。

あの日、タワマンで君と


 就職活動を途中でやめ、配達員をしていた山下創一。
ある日、高級レストランから料理を届ける仕事が入った。
依頼人は六本木でもっとも高いタワーマンションの最上階に住む多和田という男で、到着すると強引に部屋に上がらされる。
そこから、創一の生活は一変する。
いつしか多和田の部屋に入り浸るようになり、さらにエスカレートしていく。

 最初から不穏な雰囲気が漂うが、それはずっとついて回る。
享楽的な生活、金にものを言わせ、他人を操り、やがて綻びが広がっていくという一通りの流れが違わず起こる。
どの部分も不快でしょうがなかった。

虚池空白の自由律な事件簿


 自由律俳句の伝道師といわれる俳人・虚池空白と、編集者の古戸馬。
2人は落書きや看板など、街の中で見かける詠み人知らずの名句〈野良句〉として集めていた。
行きつけのバーの紙ナプキンに書かれた文字、急逝した作家が一筆箋に残した遺言めいた言葉、夜の動物園のキリンの写真と共にSNSに投稿された言葉など、偶然見かけた言葉から、それらの背景を推察する。

 誰が残したメモなのか、どんな意味があるのかを推理していく二人。
時にそれが犯罪めいた出来事まで見つけ出してしまう。
でももともとの「自由律俳句」になじみがないせいか、なんだかしっくりこない。
ただの日常の謎なのに、わざわざわかりにくい言葉を使って煙に巻かれている感じがずっとあった。

三人書房


 作家となる前の江戸川乱歩が、兄弟で営んでいた古本屋。
そこへ持ち込まれるのは、松井須磨子の遺書らしいと言われる手紙や、浮世絵の贋作の噂など様々。
同じ時代を生きた宮沢賢治や高村幸太郎などとの交友と、不可解な事件に興味を持つ若き日の乱歩。

 第18回ミステリーズ!新人賞受賞作。
乱歩が興味を持つのは、不可解な事件。
それを、知人を通して現地をみにいったりして謎を解いていくのだが、三兄弟の個性は特徴的なのになぜか区別がつきにくい。
古本屋をやっていたわずか二年の間の出来事とあって儚いイメージがあり、乱歩が独自に調査して製本し、こっそり値札をつけてやなに並べていた本というのが興味を引くが、それについては関連してこなかったのが残念。
読みにくかった。

崩れる脳を抱きしめて


 神奈川にある終末医療の病院に実習に来た研修医の碓氷。
そこで脳腫瘍を患う女性ユカリと出会う。
外の世界におびえて病院から一歩も出ないユカリと、父に捨てられた憎しみで金を稼ぐことに執着する碓氷が、やがて心を通わせていく。
しかし研修が終わった碓氷が突然やってきた弁護士から聞いたのは、ユカリの死だった。
彼女は本当に死んだのか、残した遺言書に感じた違和感から、碓氷はユカリの足跡をたどることにする。

 ユカリに惹かれ、小さな共犯となり、二人が抱えてきた闇をお互いに助け合いながら乗り越えていく。
前半は割と違和感なく読めていた。
だが碓氷がユカリの死を追い始める頃から、違和感とも嫌悪感とも言える不自然さが大きくなっていく。
それまでの思いが台無しになるほどの崩れようで、前半の印象の良さが後味の悪さでかきけされてしまった。

署長シンドローム


 大森署の新しい署長は、キャリアの藍本小百合。
この藍本所長は、誰もが目を見張る美人だった。
そんな大森管内の羽田沖海上にて、武器と麻薬の密輸取引が行われるという情報が入る。
海上ということで海上保安庁や麻薬取締官なども加わり、署内は賑やかになる。

 一度彼女の顔を見てしまったら態度が変わるほどの美人という藍本署長。
事件はいつものように特別ではない。警察官としては日常の出来事だが、一つの事件の捜査に関わる人たちの人間模様を描いているわりにはどこか薄っぺらく感じる。
登場人物の個性もなくなってきて、もうあっさり読めるだけが取り柄となった。