泥棒はクロゼットのなか


 盗みに入った家で、まさかの家主帰宅。
集めた宝石を置いて慌ててクロゼットに隠れたに閉じ込められたバーニィは、そこで殺人現場を目撃してしまう。
さらにはその殺人の容疑者とされ、宝石までなくなっておりまさに泣きっ面に蜂の状態。
泥棒が本業のはずが、またしても探偵となって真犯人を探す羽目になったバーニィだった。

 ターゲットを紹介され、安全で確実なはずが失敗し、さらにはそこに死体までついてくるというのは第一弾と同じ展開。
そして魅力的な女性との出会いも。
樋口有介の「柚木草平シリーズ」に似た印象で、事件を深刻にしすぎないバーニィのおかげで読みやすい。
泥棒なのになぜか女にもモテるところも似ていて、若いのから老女まですべてに好かれる様子は見ていて楽しい。
ただ今回はちょっと疑問点の残る結末。
シリーズは続くが、展開は変わっていくだろうか。

泥棒は選べない


 泥棒のバーニイ・ローデンバーは、錠前破りが得意。
欲張らずに年に3,4回ほどの仕事で満足しているはずが、うまい話に釣られて入った家で、警察と出くわした。
さらに奥の部屋で死体も見つかり、やってもいないのに殺人犯として追われることになってしまう。
再びプロの泥棒に戻るためには、自分の手で真犯人を見つけるしかない。
バーニィは、古い知り合いが留守をしていることを思い出し、そいつの部屋に隠れながら、泥棒なのに探偵をする羽目になっていた。

 しっかり者だったはずが、うっかり欲に負けたせいで背負ってしまう殺人犯という汚名。
潜伏先に選んだ部屋で出くわした女性ともうっかり仲良くなってしまったり、泥棒のわりに人が良い。
そして職業柄なのか観察眼もすぐれていて、小さな違和感にもよく気づくので探偵にはピッタリだった。
他の登場人物とのやり取りも軽快で楽しいので読みやすく、泥棒だが憎めない。

荒野のホームズ


 親も兄弟も失い、二人きりになった兄弟・オールド・レッドとビッグ・レッド。
今は西部の牧場を渡り歩く、雇われカウボーイの生活を送っている。
ある時雇われた牧場で、支配人がぐちゃぐちゃに踏みつぶされたようなひどい状態の遺体で見つかる。
兄のオールド・レッドは、論理的推理を武器とする探偵となるべく推理を始める。

 ホームズの影響が西部まで。
『赤毛連盟』に出会って探偵を始める兄と共に、牧場で起こるおかしな事件に立ち向かうビッグ・レッド。
西部の荒々しさの中で頭脳を働かせ、観察によって情報を集めて回る様子は面白かった。
ただ、ホームズは小説の中の人物として扱っているのかと思っていたら、途中から急に実在する人物として描かれているので戸惑う。
それでもホームズをまねて推理をする兄弟が微笑ましく、閉鎖的な牧場での悲惨な事件が重い雰囲気にならずに最後まで楽しめた。

悪なき殺人


 フランスの山間の小さな村で、一人の女性が行方不明になった。
殺人事件として捜査が始まり、関係者として浮かんだ人物たちはみんな村の者だったが、誰もが孤独と秘密を抱えていた。
そしてその事件は、遠く海を渡った西アフリカに住む詐欺師の少年へと結びつき、やがてすべてを巻き込んだ複雑な状況が見えてくる。

 田舎の出来事のはずが、いつの間にか国を超えた事件へとなっていく。
だが、最初の行方不明者の死体がいつ発見されて、どんな状況だったのかの印象がまるでなく、事件だったのかも記憶に残らない。
次第に大ごとになっていく出来事と、関係者それぞれからの視点で進む物語は面白いが、はっきりしたことは何もわからずにすべてを匂わせたまま進んでいく。
スッキリとはしないが、膨らんでいく関係図を追うのは面白かった。

ウェルテルタウンでやすらかに


 推理作家をしている私の元へ、おかしな依頼が舞い込んだ。
過疎化した町の人集めに、小説を書いてほしいという。しかも町を、自殺の名所にしたいというではないか。
そんな依頼は受けたくないが、何の因果かその町は私の実家がある町であり、そこから逃げ出してきた身であり、だが自殺の名所にはしたくはないという複雑な気持ちが巻き起こる。

 おかしな依頼をしてきた人物はいかにもうさん臭く、町の自殺の名所を次々案内する様子もコミカルに描かれているし、出てくる住民も変わった人ばかり。
自殺という暗いイメージとはかけ離れた雰囲気なのでコメディとして楽しめる。
でも最後にはこれまでの事がどれも裏の意味を持っているようで考えさせられ、どれもどこかで関係があっていちいちハッとさせられる。
分かりにくさはあるものの、いろんな仕掛けに気づくとより楽しめる。

一夜―隠蔽捜査10―


 神奈川県警刑事部長・竜崎伸也のもとに、著名な小説家・北上輝記が小田原で誘拐されたという知らせが入る。
同じ小説家で友人だというミステリ作家・梅林の助言を得ながら、犯人の行方を追うが、行方はおろか、犯人からの要求すらないため、捜査は全く進まなかった。
同じころ、警視庁管内で殺人事件が起こっていた。

 淡々とした竜崎の事件。
他の場所で起こった事件とかかわりが出てくることはよくある事なので予想はできてくるが、竜崎と梅林の個性が強調されていて、竜崎に良き友人ができたようだ。

隠居おてだま


 優雅な余生を送るはずだった老舗糸問屋・嶋屋元当主の徳兵衛。
しかし孫の千代太が犬猫にとどまらず人の子までも拾ってくる。そのため静かなはずの隠居屋は常に賑やか。
さらにそこでの出会いが新しい商いを生んだり、徳兵衛は忙しい毎日に充実していた。
しかし、家族に起こった問題ごとに気づかず、徳兵衛は家族との最大の危機が待ち受けていた。

 隠居はしても、何もないとただ暇を持て余す。
そんな生活に張りを与えていたのが、新しい商いと孫を含めた子供たちだった徳兵衛。
そんな彼が、何よりも苦手な恋路の問題に悩まされることになった。
頑固で意固地な自分を自覚しながらも、どうしていいかわからずにいる様子は微笑ましいが、当事者となると大変迷惑なもの。
だけどそれを溶かすのもまた家族で。
最後は優しく降る雪がすべて洗い流してくれたよう名ほっこりした場面で終わる。

編集ガール!


 出版社の経理部で働く久美子。気まぐれで書いた提案書がワンマン社長の目に留まり、急遽編集長を言い渡された。
編集経験皆無の久美子と、同じく他の課から集められた素人集団で、新しい雑誌を作ることになり、戸惑う久美子。
しかも彼氏の学まで部下となってしまう。
唯一編集の経験がある学に頼る久美子だが、女性誌なのにどうも目線が違う方向へ行こうとしている。
無事創刊できるのか、誰もがいっぱいいっぱい。

 お仕事小説。
似たようなドラマを見た気がするが、違うものだった。
そして軽くてどんどん読めるのであっという間に終わる。
ピンチもあるが、最強の隠しコネのおかげですんなり片が付く。
とても分かりやすい結末だった。

雨だれの標本 紅雲町珈琲屋こよみ


 雨の続く梅雨、お草が営む珈琲豆と和食器の店・小蔵屋では、ゴミが荒らされる日が続いた。
黒い自転車で走り去る人影を目撃して怖くなっていたが、お草はある日散歩の途中である小屋の隅で自分のゴミを見つける。
さらに、小蔵屋がある映画の撮影予定地となり、噂を聞きつけた近所の人たちの注目の的になってしまう。
だが監督と面会すると、彼はお草に頼み語ををした。
ある人物を探してほしいと。

 小蔵屋の周りがまた騒々しくなる。
不審者の素性はすぐにわかるが、それでも騒動は収まらず、久美と一ノ瀬の問題にまで発展し、お草は心が休まる日はない。
それでも毎日暮らしていかなければならず、お草は思うようにいかなくなってくる体と共に静かに祈り、でもちゃんと行動を起こす。
今回は一つ一ノ瀬が大きな決断をし、ふわりとした気分で終われると思ったら、なんだか賑やかだった。

エンドレス・スリープ


 大井の港湾倉庫で火災が発生した。ただの火災かと思っていたら、そこから冷凍された5人の死体を発見する。
最初に身元が判明したフリーライター・如月啓一が書いたと思われる原稿には、6人の素性が書かれており、警察はそこから身元を特定し、なぜ冷凍されていたのかを調べ始める。
少しずつ公表される如月のブログと警察の調べが交互に描かれ、冷凍されていた経緯や身元などが分かり始めると、より一層不気味な謎が深まってく。
彼らはなぜ、冷凍されていたのか。

 一人ずつ判明していく死体の素性。
彼らは皆、死の間際にいたことが分かる。
そして彼らの、身震いを起こすほどの死への恐怖が伝わってきて恐ろしくなる。
ただ、警察の視点で描かれている部分がそれを中和させてくれいて、ホラーの部分が薄まっていたために読みやすかった。
コールドスリープ、不死、延命、緩和ケアなど、死を考える題材にはいいかもしれない。