魔眼の匣の殺人


 葉村譲と剣崎比留子は、葉村のクラスメイトから聞いた預言者の話が気になり、預言者と恐れられる老女の住む場所へ向かう。
人里を離れ、かつて班目機関の研究所だったという施設に一人で済むという。
そこへ、唯一の通行手段である橋が燃やされ、高校生と思しき男女、墓参りに来たという女性、ツーリングの途中でガソリンが切れて困っていた男性、車のトラブルで困っていた父子と共にその施設に閉じ込められてしまう。
預言者はこの二日のうちに男女二人づつが死ぬと予言しており、皆は慄きながらも救助が来るまではどうしようもなくなってしまう。

 葉村と比留子はまたしてもクローズドサークルでの恐怖と戦うことになる。
班目機関の秘密を覗こうとしたばかりに巻き込まれる参事に二人は慣れてしまったように見え、謎解きも複雑になってくる。
細かすぎて覚えていないこともあったりしたが、二人は危険を冒しながらもなんとか犯人を追い詰める。
そしてこの班目機関はまだ立ちはだかるようである。

モップの精は旅に出る


 大輪の花が描かれたワンピースにハイヒール、髪を頭のてっぺんでお団子にしたその女性は軽やかに歌いながら掃除をしていた。

英会話学校の事務をしている翔子のところに、受講生の男性から婚姻届けが届く。
たった一回面談をしただけのその男性が怖くなり避けていたら、その男性が死体で発見されたという。
翔子は深夜に出会った清掃員のキリコと仲良くなって話を聞いてもらう。
するとキリコは真相を見つけてしまうのだった。

 深夜に清掃員として働くキリコが活躍するミステリーだが、完結章を一番に読んでしまった。
知らなくても全く問題はなく、読みやすいしキリコの様子が楽しそうでミステリーだけど軽やかな気分になれる。
シリーズということなので、見つけたら他も読んでみたい。

うまいダッツ


 高校の喫茶部。
ゆるい活動の喫茶部のなかで特に「おやつ部」と言われている1年の4人は、それぞれ好みのおやつを持ち寄って食べていたある日、不思議な噂を耳にする。
「うまい棒一本で、世界の秘密がわかるらしい」
一人一回のみ、しかも一日に一人だけ、質問に答えてくれるというその人物を探しに行く。
 メンバーのうちの一人のおばぁちゃんが家でブローチを無くしたので探しに行くことにしたおやつ部。
SNSでつながった友達と気まずくなってしまった理由を知りたいというメンバーのために頑張るおやつ部。
先輩の頼みでお菓子のシルエットクイズに参加するおやつ部。
彼らの楽しい部活の様子。

 喫茶部ではあるものの、レトロ喫茶をめぐる人、コーヒーに凝る人などいろいろで、そのこだわりのうんちくも細かくて楽しい。
そんな中、コンビニやスーパーでも売っているおやつを食べる活動というなんとも微笑ましい4人。
高校生活の楽しみ方がいっぱいで、お菓子もいっぱい出てきて、懐かしいお菓子がたくさん食べたくなる。

剣持麗子のワンナイト推理


 亡くなった町弁のクライアントの仕事を引き継いでいたら、次々に舞い込む厄介で金にならない仕事。
ある日、「武田信玄」と名乗り、住所も本名も言わない男に呼び出される。
どう見てもホストだが、不動産会社の事務所に侵入したら、死体があったらしい。
他に、認知症のおばあさんを家まで送ったら、男が首をつっていたり、やたらと死体と出会う夜に、通常の仕事のために麗子は夜明けまでに解決しようと奮闘する。

ドラマに使われていた話もあり、イメージがしやすかった。
人懐っこいが胡散臭い刑事の橘にもいいように使われているような気もしながら、武田信玄と名乗っていた黒丑をアルバイトとして雇うことになったりして麗子のお人好しな面がたくさん出ていた。
最後の話は、黒丑の父親も出てきたたため時系列が混乱した。

犬は知っている


ゴールデンレトリバーのピーボは、警察病院のファシリティドッグだ。
小児病棟に常勤して患者の治療計画にも介入し、入院している子供たちの心を癒している。
だが、彼にはもう一つ大事な仕事があった。
特別病棟に入院する受刑者と接し、彼らから事件の秘密や真犯人の情報などを聞き出すことだ。
死を前にした犯罪者たちが語る本音を、今日もピーボは静かに聞いている。

 手術を怖がる子供に付き添って手術室の前まで行ったりする傍ら、凶悪犯と向き合うピーボ。
他に人間のいない部屋で彼らが語る事件の真実を聞き出す特殊な任務だが、その仕事に矜持を持っているような姿も見せ、なんとも頼もしい。
やがてハンドラーの笠門巡査部長の傷まで癒し、また次の子供たちの元へと行く。
ファシリティドッグという彼らの仕事が本当にあるものだと初めて知った。

藍色ちくちく-魔女の菱刺し工房


 菱刺しの工房をやっているより子先生と出会ってから、憂鬱から抜け出せなかった綾の生活はがらりと変わる。
なぜかついてくる賢吾と共に工房へ通うようになり、そこで出会う人たちとの交流で目標を見つける。
母の認知症に悩む女性や、より子の孫で引きこもりの亮平など

、菱刺しを通してつながる人々。

 いろんな悩みを抱えた人たちが、どんな経緯でここに来ることになったのか、一人ひとりの背景を取り上げている。
菱刺しの歴史や模様の意味などもところどころで詳しく描かれ、知らなくても充分に楽しめ、興味を持てた。
実物を見てみたい。

屍人荘の殺人


 神紅大学ミステリ愛好会会長の明智と助手の葉村は、映画研究部の夏合宿に強引についていく計画を立てていた。
その合宿はなにやら曰くがありそうで、直前になって脅迫状が届いたため、多数のキャンセルが出たという。
一緒に参加してほしいと頼まれた同じ大学に通う探偵少女、剣崎比留子と共にペンションへ向かった明智と葉村だが、そこで予想もしない出来事に巻き込まれ、宿泊先のペンションに立てこもりを余儀なくされる。
果たして生き残れるのか!

 第27回鮎川哲也賞受賞作。
王道のミステリという感じのタイトルに、夏のペンションに閉じ込められるクローズドサークル。
そして次々と起こる殺人という、まさしく王道。
だけど襲ってくるのは人だけではなかった。
王道の中にちょっとおかしな点も入れ込んで、ダジャレまで混ざりこむのでギャグホラーの様子もあるが、最後はやっぱり王道の動機を持った犯人。
読みやすくてしっかり作りこんであった。
あれ、明智は?という肩透かしもあったりして、なんだか怖い思いはあまりしなかった。

アミュレット・ホテル


 このホテルには、本館と別館がある。
駐車場も通路も分けられた別館には、特別な会員しか宿泊どころか立ち入ることもできない。
そこは、二つのルールさえ守ればなんでも揃い、警察も介入しない犯罪者だけが使うことができるホテルだった。
しかしそこで、殺人事件が起こる。このホテル専属の探偵である桐生は、独自に調査を進め、犯人には相応の対価を支払わせる。
つまり、命を奪った者にはその命で、犯行方法と同じ方法で。

 犯罪者の集まるホテルでおこる、犯罪。
それを調査して推理し、犯人を特定して処分を下す。
犯罪者が集まるだけあって、その手口は普通ではない。
それらが解き明かされる過程は面白く、また読みやすいので重苦しい雰囲気もなく読める。
ホテルの存続にかかわるような事件も起こり、桐生も命を懸ける推理をする。

パリ警視庁迷宮捜査班


 パリ警視庁警視正アンヌは、停職処分を受けた。
屋っと復帰が決まったと思ったら、上司が新たに作る問題児寄せ集めの部署をまかされることになる。
そこで未解決の事件を選び取り、いくつか調査を始めたら、それらにはつながりがあることが見えてきた。
これは仕組まれた班に違いないと考えたメンバーたちは、20年前のフェリー沈没事故へと注意を向ける。

 個性豊かなメンバーたちが、一見協力しそうにもない事なのにみんなの注意を惹き、そこから解決へと結びつけていく。
途中挟まれる回顧録と、メンバーの思いなどが記憶に残っていなくて読み直したりしていたら、気になるところをどんどんさかのぼる形でじっくりと読んだ。
このパターンは多く、割とオーソドックスな形だったので安心して読めた。

倒産続きの彼女


 弁護士の美馬玉子は何もかも恵まれている先輩の剣持麗子が苦手だった。
なのに一緒に「会社を倒産に導く女」として内部通告された経理課の女性の身辺調査をすることになる。
確かに、彼女の年収では不似合いなブランドものを持っているし怪しいのだが、その会社での聞き取り調査をしている時、隣の部屋で首を切って死んでいる社員を発見してしまう。
そこは、通称『首切り部屋』と呼ばれる部屋だった。

 今回の主人公は剣持麗子の1年後輩。
訳あって祖母と二人暮らし。そして何でもできて美人で自信家の剣持麗子が苦手。
そんな彼女が麗子と組んで調べ始めた案件は、やがて自分の過去を知る事件となっていく。
思いのほか大きな事件となって驚くが、なんだかいたたまれなくなるような事実が判明して辛くなる。
だけどやっぱり、ドラマで重要な人物だった篠田が出てくる話が読みたい。