星くずの殺人


 完全民間宇宙旅行のモニターツアーで当選した人たちを乗せて、宇宙ホテル『星くず』へたどり着いた添乗員の土師。
ところがその矢先、同僚の伊東が首を吊った状態で死んでいるのが見つかる。
無重力ではありえない、首つりだったために、ツアー客を残してホテルスタッフが逃げてしまう。
しかし脱出前にさらに殺人が起き、ホテルの機器類が故障したりとトラブルが続く。
何とか地球と連絡を取ろうとする伊東。
犯人がまだここにいる状態で、助けはくるのか。

 初の格安宇宙旅行のトライアルツアーということで、民間からの応募からランダムに選んだはずの客たちに、次々に起こる事件が不信感を起こさせる。
これまで面識のなかった人たちがお互いを疑い、宇宙ホテルそのものが大きな密室として恐怖を誘う。
周到な計画と知識が盛り込まれ、そこにも興味をそそられた。
あらゆる安全対策を取っていたとしても、どこかの分野から見れば穴だらけだというような、予想もつかない展開が楽しかった。

ブラックバースデイ


 二つの家族が同棲しているという不思議に、主人公の駒之助は不審に思っていた。
なぜなら彼らはまるで息をひそめるようにひっそりと、外出もせず暮らしていたからだ。
実は彼らはテレビでも有名だった「取り違え子」の2家族だった。
二つの家族に起こった悲劇の真相に、駒之助は気になり始める。

 調べていくうちにどんどんわかっていく二つの家族の秘密。
恐ろしい出来事が次々起こって飽きないが、次第に嫌な予感もしてくる。
イヤミスまで行かないかもしれないが、恐ろしい人物は他にもいると感じさせるのが上手。

ツノハズ・ホーム賃貸二課におまかせを


 不動産会社の営業マン、澤村聡志は、気が弱くてなかなか成果をだせないでいた。
そんな彼の後輩として移動してきたのは、トップセールスを誇る美人営業・神崎くららだった。
人使いが荒い彼女のエネルギーに圧倒されつつ、大家と店子の間を飛び回る澤村に、いくつかのおかしな出来事が起こる。
「先輩が知恵を絞ってくださいね」というくららに次々と指令を出されながら、澤村は店子や大家さんを観察し、人々の思いをくみ取っていく。

 くららのエネルギーに押されてへとへとになる澤村。
それでも一緒に歩き回るうちに見えてくる彼女の人となりに魅かれ、そこから大家さんたちの観察へと思考が飛ぶ様は、彼の失敗した結婚へとつながり、まさに思考の変換。
くららぐらい押しが強く、ポジティブで、人を巻き込んでいくパワーが、羨ましいようなしんどいような。
結末はどれもハッピーエンドだけど、そこに至るまでを読んでいるだけでかなり運動した気になってしまう。

おやごころ まんまこと


 神田にある古町名主、高橋家の跡取り息子・麻之助は、近頃持ち込まれる悩みが増えていて困っていた。
そんな時、幼馴染の清十郎からも相談事を持ち込まれる。
悪友3人組は、それぞれの立場を超えて知恵を持ち寄り、江戸の困りごとを解決していく。
そしてついに妻のお和香に子が宿り、麻之助は居ても立っても居られない。

 「まんまこと」シリーズ第9弾。
のんびりしていたいと思っても、はや人の親になる麻之助。
人と人とのもめ事は庶民同士でと決められているためお武家や旗本には手が出せないが、友たちと協力して今度も様々な人の困りごとを聞く。
どのシリーズもちょっとづつ成長している。

コロナ漂流録


 東城大学医学部付属病院の田口センセは、もうすぐ還暦。
このままゆったり引退したいと思っていたのに、いろんな肩書がついてしまい、定年が遠ざかってしまった。
そんな俺に初めてついた新人はなんとも理解しがたい方向にやる気満々な中堅医師だった。
彼はさっそく病棟に「効果性表示食品」を導入しようとしたり、コロナ患者を頑なに診ようとしなかったりと、手に負えない。
田口は最後の一手にと、禁断の助っ人を呼ぶことにした。

 相変わらずの皮肉がいっぱい。
政治家だろうが企業のトップだろうが人が入れ替わろうがお構いなしの悪口が、潔いほどたっぷり入った、ある意味これも病原菌のように頭に侵食してくる。
コロナ政策だけじゃなく、東京五輪やワクチン開発、果ては総理の国葬義まで。
どんな人でもこの中の不満の一つくらいは「自分も感じていた」と言うだろうというくらい、あらゆる疑惑や不満を網羅していた。

四日間家族


 ネットで集まった自殺志願者4人。
死ねればどうでもいいはずなのに、嫌悪感が沸いてくる人と一緒なのは気が重い。
そんなことを感じながら車を止め、練炭に火をつけようとしたその時、やぶの中からかすかに赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
「最後の人助け」をしようと赤ん坊を保護した4人。
しかし母親を名乗る女性がSNSに投稿した動画によって、連れ去り犯の汚名を着せられ、炎上騒動に発展、追われることになってしまう。
その日初めて会った4人が、赤ん坊でつながる。

 暗くてどうしようもなく嫌な雰囲気で始まる。
そして赤ん坊を拾ってからは追われる身になり、ひたすら逃げる。
どうしようもないクズばかりだと思っていた4人が、知恵を絞り得意を生かし、赤ん坊を助けるためだけに動き出す。
不思議な関係の4人。

黒猫と歩む白日のラビリンス


 彼の存在は4年になるまでほとんど知られることがなかったくらい存在感がなかった。
詩集を発表してから、彼は突然時の人となり、3年後にまた突然姿を消した。
 ある日、「本が降ってくる夢を繰り返し見る」という学生の相談に乗った付き人。
だが間もなく、彼の詩集がばらまかれた場所で昏倒する事件が起こる。
贋作収集家の元で起こった密室の秘密、覆面アートは落書きか否か、など、現代アートをめぐる5つの謎。

 本編よりも黒猫の意思が多く表現されているので優しい気持ちでいられる。
悩む付き人にそっとヒントを手助けする様子が楽しそうで、その他の悩める教授や学生の起こす物騒な事件の印象を和らげていていた。

カレーの時間


 25歳の誕生日、うちで誕生日を祝ってくれるはずだった。
しかしそこに突然現れた祖父のおかげで一転して重い雰囲気となる。
そしてなぜか、年寄を一人にしておくのは危ないからと、僕・桐矢が同居することになってしまった。
ゴミ屋敷を片付けることから始まった同居は、苦手だと思っていた祖父の生きてきた歴史を知ることであり、家族の歴史を知る事であった。

 頑固で口うるさく文句ばかりの祖父に、最初はうんざりしていた桐矢だが、祖父がなぜそんな風になっていったのかを知っていくうちに考えが変わる。
男だから、男のくせに、男らしくと育ってきた祖父が、女ばかり生んだ祖母をどう思っていたのか。
母達との確執が解ける日が来るのか。
桐矢と祖父の両方の心の内を覗いているうちに、幸せの時間だったカレーを囲んでお互いの価値観がぶつかる。
世代が変わるとこうも考え方が違うのかと思いながら読んだ。

さまよえる古道具屋の物語


 ある日ふと気づく、いつからあったのかわからないけど古ぼけた佇まいの古道具屋。
そこを見つけたら入ってみたくなり、そして何かを買わされる。
人生の岐路に立った人たちが、絶望や苦悩を抱えた人ならば入ることができる店。
買わされたのは、絵がさかさまになった絵本、そこが抜けたポケットがついているエプロン、取っ手のないバケツ、穴がない貯金箱。
それらを買って、いいことがある人もいれば、堕落していく人もいた。
そして彼らはどこかでつながっていることが分かり始め、不思議な店は彼らにしか意味がないのだと気づく。

 時空を超えて現れる古道具屋が、客の好みも意見も聞かず商品を売る。
あなたに今必要なものだからと言われて困惑する人たち。
いい話で始まったからほっこりして読み進めると、ひどい話も出てくるので油断はできない。
繋がっているけど時間はまちまちなので、人物の関係図がどうなっているのか混乱した。

魔法使いと副店長


 買ったばかりの新居に妻と息子を残して単身赴任中の四十路男・藤沢太郎。
スーパーマーケットの副店長として日々頑張っているが、そんなある日、窓を破って一人の少女が押しかけてきた。
一緒にやってきたモモンガに似た小動物は目付け役だと話し出し、太郎は困惑する。
一人暮らしの男の部屋に、どう見ても10歳くらいの女の子が急に出入りしたら警察沙汰になる。
慌てる太郎に少女はなんと、自分は魔法使いの見習いだと話し出す。

 見た目よりも言動が幼い少女はアリス。
人間界に修行に来たという話はどう考えても胡散臭いが、ドタバタな日々で考える暇もなく、友達を作ったり公園で飛ぶ練習をしてみたりと振り回される。
ファンタジーというには現実っぽく、ライトノベルというにもなんだか社会人生活のしんどさもしっかりあって、ねじくれ家族小説というだけあってよくわからない。
少女の成長物語という感じで読めば単純に楽しめる。