楡の墓


 北海道の開拓時代を綴る短編集。
開拓の指揮を執る者が次々と変わり、その度に方針も変わる。
工夫は金をもらえればそれに従うが、幸吉は己のやっていることがどこにつながるのか、未来が見えずにいた。
地元から逃げて蝦夷へやってきた幸吉には帰ることろもなく、拾ってくれた年上の女性の元からも出ていこうとしていた時、ふと見上げた楡の木の下で、幸吉は己の人生を振り返る。

 開拓に関わる者たちそれぞれの目線から見た北海道。
でも、なんだかまとまりがないなぁと感じていた。
そして印象に残ったものを見返すと、それだけが最初に雑誌掲載され、残りはそれを元に書き下ろされたものだったようだ。
北海道開拓の物語はどれも、どこか淋しい雰囲気が残るものばかり。

少女は夜を綴らない


 「人を傷つけてしまうのではないか」という強迫観念に囚われている中学3年生の理子。
それは3年前に目の前で同級生が死んだ時から、理子にのしかかる強迫観念だった。
そのせいでカッターや包丁は触れず、医者にっても気のせいと言われ、理子は自らの衝動をノートに「創作」として綴っていた。
ある日、死んだ同級生の弟から、「姉を殺したことをばらされたくなければ自分の父を殺す手伝え」と脅迫される。
二人で計画を練りながら、やがて決行の日がやってきた。

 物騒な思いを抱える少年と少女。
さらに心の病の母とおかしな性癖の兄という、個性の強い二つの家族の話。
殺人の計画をずっと練っているため、全体的に暗くて剣呑で、読んでいて気持ちも暗くなる。
明るい友人たちにとても助けられているが、思春期特有の思い詰めたような感じが良く出ている。

シェルター


 小さな安らぎを与えてくれるシェルターのようなカフェで、10代と思われるとても奇麗な女の子に声をかけられる。
行く先もなく、帰るところもないと心細げな彼女を、恵は拾ってしまう。
恵自身も、都会から逃げてきたのに。
 その出会いから始まる、守りたい事と逃げたい事の葛藤が、恵と彼女を行方不明にさせる。

 豪快な整体師の先生のシリーズだったようだが、これだけ読んでも充分不自然じゃない。
過去に後悔を抱える姉妹と、同じく過去に因縁を抱える兄弟弟子。
そこにふわふわした一人の男が混ざった時点で、とても柔らかい雰囲気の物語となっている。
過去の重さに似合わない軽さであっさりと読めるところは良いが、すぐに忘れてしまいそうなくらいキャラクターたちの個性も軽かった。

ミステリなふたり あなたにお茶と音楽を


 愛知県警捜査一課、通称“氷の女王”こと京堂景子警部補は、頭脳明晰の優秀な刑事。
彼女の一言で現場は緊張し、くだらないおしゃべりは一瞥で止める。
だが、そんな彼女は家に帰るとイラストレーターの夫に甘えるツンデレな女だった。
そして、料理の上手な夫・新太郎は事件の話を聞いてさらりと真実を察してしまう名探偵で、二人は食事の合間に謎解きをする。

 おいしそうな料理と紅茶の香りが漂ってきそうな短編集。
事件は、京堂警部補に憧れる新人刑事・築山瞳が足となり、頭脳の新太郎と指揮の京堂警部補の3人で進む。
ことさら意外な結末というわけではないが、3人で集まったことはないのに見事なチームワークでするする進むので楽しい。

やわ肌くらべ


 「明星」の創設者、与謝野鉄幹。
若いころ教師をしていた頃から、人好きする性質を生かして女生徒と噂になったり、心地よい嘘で説得して妻としたり、いろんな女たちと関係を持ちながらも、歌人としての才能で後人も多く育てた。
一人の男と、彼を慕った女たちの人生。

 鉄幹に関わった女たちが、それぞれの思いをかわるがわる告げる。
鉄幹はとても魅力的な男として描かれているが、自分勝手な言い分に嫌な気分になることも多い。
それに振り回される女たちがつい許してしまったり諦めたりする気持ちの揺れ幅が大きいので、読み終わったときはすっかり疲れてしまっていた。
 妻の晶子は有名だが、鉄幹は存在すら知らなかった。

ヘブン


 ヤクザともめてタイに逃げた真嶋。
しかしそこで真嶋は、麻薬組織に自分を売り込み、日本での麻薬販売ルートを乗っ取ろうと計画していた。
政界、芸能界、ヤクザとの後ろ暗いつながり、隠れ蓑となった宗教など、いろんなところが入り乱れて覇権を取ろうとするそこは、天国なのか。

 「あぽやん」シリーズとの差が大きくて、同じ作者だとは思えない。
全体的に裏社会の話なため暗いが、そこに入り込む月子のような女たちのおかげで華があるように見えている。
関わる人と立場が多すぎてややこしいが、それなりにいろんな面からの見方も入っていて何とか把握できた。
ケンカや銃、暴力や覚せい剤と、裏社会のものは何でも出てきた。
何かを成し遂げる話ではないが、一人の男の意地が強く残される。
探偵の田伏は重要な位置にいたような気がしたのに、さして活躍もなかったのが残念。

紅蓮の雪


 伊吹の双子の姉・朱里は20歳の誕生日を向かえた日、なんの前触れもなく自殺した。
朱里が死ぬ1週間前にこれまで縁のない大衆演劇を見に行っていたのを知った伊吹は、何かの真実が知れればと大衆演劇「鉢木座」へ行き、若座長の慈丹からスカウトを受ける。
鉢木座で女方として活躍を始めた伊吹に、やがて自分の出生の秘密と鉢木座との関係を知る。

 双子の片割れを失ったことによる悲痛な気持ちと、親からの非道な扱いで苦しみ続ける伊吹の気持ちが、ひたすら綴られているためにずっと暗い。
親から無視され続けたくせに日舞だけは習わされていたり、なのに女の朱里にはやらせないで勉強だけさせていたりと不可思議なことは多かったのは、過去を捨てきれない親の我儘で、振り回された朱里と伊吹の辛さは想像もできないが、その一環した重苦しい空気は長く続けて読むのはしんどかった。

もしかして ひょっとして


 もうすぐ1歳になる那々美を連れて、電車に乗って実家に戻る電車の中、行き会わせた老婦人とのひと時の話題は、もう一人の七夕生まれの女性の恋バナだった。
男子バスケ部の異変をどうにかしてほしいとあちこちから頼まれた生徒会委員の研介。
ブラックな人材派遣会社に勤める永島に猫を預けていった友人の秘密、叔母に頼まれてこっそり荷物を取りに行ったら死体が待っていたなど、ちょっと変わった雰囲気の短編集。

 スッキリ解決するものばかりではないため、その後のことが気になってしまう。
良い話だったと穏やかな気分でいても、次は全く違った話でがらりと様子が変わっていくため、気持ちが切り替わらない。
それぞれの話は楽しめたけど、続けて読むのはちょっと辛かった。

ばけもの好む中将 十一 秋草尽くし


 いつものように怪異を求めて夜歩きする宣能と宗孝。
しかし宗孝は、宣能が秘めている荒事のことで頭がいっぱい。その時、二人の面前にひらりと漂う白いものが現れる。
驚き慄く宗孝。
 一方、自身が企んでいたことが失敗し、夜な夜な悪霊に悩まされている弘徽殿の女御は、悪霊が実は巫女たちの仕掛けだったことを知り、復讐を誓っていた。

 宗孝の周りが一気に慌ただしくなる。
どんなことも権力に任せてやってしまう弘徽殿の女御、都の裏の仕事をしている多情丸、そしてそんな物騒なことは何も知らずに純情な恋心を育んでいる東宮と初草。
物騒なことが多く起こる今回だが、東宮と初草の微笑ましいやり取りが和ませる。
今回は周りの者たちのエネルギーに押されて、宣能と宗孝の印象が薄かった。
これからの二人が心配になる。

青い雪


 第25回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。
夏のひと時を過ごす3つの家族。
幼い時はただ楽しかった。でもある時、5歳の亜矢ちゃんがいなくなった。
子供だったために知らなかったことが、やがて少しずつ分かってくるようになり、亜矢ちゃんを取り戻そうと動き始める寿々音と大介、そして秀平。
やがて3つの家族の秘密も明かされ、あの日起こったことも明らかになる。

 3つの家族それぞれの子供たちの目線から語られるため、最初はバラバラな印象。
でも3家族の関係が分かり始めると、それぞれの出来事がつながり始める。
そしていつまでもつながらなかったタイトルは読み終わってはじめて気づく。
ちょっと関係者が多すぎて混乱した。