烙印(下)


 自転車に乗っていて死亡した女性、プールで突然死した恩師。
一見事故死に燃えるが、妙な共通点があり、ケイは感電死の疑いから人為的なものを感じ取っていた。
そしてまたも届く不気味な脅迫メール。
ケイに忍び寄るキャリーの影がだんだん濃くなっていく。
休日の予定を台無しにされ、疲労困憊して自宅に戻ったケイが目にしたのは、信じがたい出来事だった。

 堂々と目の前に現れるキャリー。
感電で死んだ人たちの真実が一瞬で分かったシーンは衝撃的だった。
よりによって家族が集まる自宅での出来事は、より一層恐怖をあおる。
しかしキャリーはまたも生き延びる。
ケイの恐怖や疑心暗鬼の描写だけで終わっていた今までのうっとおしさがやっと緩和された。

わが殿 上


 幕末、ほとんどの藩がそうであるように、大野藩も財政難に喘いでいた。
若き藩主・土井利忠は、誰もが良い案を出せずにいる中で、一人の若者に白羽の矢を立てた。
若干八十石の内山家の長男である七郎右衛門良休であった。
七郎右衛門は、誰もが知恵を絞っても出せなかった案で金を作り出し、若殿のいくつもの指令をこなす。

 珍しく妖怪が出てこない話。
そして主人公の性格も、とぼけた様子は割に少ない。
しかし、事が起こって途方に暮れる場面からいきなり数年が過ぎていたりと、場面の切り替わりが急すぎることも多くて気持ちの切り替えがしにくい。
それでも、次々出てくる金勘定のやりくりをなんとかこなす七郎右衛門のやり方は思いのほか堅実で、奇をてらったり偶然に頼ったりしていない。
そのため胸のすくようなどんでん返しはないが、藩の力をじっくりと積み上げていく様子が頼もしく映る。

標的(下)


 ケイやルーシーが考えるよりも上をいく犯罪者。
連続殺人事件のつながりを見つけていくうち、権力者とその息子にたどり着き、やっと悪事を告発できると思ったその時、素晴らしいタイミングでその権力者の死亡のニュースが流れた。
偶然ではありえないと急いで証拠を集めに出かけるケイとベントン。
そこで、衝撃的な事実を知ることになる。

 すでに死んだはずの人のツイッターアカウントからケイに届いたメッセージ。盗まれた車、書き換えられたルーシーのDNAデータ。
ルーシーの立てた予想は、ルーシーを怖がらせ、その様子にケイは傷ついていく。
そしてやっぱり、死んだと思ったのに遺体を確認しないでいた犯罪者が登場する。
「やっぱり」感ががっかりさせられる。
狙撃の腕も天才的な犯罪者がなぜケイにだけ失敗するのか。都合がよすぎる。

標的(上)


 気持ちのいい朝、ベントンとの休暇旅行へと出かける日、ケイは裏庭の塀の上に並べられた1セント硬貨を見つける。
そして少し前に届いていた不審なツイート。かすかな違和感と共に休暇は返上となり、さらに自宅近くで銃撃事件が起こっていた。

 もっとも起こってほしくないタイミングで起こり、呼び出されたケイが関わることになったのは、時間をかけて練られた計画への参加だった。
うすら寒い犯人の行動は今までもたくさんあって、神経質ともいえるほど用心していたにもかかわらず、不気味な攻撃を受けてしまう様子は、自宅にいても気が休まることがない。
今度も関連と思われる銃撃事件がいくつか出てきたせいで恐怖が増す。
でも前回うんざりしたベントンのボヤキは減っているのでほっとした。

猫君


 江戸・吉原で髪結いをするお香に育てられていた猫・みかんは、やがて20年がたつという頃、病を得たお香に一つの約束を言い出される。
それは、近く自分は死ぬから、飼い主を取り殺したと言われて捕まえられる前に、逃げなさいという。
悲しみに暮れる暇もなく逃げ出したみかんを待っていたのは、猫又としての生き方を学ぶ猫宿と、先輩猫又たち。
しかし今年の新米猫又たちは、いつもと違う学びとなってしまった。

 登場人物が猫であることを忘れぬよう、話すセリフに時々「にゃあ」が加わることに慣れてしまえば、これまでの作品と同じように楽しめる。
つまり、何か問題が起き、仲間と共に、知恵を絞って切り抜ける。
いろんな個性が楽しい知恵を生み、それが猫たちだと思うと、集まっている様子を想像するのもまた楽しい。

死層(下)


 どうやらマリーノが騙されていたことが分かり、様々な方面から疑われる。
さらに、自宅の地下室で転落死したと思われていた遺体がずっと気になっていたケイは、そちらも調査を始めた。
すると、二つの事件がつながり、身近な人の裏切りも発覚してしまい、ケイは信頼する人達との時間を切実に求めていた。

 下巻も半分くらいはだらだらとした印象。
ベントンに近づいてくる女性と、何かとケイに触れてくる男のせいで、二人とも嫉妬していたり、何を考えているのかと勘繰ったり、そんな話ばかり。
最近ルーシーとマリーノの存在感が薄くなってきて、ベントンとケイの嫉妬話でうんざりさせられ、半分以上は無駄話としか思えなくなっている。
最後は事件も解決し、マリーノは動物に癒されて、いい雰囲気で終わっているが、あまり後味はよくない。

死層(上)


 ケイの元に、カナダの化石発掘現場で撮影したと思しき、耳の断片を映した謎の画像メールが寄せられた。
暗い画像なうえ、前触れもなく謎ばかりだったため、ケイは悩む。
そして、ボストンの湾内では、上下に釣られた女性の遺体が発見される。
発見時の不思議な様子に気を取られ、法廷に呼ばれていたにもかかわらず、遺体に向き合うことを優先してしまう。

 ケイが海から引き揚げた遺体は、少しの衝撃でバラバラになるよう上下に引っ張られていて、その様子だけでも興味を惹かれる。
でもその後遅刻して出向いた法廷での意地悪なやり取りに嫌悪感が大きく、行方不明の古生物学者や海の中の死体よりも印象が大きくなる。
まだ上巻ではケイが仕事をする場面は少なく、ただ居心地の悪い場所での嫌な経験と、命令を無視した部下にいら立つケイしかいない。もっと死体に向き合う場面がほしい。

蝉かえる


 16年前、災害ボランティア中に見た少女の幽霊のことが気になり、再度その場を訪れたの青年から聞いた少しのヒントで、魞沢は真相を語りだす。
交差点で起こった交通事故と、団地で起きた負傷事件の謎。
虫好きの魞沢が、その場の虫と共に語る真実。

 静かに、淡々と話す魞沢の話が、時に虫の話にすり替わり、その時だけは熱く語り始めるという変わった探偵。
短編集なのでそれほど込み入ってはないし、虫と言っても割と身近な虫たちなのでイメージも沸く。
魞沢の語り口が優しいので、犯罪者からも悪意は感じないため嫌な気持ちは残らない。
少年の頃の魞沢からも、すでにその優しい探偵ぶりがうかがえてほほえましくなる。

双子同心捕物競い


 そっくりの双子なのに、正確は正反対の二人。
兄の左京は真面目に父の跡を継いで同心になり、弟の右近は家を飛び出し地回りとして生活していた。
ある日、老人から「隠居したいので同心株を買わないか」と言われた右近。
何の因果か、二人は北と南に分かれて同心をやることになった。

 タイトルから、一つの事件でどちらが手柄を上げるか競うのかと思っていたら、そう簡単ではなかった。
それぞれが別々に調査し、話し合いなどしない。
しかし、反発してもそれは双子。どこか似た考えがあり、最後は少し歩み寄る。
二人が違う縄張りで同じように励んでいたら、きっと町はとても平和になるだろう。

ノッキンオン・ロックドドア2


 不可能担当の御殿場倒理と、不可解担当の片無氷雨。
二人の探偵が得意分野をうまく集めて探偵をしている二人。
今度の依頼は、大きな穴の開いた密室殺人だった。

 一風変わった依頼人よりもさらに変わった二人の掛け合いが楽しい。
大学のゼミで一緒だった4人組の残りは、一人は刑事に、一人は軽犯罪の知恵を売っているという点も風変り。
この関係が始まった事件を最後に解決し、関係に変化が起こるかと思いきや、4人は何もなかったかのようにあいさつを交わす。
居心地の良いままを望む4人は、読んでいても居心地がいい。