不見(みず)の月 博物館惑星Ⅱ


 遠くアステロイドベルトから捕まえてきた惑星を月の反対側の重力均衡エリアにおき、まるごと博物館にした〈アフロディーテ〉。
そこでは、データベースを脳に直接接続した学芸員が、美の追求に勤しんでいた。
 そこへ配属された新人自警団員の兵藤健は、展示管理やマナー違反をする客たちとのかかわりの中で起こる事件に対処ししていく。
さらに健は、情動学習型のデータベースを育てる役までもらっていた。

 なんと19年ぶりだという「博物館惑星」の続き。
細かいところは覚えてないけど、印象は強く残っていた。
そして覚えてなくても充分楽しめたし、美術に興味がなくても、表現方法としての化学技術に興味が沸き、見てみたいと思い切り想像する。
どんなしくみなのかを思い浮かべながら、学芸員たちの人間としての感情と、人工知能との違いを楽しみ、さらには思い切り人間臭い家族のしがらみなどの対比も面白い。
でもタイトルになっている「不見の月」はなんだかありふれていてつまらない結果になった。
楽しい時間だったのに、最後でガッカリして終わったことが残念。

少女の時間


 元刑事で現在フリーのジャーナリスト。そんな柚木に月刊EYES編集部経由で持ち込まれた、2年前の未解決殺人事件の再調査だったが、調べ始めた途端、関係者が死亡するという事態になる。
情報をくれる美人刑事に、調査対象の美人親子、柚木の周りに集まる癖の強い美女たちが、柚木の苦悩を増やして回る。

 シリーズだがとりあえず一つという程度で手に取ったが、意外に面白かった。
洗濯好きの女たらしという設定の柚木が、女たちに困らせられながらもさらりと口説く様が楽しい。
女たらしというより、やたらと女に絡まれる感じの人たらしで、それでも料理がうまく、もてなしもスマートなので、これでは嫌いながらも寄ってくる女たちの気持ちも少しわかる気がした。
推理も警察とうまく役割を分担しながらきっちりと詰めていくので流れがつかみやすく、事件としても興味が持てるため最後まで手が止まらない。

あなたのためなら 藍千堂菓子噺


 おっとり者の菓子職人の兄・晴太郎と、少々口は悪いが算盤や商いの上手い弟・幸次郎は、無口だが笑い上戸の職人・茂市と3人で「藍千堂」を営んでいる。
晴太郎が結婚して、男所帯が明るくなったところに、従妹のお糸の縁談話が舞い込んだ。
いつもはボンクラばかりを連れてくる叔父が今度はまともな男を選んできたと、皆は興味を惹かれたが、この縁談がとんでもない厄災を連れてきた。

 兄弟の言い合いが微笑ましい。
しかし今度も、簡単には癒えることがない傷を負うものが出てくる。
優しさにあふれたシリーズで、温かく優しい気持ちでいられ、お互いを思いあう場面が多い。
考えぬいてできる菓子も美味しそうで、華やかさを増す。
じっくりと読みたいシリーズ。

漣のゆくえ とむらい屋颯太


 事故でも自殺でも、人が死ぬと魂はいなくなり、直ちに腐り始める。
しかし生きている人にとっては、その抜け殻は大事な人の姿であり、すぐには受け入れられない。
そんな人々にとって、弔いはとても大事なものとなる。
「弔い屋」の主人・楓太は、そんな遺族の気持ちを救いとる。
 今回も、訳ありの死人を運んでほしいと依頼が入る。

 楓太自身も辛い過去を持ち、生き残った者として、残された人たちの気持ちに区切りをつけられるよう、細かい心配りをする。
新しい仲間も増えてにぎやかになるが、やや感傷が押しつけがましいと感じる部分もあった。
それでも暗い雰囲気にはならず、生きている人を一番に考える様子は力強い。

わかれ縁


 夫婦となって5年。働かず、借金を作っては飲み、幾人もの女を作ってなお離縁に応じない夫に失望し、家を飛び出した絵乃。あてどなく歩いていると、離縁の調停を得意とする公事宿「狸穴屋」の手代に拾われる。
そこで絵乃は、離縁を依頼した。しかし手間賃を払えない絵乃に「狸穴屋」の主人・桐は、手代として働くことを進める。

 身投げをもくろんでいた絵乃に、新しい道を示してくれた「狸穴屋」。
そこで様々な夫婦のありようと別れ様を見て、絵乃は自分の視野の狭さを知り、夫との離縁を決心する。
桐の度胸と気持ちのいい啖呵に、自分も世界が広がる気がした。
最後に見せた絵乃の裁きには、空恐ろしい執念も感じつつ、溜飲も下がる思いで複雑な後味を残す。

高校事変 VI


 修学旅行中、同じ班の5人からのいじめに耐え切れなくなった結衣は、仕返しをした後でこっそり宿を抜け出した。
来る途中でバスから見た、ヤクザのカモとなっていた貧困家庭の集まる地域へと足を向け、そこで銃の密売と少女売春の斡旋を目にする。

 今度は少女が被害にあっている場面がたくさん出てくる。しかも相手は軍人。
そしてどうやら捕まっていた凛香と再会はしたものの、すぐさま襲い掛かってくるほどの敵意を向けられる。
それでも息はぴったりで、隠蔽されようとしていた犯罪を明るみに出すことに成功する。
それにしても、一つ一つの行動がすべて後のつじつま合わせへの工作となっていて、どんなことが起こっても回収できるような小細工をしているのは恐ろしいとも感じられる。
そしてまた一人、結衣の兄弟が登場しそう。

高校事変 V


 武蔵小杉高校事変で優莉結衣と交流を持った濱林澪は、ショックのため不登校になっていた。
そこで、事件に遭遇した生徒を対象にした救済措置としての転校で、ある農業高校に見学に行く。
教師の言動に違和感を感じた澪は、とっさに結衣に助けを求める。
その学校では、生徒たちの知らないところで巨大なプラントが作られており、結衣にとっては忘れられない記憶と結びつく化学兵器が作られていた。

 学校へ招かれてそのまま恐慌に巻き込まれるのはもう何度目になるか。
結衣の容赦ない仕打ちは想像すると恐ろしいが、それは結衣に敵意を向けるものだけに限り、結衣の心に少しでも近づいてこようとした人は見捨てない。そのため、次に繰り出す技はなんだろうと期待すらしてしまう。
田代親子だけでなく、新しく登場した理系の高校教師が次の脅威か。

スカーペッタ 核心(下)


 スカーペッタの携帯をマリーノと共にカーリーの部屋に探しに行き、マリーノは警察無線で見た男性の自殺中継を思い出す。
ベントンの元患者、テレビ番組の司会者、耳の悪い精神医学者、これまでの登場人物がすべて一人に結び付くことに気づいたベントン達は、まさに今そこにいるであろうスカーペッタを助けに向かい、ルーシーはバーガーを助けに向かう。

 皆が勇気を取り戻してきた。マリーノもまた頼もしい警察官として動き始めているし、ルーシーは行動力が功を奏し、スカーペッタも本来の仕事で知識を披露する。ベントンの強敵だった、取り逃していた一人の凶悪犯罪者もベントン自身の手で決着をつけた。
これまでのような、「危機の際に都合よくあらわれる助っ人」によって助かっていた場面が、「ちゃんと情報を得た者が走り寄る」ように変わったことで、納得のいく展開となった。

スカーペッタ 核心(上)


 クリスマス直前に起こった二つの事件。
有名投資家の失踪とジョギング中の女性の遺体が世間をにぎわせていた頃、スカーペッタが出演したテレビの生放送では、事件の目撃者だという人物と電話でつながり、さらに公表されていないはずの写真まで出てしまう。
スカーペッタが契約違反に憤りながら帰宅すると、フロントには不審は荷物が届いていた。

 急にこれまでのスカーペッタらしい流れに戻ってきた。
マリーノとベントンの関係は緊張ぎみだが、スカーペッタは遺体を観、警察の見解に助言する。
そして不審な小包が、二つの事件に関係するのか。
ここまで雰囲気が変わったのは、翻訳者の変更のせいか、作者の意向かと勘繰るほどの差。
それでも緊迫感あり頭脳戦ありのスピード感は、後半に期待させるのに充分で、ベントンの元患者の奇妙さ加減も不気味な追い打ちをかけてきて間を置かずに読みたくなる。

警告


 リッチモンドへやってきた船のコンテナの中から、腐乱死体が見つかった。
遺体についていた嬰児の毛のような薄く細い毛。フランス語で残されていた狼男のサイン。密航者だとしてインターポールに問い合わせをするケイ。いけ好かない上司に降格させられたマリーノと共に、ケイはフランスまで呼び出されることになる。

 奇妙な犯人像。これまでの、到底理解できない思考を持った犯人とはまた違った強烈な印象を残す。
マリーノとの言い合いは相変わらずだが、だんだんマリーノの言動が壊れてきているように感じて不安になる。
そのうえルーシーまで不安定になっていて、ケイを含めて誰もが危うい。
言い争いばかり増えている気がする。
この狼男と、新しい年下のボーイフレンドが次のキーパーソンか。