名もなき星の哀歌


 昼は銀行員として働く良平と漫画家志望の健太。
二人には裏の仕事がある。それは人の記憶を売り買いすること。
ある日二人は路上で歌を歌う星名という女性のことが気になり始め、医者一家焼死事件との関わりを見つけた。
そして店の仕事を使って探偵をすることを思いつく。

 二人の仕事が面白くなり始めるのは後半。
それまでは退屈で、何も起こらないまま終わるのかと思い始めた頃だった。
政治家の汚職、火事の真相、良平と健太の記憶、そして店の仕事などが、やっと起動し始めてからが本番だった。
前半の退屈がなければもっと引き込まれたかも。

鹿の王 水底の橋


 オタワルの医術師ホッサルは、祭司医・真那の招きに応じて恋人ミラルとともに安房那領へと向かう。そこでホッサルは、清心教医術の発祥の地と言われたその地が、実は他の医術をもとにしたものだという、清心教医術の最大の秘密に触れてしまう。
そしてそのことが、ホッサルの人生を変えるかもしれない選択を迫ることになる。

 「鹿の王」の強烈な印象がどう広がるのかが楽しみだったが、全く別の角度だったために、「鹿の王」を読んでいなくても十分楽しめる話だろう。
考え方の違う医療の話が、こんなにすっきり明るい希望をもって終わるとは思ってもみなかった。
数年先のミラルの才気が飛び出してくるようだった。

江戸前浮世気質 おちゃっぴい


 本石町の裏店に住む者たちの、一人を主人公にして日々の出来事や思い。
町のおてんば娘と言われるお吉の嫁入り話まで、お江戸に住む人たちの悲喜こもごもな短編集。

 どれもほっこりする話。
いろんな世代の人が集まっていて、いろんな見方をするから、誰か一人に肩入れすることなく、すべてを受け入れられる。

業火


 キャリーからと思われる不気味な手紙を受け取ったケイ。
ベントンとの逢瀬も後味の悪いものとなり、ケイはそのまま、次の事件へと向かった。
それは農場の火事で、競争馬が20頭ほども道連れになったという。
そしてバスルームで見つかった、傷だらけの遺体。

 ゴールトとの決着がついたというのに、その相棒ともいえるキャリーが脱獄したと言われておびえるケイ。
ルーシーはヘリの操縦までできるようになっており、ケイはこれまでのような、何でもできる天才といったイメージをルーシーに明け渡したように見える。
最後は衝撃的で、キャリーの生死がはっきりしていない分不気味な後味が残った。
また主要人物を殺す作者。

接触


 ごみ収集所で見つかった、手足と頭のない、胴体だけの死体。
同じ手口ですでにもう何件も続いていた事件に、ある日ケイの家に被害者の切断された手足が写った電子メールが届く。
発信者の名は、deadoc。ケイは慄きながらも、遺体の体の小さな発疹に目を付ける。

 最後は知らないうちに犯人の元へと乗り込んでいたケイ。
目に見えない凶器の話はやはり怖い。
が、最後の遺体だけ違った特徴があった件について、布をかぶせたことは理解できたが、切断面が違っていたことについての説明はなかった。このシリーズは、こういった推し量るしかない事が結構多い。
主人公が検死官で、化学で事実をつかもうとする話で、事実をはっきりできることが放っておかれているのはどうにも後味が悪い。

死因


 潜水禁止地域の川で毒殺されたジャーナリスト。
調べていくと、狂信的なカルト教団が浮かび、ケイにまとわりつく不気味な刑事と、その後ろには海軍の影も浮かんでくる。
ケイが狙われたと思える事故で解剖助手の好青年まで死んだことで、ケイはおびえながらもルーシーの助けを借りて立ち向かう。

 マリーノとの関係は相変わらずだけどとてもいい相棒となり、ルーシーは頼もしくなった。
だけど、ケイの周りで巻き添えとなった人が死にすぎることが気になるし、解決となるきっかけの発見が軽く書かれすぎて見逃しそうになるのは毎度のこと。
そのせいでいつもちょっとした消化不良な感じが残る。

逢魔が刻 腕貫探偵リブート


 公務員探偵「腕貫さん」を慕う女子大生・住吉ユリエたちに、友人の一人が相談を持ち掛ける。
20年ほど前に起こった身内の事件を、ミステリーとして小説にしてみたい、と。
仲間たちはその内容に一つ一つ意見を述べ始める。

 これは腕貫探偵の周辺で起こった出来事であり、腕貫さんはほとんど関係なかった。
しかも、持ち込まれた相談に対して意見はたくさん出るが、それを結局どうしたということではなく、ただ個人の推理を披露しただけなので、どうとでもとれて、読み手の推理もいくらでも加えられる。
そんな感じの、ちょっと曖昧なまま終わらせる短編集だったせいか、読み応えとしてはいまいちだった。

清明: 隠蔽捜査8


 神奈川県警刑事部長に着任した竜崎伸也は、着任早々東京と神奈川の県境で起こった死体遺棄事件に関わる。
被害者の身元が外国人だったことから、公安も交えた捜査となり、それぞれの壁に捜査を阻まれる。

 どこへ行っても竜崎は変わらず。
言っていることは正論で、しかもそれが本心であるため、周りを唖然とさせることもある。
でもいつしか皆の視野を広げさせ、協力者を増やす。
それが事件解決へとつながるが、いつもいつもうまくいっているのが不思議になってくる。

たらふくつるてん


 塗師の武平は、腕はそこそこで稼ぎはいまいち。酒も弱いし人付き合いも得意じゃないという、そこそこな職人だった。
ある日、出来上がった品を届けに行った先で酒を供され、飲みつぶれて朝目が覚めると、そこには女が殺されていた。
肝をつぶして逃げ帰った武平は、なんとか江戸へ逃げ出し、そこで出会った絵師の石川流宣と共に、噺家をするようになる。

 「江戸落語の始祖」といわれた鹿野武左衛門の人生。
武平と、武平を追うかたき討ちの兄弟の二つの流れがあり、それが交わるまでは流れが分かりにくくつまらない。
やがて噺家として稼げるようになった武平たちがお上に目を付けられないよう身を縮こませるころになってやっと話が乗ってくる。
胡散臭いと思っていた流宣のことが知れる頃にはもう終わりになっていた。

クローバー


 わがままで強気で何でも押し通す華子と、そんな華子にされるがままの理系男子・冬冶。
ある日華子にストーカーさながらのおしかけ彼氏がやってくる。
やがて冬冶にも、大学で気になる子ができ、4人のすったもんだの恋愛話。

 軽快でするすると話は進み、嫌みな人物もなく、少しずつ打ち解けていく4人の関係が楽しい。
華子の身勝手さは極端な前向きさと同じ感じで、言うことを聞いてしまう冬冶の気持ちもわかるし、それを見ているほかの人にも不快感は感じさせない。短編なので気楽に出来事にも向き合えて、明るい読後感。