秋麗 東京湾臨海署安積班


 遺体らしきものが海に浮いていると通報があり、引き揚げた遺体はかつて特殊詐欺の出し子として逮捕された戸沢守雄という七十代の男だった。
殺人らしいということで安積たちが動いていると、死亡する前日に仲間と3人で釣りに出かけていることが分かる。
仲間の二人を訪ねたところ、二人とも自棄におびえていて、安積は関連がありそうだと調べを進めることにする。
そこから、殺された男がやっていた詐欺事件も含めた捜査が始まる。

 安定の安積班。
こちらもパターン通り、始めは関係ないちょっとしたもめ事や困りごとから始まり、最後になってそちらも事件とは関係なく終わる。
でもなぜか樋口班より印象が良い。
班の仲間たちや速水など、個性的な人物が集まっているせいかもしれない。

敬語で旅する四人の男


 大学を出てから合っていない母に会いに佐渡に向かう真嶋。生まれ育った京都から出たくないと離婚された繁田。彼女からの束縛にうんざりする中杉。イケメンだけどこだわりが強く、曖昧な表現が苦手で空気を読むことができない男・斎木。
特に友人でもなかった男4人が、なぜか旅をする。

 不思議な距離感でつながる男たちの様子が奇妙で面白い。
特に大きな出来事が起こるわけではないが、友人とも言えない4人には、広々とゆったりした空間を感じさせる。
のんびり読むことができる。

優莉結衣 高校事変 劃篇


 ホンジュラスでの死闘の後、日本で帰ろうと少しでも日本に近づくために北朝鮮行きの船に潜り込んだ結衣。
ところが、途中で船が襲われ、結衣はかろうじて抜け出したが、気が付いたら北朝鮮の工作員と入れ替わっていた。
テレビなどの情報がない国だから、結衣の顔は知られていない。
それをいいことに、工作員を教育する学校へ入れられた結衣は、そこでまたもや銃撃戦に巻き込まれる。

 まさかの北朝鮮。
そこで優衣が淹れられたのは、潜入工作員を育てる高校。
必死で言葉を覚え、なんとかその生活に慣れた頃、結衣の素性がばれてしまい、クラスメイトや教師もろとも消し去られようとする国の圧力へ立ち向かうことに決める。
パターン化してきた。
また学校で、大人たちから狙われ、一部のクラスメイトと共に戦い、やがて命からがら抜け出す。
やっぱりどこへ行っても結衣は結衣。

ペットシッターちいさなあしあと


 子供の頃事故にあってから、陽太は匂いで生き物の死期がわかるようになった。
それを生かし、妻と動物を愛する柚子川と、不思議な縁でまた出会った動物の声が聞こえるという薫と共に、ペットの看取りをする会社を立ち上げた。
いろんなペットの看取りに立ち会ううちに、陽太は自分の家族にもその匂いがあることに気づく。

 周りに自分の特技を披露したばっかりに、有名になり、拉致された経験を持つ陽太が、それでもその力を隠さず強みとしている。
いろんな看取りをするうちに、両親とのかかわり方や、父の言った言葉の意味などを考えてゆく陽太。
そして生と死の両方を自然に受け入れられるようになっていく。

クローゼットファイル 仕立屋探偵 桐ヶ谷京介


 服飾ブローカーの桐ヶ谷と、アンティークショップの店長で人気のゲーム実況配信者である小春。
二人は、警察がどうしても見えなかった方向からの視点で事件を見、解決へ導く手伝いをしている。
今回も、杉並警察署の未解決事件の再捜査を行う部署にいる南雲から、いくつかの事件を見せられた。

 赤ちゃんの時に捨てられた子供が親を探している。服飾の学校へ通っていた女性が裁ちばさみで殺された事件。女子高生が必死で隠していた怪我など、身につけていた服から見えてくるものを見、推理する二人。
知らない世界のことだから、知らない事がいっぱいでとても興味が沸く。
いちいち調べていくからなかなか進まないが、それでもあっという間に読み終えた。
二人のキャラクターも、掛け合いも楽しいし、何より彼らの言葉はまっすぐ届いてくるので、きつい言葉でさえ清々しい。

メアリ・ジキルと怪物淑女たちの欧州旅行  1ウィーン篇 アテナ・クラブ


 特異な能力をもつ“モンスター娘”こと〈アテナ・クラブ〉の面々は、メアリの家で一緒に暮らしていた。
ある日、メアリに宛ててヴァン・ヘルシング教授の娘ルシンダから救助を求める手紙が届く。
メアリたちは二手に分かれ、ルシンダを助け出すためにウィーンへ向かう。

 メアリたちはそれぞれの特技を生かして暮らしていて、今度もそれを生かせると信じて旅立つ。
心もとない旅費はホームズが助けてくれたが、今回はホームズはほとんど登場しない。
メアリたちの大活躍でルシンダを監視の強い施設から助け出すことができたが、今度は自分たちが誘拐されてしまうというところで終わる。
途中でみんなのコメントが入るのは前回からだが、やっぱりそれが邪魔で気分がそがれてしまうので物語に集中できなかった。
結局どんなふうに進んだのかが残らず、興味も薄れた。

孤宿の人(下)


 悪霊を押し付けられた丸海の人々が少しづつためている不満が爆発する。
涸滝の屋敷に幽閉された加賀殿にむけられる刺客や、怖いもの見たさで覗きに行く子供、その度に振り回される役人たち。
毎日の仕事にだけ向かっていたほうにも、大人たちがあたふたするたびに叱られたりしていた。
しかし、ある出来事がきっかけで加賀様から文字を習うことになったほう。
加賀様の教えの通り、数を数え、漢字を覚え、そして誰もが気づかなかった秘策の仕掛けに気づいてしまう。

 今度は牢に入れられてしまったりするほう。
だが優しい人たちに助けられ、学ぶ楽しみも知る。
どうやっても厄介者である加賀様の扱いの落としどころをさぐる者と、それを悟る加賀様の最後はとても悲しいものだし、たくさんの人が死んだけど、ほうの力強さが勝ったという事だろう。
タイトルだけでは全くそそらないと思った本だけど、思いのほか面白かった。

孤宿の人(上)


 北は瀬戸内海に面し、南は山々に囲まれた讃岐国・丸海藩。
店の女中に手を付け生まれた子供を厄介払いするため、江戸から金比羅代参に連れ出された九歳のほう。
しかし途中で船酔いで寝込んでいる間に付き添いに捨てられ、置き去りにされた。その後藩医を勤める井上家に引き取られるが、そこで優しかった琴江が毒殺されるという事件が起こる。
その後も領内で次々と不穏な事が続き、ほうは立場が弱いために振り回されることになる。

 阿呆だから”ほう”と名付けられ、これまでさんざんな扱いを受けていたほうだが、井上家では下働きとして幸せに暮らしていたのに、琴江の死で再び不運に見舞われる。
それでも出会いに恵まれているのか、振り回されながらもちゃんと守ってくれる人に出会えている。
血なまぐさい出来事も多いのに、ほうの生き方を見ているとほっこりしてくる。
これからもひどい仕打ちは多いだろうけど、こんな運に恵まれていくのだろうと思えてくる。

ふわふわのセーター




使用糸:リッチモア ポメラニアン(1)、リッチモア トッピングモール(160)
編み図:オリジナル
使用針:12号針、10号針 250 g