森鴎外を父に持つ類は、すべてを受け入れて優しく頭をなでてくれる父が大好きだった。
父が亡くなり、潮が引くように人々が離れていってからは、父の遺産と印税で生きていけるため、働いたことすらなかった。
しかしそれでも世間の眼からは逃れられず、姉と共にフランスへ遊学する。
類にとってその時期は、幸せな時期となる。

 有名人の子供として生まれ、兄姉たちとの関係、そして自分にも何かの才能があるはずだと苦悩する姿を描く。
やがて絵を描くことから文章を書くことへと移り、それでも姉たちのように売れず、戦争で遺産も取られ、初めて社会人となる類。
人の一生をもれなく描いたというような、読み応えのある一冊だった。
なぜ鴎外ではなく息子を主人公にしたのだろうと思って読み始めたが、これほどの充実が得られるとは思わなかったし、自分もバーチャルで類の近くで生きたような気分になる。

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