春告げ坂―小石川診療記―


 長い坂を登り切った先に位置する小石川養生所。貧しいものが集まるこの診療所で、医師の高橋淳之祐は毎日忙しくしていた。
手習い所で文字を教えていた女性や、金が返せず奉公先の店からくすねていた男、いろんなものを背負った者たちが日々やってきては、治療を受けている。
そんな中、大家に連れられやってきた男は、肝臓を患っていて、動くのも辛そうだった。
そしてその男は、淳之祐の過去とも因縁のある相手だった。

 療養所内での問題も多い中、身寄りのないものを引き受け、治療する。
医者の淳之祐が日々力不足を悔やむ様子が良く描かれている。
そんな中で患者としてやってきた男が自分の家族とかかわりがあるなんて思いもよらなかった淳之祐が、戸惑いながらも医者として成長しようと決心するまでになり、また希望が湧いてくる結末ですっきりと読み終えることができた。
さらに、ふと聞こえる笑い声や、毎年ちゃんと咲いてくれる桜など、ちょっとしたことで気持ちが和らぐ様子がところどころあって、気持ちが暗くならずに済んだ。