棟居刑事の恋人たちの聖地


 便利屋・山名泉は、病床の老人から、渋谷のカフェ『恋人たちの聖地』で未来の薬を受け取ってきてほしいという依頼を受ける。
不思議な体験をした山名だが、そこで出会った一人の女性に心を奪われてしまう。
するとある日、その女性からいきなり連絡が入り、「兄を助けてほしい」と言われる。

 半分がすぎるまで、棟居刑事が出てこない。
不思議なカフェが窓口のタイムトラベルもので、刑事事件の話じゃないのかと不審に思ってしまうくらい。
そしてその事件はおおむねタイムトラベルの話で終わるため、臨場感も感情移入もなく、盛り上がりもなかった。

悪魔を殺した男


 「逆さ五芒星」を残した連続殺人犯の阿久津は、一人隔離された病室にいた。
面会にやってくるのは、かつての相棒・天海。
阿久津の能力を使って事件を解決してきた天海だが、それを利用しようとする者が現れた。
阿久津は、その巧妙な心理戦に勝てるのか。

 触れた物の記憶を読み取れるという阿久津を信じる天海は、どんなに隠しているつもりでも阿久津への気持ちを回りに悟らせていたために利用される。
発覚していない犯罪を裁くために人を殺してきたために「悪魔」と呼ばれた阿久津をも罠にはめようとするもう一人の「悪魔」の様子は、姿が見えない気味悪さが最後まであって気が抜けないが、いろんなところに手を出して散らばりすぎた感じがする。
誰もが関係者となってしまった時にはこじつけが過ぎる気がした。

犬用セーター


使用糸:パピー ブリテッシュエロイカ (134) 12号棒針 152 g
    毛糸ZAKKAストアーズ Sucre(05)(06) 10号棒針 35g
参考編み図:イヌのための毎日ニット 愛犬のあったかウェア&小物を手編みで


使用糸:元廣 アクリル並太(10)(12)(13)(29)12号棒針 各94g、99g、83g
参考編み図:透かし編みのわんこ服

ボーンヤードは語らない


 U国の空軍基地から、兵士の変死体が発見される。
サソリに刺され、転落死したように見せられていたが、実はまた別の犯罪を隠蔽しようという目論見が隠されていた。
少佐のジョンは、刑事マリアとその部下である漣に、非公式に操作を依頼する。
 さらに、彼らがなぜ警察官になったのか。お互いに抱く疑問に答えるように、マリアと漣の過去も語られる。

 息が合っているのかわからないような二人の過去が、それぞれ明かされた。
マリアは昔から人と違った観察眼を持っているし、漣はその冷静さから俯瞰した着眼点から事件を見渡せる。
二人の特徴がよく出た短編集となっていた。

追憶の烏 八咫烏シリーズ


 奈月彦と、浜木綿、そして愛らしい紫苑の宮との幸せなひと時。
そして雪哉は外界への遊学へ行き、何もかもが違う世界に一生懸命だった。
それが、一変する。

 シリーズが進むにつれて、毎回予想を裏切られる。
それも大きなショックを伴って。
今度も、雪哉の視野が広がった分、崩れたものも大きかった。
好きなシリーズで好きな登場人物もたくさんいるのに、愛着や執着を感じている者から切り捨てられるようで、苦しくて仕方がない。
美しい余韻を残した第1作目との落差が大きすぎるが、次に何を見させられるのかと興味も尽きない。
頭がついていかない程のスピードだった。

欺瞞の殺意


 無実にもかかわらず、自白して「殺人犯」として服役していた元弁護士の治重。
自白と反省、そして協力的なその態度から、治重は無期懲役を言い渡された。
それから40年以上たち、仮釈放された治重は、事件関係者でまだ存命していた澄子へ長い手紙を送る。
「わたしは犯人ではありません。あなたはそれを知っているはずです。」

 舞台、話の構成から、かなり昔に書かれたものかと思ってしまうような雰囲気だが、2020年のもの。
関係者数人だけの、事件の日の推理だけで話が進むため、閉塞感があり、時間が止まったよう。
そのなかで登場人物を駒のように動かしながら様々考えることで、じっくり話に入り込める。
入り組んだ謀略にはなるほどと思わせるが、結末はおおよその予想通り。

浄土双六


 若くして出家したいたが、くじ引きにより将軍に決まり、還俗した義政。
乳母として尽くした若君に疎まれ、自害する今参局。義政の妻の富子に拾われた雛女。
 乱世での己の生き様に疑問を持つ者たちの、苦しい胸の内を束ねた短編集。

 前の章で主人公の身近にいたものを次の章で主人公にしたりと、つながりが見えているので関係が分かりやすい。
同じ頃に生きた者たちが同じ時を過ごしていても、それぞれでこれほど視点が違ってくるのかと驚くほど見え方が違う。
でもほとんどのものは自らの境遇を恨んで気持ちを荒ませているため全体的に暗くて苦しい。
ただ最後は、気まぐれに拾われた貧しい少女から見た世界で、一番視野が広かったためか、閉塞感が和らいでほっと息がつけた気がした。

准教授・高槻彰良の推察4 そして異界の扉がひらく


 無事2年に進級できた深町に、高槻からバイトの話がやってきた。
子供の頃はやった、4時44分に、異界への入り口が開くという呪いをやってみたら、その後からおかしなことが続いているという建築事務所で働く女性からの依頼だった。
そしてしこで、とても貴重な出会いをする。
その人は、『青い提灯の祭り』に、行ったことがあるという。

 二人が出会う怪異が、だんだん物騒になっていく。
確かに深町が探していた『青い提灯の祭り』には近づいているが、危険にも近づいている。
人魚が目撃された地では、とうとう解決できない怪異にも出会ってしまった。
深町が卒業するまでには、二人が将来をつかみ取るための材料がそろっていそうだが、このまま異界へと取られる可能性もありそうでうすら寒い雰囲気が増してきた。
小話として挟まれた高槻のロンドンの頃の話では、その目の秘密が少し明かされる。


 森鴎外を父に持つ類は、すべてを受け入れて優しく頭をなでてくれる父が大好きだった。
父が亡くなり、潮が引くように人々が離れていってからは、父の遺産と印税で生きていけるため、働いたことすらなかった。
しかしそれでも世間の眼からは逃れられず、姉と共にフランスへ遊学する。
類にとってその時期は、幸せな時期となる。

 有名人の子供として生まれ、兄姉たちとの関係、そして自分にも何かの才能があるはずだと苦悩する姿を描く。
やがて絵を描くことから文章を書くことへと移り、それでも姉たちのように売れず、戦争で遺産も取られ、初めて社会人となる類。
人の一生をもれなく描いたというような、読み応えのある一冊だった。
なぜ鴎外ではなく息子を主人公にしたのだろうと思って読み始めたが、これほどの充実が得られるとは思わなかったし、自分もバーチャルで類の近くで生きたような気分になる。