准教授・高槻彰良の推察3 呪いと祝いの語りごと


 「不幸の手紙」を受け取ったという深町の友人の難波。
なんとなく嫌なことが重なって、気分が沈んでいる難波を、高槻の元へ連れて行った深町は、不幸の手紙にまつわる都市伝説を聞く。
そしてそのすぐ後、「図書館のマリエさん」に呪われたという女子中学生たちに会う。
なんでも、図書館の蔵書に隠された暗号を解かないと呪われるというものらしい。

 図書館にやってきた高槻と深町は、まだあまり知られていない都市伝説に出会うことになる。
呪われたという話だけ聞けば胡散臭いことこの上ないが、それを解く高槻はもう、怪異を求める好き者ではなく、探偵のよう。
しかも最初の「不幸の手紙」にもつながり、妙にすっきりする。
そして休暇で訪れた村では、思いがけなく殺人事件にも出くわしてしまい、スリルも大きい。
閉ざされた村に伝わる不気味な風習や因縁は、民俗学を扱う話には必ず出てくる不気味の代表であり、やっぱりこれもかなり不気味な話だった。

准教授・高槻彰良の推察2 怪異は狭間に宿る


 怪異を集めている青和大学の准教授・高槻彰良の元に、コックリさんにまつわる話が舞い込んだ。
子供たちがやったコックリさんが、今はいない同級生の名前を出し、さらに帰ってくれないままロッカーに住み着き、覗いたものをそのロッカーに引きずり込むという。
おびえる少女たちに優しく語りかけながら、高槻は「コックリさんに帰ってもらうための儀式」をすると言い出した。
 
 またもなじみ深い話題。
その10円玉がどうやって動くのか本当に不思議だった子供の頃を思い出すし、そこから発展して呪いにまでなってしまう経緯にも興味が沸く。
日常でちょっと怖いと思われている現象が、高槻の語りでしっかり学問になっていく様子も楽しく、もっと知りたくなる。
「常識担当」の助手・深町から見た高槻は時々頼りないけど、嘘に傷つく深町にまったくダメージを与えないのは高槻のすごいところでもあり、不思議な体質の二人のこれからも気になる。
民俗学というと古い時代の研究といったイメージだが、現代にもネタは豊富にあるようだ。

准教授・高槻彰良の推察 民俗学かく語りき


 他人が嘘を言うと歪んで聞こえるという耳を持つ深町尚哉は、大学進学と共に一人暮らしを始めた。
人と関わらないことを選び、嘘を聞かないで済むように生きてきた深町だが、何気なく受講した民俗学の講義で准教授・高槻に気に入られ、怪異を聞き謎を解くバイトを始める。
怪異と聞くとテンションが上がってしまう高槻の「常識担当」といてついていく深町は、相談者たちの嘘を聞き、初めて自分の耳が役に立つことを知る。

 怪異を楽しみ、自ら怪異へと飛び込んでいくのは「ばけもの好む中将」と同じような感じだが、こちらは現代。
立ち向かう理由も姿勢も違い、民俗学の勉強もできて楽しい。
幽霊の出るアパートや、仕返しをする藁人形、天狗の神隠しなど、どれも知っている都市伝説を元にした話だから難しくもなくとっつきやすい。
そして高槻の方にも秘密がありそうで、興味が沸いた。

透かし模様のストール


使用糸:ハマナカモヘア (30)
編み図:おでかけニット No.5 より
透かし模様のストール 220 g
使用針:7号針

前作



キノの旅XI the Beautiful World


 春。キノとエルメスが向かう国では、あちこちで火の手が上がっているようだった。
そして通りかかる軍隊。キノたちは、何が起こるのかを国の外でじっと見ていた。

 静かに語られる、いろんな国の”事情”
残酷だったり理解できない法律だったり、あるいは笑顔に隠されたやさしさだったり。
でもどの国の話もとてもシュールで、すべては教えてくれない。
そして毎回、その国に住んでいたらどうするだろうと考える。

圓朝


 近代落語の祖・三遊亭圓朝。
母に反対され、いろんなものを習ってきたが、やはり噺が好きだと噺家になった圓朝だが、あまりの上手さに師から妬まれ、嫌がらせをうけてしまう。
しかし、それならばと自ら作り出した怪談噺や人情噺で人気を博し、大勢の弟子を抱える一門とまで上り詰めるが、その人気の影にはそれ相応の苦悩もあった。

 伝説的な噺家の一代記。
師匠から疎まれてしまうほどの腕だが、その師匠からの仕打ちにどれほど傷ついただろうかと苦しくなる。
それでも好きな噺を辞められず、不思議な経験をしたことから集めだした幽霊話で「夏は怪談」という風習まで根付いてしまう。
弟子に向ける言葉が優しく、噺のことばかりを考え、やがて本にまでなる大成功だが、引退を決意する事件にはこちらも泣きそうになる。
どんなことを考えてきたのかはよく書かれているが、仕事とは離れた人となりの点ではつかみどころがない印象で、夢中で読めるが感情移入はしない。

クラゲ・アイランドの夜明け


 岩手県沖の海上コロニー。
「楽園」と名付けたその地では、殺人、傷害、性犯罪、交通事故、違法薬物、違法労働、自殺者がゼロという「七つのゼロ」を謳っていた。
とろこが、外洋からやってきたらしい新種のクラゲが発見され、クラゲ好きの友人・ミサキがクラゲに食べられ自殺した。
事故として発表されたその死に疑問を持ったナツオは、ミサキがなぜ死んだのかを調べ始める。

 強い自分の意思を持たないはずだったナツオが、関わる人たちの意思に、まるで風を受けたようにあおられる様子がまさにクラゲのよう。
周りの意見や熱量をうけてひらひらとあちこちを漂いながら、周囲を伺い、やがてミサキの意思を見つける。
クラゲが好きすぎて混ざりたくなったのかなと気楽に予想していたのとは違い、シュールな結末だったが、「楽園」としてはそちらの方がしっくりくる。

星砕きの娘


 第4回創元ファンタジイ新人賞受賞作。
鬼に攫われ、暗い岩の底で奴隷となりながらも心を壊さないでいた少年・弦太が、ある日、弦太は川で蓮の蕾を拾う。
砦に戻るとその蕾は赤子になっていた。
不思議なことに蓮華と名付けたその赤子は、<明>の星のめぐりと共に赤子と少女を繰り返す。
弦太が囚われて七年後、ようやく都からの討伐軍により弦太たちは解放されるが、蓮華と共に家に戻った弦太にはさらなる試練が待っていた。

 暗い砦にとらわれながらも自我を放棄せず、解放されて力を振るう様子は「鹿の王」と似た流れ。
しかし鬼や技術、服装、信仰などから古い日本の様子を想像させる。
そして読みやすく、世界感に没頭しやすいため一気に読める。
知恵や力をつけていく様子も細かく描かれていて成長が楽しめる。
個人的には、蓮華に優しくはないが面倒は見ていた笛詰が好印象。

烏百花 白百合の章


 第一部の頃、傍らで起こっていた出来事のいくつかを、それぞれの視点で描いた短編集。
西の本家では、新たに18番目の側室となるべくやってきた環が、なんとしても受け入れてもらわなければと意気込んでいて、南家で生まれた姫は政治に利用されまいと力を貯め、東の地では楽の才がありながらも実がないと言われて落ち込む青年があり、北領では力はあるが将来を決めかねている少年がいた。
東西南北それぞれの領地で育った若い烏たちの、頼もしい話。

 奈月彦の話が最後に語られ、それはそれは微笑ましい姿を見せてくれた。
それぞれの領地ならではのことが垣間見れて楽しく、また景色や衣装の表現が美しい。
なかでも灯篭の話で出てきた金魚の回り灯篭は、想像するだけで素晴らしいものを見た気になり、欲しくなった。
2部の最初に抱いた不穏なイメージがこれからどう変わるのか、烏たちの今後が楽しみになる。

星球


 退職したエリート会社員が、妻を亡くして2年。新たな伴侶を探そうと参加した「出会いの会」で、自信いっぱいだったのに誰からも選んでもらえなかった。
里帰り出産で受診した産婦人科で、まさかの昔の同級生が先生だった!
年上の天体マニアの女性に恋をした男。
いろんな恋の物語。

 ほのものとしたものもあれば、切なくて苦しいもの、どうしても忘れられない昔の恋や、仕事だけど気になる相手など、いくつもの感情があふれる。
なかにはがっかりするほどつまらないものもあるが、一つでもじんわり来るものがあれば良い。
個人的には、何十年も前の、戦時中の妻と家族への思いが一番心に残った。