あなたの隣にいる孤独


 母と二人、「あの人」から逃げながら各地を転々としてきた無戸籍児の玲菜。
もちろん学校にも行ったことがないけど、優しい母にきちんと躾けられてきたから勉強も得意。
いつものリサイクルショップで出会った風変わりな男・周東に頼られなんとなく手助けするうちに、玲菜はこの店の人たちに癒されてしまう。
ある日、母から急に「あの人に見つかった。必ず連絡するから、帰ってきてはダメ」と言われ、周東のリサイクルショップに居候することになってしまった。

 戸籍がなく、学校にも通えず、友人もすぐに入れ替わるような生活をしているのに、玲菜は母と仲良しで、優しく育てられていて歪んだところもない。
そんな生活が続いていたのに、なぜか今の街にはなじんでいるような気がして不思議に感じていたら、突然やってきた逃亡生活の終わり。
理由はすぐに明らかになる。
事実に愕然とはするが反発する気は起きず、頼もしいリサイクルショップの店主と飄々とした周東のおかげで淋しくもないし、むしろこれで「普通」の生活が手に入るかもしれないと期待をしたりしている。
事件としては10年以上も続いた残酷な出来事なのに、とてもさっぱりとしていて涼しい風に吹かれているような気分の話だった。

アンと愛情 和菓子のアン


 デパ地下の和菓子店「みつ屋」でバイトをしている杏子。
仕事は楽しく、お菓子もおいしいし、やってくるお客様との会話も楽しい。
何の不満もないのだけど、時々お客様から聞かれる和菓子の由来や謎に日々奮闘するうちに、ふと自信をなくしたりする。

 和菓子の可愛い姿と美味しそうな描写に気持ちが柔らかくなる。
登場人物も意地悪な人はいないし、困った客もいないため、和菓子のようなほんわかした気分のまま読み進められた。
美味しそうな和菓子と共に、優しい雰囲気を楽しめる話がほとんどだが、最後に杏子の子供っぽさが全開でガッカリしてしまった。
最後の短編を含めて、ほのぼのとしていて全体的に可愛らしいのに、その部分だけは気持ちがガサガサする。
でも、思わず検索してしまうほど美味しそうで可愛い和菓子たちに興味が出た。

超高速!参勤交代 老中の逆襲


 「5日以内に江戸へ参勤せよ」と無理をさせられた「参勤」が終わり、湯長谷の者たちは帰りはゆっくり行こうと決めていた。
それぞれの特技を生かして江戸で稼ぎ、お咲を身請けし、物見遊山を夢見ていた。
しかし老中・信祝はまたも湯長谷藩に無茶をつきつける。
「あと二日のうちに交代を終えよ」さらに「江戸城天守閣の普請」との沙汰を出し、一同は青ざめる。

 行きも帰りも知恵で乗り切り、傍から見れば滑稽な事を真剣にやっている姿が想像できて楽しい。
それは、どちらも最後の最後まで助けてくれない上様が呑気すぎて腹が立つほど。
死んだと思っていた段蔵は今度も頼もしいが、ほかのメンバーの個性はちょっと埋もれ気味。
映画を見てやっと区別できた。

じい散歩


 明石家の主・新平は90歳手前で散歩が趣味。
老妻は近頃認知症の症状が出始め、新平の浮気を疑って時々しくしくと泣き出したりする。
さらに3人の息子は50ほどになっても一人も結婚しておらず、長男は引きこもり、次男は自称・長女、三男は甘ったれの借金まみれである。
そんな家族で問題ばかりだが、新平はカラッと笑って今日も面白い建物や美味しいものを探して散歩に出る。

 新平の朝のルーティンから始まり、妻・英子とのなれそめや仕事の様子など、新平の人生を振り返りながら、散歩で出会う珍しい建物や景色に癒される。
事件は起こらないが退屈ではなく、むしろ淡々と語られる新平の周辺の出来事がやけに楽しい。
家族や新平が関わってきた人たちそれぞれの人となりも良く描かれていて、一緒に歩きながら次々と紹介してもらっているよう。
散歩のスピードでゆっくりと楽しめる。

ジグザグ模様のストール


使用糸:パピー クイーンアニー (833)
編み図:大人の手編み冬こもの より
    ジグザグ模様のストール 260 g 8号針

ミレニアム 6 下: 死すべき女


 やっと身元が判明した浮浪者が、エベレストの案内人”シェルパ”のリーダーだったことから、国防大臣の過去が明らかになっていく。
その悲劇は、たくさんの人の人生を傷つけていた。
そしてミカエルがリスベットをあぶりだすために拉致される。
リスベットは、過去を向き合う決意を固める。

 妹カミラとの決着をつける時がやってきた。
ミカエルが追っている事件に首を突っ込んでいたら、とんでもない目にあってしまうリスベットだが、それでも見捨てられないのがリスベット。
ミカエルの犠牲に比べたらカミラとの決着はちょっと肩透かしだったが、カミラらしい最後と言えばそう思える。
でも、『ミレニアム』やエリカの存在が薄くなっているのが残念だし、ミカエルの活躍もなんだか曖昧になった。
大げさな兄弟げんかで終わった感じ。

ミレニアム 6 上: 死すべき女


 ストックホルムの公園で死んだ男は、黒ずんだ頬に、何本か欠けた指、そして真夏にもかかわらずダウンジャケットを着ていた。
そして妙なことに、ポケットにミカエルの電話番号が書かれたメモが入っていた。
リスベットにも協力を頼み、ミカエルは男のことを調べ始める。
珍しい遺伝子を持った家系であること、かつて国防大臣と交流があったらしいこと、欠けた指について。
妹を追うリスベットと、死んだホームレスを追うミカエルは、どこで出会うのか。

 今回はミカエルもリスベットも疲労困憊。
疲れきっているのに休むことをせず、取りつかれたように情報を吸い上げる。
さらに妹のカミラの様子も伝わって、緊迫感が強まってくる。
新3部作の中では一番興味をそそられた。
そしてもう一つの気がかりは、共同経営者のエリカの離婚話。
ハリエットも出てこなくなり、ミカエルの近くに来る女性たちは入れ替わっても行くけど、エリカだけは変わってほしくない。

ミレニアム5 下: 復讐の炎を吐く女


 ホルゲルの死が殺人として捜査が始まる。
そして釈放されたリスベットは、ミカエルと共に”レジストリー”の正体を追う。
それは双子に関する不思議な研究で、完全に秘匿されているとわかったミカエルは、リスベットから知らされた双子を調査し、そこに大きな陰謀を見つける。
一方、リスベットに叩きのめされたベニートは仕返しを目論み、仲間と共にリスベットを拉致する。

 ぶっきらぼうで他人に冷ややかなリスベットだが、刑務所でいじめられていたファリアを救い、弁護士をつけてその後の生き方までも保護しようとする。
暴力を振るわれることも振るうこともあるのに、理不尽な暴力は他人でも見逃せないでつい手を貸してしまうため、こちらは心配し通しである。
そしてミカエルの方は巻き込まれたことにはとことん調査してしっかり記事にするちゃっかり者だし、この二人は特ダネをつかみ取る力が大きい。
まだリスベットの妹との対決が待っているのだろうが、ホルゲルを失った後に拠り所となる人物がいないままなのは心もとない。

ミレニアム 5 上: 復讐の炎を吐く女


 前作で人工知能研究の世界的権威バルデルの息子を助けたリスベットだが、その時の違法行為のせいで2か月の懲役を命じられた。
また、命を狙われているということもあり、最高の警備を誇る女子刑務所に収容されるが、そこでは囚人ベニートが誰よりも権威を誇り、看守さえ篭絡していた。
見過ごせないリスベットは、対決を決意する。
さらに元後見人のパルムグレンとの面会で、自らの子供時代にまだ秘密が残されていると気づき、ミカエルに頼んで調べ始める。

 この巻で、リスベットが最も信頼していた人物が殺されてしまう。
連絡を受けたリスベットは一見静かに聞いていたが、その実燃えるような怒りを押し殺していたのだろう。
また不審な人物が次々と出てきて、一市民となったリスベットだが平穏は遠いらしい。
いろんな不安と衝撃の予感をのぞかせて終わる上巻。

いちねんかん


 江戸の薬種問屋兼廻船問屋、長崎屋の主夫婦が、九州の別府まで湯治に行くことになった。
1年間長崎屋を預かることになった一太郎は、跡継ぎとしての本格的な修行となることに張り切っていたが、やはり都度都度寝込むこともする。
西から疫病がやってきていると噂をきけば、なぜか疫病神と疫鬼が長崎屋でケンカをすることになったり、押し込みに狙われたり、問題は次々とやってくる。
はたして長崎屋は、両親が帰ってくるまで無事でいられるのか。

 長い「若旦那」生活もそろそろ終わりになりそう。
跡継ぎとしての力量が試されると張り切って商いのアイデアをだしてみれば、大番頭にいいように扱われそうになったり、大阪の大店の娘婿を決める試験に立ち会うことになったり、妖たちの起こす騒動だけじゃないことも引き受けることになる。
これまでのように、割と気楽に行動していた一太郎のままではいかない。
区切りが見えてきてこれからが楽しみになる。