エディシオン・クリティーク


 編集者の真理は、元夫である修理の実家にしょっちゅう出入りしていた。
なぜなら修理の母と自分の母は、真理が存在する前からの親友で、離婚したと言っても義母とは仲が良いからだ。
そして別れてからの距離感の方が居心地がいい修理へ、相談を持ち込んだ。
真理の大学の後輩が襖張りのバイト中見つけた古い手書きの紙が、大発見の文書ではないのかということだった。

 ちょっと堅苦しい感じの文章で、始めは読みにくそうに感じた。
でもおしゃべりな真理の心情を途切れなく流れるように連ねてあるので読みやすく、そのうえ会話もテンポがいいため止められずにするする進む。
古い文書の知識も満載でおもしろく、いまだ解かれていないヴォイニッチ写本に話題が移ってからはとりわけ興味深く、もっと調べてみたいと思わせる。
これははまりそう。

鏡じかけの夢


 願いを込めて磨くと叶うというその鏡。
持ち手の願いを飲み込みながら次々と時代と人を乗り換えていく。
あの人の妻と入れ替わりたいと願う看護婦、踊り子に心酔する富豪、孤児と奇術師、貧乏から抜け出したいと願った双子。
叶った先にある事はおかまいなし。

 不思議な力に取り込まれ、手放せなかった人たちの物語。
ほとんどは不幸に終わるが、どれも思いもよらない場面がくる。
たいていは自分の望みだったために嫌な後味を持つサイコホラーで、意思のないはずの鏡だけが永遠に存在し続ける不気味さがじわじわとやってくる。
そんななか、奇術師と弟子の話は一つだけ口直しのように鏡への良いイメージとなった。

プラチナハーケン1980


 ブラックペアンシリーズ
昭和の終わり、東城大学医学部総合外科の佐伯教授はまだ経験の浅い渡海征司郎を大抜擢した。
皆が驚き反対する中、高度な手術を成功させる。
そして佐伯教授の名代として、オランダの国際学会へ出ることになるが、その最中に父の死の知らせを聞いて飛んで帰る。
渡海は父の引き出しから見つけたメモに書かれたことから次第に佐伯教授への不信感を膨らませていき、、。

 大学病院の政治が大きな割合を占めていた。
佐伯教授の不審な行動や、父の古傷、桜宮病院の院長の元での修行など、ブラックペアンの頃から見ると面白い昔ばなしがたくさんあった。

猫の耳に甘い唄を


 売れないミステリー作家の冷泉彰成は、弟子の久高享に創作テクニックを仕込みながら、執筆を続ける日々を送っていた。
ある日冷泉にファンレターが二通届く。
1通は女性からの純粋なファンレターだったが、もう一通は「愚民死すべし」と書かれた怪文書だった。
その後訪ねてきた刑事たちにより、冷泉のファンの女性が何者かによって殺されたことを知らされる。
彼の書いた本のトリックに見立てた様子で。

 冒頭の注意事項はほとんど忘れて読み進めていたが、後半でいきなり様子が変わる。
弟子の久高による真実の告白というていだが、これまでを一転させ手全部作り話にしてしまう。
その変わりようが急に白けさせ、事件にも冷泉にも興味を失わせた。
最後はまた同じ手法でひっくり返し、すべての物語を無意味にさせた。

ボスポラス 死者たちの海峡


 イスタンブールで、日本人音楽家の女性が自殺した。
彼女は駐在員の妻たち3人を、自分を自殺に追い込んだとして遺書に書き残していた。
その遺書の真意を探るための捜査員は3名。
やがて、トルコ在住の日本人コミュニティの狭さと陰湿さがみえてくる。
さらに関係ないと思われていた連続転落死亡事件までつながっていく。

 登場人物が多くて混乱した。
警察の関係者までもが日本人コミュニティの人たちとつながりがあり、小さな出来事がどこまで計算されているのかと驚いた。
誰に注目していいかも長い間決められず、そのうちうすら寒い悪意がのぞいてきてようやく気付く。
後味も苦く、読み終わった日は夢見が悪かった。
それくらい後を引く不気味さだったが、どんどん焦りが出てくる流れで途中で止めれば余計気が滅入りそうだと思って読み終えたが、スッキリとはかけ離れた後味で、印象は強烈に残る。

地上最後の刑事


 アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀ペイパーバック賞受賞
小惑星が地球に追突することが確実となった世界。
新米のヘンリーは、ファストフード店のトイレで首を吊った死体を見つける。
未来を悲観して自殺したのだと思われたが、ヘンリーはその死体が、身につけている衣服の中で首を吊るのに使ったベルトだけが高級品であることに違和感を持つ。
世界はもうすぐ終わるというのに、同僚たちにあきれられながらも、殺人の可能性を感じて捜査を始める。

 世界の終わりが見えてきて、自殺者も多い世界。
槍の子としたことをするために仕事を辞める者、悲観して死を選ぶ者など様々ななか、一人殺人の捜査を始める。
人物の特徴がつかみにくく、人々が自分勝手でイライラする。
そして物語に引き込む魅力ある人物や出来事がない。

六色の蛹 サーチライトと誘蛾灯


 森でハンターたちが狩りをしている山で起きた、銃の誤射による殺人事件。
病院の近くで花屋をしている女性が1年前の約束を果たそうと季節外れのポインセチアを入荷していた日。
工事現場から、土器と思われるものと人骨が見つかったと歴史センターに連絡が入り、8年前の捏造事件が蒸し返された。
虫を追って日本のあちこちを旅する魞沢が出くわす事件。

 虫好きな魞沢が、なぜか事件に遭遇する。
人が死ぬ事件なのに、悲しくも優しい印象を残すのは毎度のことで、魞沢は誰も責めることなく犯人を見つける。
スカッと解決するようなミステリではないが、生きている人の心を一番大事にするような推理なのでふんわりとした印象。
そのため事件より魞沢の穏やかな印象が一番印象に残る。

もつれ星は最果ての夢を見る


 量子テレポーテーション通信の開発によって、遠く離れた星同士でも通信が可能になった時代。
宇宙開発コンペに参加するため、地球から十光年離れた星に降り立ったエンジニアの零司と相棒のAI・ディセンバー。
しかし割り当てられた場所に到着したとたん、他の参加者の遺体を発見してしまう。
コンペ運営本部との通信も途絶え、未開の星で孤立無援となった零司。
不審な宇宙船や参加者ではない人物と出会って命を狙われたりと、零司は本来の仕事ではない事に奔走することになる。

 はるか未来、地球以外の星へ人類が到達した後の話。
AIとペアになり、新しい星の新規開拓コンペに参加したと思っていた零司は、相次いでやってくる襲撃者にとまどい、やがて知らされる事実に愕然とする。
崩壊する地球からすんでのところで抜け出し、200年もの間冷凍睡眠で放浪していたという零司の行動が、そして彼の作り出したAIが、人類の行く先を決めるという大ごとにまで発展し、途方もない行く末を想像させる。
オープニングの、各コンペ参加者の様子を綴ったプロローグを読んだ時点では、つまらないと感じて一度本を閉じたが、暇に飽かせて続きを読んでみて良かった。
つかみは失敗だが本編はとても面白かった。

解錠師


 8歳の時の事件がきっかけで声を出せなくなったマイク。
だがあることに興味を示し、彼は驚くほどの才能を発揮した。
それは絵を描くことと、どんな鍵でも開けること。
やがて高校生となったマイクが、同級生に乗せられて忍び込んだ家で捕まったことがきっかけで、プロの金庫破りの弟子となる。
そこから続くマイクの人生を、彼の独白と共に綴る。

 子供の頃の出来事と、大人になり解錠師となったマイクとの二つの視点が入れ替わりつつ、彼の人生が語られる。
時に起こる大きな仕事と危険。
そうやってマイクが10年も入れられている刑務所からの独白へと続くが、一言も話さないのに周りの出来事だけで充分生き生きとしている。
それでも刑務所へと続く人生の話のため全体的に暗いイメージが付きまとう。
あちこちに飛ぶ時代と視点と、マイクの思い込みと好転しない人生とで、楽しく読めると言った雰囲気ではなかった。

十字路の探偵


 時計屋の二階に居候をしている探偵は、古本屋の主人から買った本を読んで、十字路に飛び出した。
その本には、まさに今起ころうとしている事が書かれていたのだった。
そしてその時出会った少女と共に、探偵は「誰かが死ぬ前に事件を解決する」と決める。

 誰も死なせないと決めた探偵だが、現在起こっている連続殺人事件が解けずにいた。
拾った少女と共に事件に挑むが、特に推理するでも観察するでもなく、ただゆったり眺めている。
勘を働かせるのはむしろ少女のほうで、ゆるっとした雰囲気でずっと進み、ぬるっと解決する。
なんだか薄い話だった。