午後のチャイムが鳴るまでは


 九十九ヶ丘高校のある日、昼休みに禁じられた外出を企む男子。
先生に見つからず、午後の授業に間に合うように帰ってくるというミッションに挑む。
文化祭で販売する部誌の表紙に入れる予定の絵が出来上がってこない!
屋上にある天文部の望遠鏡からある日突然消えた女子生徒。
学校で起こる小さくてもばかばかしくても青春だった出来事。

 クラスで起こる出来事の一つ一つが大事だった頃。
そこで起こる出来事をあっという間に解き明かす生徒会長。
バラバラの事件だけど、探偵役はあっという間に気付く。だけどあえてそれを解かずに関わる人に任せて気づかせる。
全部読んでやっとつながりが楽しく感じる。

新宿特別区警察署 Lの捜査官


 歌舞伎町、新宿二丁目、三丁目を管轄する「新宿特別区警察署」。
そこへ日着任の新井琴音警部は、小学三年の息子のインフルエンザで初出勤に送れそうだった。
夫は警視庁本部捜査一課の刑事だが、琴音の方が階級が上であることで屈託を抱えている。
琴音がなんとか出勤したとたん、管内で殺人事件が発生したので出動の号令がかかり、さらにその夜、二丁目のショーパブ上階のイベントスペースで無差別殺傷事件が発生する。
新宿二丁目という特殊な場所で起こる、性的マイノリティのために追い詰められた人たちの事件。

 幹部になって初めての事件。
新しい配属先で起こる、これまでの価値観を覆される琴音。
調べていくにつれ、思いもよらない価値観と感情にあふれる琴音に、読むうちにこちらも感情を揺さぶられる。
そのうえ苦しい現実の描写が多いためこちらも苦しくなるが、読みやすいので一気に読んだ。

春休みに出会った探偵は


 中学2年生の花南子は、父親の海外勤務によって春休みから曾祖母の五月さんが経営するアパートで一人暮らしを始めた。
その矢先、五月さんがぎっくり腰で入院してしまう。
一人五月さんの部屋でいる時にあて先不明の封筒が届き、その内容のおかしさに気を惹かれ、同級生の根尾くんと調べようと決める。
すると偶然出会った無愛想だけど親切な男性の手助けを得ることができ、花南子たちは彼を”名探偵”と呼ぶことにした。

 中学生ではできることが限られていて、しぶしぶながらもそのフォローをしてくれる探偵に信頼を寄せ始める。
もちろん謎はご近所さんのことだし、そうそう世界は広がらないけど、子供の不自由さをできるだけ越えようと頑張る花南子の様子が力いっぱい表現されている。
春休みの自由さが自立心を引き立てているようだった。

ブラッド・ロンダリング 警視庁捜査一課 殺人犯捜査二係


 警視庁捜査1課へと転属となった真弓倫太郎。
牛込署管内で転落死体が見つかり、臨場要請がきた。
その死体は一見自殺に思えたが、靴についていた特殊なドーランが気になるというチームメンバーの汐里の意見から、捜査が始まった。
そこから始まるさらなる遺体発見と「無果」というキーワード。
やがて見えてくる大きな事件とその被害者の人生と、真弓と汐里の過去。

 汐里が抱いている大きな傷は早いうちに明らかになるが、真弓の苦悩はなかなかはっきりしてこない。
それだけ隠された秘密が明らかになるときの衝撃は大きかった。
最初から緊張感が続いて読むのにエネルギーが必要だったが、最後は苦しいのに止められず、登場人物の痛みが次々にやってきて辛かった。
しかも何人分もあったので、読み終えると疲れ果ててしまう。
それくらい大きな衝撃だった。
最後に明かされるタイトルの意味は、予想もできなかった。

明智恭介の奔走 屍人荘の殺人シリーズ


 神紅大学ミステリ愛好会会長・明智恭介。
探偵に憧れ、謎を求めてあちこちに出入りしては名刺を配り歩く変人。
サークル内で起こった不可解な盗難、商店街での噂の真相、わずか数分で起こった試験問題の盗難騒ぎなど、身近で出くわす日常の謎に迫る。

 『屍人荘の殺人』より前に葉村と共に挑んだ謎。
変人だが、ミステリを求めるエネルギーは大きい。
屍人荘であんなにあっさり姿を消したのが今でも意外なほどの存在感で、葉村から見たちょっと滑稽な様子がまだ未熟な探偵感が出ていてでおかしい。
それに確かに小さな謎だが、商店街の謎はほっこりさせれたし、シリーズにあるような政治的な陰謀がない分読みやすかった。

乃井探偵社は今日も倫理観ゼロ


 女性専用の探偵事務所である乃井探偵社は、従業員3名ももちろん女性。
ある日やってきた女性の依頼は、「娘を殺した犯人を警察より先に探してほしい」というものだった。
若い女性がさんざん殴られた後に首を絞められて殺された事件は、警察の調べをもってしても容疑者は浮かんでこなかったという。

 ある程度、法を犯す覚悟がないとやっていけないような依頼。
そして従業員の悲惨な過去なども混ざりあい、過去と今を行き来しながら、捜査を進めながらという複雑な構成だった。
それでも登場人物の少なさゆえか混乱はせず、すんなりと読み進められた。

署長シンドローム


 大森署の新しい署長は、キャリアの藍本小百合。
この藍本所長は、誰もが目を見張る美人だった。
そんな大森管内の羽田沖海上にて、武器と麻薬の密輸取引が行われるという情報が入る。
海上ということで海上保安庁や麻薬取締官なども加わり、署内は賑やかになる。

 一度彼女の顔を見てしまったら態度が変わるほどの美人という藍本署長。
事件はいつものように特別ではない。警察官としては日常の出来事だが、一つの事件の捜査に関わる人たちの人間模様を描いているわりにはどこか薄っぺらく感じる。
登場人物の個性もなくなってきて、もうあっさり読めるだけが取り柄となった。

にわか名探偵~ワトソン力~


 空いた映画館でゾンビ映画を見ていた警視庁捜査一課の刑事、和戸宋志。
上映が終わって明るくなると、観客の一人が死んでいた。
そのうえ扉に細工がされて出られない。これでは犯人はスクリーンの中にいた者だけだ。
そんな中、観客が推理を始める。
和戸の周りでは、皆が推理を始める。
 故障したロープウェイで、間違えて入ったヤクザの事務所で、仮想空間で、和戸の周りで起こる事件で和戸以外の名探偵が生まれる。

 和戸の周りだけに起こる、不思議な推理力の高まり。
そこに出くわした普通の人たちが探偵となって事件を推理するのは面白いし事件も不思議なものばかりだけど、なぜか淡々としすぎて盛り上がりもなく、解決はするが気分はスッキリしない。
和戸が周りの意見を聞くだけというのが他人事すぎるからだろうか。

月影の乙女


 ハスティア公国領のセレの領主・ローデスの次女であるジオラネルは、幼いころに魔力を暴走させたことが原因で、訓練所へ誘われた。
そこで4年の訓練を経て、ジオは正式なフォーリ(魔法師)となる。
各地へ赴いて人力では難しい依頼をこなしていたが、平和なハスティアを狙う者がいた。
それは火を操る竜に変化できる、ドリドラヴのの王、ウシュル・ガルだった。
ウシュル・ガルの息子たちが潜入して火種を起こし、やがて戦争へとつながる。
フォーリであるジオたちは、戦うことを禁じられていたために攻撃できず、愛しい人や街を焼かれ、悲しみに暮れる人々。
彼らを救おうと立ち上がるフォーリたちが下した決断は。

 長編ファンタジー。
これまでのシリーズからは独立した物語だけど、周りの状況やさりげない動きの緻密な描写がすんなり流れてきてどんな不思議な魔法でも思い浮かべることができた。
小さな癒しとなる動物もいくつか登場し、フォーリたちを助ける。
長さのわりに疲れることなく、次々に起こる出来事から目が離せなくなってくる。
そうやって大きな戦いも終わるが、最後がなぜか急にありふれた結末となってしまった。
タイトルとなっている「月影の乙女」の印象も薄く、付け足された章で少し触れられている程度。
それならジオの持つ素質に注目させればもっと晴れやかに終われたのではないかと思ってしまった。

紺碧の海


 八丈島で生まれた留吉は、罪人の流刑地という場所から出たかった。
大工の棟梁をしている同郷の半右衛門の誘いで横浜へ移り、奉公先で商いを覚え異国語も学び、ウィリアム商館で番頭を務めるまで成長した。
半右衛門と留吉は、ある日見かけた羽毛の布団に衝撃を受け、鳥島という無人島でアホウドリを捕獲する事業を立ち上げる。
羽毛は売れ、富を手にする半右衛門と留吉。
しかし半右衛門は次の無人島を目指すことを毛隠していた。

 日本が鎖国の間放置していた近海の無人島を開拓しようと生涯情熱を持ち続けた半右衛門。
彼を目標にして学び、商人として力をつける留吉。
最初は半右衛門の力強さがまぶしく、魅力に惹きつけられるように勢いよく進むが、だんだんワンマンが目立ち、嘘も混ざってくる。
八丈島の人々を自力で生きていけるようにという目標が、いつしか半右衛門の王国へと進む工程に寒気を感じてくるようになってきて、大きな影響力を持つゆえの恐ろしさが協調され、不安が大きくなってくる頃、留吉は半右衛門の元を去る決意をする。
最後はなんとも苦しい結末。