ミノタウロス現象


 史上最年少市長で市長になった利根川翼。
支持率を気にしつつ、くだらない因習やおじさんたちのマウント取りにうんざりしながらも真面目に仕事をこなしていた。
そんな時、世界のあちこちで角を持ち、ヒトよりも大きな体と力を持った怪物が現れる。
その怪物への対策を話し合うことになっていたある日、議会の最中に突然怪物が現れた。
何とか銃殺したものの、なんとそれは着ぐるみを着せられた議員だった。

 現代に、ファンタジーのような怪物が現れる。
それでもただの不可解な現象ではなく、ちゃんと出現や生態を検証していて、対処法まである。
最初はあまりの非現実感に醒めていたが、そのうち理由を考え始めた頃から私も一緒に検証に立ち会っている気になってくる。
空想ではあるけど、こうゆう人知を超えた現象が起こることもあるかもしれないと思って楽しめた。

死まで139歩


 毎日歩いて手紙を運ぶ仕事をする男。夜の公園で謎めいた言葉を言い残して消えた美女。
おかしな事件を相談されたツイスト博士。
しかしこの2件には、「しゃがれ声」の人物が共通して登場していた。
そして怪しい人物からの電話で呼び出されたツイスト博士は、そこで無数の靴が並べられたまま5年の間封印された屋敷へたどり着く。
さらに、埋葬されたはずの屋敷の主人の死体が、暖炉の前の椅子に座っていた。

 ツイスト博士シリーズのなかで今回は密室をしっかり作ってある事件だった。
そしてその仕掛けも、トリックを使ったもので何度も読み返した。
悲しく淋しい背景があったことが分かると、その手の込んだトリックが急にイメージが変わって悪意の要素が減る。
郷愁めいた印象を残した。

赤髯王の呪い


 ある日、故郷の兄から届いた手紙に驚愕するエチエンヌ。
密室状態の物置小屋から明かりが見え、16年前に呪いによって死んだと言われるドイツ人少女の霊を見たという。
エチエンヌは、友人から紹介されたツイスト博士に、当時の状況を語り始める。
 さらに、短編3編も収録。

 昔の領主の呪いが生きていると言われる土地で、赤髯の領主の悪口を言うと呪われるというもの。
密室で死んでいた少女の謎は解き明かされないままだったのに、ツイスト博士は簡単に解いてしまう。
予想外の事実に驚かされた。
ツイスト博士の柔軟さをみせた話だった。

時空犯


 私立探偵、姫崎智弘の元に、報酬一千万円という破格の依頼が舞い込んだ。
依頼主は情報工学の権威・北神伊織博士で、なんと依頼日である今日、2018年6月1日は、すでに千回近くも巻き戻されているという。
そして集められた人は8人。
皆にも巻き戻しを体験してほしいというものだった。
しかし再び6月1日が訪れた直後、博士が他殺死体で発見される。

 時間が巻き戻り、同じ日を永遠に繰り返し、しかもその記憶まであるという。
情報伝達としてのプログラムに、人間の情報を吸い出して大量にかき混ぜたら、知恵をもつ何かが生まれるのではないかという途方もない研究。
荒唐無稽だけどかなり理論的な説明があり、研究の一分野という感じはある。
その繰り返しの中で人を殺すという検証をした犯人を追い詰めることができはしたが、犯人の考えも理解できない分野だった。
人知を超える、全く別のものと出くわしたとき、どうすればいいのか。

七番目の仮説


 下宿屋の老夫婦の目の前で、ペストの症状をした間借り人が、中世風の異様な衣裳に身を包んだ三人の医師によって運び出されようとしたとき、患者が逃げ出した。
その少しあと、逃げ出した患者が路地裏のごみ箱の中で見つかる。
不可解な事件にハースト警部は友人のツイスト博士と共に挑む。
二ヶ月後、ツイスト博士の元へ「殺人計画が準備されているふしがある」という曖昧な相談が持ち込まれる。
有名な劇作家と親友の俳優との間で、決闘が行われようとしていると。

 ツイスト博士とハースト警部が苦汁をなめたという事件。
これまでもそうだが一つのシーンが長いのでどこでつながるかが分からない。
そのため集中していないと何度も読み返す羽目になるくらい複雑。
ハースト警部をイライラさせながらも推理を最後まで明かさず、でもすでにちゃんとヒントは出ていることでこちらは納得しながら読み進められる。
今度の犯人は周到で策略家で、自信家なために少しも気づけなかった。

虎の首


 休暇から戻ったツイスト博士を出迎えたのは、事件の捜査で疲れ切ったハースト警部。
郊外の静かな村で、スーツケースに入ったバラバラ遺体が見つかる。
その後ロンドンでも見つかり、事件は連続殺人事件となる。
いっぽう事件の発端となったレドンナム村では、密室でインド帰りの元軍人が殺される怪事件が起きていた。
魔導士から買った虎の首が付いた杖から出た魔人に殴り殺されたという。

 静かで平和な村に突如起こる不穏な事件。
バラバラ事件だけでなく、魔人の出る杖と持ち主の死という、一見別の事件がつながる。
密室殺人の方がメインだと思っていたらバラバラ事件の方がメインだった。
そして最後にツイスト博士が見せた、自殺か私刑を待っているような行動は、今までの彼の人物像からはかけ離れているように見えてぎょっとした。
犯人に向き合う際に珍しくハースト警部と一緒じゃないと不審に思ったが、最後のシーンはもっと気になるようにしてある。
何度か読まないとわからないだろう。

狂人の部屋


 ハットン荘には、開かずの部屋があった。
そこは100年ほど前、部屋にこもって執筆活動をしていた青年が怪死し、その死因は不明、さらに暖炉の前の絨毯が水でぐっしょりと濡れていたという。
それ以来、開かずの魔となっていた部屋を、現在の当主が書斎に改装した。
すると直後から、屋敷には不可思議な事が次々と起こるようになる。

 屋敷に関係する人物の目線で物語は始まり、ツイスト博士とハースト警部が登場するのはだいぶん後。
それでもそこまでに起こる不思議な事件は充分恐ろしく、屋敷の住人が一人もいなくなるのではないかという勢いで、次々と人が死ぬ。
予想を立てることもできないまま目が離せないので不安がずっと続くが、ツイスト博士は最後にあっさり解明してしまった。
半分くらいが屋敷の住人目線で進むため、ツイスト博士のことを忘れそうになる。

名探偵再び


 親戚に名探偵がいたらしい。
父の探偵事務所が閉鎖になり、生活に困るようになった我が家では、その名探偵がいた高校への特別枠を使って私立雷辺(らいへん)女学園に入学した時夜翔。
翔自身は探偵のノウハウなど持っていないが、あまりにも有名な親戚のせいで、学校で起こる事件を解決させられる羽目になる。
困った翔は、30年前に学園の悪を裏で操っていた理事長・Mと対決し、とともに雷辺の滝に落ちてなくなってしまったというその場所へと出向くと、なんと幽霊と出会ってしまった。
幽霊の知恵を借りながら、翔はいくつかの事件を解決する。

 探偵なんてできない翔が、学園生活を乗り切るために考えたのが、推理は全部幽霊にまかせて自分はその名誉だけもらおうというもの。
相談を持ち込まれるたびに幽霊に会いに滝まで行き、すっかり名探偵となってしまう。
あまりにも有名な親戚のせいで逃げられない翔だが、ハッタリと幽霊の知恵で乗り切ろうとする様子が面白い。
そして黒幕と思われる人物には予想がついていたが、それでも一番重要な事にはすっかり騙されていた。

名探偵誕生


 小学4年の僕は、呪われると噂のある隣町の「幽霊団地」へ、クラスの仲間たちと冒険に出た。
姿を見ると刃物を持って追いかけてくるというシンカイに出くわしたが、なぜかシンカイが目の前から消えてしまった。
その不思議を相談したのが、近所に住む奇麗で優しい名探偵の「お姉ちゃん」だった。

 小学生の小さな冒険から、中学生になって出くわした小説家先生へのストーカー、高校では他行の文化祭で起こった展示物損壊事件、そして大学と、僕が成長していく。
そして必ずお姉ちゃんが、冷静に知恵をいかして名探偵となっていた。
成長するにつれ謎や事件は大ごととなり、最後には世間を騒がせる大事件となってしまう。
でも少しづつ成長する主人公たちと一緒にこちらも事件に慣れ、推理の仕方も考えるようになってきた。
事件や探偵の話というより、一人の少年の成長日記といった雰囲気。

カーテンの陰の死―ツイスト博士シリーズ


 殺人の現場に偶然居合わせたマージョリー。
その犯人と同じような恰好をした男が、自分のいる下宿人の中にいて慄く。
そしてハースト警部のところには、同居人が殺人者の眼をしていると訴えてきた婦人を追い返していた。
続けて、玄関先で突如ナイフに刺されて下宿人の一人が死ぬ事件が起こり、ハースト警部とツイスト博士は捜査に乗り出す。
その下宿屋には、個性の強い人たちが集まっているだけあってなかなか犯人が見えてこず、またその事件が75年前に起きた迷宮入り事件とそっくりであることがわかり、事件は複雑になっていった。

 ツイスト博士の推理は最後に驚くことを暴く。
下宿での事件と75年前の事件とのつながりが分かってほっとした瞬間、それまで気にもしなかった事が出てきてしまう。
ツイスト博士の推理が、見過ごせない過去を拾ってきたことに驚き、種明かしも意外で面白かった。