スター・シェイカー


 人類がテレポートの能力を持ち、道路が不要になった世界。
事故によってテレポート能力を失った赤川勇虎は、仕事の帰りにゴミ箱に隠れていた少女と出会う。
彼女は、違法テレポートによる密輸を行う組織から逃げていた。
組織から命を狙われながら逃げるうち、勇虎は古典テレポートと言われる能力に目覚め、宇宙の根幹に関わる秘密に足を踏み入れることになる。

 壮大なスケールでテレポート社会の闇を描き出す。
人類の7割がテレポートの免許を持ち、今や遺跡となった高速道路、まるでホームレスのような位置に置かれた人々が自治をする地域があったり、地球の行く末を憂う研究者たちがいたりと多彩。
しかし主人公の個性があちこち迷走していたり、描写があいまいで世界感が想像しにくいため読みずらかった。
テレポートが軸にはなっているが、物理がのっかってきたり生物の世界だったり、果ては宇宙のありようだったりと、人物同様まとまりがないように感じた。
せめてどんな環境なのか街並みが想像できればよかったが、わかりにくいというのが一番。

月下美人を待つ庭で


 小柄で猫目、大きな黒い上着のせいで黒猫を想像させる容貌の持ち主。
30過ぎにもかかわらず定職につかず、異様な好奇心であらゆることに首を突っ込むという変人の猫丸先輩。
電光看板の底に貼り付けられた不規則なアルファベットの文字列や、1時間だけ消えた愛犬の謎、毎夜不法侵入される家など、さらさらとしゃべりながらいつの間にか納得させられている。
早口なのに聞きやすいというその口調で、謎と警戒心を解いていく短編集。

 おっさんなのに小柄で、猫のようにするりと現れる。
話出すと長くて古風な表現も多いが、なぜか気になって最後まで聞いてしまうという不思議な猫丸先輩。
分かってみると何でもないことを大事件のようにして思わず信じさせてしまったり、あっさりと真実を話してしまったり、いろんな面を見せて楽しいが、長い話がちょっとたいくつ。
表紙が印象的で、その話もほっこりする終わり方なので憎めない。

お化けのそばづえ


 子供のころからお化けが見えた。そいつらは真っ黒な顔で襲ってきて、おれ・須磨軒人はいつも怖い思いをする。
時に人に取り付いて凶行を起こすお化けは、どこへ引っ越してもやってきた。
しかし軒人はやがて結婚し、子供ももうすぐ生まれるときになって、妻にとりついたお化けが自らを殺そうとしている場面に出くわし、もう逃げ出せないと決心する。
霊能力者、お祓い、お札、様々な手を使って、自分と家族を守るためにあらゆることを試す軒人。

 お化けに襲われ、ずっと怖い思いをしてきた主人公。
訳も分からずただ見える人の話かと思ったが、ちゃんと理由が明かされる点では解決を見た分納得はいったが、ひたすら怖がっているだけの軒人の様子が話のほとんどで、うんざり。
参考文献もいくつかあったので、もう少し詳しく土地に絡めた信仰についての話が出てきたらよかったなと思う。

御坊日々


 廃仏毀釈により寺は大きな苦難にさらされ、当時の住職が急死したこともあり、東春寺は廃寺となった。
その後、明治20年になってその寺を買い戻し、整備したのは弟子の冬伯。現在は弟子の玄泉と共に細々と暮らしている。
その寺へ、檀家でもないのに相談に乗ってほしいとやってきたのは経営不振に悩む料理屋の女将。
二人は、店に客をもどすべく知恵を絞る。

 僧なのに洋装をして出かけ、相場で金を稼ぐという異色の冬伯。
主人公ののんびりした様子は作者の常で、周りの者に恵まれる。
金がなければ知恵を出せと困りごとを持ち込まれるところも同じ。
いつもは江戸が舞台なのでシリーズの区別がつきにくいが、今回は明治の寺なので雰囲気が違い、ちょっと新鮮だった。

吾妻おもかげ


 家業の縫箔屋の跡を継ぐ決意が出ないまま、それでも絵を描くことが大好きな主人公の菱川吉兵衛。
本意を告げずに江戸へ出てきた吉兵衛は、絵師にもなれないまま10年の時を自堕落に過ごしていた。
ある時、吉原の娘の小袖に刺繍をして見せたところ評判となり、吉兵衛は苦界でも懸命に明るく生きようとする女たちに、自分のふがいなさを思い、奮い立つ。
やっぱり絵が書きたい。

 目指した絵師からは程遠い生き方をしていることに腐っていた吉兵衛は、いろんな流派の絵を見てきたことで誰にもない個性を身につけていたことに気づく。
そして絵師として名を残したいと踏ん張るうち、自分流の絵を描くことに目覚め、やがて人気が出ていく。
しかし浮世絵師としての吉兵衛は、やがて嫌っていた狩野派と同じようなことを始めてしまう。
吉兵衛の人生は女たちによって芽吹き、諭されていく様子が吉兵衛の焦りと共に描かれていて面白い。
どこかで彼の弟子側の視点で書かれた本を読んだ気がする。

囚われの島


 新聞記者の由良が、ある店で出会った盲目の調律師・徳田。
彼の何かが気になり、由良は思わず後をつけてしまう。そして由良は、今まで誰にも話すことがなかった記憶を彼に話すことになり、いつしか二人の記憶は古い時代のある村へ結びつく。

 現代の出来事と、村で蚕を飼っている”私”とが入り乱れ、由良は生きることを放棄していくように影が薄くなる。
徳田の存在は大きいけれど、特に何もせず、主に蚕の話ばかりで、物語というより蚕で生きてきた人たちの生活の様子が描かれているだけ。
全体的に暗いトーンで夜のイメージだが、現代の話は要らないんじゃないかというくらい薄い存在感だった。

ボタニカ


 明治初期、土佐で生まれた少年・牧野富太郎は、植物に興味を持ち、ただひたすら愛した。
独学で植物を研究し、「日本人の手で、日本の植物相(フロラ)を明らかにする」と決意。
東京大学理学部植物学教室に出入りを許され、新種の発見、研究雑誌の刊行と様々な成果を上げる。しかし、自分の研究にしか目がいかないために、協力を申し出てくれる人からはいつしか疎まれてしまう。学歴がないため良い職にもつけず、常に貧乏だが、植物の研究に生涯を費やした人物の一生。
 
 裕福な家に生まれたが一向に家業に興味を持たず、長じては身代を食いつぶして売るしかなくなるほど植物を愛する富太郎。
常に協力者も現れるのに生かせず、時に唯我独尊。けれどよい妻とめぐり逢い、子も多く、周りを振り回し続けたわりに恵まれていた。
富太郎の業績は素晴らしいと思うが、近くにいたらさぞ迷惑だろう。
読みごたえもたっぷりだがあまり気分はよくなかった。

夢ほりびと


 リストラされ、再就職がままならないと気づいた佐伯は、家出をした。
そしてたどり着いた廃墟には、同じようにままならない人生から逃げてきた人たちがいた。
借金から逃げてきた夫婦、リストカットがやめられない女子高生、ビッグウェイブを待っているサーファー。そして廃墟の主、惚けたじいさん。
庭に宝が埋まっていると信じている家主と一緒に庭を掘りながら、佐伯は帰るに帰れず、そっと家族を覗く。

 池永陽の話はいつも暗い。
静かでゆっくり流れる時間は水底から覗いた景色のような現実感のなさで、暗くてじっとりしている。
今回は弱い人間があつまっているため、ことさら暗く感じる。
元気が吸い取られていくようで鬱々とする。

虹を待つ彼女


 第36回横溝正史ミステリ大賞大賞受賞作。
IT企業の研究者である工藤は、人工知能を使って故人をバーチャルで蘇らせるプロジェクトに参加していた。
そこでプロトタイプのモデルとして選ばれたのが、自らの作ったゾンビゲームの中で自殺した、あるゲームクリエイター・晴だった。
しかし彼女に関するデータが乏しく、調べていくうちに工藤は彼女に魅了されていく。

 ゲーム、人工知能など、バーチャルな世界なら何でもありだろうと思っていたが、それでもリアルさを追求する研究者らしく、執拗な探索が興味を引いた。
そして生きた形跡の少ない晴に近づこうとするほど惹かれていき、脅迫を受けるまでになる工藤の様子がだんだん狂気じみてくる。
ミステリアスな晴をどこまでも理解したいという思いだけでたどり着く結末はとても人間らしい感情で、工藤の感情が一気にあふれ出てこちらも胸がいっぱいになった。
晴の作ったゲームに隠された謎と、晴の感情がとてもきれいに描かれていて、後味はとても清々しい。

夜のだれかの玩具箱


 少年の頃の辛い記憶から抜け出せないまま故郷に帰れない男、記憶にないがおかしな名前のバーの名付け親だと言われた男、突然消えた女房の夢を見る男など、どこかで読んだことがある昔話。

 小話なので読みやすく、怖い話も淡々と語られているので追い詰められることもない。
ただ、次の話を読むともう前の話はすっかり忘れてしまっているくらいに印象は薄い。