競争の番人 内偵の王子


九州事務所への転勤となった白熊楓。
昔からいる人たちの結束が強い場所で、なかなか話をしてもらえず、パワハラ気味の上司と敵意むき出しの同僚、そして人当たりが良く誰に対しても優しいが自由な上司に疲れ切っていた白熊。
呉服業界のカルテルを探るうち、巨大なカルテルに行きつく。
本部のメンバーもやってきて、それぞれ別口の摘発に動くうち、地元の暴力団も絡むと知る。

 九州へやってきた白熊は、知り合いもなく、同僚ともなじめず、疎外感を感じていたが、本部の仲間がやってきてからは調子を取り戻す。
白熊と小勝負の関係も変わらずで安心する。
そして解決を見る頃には、また白熊は地元の大きな力によって戻されることになる。
普段は知ることのない仕事と、地域の権力者、個性的な登場人物の多さで全く飽きない。

競争の番人


 公正取引委員会審査官・白熊楓は、ウェディング業界の価格カルテル調査をすることになった。
東大首席・ハーバード大留学帰りのエリート審査官・小勝負勉とチームを組み、あらゆる調査を進めるが、調査対象のホテル社長が強かで、なかなか決め手をつかめない。
それどころか逆に冤罪と責められ、楓たちは方針の変更を余儀なくされる。
どうしても証拠がつかめないまま罠にかけられ、裏切られたりしながら、楓たちはあらゆる角度で調べを進めていくと。

 ストーリーに覚えがあると思ったら、ドラマでもやっていたようだ。
体育会系の楓と、頭脳派の小勝負との対比も面白く、読みやすい文章でドキドキの調査の場面も多く、どんどん進む場面に目が離せない。
どんな仕事をしているのかイマイチ知名度のない仕事にフォーカスを当てたお仕事ミステリー。

真夜中法律事務所


 検事である僕・印藤累(いんどう るい)は、ある夜幽霊と出会ってしまった。
それは突然の異動でプレハブ小屋に移動させられ、世間を騒がせた検事による証拠隠滅と情報流出の事件の後始末を命じられた頃だった。
出会った幽霊は、とある弁護士の元へと印藤をいざなう。
そこには、死者を現世に縛り付ける現象を知り、成仏させようともがく一人の女性がいた。

 幽霊が留まる理由がかなりしっかり設定されていて、それをうまく使った決着で妙な満足感があった。
検事の不祥事も単なる利己的な犯罪とは言えず、なんとも言えない哀しさは残るけど、それでもただの幽霊話ではなかった。
死者に関しても、不気味だとか復讐や怨念を持った存在としてではなく、ちゃんと生前と同じ性質の意思を持った存在として書かれていて、むしろ親近感を持たせて犯罪者との対比が協調されていた。
推理小説のような読後感。

元彼の遺言状


 1年付き合ってきた彼から差し出された婚約指輪が安物だったためにその場で振り、翌日にはボーナスを減らされて頭にきて勢いで辞めてしまった弁護士の麗子。
そのままはけ口を探してずっと昔に3か月だけ付き合っていた栄治にメールしたことがきっかけで、その栄治の遺言に振り回されることになる。
 栄治は大手製薬会社の御曹司で、相続する多額の資産をめぐって「自分を殺した犯人に全財産を譲る」という遺言を残していたのだ。

 ドラマを見ていたのでそのイメージが強かったが、ドラマで最後まで存在感があった篠田が途中で消えてしまった。
それでも話は走るように進み、麗子のパリッとした性格のおかげで物騒な出来事もすっぱり切り捨てられ、ちゃんと栄治の考えた通りに収束させてしまう。
読みやすくて爽快。

泥棒はライ麦畑で追いかける―泥棒バーニイ・シリーズ


 ある日、古本屋にやってきた美女に頼まれ、有名作家が昔書いた手紙を盗み出すことになったバーニィ。
ところが、作家の住むホテルへ忍び込んだら、またもや死んだ人間がいたのだった。
 正体を隠し続けた作家が、これまで書いた私的な手紙が競売にかけられるとなって、コレクターや恋人だったという人物たちが集まってきて、今回もにぎやかな謎解きとなる。

 またもやバーニィは、自分にかけられた殺人容疑を晴らすため、事件を解決する羽目になる。
そして今回は、ちょっと粋な方法も使って解決させていて、これまでの同じような印象を変えた結末となった。
さらに、前回の登場人物が奇妙な友人となって加わり、彼が面白い位置にいるので、今回の作家もまた出てきてくれるときっと楽しいと期待をする。

泥棒はボガートを夢見る―泥棒バーニイ・シリーズ


 古本屋へやってきた美しい客に一目ぼれしたバーニィ。
その美女イローナとボガートの話で意気投合し、その夜から15日連続でボガートの主演映画を見に通う。
しかし、旧友からバーニィの話を聞いたというある客が持ち込んだ仕事をうけて侵入した高級アパートで、なんとバーニィは失敗してしまう。
恋をしたバーニィが見失ったものは、恋人か仕事か。

 恋をした女性は、バーニィに仕事を依頼した人物ともかかわりがありそうだし、依頼されて盗んでくる予定だった書類はどこへ行ったのか。
依頼者が死んでしまい、犯人はわかったのにバーニィにはできることがない。
今回のバーニィは、皆を集めて犯人を追い詰めるという名探偵もやるけど、どこか締まらない役どころだった。
恋に浸り、仕事に失敗し、犯人は突き止めるが逃げられ、追い詰めることができない。
それでもなぜか不思議と情けなくない。
不思議な泥棒さん。

お初の繭


 産業もあまりなく、貧しい地域に住むお初は、12歳で生糸工場へ出稼ぎに出ることになった。
各地からやってくる少女たちが集められたのは、淋しい土地ながら特別な糸を吐く繭が育つ場所で、そこで集団生活をしながら仕事が始まるのを待っていた。
ところが、毎日腹いっぱい食べ、日に三度も風呂へ入るという清潔で快適な日々を過ごしているうちに、だんだんと焦ってきたお初。
皆が飲んでいる薬にアレルギー反応がでたことで一人隔離の生活になってしまい、工場の異様な雰囲気を客観的に感じることができたのだった。

 ホラー。
割と早いうちから不気味な雰囲気は出ていて、少女たち以外の登場人物の名前も不気味。
そして予想もできるが、どうしても目が離せない。
深みへはまるお初。
出てくる糸や街の名前が、怪しいが滑稽なため、ひたすら気味が悪いだけではなかったせいで読みやすい。
だが不吉な予想はどれも必ず当たり、恐ろしい余韻を残す。

こぼれ桜 摺師安次郎人情暦


 摺師の安次郎は、亡き女房の実家へ預けていた息子の信太を引き取り、神田明神下の長屋に父子二人で暮らしていた。
その仕事ぶりは評価され、愛想はないが信用は得ていた。
ある日、弟弟子の直助が慌てて持ち込んだ情報は、友の彫師の伊之助が好色本を作ったという罪でお縄になったというものだった。
しかも、見るからに下手なものであるにもかかわらず、伊之助は自分が作ったと認めているという。

 元は武家育ちだった安二郎が摺師になった経緯は少しずつ明かされるが、それによる身内との確執が最後まで底で流れていて、安二郎の摺師としての仕事の様子と並行して書かれている。
大きな軸の一つと言っていいが、そちらは暗いばかりでつまらなく、摺師としての仕事の方が断然面白かった。
登場人物も皆個性豊かで混乱することもなくすんなり入り込め、摺師と版元、絵師や彫師との関係も興味が沸いた。

用心棒


 ストリップクラブの凄腕用心棒のジョー・ブロディーは、ある日一斉検挙に巻き込まれて逮捕されてしまう。
そこで再会した中国製マフィアの知り合いから、仕事を持ち掛けられる。
輸送中のあるものを強奪しないかというその誘いは、悪くないように思われた。
しかしいくつもの情報の漏洩やすれ違いでその仕事は失敗に終わり、ジョーは逃げながらもこうなってしまった元凶をおぶり出そうとする。

 ハードボイルドに分類される要素がたっぷり詰まっていて、スリルもあるけど人気者のジョーの行動が楽しくて読みやすかった。
彼の言動に惹かれるのがまずFBIの女性捜査官という立場の人であることも、興味をそそる。
アメリカの習慣が分からず理解できないところもあったが全く問題はなく、銃を撃つ場面もかなりあるがハラハラするというよりはしっかり見ておきたいというような気持になる。
退屈せずにあっという間に読めた。

おもちゃ絵芳藤


 師匠の歌川国芳が死んだ。
弟子の芳藤は、他の弟子たちと協力して葬式を済ませた後も画塾を続けていたが、芳藤は己の力量に華がないと自覚していた。
名をあげるほどの作品を出せず、駆け出しの若い絵師がするような玩具絵の仕事を受け続ける芳藤。
時代も移り、町は西洋の物にあふれる中、芳藤は様々な葛藤を抱え、塾や自分の仕事に悩み続ける。

 偉大な師匠の元で学び、力はあるもののパッとしない芳藤。
だがそれでも絵を描き続け、切り刻まれたり折られたりしていずれは紙くずとなる玩具絵にも丁寧である芳藤の心の内が細かく描かれている。
力があってもどんな人間でも、それぞれに抱える物をじっくりと読ませるわりに読みやすい。
飽きることなくどんどん進む。