月影の乙女


 ハスティア公国領のセレの領主・ローデスの次女であるジオラネルは、幼いころに魔力を暴走させたことが原因で、訓練所へ誘われた。
そこで4年の訓練を経て、ジオは正式なフォーリ(魔法師)となる。
各地へ赴いて人力では難しい依頼をこなしていたが、平和なハスティアを狙う者がいた。
それは火を操る竜に変化できる、ドリドラヴのの王、ウシュル・ガルだった。
ウシュル・ガルの息子たちが潜入して火種を起こし、やがて戦争へとつながる。
フォーリであるジオたちは、戦うことを禁じられていたために攻撃できず、愛しい人や街を焼かれ、悲しみに暮れる人々。
彼らを救おうと立ち上がるフォーリたちが下した決断は。

 長編ファンタジー。
これまでのシリーズからは独立した物語だけど、周りの状況やさりげない動きの緻密な描写がすんなり流れてきてどんな不思議な魔法でも思い浮かべることができた。
小さな癒しとなる動物もいくつか登場し、フォーリたちを助ける。
長さのわりに疲れることなく、次々に起こる出来事から目が離せなくなってくる。
そうやって大きな戦いも終わるが、最後がなぜか急にありふれた結末となってしまった。
タイトルとなっている「月影の乙女」の印象も薄く、付け足された章で少し触れられている程度。
それならジオの持つ素質に注目させればもっと晴れやかに終われたのではないかと思ってしまった。

姥玉みっつ


 静かな老後を送ろうと思っていたお麓は、幸いにも明主の書役の仕事を得て、明主の家からも近い「おはぎ長屋」に移り住んだ。
すると50年も前からの幼馴染が二人、なぜか同じ長屋に移り住んできて、毎日やってきては姦しい。
うっとおしいと思いつつも、ある日行き倒れた母娘を見つけてかくまうことになる。
母と名乗る女は数日後に死に、娘は声を出せない。
その出会いから三人はさらににぎやかな騒動へと巻き込まれていく。

 主人公が年寄というのが面白い。
うっとおしいと思いつつも50年も前からの知り合いでは気心も知れていて扱いも慣れたもの。
静かな老後とはかけ離れた生活だけどお麓も楽しそう。
世間や身分に縛られながらも、精いっぱい楽しもうとする3人を見ていると元気が出る。

青姫


 村の名主の弟であった杜宇は、ある日武士と悶着を起こし、村を出奔した。
放浪の末たどり着いたのは、青姫とよばれる統領の下で自由経済の郷だった。
そこで杜宇は米作りを命じられ、田を開墾から始める。
そのうち郷にもなじみ始めるが、ある日ぼろぼろの男が郷にやってきた。
それは杜宇の出奔の訳となった武士であった。

 これまでの朝井まかての作品とは全く雰囲気が異なり、ファンタジーのような趣があった。
不思議な郷で米作りに奮闘し、わがままで意地も悪い青姫に振り回されながらも郷になじみ、そこでの居場所を見つける杜宇。
やがてすべてを思い返す年まで長生きをする杜宇の一生を、その場にいたような感覚になって読んだ。

兇人邸の殺人 〈屍人荘の殺人〉シリーズ


 閉園となった遊園地を買い取り、廃墟テーマパークとして人気の施設に、「兇人邸」があった。
そこでは、従業員が定期的に消えるという噂が流れていて、さらに葉村たちが追っていた班目機関の記録が眠っているらしい。
ある企業の社長から同行を依頼され、ヒルコと葉村は夜中に「兇人邸」へ忍び込む。
ところが、その屋敷で見つけたのは鉈を振り回す巨大な殺人鬼だった。

 ヒルコと葉村がまたもや命の危険にさらされる。
今度は巨大な屋敷に殺人鬼と共に閉じ込められるというホラーな設定。
そしてどうしても予想できない結末に毎回驚かされる。
班目機関のことも少しずつわかってきて、おもしろくなってきた。

詐欺師と詐欺師


 海外で稼いで一時帰国していた詐欺師の藍は、ある政治家のパーティで知り合ったみちるに興味を持った。
あらゆる事を犠牲にして親の仇を殺すことだけを生きる理由にしてきたみちるは、仇である戸賀崎グループ筆頭株主の戸賀崎喜和子を探すために金を欲しがっていた。
普段なら関わらない藍だが、なぜかみちるから目が離せず、復讐に付き合うことになるが、思いもよらない事に巻き込まれていく。

 世界中の悪党から何億という金をせしめてきた藍にとって、みちるのとる行動は拙く、ついかまってしまう。
そのうち引き返せないところまで来てしまい、みちるの執着と同じくらい暗くて深い闇をのぞき込んで怖い真実を知ることになる。
これは逃げ出せないんじゃないかと思った頃、また不思議ななりゆきですんなり脱出までできるが、この先の二人が気になってしょうがなくなってしまう。
タイプの違う詐欺師と、犯罪者たちのゲーム。

月花美人


 菜澄藩の郷士・望月鞘音は、剣鬼とも呼ばれたほどの使い手だった。
両親を亡くして姪の若葉を引き取り、彼女との生活のためにと傷の治療に使う〈サヤネ紙〉を作っていた。
幼馴染の紙問屋・我孫子屋壮介と町の女医者・佐倉虎峰から、改良を頼まれる。
理由を言い渋る壮介に問いただすと、「月役(月経)」の処置に使うという返答。
武士である自分が、女の穢れで糊口をしのぐことに抵抗がある鞘音だが、ちょうど初潮を迎えた若葉の辛そうな様子を見て、少しづつ考えが変わっていくのだった。

 女性の整理事情は、男には隠されてきた。
古紙や古布をつめて処置し、穢れ小屋に隔離されたりしてきた女性たちの清潔を守り、生活を楽にするために奮闘した武士の物語。
実際にあった話とは違うが、人々の意識を変えようと戦う様子に心を打たれる。
ずれを防ぐための羽根つきを思いついたのが鶏の羽というところは無理があったが、それ以外は続きが気になって止められないほどだった。

先祖探偵


 東京谷中銀座の路地裏で、探偵事務所をひらいている邑楽風子。
風子は捨て子で、養護施設を出てからバイトでためたお金でたんていをはじめた。
先祖を辿る探偵をしているのは、自分の先祖を探す手助けになればと思ってのことだった。
 先祖は武田信玄にゆかりがあるはずだと言い張る男性や、先祖の祟りかもしれないのでどこの祖先が原因か調べてほしい、学校で祖先を調べるという宿題が出た、などの依頼に、あちこちをめぐっては調査をしていく風子。
やがて、自分の両親につながるのではないかという仕事が舞い込む。

 ずっと孤独だった風子が、自分の祖先を知りたいと思って始めた仕事。
やがてつながる縁と、風子が捨てられた理由に説明がついた頃には、まるで想像もつかなかった出来事が分かる。

おっかなの晩 (日本橋船宿あやかし話)


 江戸草川に浮かぶ島、日本橋の箱崎。
川辺の小さな船宿を切り盛りする女将のお涼。
彼女の元へ届く手紙の中には、吉原にいる花魁・清里からのものがあった。
清里は狐憑きと言われてしばらく客足が遠のいていたのだが、それを逆手に取った接客をするようになり、また人気が戻ってきていた。
そしてお涼の元へは、時折不思議な客もやってくるという。

 面倒見が良いお涼のところへやってくるのは、人だけじゃなかった。
そして彼らは、お涼に頼みごとをしたり、癒されたりして去っていく。
なかにはちゃんと落ちが付いた話も合っておもしろい。
お涼の子供の頃の話もあって、彼女の不思議な魅力がつまっていた。

競争の番人 内偵の王子


九州事務所への転勤となった白熊楓。
昔からいる人たちの結束が強い場所で、なかなか話をしてもらえず、パワハラ気味の上司と敵意むき出しの同僚、そして人当たりが良く誰に対しても優しいが自由な上司に疲れ切っていた白熊。
呉服業界のカルテルを探るうち、巨大なカルテルに行きつく。
本部のメンバーもやってきて、それぞれ別口の摘発に動くうち、地元の暴力団も絡むと知る。

 九州へやってきた白熊は、知り合いもなく、同僚ともなじめず、疎外感を感じていたが、本部の仲間がやってきてからは調子を取り戻す。
白熊と小勝負の関係も変わらずで安心する。
そして解決を見る頃には、また白熊は地元の大きな力によって戻されることになる。
普段は知ることのない仕事と、地域の権力者、個性的な登場人物の多さで全く飽きない。

競争の番人


 公正取引委員会審査官・白熊楓は、ウェディング業界の価格カルテル調査をすることになった。
東大首席・ハーバード大留学帰りのエリート審査官・小勝負勉とチームを組み、あらゆる調査を進めるが、調査対象のホテル社長が強かで、なかなか決め手をつかめない。
それどころか逆に冤罪と責められ、楓たちは方針の変更を余儀なくされる。
どうしても証拠がつかめないまま罠にかけられ、裏切られたりしながら、楓たちはあらゆる角度で調べを進めていくと。

 ストーリーに覚えがあると思ったら、ドラマでもやっていたようだ。
体育会系の楓と、頭脳派の小勝負との対比も面白く、読みやすい文章でドキドキの調査の場面も多く、どんどん進む場面に目が離せない。
どんな仕事をしているのかイマイチ知名度のない仕事にフォーカスを当てたお仕事ミステリー。