シャーロック・ホームズの凱旋


 あの名探偵ホームズが、スランプに陥った。
悩み続けた挙句に引退宣言までするホームズを、ワトソンはどうにか立ち直らせようとするが、それには12年前にホームズが解決できなかった事件が関わっているらしいことが分かる。
さらに妻のメアリ―がホームズのライバルであるアイリーン・アドラーの事件簿を小説にして発表し始めた。
妻の裏切りに少しも気づかなかったワトソン。
やがて12年前の事件をもう一度調査しようと問題の館へ向かう。

 舞台は京都!
ホームズやモリアーティもいるのに地名は京都というおかしな設定だが、なぜか違和感なく読み進められた。
さらに途中でロンドンへと移る。
メアリが亡くなっていたりワトソンが貧相な下宿に住んでいたりといろいろ設定が異なり、さすがに混乱したが、やがて理由は明かされる。
おかしな世界がいくつも入り混じった、不思議満載の物語だった。
それでも不思議と読みやすい。

円朝の女


 三遊亭円朝と深い関係にあった女たち5人を、弟子の五厘が語る。
江戸から明治に変わる頃、身分違いの恋や全盛を支えた女、養子として育て、円朝の最後を看取った女など、円朝自体ではなく、彼の周りを彩った女たち。
長く一緒にいた弟子だからこそ知っている事を、高座で語りかける口調で紹介していく。

 円朝本人の話ならたくさんあったけど、彼の周りの人間だけを語る話は珍しい。
しかもそれがどれも女とくれば、興味は大きくそそられる。
傍から見た円朝の様子は年と共に印象も変わり、それもまた観察できて面白かった。

あの魔女を殺せ


 グロテスクだけどなぜか惹きつけられるという生人形をつくるという三姉妹。
その新作のお披露目に招かれたフリーライター・麻生真哉は、愛娘と共に群馬の山中にある館に向かう。
ところが発表の夜、姉妹の長女が部屋で丸焦げになって発見される。そばには同じように焼かれた人形が落ちており、部屋は密室となっていた。
孤立状態のまま、参加者たちは館を捜索するが、姉妹は次々と殺されてしまう。
魔術を受け継ぐ一族の、おぞましい欲望から生まれた悲劇。

 愛する妻を失ってから、娘と共に倹しく生きてきた麻生。
しかし仕事のため、怪しい噂のある姉妹に近づいたことで起こる悲劇が、想像を絶する。
三姉妹の事件だけではない件も含め、ゾッとする場面が多くて恐ろしかった。
ただの殺人事件で終わらない怖さが残る。

書架の探偵


 図書館の書架に住むE・A・スミス。
彼は、推理作家E・A・スミスの複生体(リクローン)であり、生前のスミスの脳をスキャンし、その記憶や感情を備えて、図書館に収蔵されている。
その彼を貸し出したのは、コレットという女性。
亡くなった父が残した本に、隠された秘密があるので解明してほしいというのだ。その本は、本物のスミスが書いた推理小説だった。

 貸し出されたスミスは、コレットと共に調査を始める。
しかしすぐに謎の男たちに襲われたり、逃げた先でもコレットが行方不明になったりと困難は続く。
クローンが図書館で貸し出されていることや、コレットを探している最中で出会う夫婦が個性的だったり、自動運転の空飛ぶ車があったりと、おもしろい設定がいっぱいでとても楽しかった。
正体不明の追っ手から逃げながらスミスは次第に真実を探り当てていくが、思いもよらない出来事が積み重なって少しも予想ができなかった。

博物館の少女 怪異研究事始め


 明治16年、身内を相次いで亡くした大阪の古物商の娘・花岡イカルは、遠い親戚を頼り東京へやってきた。
そこで出会った少し年上のトヨと仲良くなり、彼女と訪れた博物館で館長に目利きの才を認められ、博物館の古蔵で怪異の研究をしている織田賢司(= 通称トノサマ)の手伝いをすることになる。
トノサマの指示で蔵の整理を始めたイカルは、帳簿と収納品の称号が合わないことに気づく。
紛失したのは黒手匣というものだった。

 目利きを見込まれたイカル。
だがその目利きから、横流しされた品を街で見つけてしまい、事件に巻き込まれてしまう。
だがトノサマの家の使用人であるアキラに助けてもらいながら、事件を追うイカルの言動が勇敢で頼もしい。
ヒトが起こした盗難事件と、不思議なままの出来事が上手く重なり合い、最後はほんわかした気分で読み終えた。

星を継ぐもの 巨人たちの星シリーズ


 月面調査隊が発見したのは、真紅の宇宙服をまとった死体だった。
調査の結果、その人物はどこの所属でもなく、なんと5万年前に死亡していたことが分かった。
仮にチャーリーと名付けられた彼は、いったいどこから来たのか。
世界中の注目を集めながら続く調査で、次々とわかる新事実にもかかわらず、すべてのつじつまが合う結論が出せないまま、謎が深まっていく。

 人類がいたはるか昔に死んだとされる人間は、何者なのか。
興味を引く設定で、楽しく読めた。
専門的な調査が綿密に行われていることを示すような難しい解説も多かったが、その分いろんな見方でどうすれば納得のいく結論が出るのかを考えだすのかと興味が深まっていく感じがした。
「猿の惑星」のような結末は物足りないなぁと思っていたら、大きく超えた結果で飽きなかった。
シリーズとなっているようなので次も読んでみたい。

大正の后


 大正天皇の后となった節子の一生。
生まれてすぐに里子に出された節子は、農家の家で真っ黒になるまで日焼けしながら育った、元気な娘だった。
それがある日突然呼び戻され、さらには思いもよらぬ縁談を受ける。
そして将来の大正時代の天皇となる皇太子嘉仁親王の妻となり、病弱な夫を支えながら戦争に心を痛め、夫を愛した天皇の后としての日々を綴る。

 とても分かりやすいタイトルのために最初から興味は大きかったが、読み始めるとそんなことは忘れてどんどんはまり込んでいった。
節子が夫にむける優しい目に穏やかな気持ちになり、戦争のせいで国民が受けた傷に傷つき、灯台守の家族や障碍者施設での交流に癒されて、まるで付き人になった気分だった。
自分の国のことなのに、普段見ることのできない部分に興味を持つきっかけになった。

戯場國の怪人


 江戸にある芝居小屋・市村座。
その桟敷席を予約し続ける者がいるが、一度も姿を見せないという不思議な噂が出る中、その一座の一人・八重霧という女方が死んだ。
そこから始まる市村座の怪異は、女形瀬川菊之丞、戯作者平賀源内、二代目市川團十郎、講釈師深井志道軒、広島藩士稲生武太夫、大奥御年寄江島という、一座の役者やシナリオまで巻き込んだ大きな事件となっていく。

 芝居小屋で起こる小さな怪異だと思っていたら、エンマ大王の一番補佐であったという小野篁、冥府まで出てくる大掛かりなものとなっていた。
役者の心意気や、昔江戸で起こった大事件をすべて芝居にして、最後は夢か現か、芝居か嘘かという、大きなはったりに引っかかってしまう。
大ごとになっていくたびに引き込まれていった。

お江戸けもの医 毛玉堂


 江戸に、動物の病を見る医者がいる。
腕は確かだが不愛想な医者の凌雲と、幼いころから凌雲を思い続けていた妻・お美津。
3匹の犬と1匹の猫、そして別嬪で口が達者な幼馴染のお仙と共に、にぎやかな毎日をすごしていた。
ある日、お仙が子供を連れてやってくる。
動物と子供は違うと断るお美津だが、お仙の押しの強さに負けて引き取り一緒に暮らしはじめ、毛玉堂はますますにぎやかになった。

 動物専門の医者である凌雲は、以前は人間の医者として名を馳せていたのだが、とある事件をきっかけに心を閉ざしてしまう。
そんな凌雲を支え、妻となったお美津の、うれしいけど悲しい心がしみじみと伝わってくる。
凌雲とお美津の動物好きと、お仙の美しさと強かさが軽い口調で楽し気に描かれているので、動物たちの生き死にの理不尽さによる悲しみは薄らいでいて、楽しい記憶だけが残る。

焼け野の雉


 長く行方知れずとなった夫・羽吉と離縁し、留守の間も守ってきた飼鳥屋を営む女主人のおけい。
ある日、剤も着屋から出た火で広く火事になり、ことり屋も焼けてしまう。
小鳥たちと共に何とか逃げ延びたおけいは、お救い小屋で肩身の狭い思いをしたり、昔の知り合いに嫌みを言われたりと、落ち着かない日々を送っていた。
さらに、娘の結衣をおけいに託したまま行方知れずとなってしまった永瀬を心配しながら、おけいはこの先どうやって生きていこうかと不安を募らせていた。

 ことり屋おけいの前作は、かなり前に読んだせいで忘れていたが、人間関係はすぐに思い出せた。
火事によってたくさんの人が死に、町が消えた様子がたびたび出てきて胸が痛い。
そして元夫との再会と、永瀬との関係も、火事で消えたように一旦まっさらになって考え直しているようだった。
辛い出来事が多く出てくるけど、どれも悲観的にはならないのでまっすぐ受け取れる。
そしてお救い小屋が閉鎖される頃には、おけいは次の生き方を決めていた。