就活ザムライの大誤算


 すべては良い会社に入るため、7年余りを就活にかけてきた主人公の蜂矢徹郎。
常にスーツを着込み、話し方も面接向けの言葉使いで、周りから「就活侍」と呼ばれても気にしない。
同志である就活生たちを敵とみなし、恋愛やサークルで楽しむ者たちを見下し、希望の商社から内定をもらう事のみに徹底していた徹郎が、気ままな同級生や胡散臭いオジサン聴講生にもまれて自分の道を見失い、また探り出す、就活エンターテインメント。

 学生や就活を極端なほどの個性で押し通し、滑稽で、笑い泣きさせるのが上手い。
デビュー作の「被取締役新入社員」を思い出させる。
自分の信念を7年も貫き通すパワーは変人を通り越して個性として認められていて、そんな彼を冷静に観察する目もあり、素直に受け止める人、単純に感動する人と様々な視点もあって、人に興味を持つための素材がたくさんあった。

ゾウに魅かれた容疑者 警視庁いきもの係


 警視庁「いきもの係」のオアシス、田丸弘子が、定時連絡を絶ち、行方不明となった。
嫌な予感がした須藤は、弘子の自宅を捜索し、あまりにもきれいに片付いていることを不審に思う。そして、不自然な動物園のチケットを見つけた。
動物とくれば薄。
さっそく相談し、どうやら海外に連れ出されたとわかった須藤は、あらゆる伝手を使って薄と共に弘子を救い出すことを誓う。
偽造パスポートまで用意し拉致されたのは、ラオスだった。

 身内の一大事、長編となった今作は、読みごたえも充分。
薄は相変わらずの頓珍漢な受け答えで話の腰を折りまくり、本題を忘れそうになるが、ツッコむ須藤ももう慣れたもので、薄に流されながらも見失わない。
ダジャレも、おじさんが言えばただうすら寒いだけなのに、薄が言っておじさんがつっこむ構図は和やかにさえ見える。
海外の大きな密漁・密輸ルートで命の危険もあったりと、薄の生存力の高さと須藤の勘が存分に発揮されていて楽しかった。

追憶の烏 八咫烏シリーズ


 奈月彦と、浜木綿、そして愛らしい紫苑の宮との幸せなひと時。
そして雪哉は外界への遊学へ行き、何もかもが違う世界に一生懸命だった。
それが、一変する。

 シリーズが進むにつれて、毎回予想を裏切られる。
それも大きなショックを伴って。
今度も、雪哉の視野が広がった分、崩れたものも大きかった。
好きなシリーズで好きな登場人物もたくさんいるのに、愛着や執着を感じている者から切り捨てられるようで、苦しくて仕方がない。
美しい余韻を残した第1作目との落差が大きすぎるが、次に何を見させられるのかと興味も尽きない。
頭がついていかない程のスピードだった。

准教授・高槻彰良の推察4 そして異界の扉がひらく


 無事2年に進級できた深町に、高槻からバイトの話がやってきた。
子供の頃はやった、4時44分に、異界への入り口が開くという呪いをやってみたら、その後からおかしなことが続いているという建築事務所で働く女性からの依頼だった。
そしてしこで、とても貴重な出会いをする。
その人は、『青い提灯の祭り』に、行ったことがあるという。

 二人が出会う怪異が、だんだん物騒になっていく。
確かに深町が探していた『青い提灯の祭り』には近づいているが、危険にも近づいている。
人魚が目撃された地では、とうとう解決できない怪異にも出会ってしまった。
深町が卒業するまでには、二人が将来をつかみ取るための材料がそろっていそうだが、このまま異界へと取られる可能性もありそうでうすら寒い雰囲気が増してきた。
小話として挟まれた高槻のロンドンの頃の話では、その目の秘密が少し明かされる。


 森鴎外を父に持つ類は、すべてを受け入れて優しく頭をなでてくれる父が大好きだった。
父が亡くなり、潮が引くように人々が離れていってからは、父の遺産と印税で生きていけるため、働いたことすらなかった。
しかしそれでも世間の眼からは逃れられず、姉と共にフランスへ遊学する。
類にとってその時期は、幸せな時期となる。

 有名人の子供として生まれ、兄姉たちとの関係、そして自分にも何かの才能があるはずだと苦悩する姿を描く。
やがて絵を描くことから文章を書くことへと移り、それでも姉たちのように売れず、戦争で遺産も取られ、初めて社会人となる類。
人の一生をもれなく描いたというような、読み応えのある一冊だった。
なぜ鴎外ではなく息子を主人公にしたのだろうと思って読み始めたが、これほどの充実が得られるとは思わなかったし、自分もバーチャルで類の近くで生きたような気分になる。

准教授・高槻彰良の推察3 呪いと祝いの語りごと


 「不幸の手紙」を受け取ったという深町の友人の難波。
なんとなく嫌なことが重なって、気分が沈んでいる難波を、高槻の元へ連れて行った深町は、不幸の手紙にまつわる都市伝説を聞く。
そしてそのすぐ後、「図書館のマリエさん」に呪われたという女子中学生たちに会う。
なんでも、図書館の蔵書に隠された暗号を解かないと呪われるというものらしい。

 図書館にやってきた高槻と深町は、まだあまり知られていない都市伝説に出会うことになる。
呪われたという話だけ聞けば胡散臭いことこの上ないが、それを解く高槻はもう、怪異を求める好き者ではなく、探偵のよう。
しかも最初の「不幸の手紙」にもつながり、妙にすっきりする。
そして休暇で訪れた村では、思いがけなく殺人事件にも出くわしてしまい、スリルも大きい。
閉ざされた村に伝わる不気味な風習や因縁は、民俗学を扱う話には必ず出てくる不気味の代表であり、やっぱりこれもかなり不気味な話だった。

准教授・高槻彰良の推察2 怪異は狭間に宿る


 怪異を集めている青和大学の准教授・高槻彰良の元に、コックリさんにまつわる話が舞い込んだ。
子供たちがやったコックリさんが、今はいない同級生の名前を出し、さらに帰ってくれないままロッカーに住み着き、覗いたものをそのロッカーに引きずり込むという。
おびえる少女たちに優しく語りかけながら、高槻は「コックリさんに帰ってもらうための儀式」をすると言い出した。
 
 またもなじみ深い話題。
その10円玉がどうやって動くのか本当に不思議だった子供の頃を思い出すし、そこから発展して呪いにまでなってしまう経緯にも興味が沸く。
日常でちょっと怖いと思われている現象が、高槻の語りでしっかり学問になっていく様子も楽しく、もっと知りたくなる。
「常識担当」の助手・深町から見た高槻は時々頼りないけど、嘘に傷つく深町にまったくダメージを与えないのは高槻のすごいところでもあり、不思議な体質の二人のこれからも気になる。
民俗学というと古い時代の研究といったイメージだが、現代にもネタは豊富にあるようだ。

キノの旅XI the Beautiful World


 春。キノとエルメスが向かう国では、あちこちで火の手が上がっているようだった。
そして通りかかる軍隊。キノたちは、何が起こるのかを国の外でじっと見ていた。

 静かに語られる、いろんな国の”事情”
残酷だったり理解できない法律だったり、あるいは笑顔に隠されたやさしさだったり。
でもどの国の話もとてもシュールで、すべては教えてくれない。
そして毎回、その国に住んでいたらどうするだろうと考える。

圓朝


 近代落語の祖・三遊亭圓朝。
母に反対され、いろんなものを習ってきたが、やはり噺が好きだと噺家になった圓朝だが、あまりの上手さに師から妬まれ、嫌がらせをうけてしまう。
しかし、それならばと自ら作り出した怪談噺や人情噺で人気を博し、大勢の弟子を抱える一門とまで上り詰めるが、その人気の影にはそれ相応の苦悩もあった。

 伝説的な噺家の一代記。
師匠から疎まれてしまうほどの腕だが、その師匠からの仕打ちにどれほど傷ついただろうかと苦しくなる。
それでも好きな噺を辞められず、不思議な経験をしたことから集めだした幽霊話で「夏は怪談」という風習まで根付いてしまう。
弟子に向ける言葉が優しく、噺のことばかりを考え、やがて本にまでなる大成功だが、引退を決意する事件にはこちらも泣きそうになる。
どんなことを考えてきたのかはよく書かれているが、仕事とは離れた人となりの点ではつかみどころがない印象で、夢中で読めるが感情移入はしない。

星砕きの娘


 第4回創元ファンタジイ新人賞受賞作。
鬼に攫われ、暗い岩の底で奴隷となりながらも心を壊さないでいた少年・弦太が、ある日、弦太は川で蓮の蕾を拾う。
砦に戻るとその蕾は赤子になっていた。
不思議なことに蓮華と名付けたその赤子は、<明>の星のめぐりと共に赤子と少女を繰り返す。
弦太が囚われて七年後、ようやく都からの討伐軍により弦太たちは解放されるが、蓮華と共に家に戻った弦太にはさらなる試練が待っていた。

 暗い砦にとらわれながらも自我を放棄せず、解放されて力を振るう様子は「鹿の王」と似た流れ。
しかし鬼や技術、服装、信仰などから古い日本の様子を想像させる。
そして読みやすく、世界感に没頭しやすいため一気に読める。
知恵や力をつけていく様子も細かく描かれていて成長が楽しめる。
個人的には、蓮華に優しくはないが面倒は見ていた笛詰が好印象。