ばけもの好む中将 九 真夏の夜の夢まぼろし


 皇太后の父が建てた夏の離宮で、華やかな宴が催されていた。
その離宮では、先日生まれた孫の顔を見たいという皇太后、もちろん帝や妃である弘徽殿の女御、梨壺の更衣を始め、宮中で働く者たちが大勢集まり、恋のかけひきや政治の駆け引きなど、様々な思惑が動いていた。
もちろんそこには宗孝と中将も招かれており、「美しい妻を持った嫉妬深い夫が、妻と娘たちを惨殺した」という噂があることを知った中将は、めったに立ち入ることのできない離宮での不思議をなんとしても見つけようと、嬉々として散策を始めていた。

 夏の夜の熱に浮かされたような宴の様子が、夢の中のように美しい。
そんな中を、中将は不思議を求め、若宮は真白に会いに、宗孝はめったに姿を見せない姉を探して、それぞれさ迷い歩く。
肝試し的な様子になってくるが、結局はドタバタでなぜかうまく収まる。
何もかも知っているような十の姉に振り回される宗孝が可愛い。

獣たちのコロシアム 池袋ウエストゲートパーク16


 世間がタピオカミルクティーに狂っていたころ、マコトの友人でありヤクザの幹部であるサルも店を出していた。
そこへやってきた一人のオジサン。一部上場企業に勤めながらも、追い出し部屋へ入れられ、バイトをしにサルの店へやってきたのだった。

 ラブホテルばかりを狙う強盗や、新手のオレオレ詐欺ならぬバースディ詐欺、記憶に新しい児童虐待など、今回もつい最近こんな事件を聞いたというものばかり。
マコトはタカシやゼロワンの力を借りながら、相手を探り出していく。
 胸の悪くなるような事件を知った後の解決は、やっぱりスッキリする。

心淋し川


 江戸の千駄木町の一角に、心町(うらまち)と呼ばれる場所がある。
小さな川が流れていて、その両側には貧乏長屋が並んでいた。その川は流れが悪く、淀んで悪臭を放つ季節もあるが、ここに住む者からは心川(うらかわ)と呼ばれ、人々の生活の中にしみこんでいた。
そんな心町に住む人の、川と同じように流れだせずに行き詰り、もがく人生の様子を描く。

 妾を4人も囲った青物卸の大隅屋六兵衛。妾の一人があるときふと思いついて、六兵衛が持ち込んだ張方に彫刻を施す。
若いころ、手ひどく捨てた女が今になってやたらと思い出される四文飯屋の与吾蔵。
半身麻痺となってしまった息子に異常な執着を見せる母。息子を殺した盗賊を12年も探している男。
いろんな闇を抱えた人たちがいて、でもそれらを詮索するような人もいず、皆何とか生きていけている。
暗くなりがちな生い立ちの人ばかりだけど、ゆったりと流れる川のように静かに互いを思いやっている様子が、やがて癒しとなっている。
心川の本当の名の通り、うら淋しい物語。

楽園の烏


 変わり者と言われた養父は、行方不明になって7年たつ。
死亡宣告によって遺言が施行され、山を受け継いだ安原はじめ。その不可解な相続には、一言「この山を売ってはならない理由が分かるまで、売ってはいけない」とだけ書かれてあった。
山を売ってくれとやってくる不審な人物をかわしていくうち、「幽霊」と名乗る美女に誘われ、はじめは山内へと拉致されていた。

 八咫烏シリーズ第2部のスタート。
「人間」側から見た山内の様子は、異世界そのもの。しかし、猿との対戦から20年後、あの雪哉が出世していて、身内である烏たちを守ってもいるけど迫害もしているという。
1部の雪哉からは想像できない仕打ち。キャラクターのイメージのあまりの違いに戸惑いながらも、はじめの行動には何かの意図があると気づいてくる。
これまでのように没頭できるほどではないのは、序章だからか。
最後になって明かされる事実がやっとスタートなのだろう。

不見(みず)の月 博物館惑星Ⅱ


 遠くアステロイドベルトから捕まえてきた惑星を月の反対側の重力均衡エリアにおき、まるごと博物館にした〈アフロディーテ〉。
そこでは、データベースを脳に直接接続した学芸員が、美の追求に勤しんでいた。
 そこへ配属された新人自警団員の兵藤健は、展示管理やマナー違反をする客たちとのかかわりの中で起こる事件に対処ししていく。
さらに健は、情動学習型のデータベースを育てる役までもらっていた。

 なんと19年ぶりだという「博物館惑星」の続き。
細かいところは覚えてないけど、印象は強く残っていた。
そして覚えてなくても充分楽しめたし、美術に興味がなくても、表現方法としての化学技術に興味が沸き、見てみたいと思い切り想像する。
どんなしくみなのかを思い浮かべながら、学芸員たちの人間としての感情と、人工知能との違いを楽しみ、さらには思い切り人間臭い家族のしがらみなどの対比も面白い。
でもタイトルになっている「不見の月」はなんだかありふれていてつまらない結果になった。
楽しい時間だったのに、最後でガッカリして終わったことが残念。

少女の時間


 元刑事で現在フリーのジャーナリスト。そんな柚木に月刊EYES編集部経由で持ち込まれた、2年前の未解決殺人事件の再調査だったが、調べ始めた途端、関係者が死亡するという事態になる。
情報をくれる美人刑事に、調査対象の美人親子、柚木の周りに集まる癖の強い美女たちが、柚木の苦悩を増やして回る。

 シリーズだがとりあえず一つという程度で手に取ったが、意外に面白かった。
洗濯好きの女たらしという設定の柚木が、女たちに困らせられながらもさらりと口説く様が楽しい。
女たらしというより、やたらと女に絡まれる感じの人たらしで、それでも料理がうまく、もてなしもスマートなので、これでは嫌いながらも寄ってくる女たちの気持ちも少しわかる気がした。
推理も警察とうまく役割を分担しながらきっちりと詰めていくので流れがつかみやすく、事件としても興味が持てるため最後まで手が止まらない。

あなたのためなら 藍千堂菓子噺


 おっとり者の菓子職人の兄・晴太郎と、少々口は悪いが算盤や商いの上手い弟・幸次郎は、無口だが笑い上戸の職人・茂市と3人で「藍千堂」を営んでいる。
晴太郎が結婚して、男所帯が明るくなったところに、従妹のお糸の縁談話が舞い込んだ。
いつもはボンクラばかりを連れてくる叔父が今度はまともな男を選んできたと、皆は興味を惹かれたが、この縁談がとんでもない厄災を連れてきた。

 兄弟の言い合いが微笑ましい。
しかし今度も、簡単には癒えることがない傷を負うものが出てくる。
優しさにあふれたシリーズで、温かく優しい気持ちでいられ、お互いを思いあう場面が多い。
考えぬいてできる菓子も美味しそうで、華やかさを増す。
じっくりと読みたいシリーズ。

漣のゆくえ とむらい屋颯太


 事故でも自殺でも、人が死ぬと魂はいなくなり、直ちに腐り始める。
しかし生きている人にとっては、その抜け殻は大事な人の姿であり、すぐには受け入れられない。
そんな人々にとって、弔いはとても大事なものとなる。
「弔い屋」の主人・楓太は、そんな遺族の気持ちを救いとる。
 今回も、訳ありの死人を運んでほしいと依頼が入る。

 楓太自身も辛い過去を持ち、生き残った者として、残された人たちの気持ちに区切りをつけられるよう、細かい心配りをする。
新しい仲間も増えてにぎやかになるが、やや感傷が押しつけがましいと感じる部分もあった。
それでも暗い雰囲気にはならず、生きている人を一番に考える様子は力強い。

わかれ縁


 夫婦となって5年。働かず、借金を作っては飲み、幾人もの女を作ってなお離縁に応じない夫に失望し、家を飛び出した絵乃。あてどなく歩いていると、離縁の調停を得意とする公事宿「狸穴屋」の手代に拾われる。
そこで絵乃は、離縁を依頼した。しかし手間賃を払えない絵乃に「狸穴屋」の主人・桐は、手代として働くことを進める。

 身投げをもくろんでいた絵乃に、新しい道を示してくれた「狸穴屋」。
そこで様々な夫婦のありようと別れ様を見て、絵乃は自分の視野の狭さを知り、夫との離縁を決心する。
桐の度胸と気持ちのいい啖呵に、自分も世界が広がる気がした。
最後に見せた絵乃の裁きには、空恐ろしい執念も感じつつ、溜飲も下がる思いで複雑な後味を残す。

高校事変 VI


 修学旅行中、同じ班の5人からのいじめに耐え切れなくなった結衣は、仕返しをした後でこっそり宿を抜け出した。
来る途中でバスから見た、ヤクザのカモとなっていた貧困家庭の集まる地域へと足を向け、そこで銃の密売と少女売春の斡旋を目にする。

 今度は少女が被害にあっている場面がたくさん出てくる。しかも相手は軍人。
そしてどうやら捕まっていた凛香と再会はしたものの、すぐさま襲い掛かってくるほどの敵意を向けられる。
それでも息はぴったりで、隠蔽されようとしていた犯罪を明るみに出すことに成功する。
それにしても、一つ一つの行動がすべて後のつじつま合わせへの工作となっていて、どんなことが起こっても回収できるような小細工をしているのは恐ろしいとも感じられる。
そしてまた一人、結衣の兄弟が登場しそう。