無頼無頼ッ!


 「この世のすべてを目に焼き付ける」と不可思議を追い求めて旅をする蜘蛛助と、獣のような力で父を殺した仇を追い求めて蜘蛛助の用心棒を名乗り出た兵庫。
今度の二人の旅は、蜘蛛助がある女から不思議な鉄の門の噂を聞いた時から行き先が決まった。
渡された地図を頼りに行ってみれば、おかしな出会いと奇妙な不意打ちで二人は意地になる。

 山賊のような爺を助ければ片手を封じられ、化け物のような巨人と戦い、里人皆に存在を無視されている子供を助けたりと、それはそれは大冒険。
しかし、それらはすべてつながっており、やがて鉄の門のある場所へとたどり着く。
黄泉の民と名乗る人たちの名前が知れたときにはなんだかがっかりしたが、昔の話とうやむやにするわけではなかったので楽しく読めた。
二人の旅がもっと読みたいと思った。

礼儀正しい空き巣の死


 高齢夫婦が旅行から帰ったら、知らない男が浴室で死んでいた。
その男は靴をそろえ、脱いだ服をたたみ、割った窓ガラスも補強するという礼儀正しさ。笑い話のような事件から起こる、30年前からの犯罪。
 死んでいた男はホームレスと思われたが、その家が30年前に少女殺人事件の起こった隣家だったことを定年間際の金本刑事課長が思い出す。
単なる偶然なのか。

 出世欲の強い卯月枝衣子警部補が、金本の勘を引きついで調査していると、ちょうど起こったばかりの別の事件との関連まででてくる。
そうやって次々と関連事項が増えて聞き、とうとう30年前の事件にもつながってしまった。
男たちの思惑にあきれたり振り回されたりと、枝衣子は忙しくなるが、枝衣子自身にも大きな進退の決断へとつながり、事件の広がりと枝衣子の人生の広がりに興味を惹かれて目が離せなくなる。
柚木草平が、「小説の登場人物」として出てきた。
でも山川は登場人物としてちゃんと登場していた。
前作はちゃんと実際に警察にいた人物として登場していたのに?

ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士(下)


 回復すれば拘束されるリスベット。そして裁判が待っている。
それまでにザラチェンコと公安が隠していることを反論できない証拠と共に見つけ出す。
ミカエルは見方を増やし、こっそりリスベットと連絡を取り合い、さらにはエリカの窮地をも救おうとしていた。

 『ミレニアム』にはそれらを告発するスクープを盛り込み、リスベットの裁判にぶつけて発行する。
そして活躍したのはミカエルの妹アニカ。
彼女は今までほとんど出てこなかったのに、ここでは一番の主役。
まだるっこしくて堅苦しく、長いだけの裁判の様子が残っているのかと思うと憂鬱だったが、アニカの追い詰め方にはスピード感があって一息に読み進められた。
自由を手に入れたリスベットは、これから変わっていけるのだろうか。

ミレニアム2 火と戯れる女(下)


 警察、リスベットが仕事をしていたミルトン・セキュリティ、そしてミカエルたちの『ミレニアム』。
三者それぞれがリスベットを探していたが、謎は一向に解ける様子もなく、リスベットの友人のミミまで拉致され、暴力を受けてしまう。
しかしパソコンを通じてこっそりやり取りをしていたミカエルは、やがてザラの正体にたどり着き、リスベットもザラの居場所を突き止める。

 強烈な印象を残したリスベットの過去が語られる。
ただ、事実はそれほど驚くようなことではなかった。リスベットが起こした「最悪の事件」以外は。
血はつながっていても冷酷な人たちに、リスベットはどう立ち向かうのか。恐ろしい場面が多くて怖くなる。
 前回の事件以来、1年も姿を消していたリスベットは、今度はどんな行動に出るのか興味が沸いた。
死んでしまったダグとミアの件が薄らいでしまうようなストーリーは前巻と似ているが、これもまた続くのだろう。

ミレニアム2 火と戯れる女(上)


 リスベットの後見人のビュルマンは、復讐を誓い策をめぐらせていた。
そしてその頃、『ミレニアム』では、人身売買と強制売春の調査をしているカップルと特集号と書籍の刊行を計画していた。
上手く出版に持ち込めそうだという時、突然カップルとビュルマンが銃で撃たれて殺されてしまう。
その銃にリスベットの指紋がついていたことから、リスベットは殺人犯として指名手配され、様々なところから行方を追われることになる。

 リスベットが姿を消していた間の出来事が平和で穏やかだったせいか、その後の展開が急なうえ恐怖も大きい。
正体不明の「ザラ」という人物、カップルとリスベットの関係。
ビュルマンがもっと腹黒いかと思っていたらあっさり殺されてしまうこと、ミカエルにハリエットとも関係を持てるほどの魅力が感じられない事、リスベットのミカエルに向かう怒りが強すぎる理由、今はまだわからないことばかりで、頭がいっぱいになってしまう。

上流階級 富久丸百貨店外商部 (3)


 神戸の富久丸百貨店芦屋川店で敏腕外商員として働く鮫島静緒。
静緒を信用して仕事を頼んでくれるお客様も増え、ますます忙しく動き回る。
美容整形に興味があるけど怖くて静緒に話を聞いてきてほしいという女性投資家。息子の中学受験で義親からの圧力と本人の希望がかみ合わないという主婦。
著作権を侵害されているイラストレーターに弁護士を探したり。
そんな中、母に初期のがんが見つかり、静緒は急に将来に不安を感じ始める。
今のうちに家を買い、母と暮らす場所を見つけておく方がいいのか、そして幼馴染からのヘッドハンティング。
悩みが増える一方の静緒。

 今回もいろんな要望に応えるべく走り回る静緒。
中でも終活の一環でホームパーティーを開いた清家の方々とのやり取りは、慌ただしい静緒にほっと一息つかせる穏やかさと柔らかさがあってこちらも和む。
家出した勢いで家をキャッシュで一括購入するような人たちの言動は、決して我儘ではない上品さがあるため、力になりたいと思ってしまう魅力がある。

平凡な革命家の食卓


 出世を目論む女性警察官・卯月枝衣子警部補29歳。
ある地味な市会議員が自宅で死亡した。一見普通の急性心不全で、事件性はないとみられたが、枝衣子はこれを事件性ありと強引に単独捜査を始めてしまう。
ところが、議員の主治医やその婦人との古い因縁に気づき、さらには向いのアパートの住人まで巻き込んで大騒動になってしまう。
本当はは本庁捜査一課へ栄転の足がかりとしてなにか目立つ功績を狙っていただけなのに、事件と共に恋人までゲットして、枝衣子の人生は大きく動き出す。

 退屈な出だしだったし、枝衣子よりもジャーナリストの柚香のほうが存在感があり、事件も平凡だったためにうっかり投げ出すところだった。
出世欲のために事件を捏造するんじゃないかと冷や冷やさせるような子供っぽい枝衣子かと思ったら、強かで勘も冴える優秀さ。
恋人のジャーナリストの穿った見方も楽しく、どこまでも深追いしたくなる人物と事件だった。
探偵の柚木も名前だけは出てくる。

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (下)


 ハリエット失踪事件に関する膨大な資料を調べるミカエル。
一人では限界があると思いヘンリックの弁護士に相談すると、背中にドラゴンのタトゥーを入れた女性調査員・リスベットを紹介される。
リスベットの個性に驚きながらも、二人は気が合い、深い闇をもつヴァンゲル一族の謎へと分け入っていく。

 ミカエルが見つけたハリエットのメモと失踪当日の写真に写ったハリエットの姿から、ミカエルは恐ろしい真実をつかむ。
真相を見つけたとたんにミカエルは命を狙われ、リスベットと共に生還するまでを一気に読み進んだ。
大げさなほどの危機だが、途中では止まれないほど息をつめた危機だった。
そのせいか、生還後はもう余韻だと感じていたが、ヘンリックの依頼を受けるきっかけとなった事件がまだ終わっていなかった事をやっと思い出す。
それは後日談のように淡々と語られていたためにちょうどいい余韻のまま進み、やがてすべて解決した頃にはミカエルに起こった衝撃も薄れてきて落ち着いて読み終えることができた。

大雪物語


 ある冬、N県K町が観測史上初の大雪に見舞われる。
いろんな事情でK町に来ていた人たちは、住民とともに雪のK町に閉じ込められる。
 派遣切りにあい、ひったくりで金を稼いで逃げてきた男は、優しい独居老人の家で寒さをしのぎ、遺体を乗せた車で立ち往生しているドライバーと遺族は静かなやりとりで慰め合い、飼い犬が脱走して探していたら身動きが取れなくなり、通りがかった雪男みたいな人物に助けられた女子高生の安堵など。
雪で閉ざされた世界での6つの物語。

 大雪で孤立したK町の中では、普段では起こらない出会いが起こる。
人の力ではどうにもならないほどの大雪の圧迫感と、閉ざされて音がなくても明るい雪の中での奇妙な安心感が、不思議な心境を起こしている様子が分かりやすい。
短編集によくある、最後はみんなどこかでつながっていましたというような事もなく、ただ淡々と雪深い孤独をかみしめていた。
雪の温かさと白い闇の雰囲気が感じられる。

うしろから歩いてくる微笑 柚木草平シリーズ


 母と相性ピッタリだから結婚しろと迫る変わり者の美早から、娘の加奈子にダイレクトメールが届く。釘を刺しておこうと訪ねると、友人だという薬膳の研究家を紹介された。そして、10年前に失踪した同級生の目撃情報が鎌倉周辺で増えているので調べてほしいという依頼を受ける。
なぜ今頃になって突然目撃情報が増えたのか、鎌倉の<探す会>に向かったが成果はなく、それどころかその夜、訪ねた女性が殺されてしまう。
10年前の事件と今回の殺人は関連しているのか、柚木は月刊EYESに正式にオファーをもらい、本格的に調べ始めた。

 加奈子とのやり取りから始まり、人脈を広げていく柚木。
だがそこははやり変わり者の友人は変わり者であり、振り回されることを楽しんでいるようで、美女たちの自由に巻き込まれる柚木の声にしないツッコミがやけに面白い。
そして流されるままにいる間は勝手に事件は解決するように思えた。
しかし柚木は突然動き出し、そこからの彼は毎回驚くほど人を動かす。
今度の事件は苦しいほどの執念を持った人たちが一人の少女を救い、守り通したことで、柚木も手を出すことはやめているが、なんともむなしい後味を残すものだった。
でも柚木らしい引き際が見れたことで無力感はなく、むしろ区切りをつけられた満足感があった。