こまどりたちが歌うなら


 人間かにつかれて退職した茉子は、親戚の伸吾が社長をしている小さな和菓子会社に誘われる。
有能な父の跡を継いだせいで頼りないと言われている伸吾や、古参で何でも知っている亀田さん、声が大きく威圧的な江島さんなど、個性的な人たちと古い体質のなかで、茉子はだんだん疲弊していく。
しかし、サービス残業や女性蔑視など、見過ごせないと茉子は声を出し続ける。

 古い体質で身動きのとりずらい中で働く茉子が、過去の苦い経験をもとに変えていこうとする。
しかし前半は嫌な気分になることが多く、読む手が止まりそうになる。
まだまだ改革の途中で終わるが、おそらく少しずつ、変えていける若い人たちが入って新しい風が吹きそう。

花迎え


 美代は長く続く頭痛に悩まされていた。
どの病院へ行っても治らず、更年期の性だとは受け入れたくない。
そんな美代に、集落の人たちは「花の宿」へ行けばいいと勧める。
果たしてそこはどんな所で、何をするのだろうか。
半信半疑ながらもこっそり訪ねた美代に、心のすべてを吐き出せと老婆は言う。

 農業新聞に連載されていたという物語。
小さな集落で更年期に悩む女性を受け止め、直してきたという主人とのやり取りがメインだが、治療とも宗教とも違ったやりとりが不思議。
病は気からというような、小さいコミュニティで鬱屈した気持ちをすべて吐き出すよう促される。
特に解決もしない様子が、この先も続く人生ではスッキリ解決することの方が少ないと言われているよう。

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祖父の祈り


 感染症のパンデミックで荒廃し、物資もなく治安も悪化したアメリカのある都市。
最愛の妻を亡くしたある老人が、娘と孫と共に空き家を転々としながら生きる。

 横暴な警察に嫌がらせを受けたり、フードバンクに並んでおまけをもらったり、放置された店から物を持ち出したりと、あらゆることが今と変わってしまった世界。
家族を守ろうと祖父は決断する。
ひどい世界だが、力を合わせて家族で生きていこうとしている強さを淡々と語る。

イタリアン・シューズ 〈フレドリック・ヴェリーン〉シリーズ


 離れ小島に老いた犬と老いた猫と共に住む元医師フレドリック・ヴェリーンは、ある日湖に張った厚い氷の上でかつての恋人を見つける。
病に侵され長くない彼女は、フレドリックに「昔した約束を果たす」ことを求めてきたという。
フレドリックは彼女のために、12年独りで引きこもっていた島を出て旅をする決心をする。
そしてその度は、フレドリックに出会いと過去の清算を持ち込んだ。

 全体的に暗く静か。
医師だったころのある事件がきっかけで孤島に引きこもって静かな暮らしをしていた男が、昔捨てた彼女と再会したことで様々な感情を思い出すようになる。
それなりに大変な旅をするわりに、フレドリックの静かな語り口のせいで淡々と進んでいく。
そのため印象に残るほどの出来事はない気がしてしまう。

シャーリー・ホームズとジョー・ワトソンの醜聞


 元軍医のジョー・ワトソンがベイカー街221bに帰ると、同居人の半電脳探偵シャーリー・ホームズが珍しく慌てている。
ジョーは9か月前に結婚して出ていったはずなのだ。
だがジョーには記憶がない。
さらにはやってきた依頼人が、「婚約破棄した女性に対して自分は愛していたのか調べてほしい」という奇妙なものだった。
ジョーと依頼人のおかしな記憶には関係がありそうだとして、2人は依頼人の婚約者が催す婚活パーティに参加することになる。

 ホームズとワトソン、さらにはモリアーティまでが女性という設定。
それになかなか慣れず、得体のしれないパーティ主催者であるエイレネと対峙することになってしまって置いてけぼりなまま終わった。

コンフィデンシャル・ゲーム


 ナポレオンを崇拝していた兄が死に、弟は、どうしても兄のことをナポレオンに知ってほしいとナポレオンを救出するたびに出る。
そこで、彼の人生をかけた一局をする。
 女性の選挙権をめぐり、精度を変えるために助力を得ようと、かつての女官が女王との一局に挑む。

 歴史に名を残した人たちとの、ある日の一局を描く。
無知な青年の思い込み、がすべて。

涯しない影に


 私立高校の国語教師・八木透が、自宅アパートで刺殺体となって見つかった。
警察は、被害者から金を借りていた同級生を容疑者として取り調べを開始する。
ところが、その同級生は無実を訴え自殺してしまう。
事件を大ごとにしたくない学園長、八木と関係を持っていた保護者、そして八木の婚約者と、様々な秘密が入り乱れる。

 それぞれ隠している事が、事件を解決させない。
わりに簡単に容疑者を決めつける警察や、学園を守ろうと裏で工作する者たちなどが混乱を大きくする。
いつもの赤川次郎らしい軽快さがあまりなかった。

キネマ探偵カレイドミステリー~会縁奇縁のリエナクトメント~


 映画にまつわる数々の奇妙な事件を解決してきた「引きこもりの名探偵」嗄井戸高久。
アパートの2階をぶち抜いて映画鑑賞に快適な空間を作り出し、唯一の友人である奈緒崎が代わりに推理を披露する。
そんな関係も大学を卒業してしまえば終わる。
名コンビの痛切なる別れ、そして再開は。

 シリーズものだったようだ。
映画に関する知識は面白い。
前作までのいきさつを知らないので、卒業と共に姿を消した奈緒崎を探して世界を旅してしまうほどの友情も、どこか親身になれずにいた。

姥捨て山繁盛記


 軽度の認知症を診断された亮輔は、山間にある高齢者介護・医療を目玉とする「シニアの郷」へ入居を決める。
そこは、いずれダムに沈む集落への移住の保証金を使って建てた施設だった。
ダム建設が進まないのは、建設に反対した1%の住人が、そこで自給自足の生活をしていたせいときき、亮輔は好奇心から覗いてみる。
すると、山のシニアの郷よりも生き生きと生活している人々がいた。

 すでに何億もかかっているダムの建設を今更中止にできないというメンツと、美しく作物も美味しい里を守ろうとする人たちとの長い戦い。
プロローグの部分ですでに興味を失ってしまい、読み進めるのに苦労した。
移住をしない人たちの生活は豊かに見えるが、破綻する危険が大きいのも見て取れるために手放して応援しずらい。
しびれを切らして強引な手段に出るダム賛成派との闘いが一応は終結するが、安心できる状況とは言えないためずっとハラハラして終わる。
それに、「姥捨て山」と「姥捨て村」の言葉が混在し、どちらに向かせたいのか曖昧。

神々の宴 オーリエラントの魔道師たち


 本の魔道師ケルシュが夜に頭にけがをした少年を拾う。
少年に付き従うジャッカルは、彼の闇の部分を切り出した存在だった。
生命の魔導師は亡霊ともいえる自分の傷の命乞いを頼まれ、自らの寿命と引き換えにしてまで救う命かと苦悩する。
黒い運命を呼吸する魔道師たちが、その力と共に背負う苦悩を描く短編集。

 それぞれの力が不思議で面白い。
魔導師たちの個性もステキなのに、短編で急に終わってしまうので物足りなく感じる。
いろんな魔導師がいる、それを想像するだけで楽しい。
急に断ち切られる話が消化不良のままで落ち着かない。