怪盗インビジブル


 うちの中学の七不思議には、どこにでもあるようなものと、他では聞かないようなものとがある。
その珍しい七不思議は、「人が一番大事にしているものを盗んでいくという怪盗インビジブル」がいるということだ。
そして、現場には決まってネコが描かれた黄色い付箋が残されているのだった。
受験勉強をするために卓球部を辞めたケンは、なぜかラケットが入ったカバンが無くなる。
後日カバンは見つかるのだが、なぜかラケットが入っていなかった。
 この学校に伝わる七不思議の「怪盗インビジブル」とは、いったいどんな奴なのか。

 大事にしていたアイドルとのチェキ写真、小学校からの仲良しの友達が持ち始めたスマホなど、本人にとって大事なものが消える。
そのせいで生徒たちに起こる変化の元となった「怪盗インビジブル」」は、昔学校で起こった事件が発端だったことが分かる。
大きな出来事で、その話自体は面白いが、それまでの生徒に起こる小さな怪盗事件は退屈だった。

リミックス ~神奈川県警少年捜査課~


 神奈川県警少年捜査課の高尾と丸木のところに、管轄内にある高校の生徒・賀茂が失踪したという報せが届く。
賀茂は古代の霊能者・役小角の呪術力を操る不思議な少年だった。
高尾を丸木は、賀茂が調べていくと、どうやら川崎の半グレたちのところへ向かったという。
怪訝に思いながらも辿っていくと、賀茂は半グレたちと「ただ話をしていた」だけだといい、やがて人気ボーカリストのミサキを巻き込んだ誘拐・監禁事件へと発展する。

 エンノオズヌが降臨するという賀茂。
その彼が半グレたちと接触を持ったというので大ごとになりかけたが、本人はケロリとしている。
ミサキが芸能事務所との契約をすると聞き、半グレたちや反社会的勢力との関りをも危惧されるが、結局は賀茂によって事件ではなくなっていく。
最後はちゃんと解決はするけど、やっぱり不思議な事は現実に持ち込むと、どこか胡散臭い。

二人で泥棒を: ラッフルズとバニ-


 バカラとばくで借金を負ったバニーは、憧れの友人・ラッフルズに助けを乞う。
するとラッフルズは、ちょうどやりたい仕事があったので一緒にやるかと誘ってきた。
しかしその仕事は、泥棒だった。
その仕事がうまくいき、借金を返せたバニーは、頭が良くてスポーツもできるラッフルズにどこまでもついていく決心をする。

 ローレンス・ブロックの「泥棒バーニイ」シリーズが面白かったので、バーニィの飼い猫の名前にもなっていた泥棒の話を読んでみたかった。
「アルセーヌ・ルパン」より9年も早く誕生し、有名で人気者らしいが、1作目ではさほど魅力を感じることはできなかった。
確かに泥棒としての腕はあり、頭脳もきれる。大胆で行動力もあるが、相棒であるバニーの扱いがひどいと感じてしまう。
でもそういえばホームズでもワトソンを友人というより都合の良い使い走りのような扱いだったから、この時代はこれが受けていたのかもしれない。
 気に食わない金持ちと魅力的な宝があれば仕事にかかるラッフルズ。
彼の考えや手口、行動とその理由がもう少し詳しく書かれていればいいのになぁと思った。

奥の奥の森の奥に、いる。


 日本には5か所、一般の国民には知らされていない政府が隠している村がある。
そこに住むのは男にだけ、15歳で〝悪魔を発症〞するという特殊な人間。
そして女は、悪魔を生むためだけに生かされていた。
少年メロは、母の犠牲のもと仲間と共に逃げ出すが、友達が次々と悪魔になっていき、ついにメロの体にも全長がやってきた。
ひそかに思いを寄せていた少女を守ろうとして、いつしか巨大な悪魔へと変身しえしまう。

 生まれた時から悪魔村で暮らしているわりに、みんな教養はあり、外界からもたらされるサンドイッチの袋を開けたりもできる。
人間牧場の話はよくあるが、これは15歳までしか生きられない悪魔の中から何十年に一人出るかどうかの能力者を育てるために政府がひた隠しにしている村から逃げ出すという。
めでたしめでたしのような感じだが不気味な不安は残る。
でも読みやすいのですぐ終わる。

化け者手本


 文政、江戸。
稀代の女形だった元役者の魚之助の足をなくしてから、鳥屋の藤九郎は彼の足となることにした。
ある日座元から呼び出され行ってみると、舞台の幕が下りたとき、首の骨がぽっきり折られ、両耳から棒が突き出た死体が、客席に転がっていたという。
その異様な死にざまのため、これは何かの見立て殺人ではと考えた二人だが、なんとこの奇妙な死人出はこれで二人目だという。

 シリーズ物の二作目だと知らなかったが、それなりに説明もちゃんとあったので困ることなく読めた。
ただ歌舞伎に興味がなかったり知識がなかったりするととても読みにくい。
メインの登場人物2人は個性的で魅力もあり、そのため歌舞伎の独特な言葉使いや振る舞いなどの部分になじめなくても読み進められる。
魚之助が足を無くす理由を知りたくなった。

ゴミの王国


 父の病的なほどの潔癖症の影響で過剰なきれい好きの日下部朝陽。
東京の民間清掃会社で契約社員として日々ゴミの回収をしている。
ある日、半年前に越してきた佐野友笑の部屋がゴミであふれていることを知り、恐怖に陥る。
人見知りしない仕事仲間兼映像アーティストのミントが朝陽を巻き込み友笑と仲良くなり、彼女の作るゴミアートをあるミュージックビデオを作ると意気込む。

 掃除をしないではいられない朝陽と、ゴミを集めてしまう友笑。
正反対の二人が仲良くなって、少しずつ変わっていく。
それぞれの育った境遇が極端なのも、2人の性分の対比がはっきり出てわかりやすい。
でもところどころで童話のような出来事や表現があって子供っぽい。
そのせいか、大きな問題も簡単に解決してしまってあっけない。

カラスは言った


 ある朝、窓辺に止まったカラスに言われた。
『やっと見つけました。あなたを探していました』
カラスが言った人物は知らない人だったが、僕は職場の先輩と共にそのカラスを捕まえることにした。
するとカラスは、今世間をにぎわせている森林保護の活動をしている団体から消えた人を探しているとわかる。
そして突撃系動画配信者がなぜか僕を追っているといわれ、カラスと共にそいつから逃げることとなってしまった。

 そのカラスがドローンであることが分かり、迷惑系だという動画配信者から逃げるために一緒に行動することになった僕。
逃走経路や宿も教えてくれ、いつしか仲間意識まで芽生える。
カラスと一緒という不思議さが面白く、時に見つかりそうになりながらのひやひや感も楽しい。
しかしすべてが解決し、日常へ戻った僕がカラスを操っていた人物と会った時から一気に失速し、これまでの一体感や高揚感が消えて白けた感じになる。
カラスの中身だった人の気持ちが少しも入ってこなくなり、相槌を打つだけで共感はしないという、カラスと出会う前の僕と同じような状態になってしまい、感情が浮かんでこなかった。
世間から距離を置いて暮らしていた僕に戻ったようだ。

にわか名探偵~ワトソン力~


 空いた映画館でゾンビ映画を見ていた警視庁捜査一課の刑事、和戸宋志。
上映が終わって明るくなると、観客の一人が死んでいた。
そのうえ扉に細工がされて出られない。これでは犯人はスクリーンの中にいた者だけだ。
そんな中、観客が推理を始める。
和戸の周りでは、皆が推理を始める。
 故障したロープウェイで、間違えて入ったヤクザの事務所で、仮想空間で、和戸の周りで起こる事件で和戸以外の名探偵が生まれる。

 和戸の周りだけに起こる、不思議な推理力の高まり。
そこに出くわした普通の人たちが探偵となって事件を推理するのは面白いし事件も不思議なものばかりだけど、なぜか淡々としすぎて盛り上がりもなく、解決はするが気分はスッキリしない。
和戸が周りの意見を聞くだけというのが他人事すぎるからだろうか。

紺碧の海


 八丈島で生まれた留吉は、罪人の流刑地という場所から出たかった。
大工の棟梁をしている同郷の半右衛門の誘いで横浜へ移り、奉公先で商いを覚え異国語も学び、ウィリアム商館で番頭を務めるまで成長した。
半右衛門と留吉は、ある日見かけた羽毛の布団に衝撃を受け、鳥島という無人島でアホウドリを捕獲する事業を立ち上げる。
羽毛は売れ、富を手にする半右衛門と留吉。
しかし半右衛門は次の無人島を目指すことを毛隠していた。

 日本が鎖国の間放置していた近海の無人島を開拓しようと生涯情熱を持ち続けた半右衛門。
彼を目標にして学び、商人として力をつける留吉。
最初は半右衛門の力強さがまぶしく、魅力に惹きつけられるように勢いよく進むが、だんだんワンマンが目立ち、嘘も混ざってくる。
八丈島の人々を自力で生きていけるようにという目標が、いつしか半右衛門の王国へと進む工程に寒気を感じてくるようになってきて、大きな影響力を持つゆえの恐ろしさが協調され、不安が大きくなってくる頃、留吉は半右衛門の元を去る決意をする。
最後はなんとも苦しい結末。

仕事のためには生きてない


 ロックを愛し、大学時代の友人とバンド活動をしている多治見勇吉。
広報部で社長のSNSへの発言が炎上し、その対応に追われている最中、勇吉はスマイルコンプライアンス準備室〉という部署に異動になる。
社長の言い出した「スマイルコンプライアンス」という実態不明の思い付きを社則に入れろというのだ。
会議のための会議、忖度管理職への根回し、時間切れまで繰り返される「充分な検討」という名の意味のないやり直しに疲弊する勇吉。
なぜ自分はこんなになって働いているのか、と自分に問う。

 『被取締役新入社員』を思い出させる。
無茶ぶりと丸投げに消耗しながらも、なんとか抜け出す方法を探る。
仕事が趣味とはいえないが、一日の大半を過ごす職場は少しでも楽しい方がいい。
少しでも快適な場所にしたいと願う者たちの戦い。