アンと愛情 和菓子のアン


 デパ地下の和菓子店「みつ屋」でバイトをしている杏子。
仕事は楽しく、お菓子もおいしいし、やってくるお客様との会話も楽しい。
何の不満もないのだけど、時々お客様から聞かれる和菓子の由来や謎に日々奮闘するうちに、ふと自信をなくしたりする。

 和菓子の可愛い姿と美味しそうな描写に気持ちが柔らかくなる。
登場人物も意地悪な人はいないし、困った客もいないため、和菓子のようなほんわかした気分のまま読み進められた。
美味しそうな和菓子と共に、優しい雰囲気を楽しめる話がほとんどだが、最後に杏子の子供っぽさが全開でガッカリしてしまった。
最後の短編を含めて、ほのぼのとしていて全体的に可愛らしいのに、その部分だけは気持ちがガサガサする。
でも、思わず検索してしまうほど美味しそうで可愛い和菓子たちに興味が出た。

ミレニアム 5 上: 復讐の炎を吐く女


 前作で人工知能研究の世界的権威バルデルの息子を助けたリスベットだが、その時の違法行為のせいで2か月の懲役を命じられた。
また、命を狙われているということもあり、最高の警備を誇る女子刑務所に収容されるが、そこでは囚人ベニートが誰よりも権威を誇り、看守さえ篭絡していた。
見過ごせないリスベットは、対決を決意する。
さらに元後見人のパルムグレンとの面会で、自らの子供時代にまだ秘密が残されていると気づき、ミカエルに頼んで調べ始める。

 この巻で、リスベットが最も信頼していた人物が殺されてしまう。
連絡を受けたリスベットは一見静かに聞いていたが、その実燃えるような怒りを押し殺していたのだろう。
また不審な人物が次々と出てきて、一市民となったリスベットだが平穏は遠いらしい。
いろんな不安と衝撃の予感をのぞかせて終わる上巻。

いちねんかん


 江戸の薬種問屋兼廻船問屋、長崎屋の主夫婦が、九州の別府まで湯治に行くことになった。
1年間長崎屋を預かることになった一太郎は、跡継ぎとしての本格的な修行となることに張り切っていたが、やはり都度都度寝込むこともする。
西から疫病がやってきていると噂をきけば、なぜか疫病神と疫鬼が長崎屋でケンカをすることになったり、押し込みに狙われたり、問題は次々とやってくる。
はたして長崎屋は、両親が帰ってくるまで無事でいられるのか。

 長い「若旦那」生活もそろそろ終わりになりそう。
跡継ぎとしての力量が試されると張り切って商いのアイデアをだしてみれば、大番頭にいいように扱われそうになったり、大阪の大店の娘婿を決める試験に立ち会うことになったり、妖たちの起こす騒動だけじゃないことも引き受けることになる。
これまでのように、割と気楽に行動していた一太郎のままではいかない。
区切りが見えてきてこれからが楽しみになる。

刑事さん、さようなら


 正月に呼び出された須貝警部補は、一件の殺人を処理後、後輩から「結婚したい女ができた」と相談された。
しかし数日後、後輩は自宅で首をつる。さらに二日後、風俗ライターが河原で殺されているのが発見され、続く人死に納得できない須貝はひそかに調査を進めると、後輩とライターのどちらにも関係のある女が浮かび上がる。
ところが、その女はどうやっても発見できなかった。

 いくつかの殺人。そして身寄りのない無害そうな男。
関係は想像がついたが、結末で驚かされる。
須貝は主人公だと思っていたのに違ったのか。
あまりにあっさりとした須貝の様子にしばらく茫然として、語られる二つの「正義」に考えが追い付かない。

無頼無頼ッ!


 「この世のすべてを目に焼き付ける」と不可思議を追い求めて旅をする蜘蛛助と、獣のような力で父を殺した仇を追い求めて蜘蛛助の用心棒を名乗り出た兵庫。
今度の二人の旅は、蜘蛛助がある女から不思議な鉄の門の噂を聞いた時から行き先が決まった。
渡された地図を頼りに行ってみれば、おかしな出会いと奇妙な不意打ちで二人は意地になる。

 山賊のような爺を助ければ片手を封じられ、化け物のような巨人と戦い、里人皆に存在を無視されている子供を助けたりと、それはそれは大冒険。
しかし、それらはすべてつながっており、やがて鉄の門のある場所へとたどり着く。
黄泉の民と名乗る人たちの名前が知れたときにはなんだかがっかりしたが、昔の話とうやむやにするわけではなかったので楽しく読めた。
二人の旅がもっと読みたいと思った。

礼儀正しい空き巣の死


 高齢夫婦が旅行から帰ったら、知らない男が浴室で死んでいた。
その男は靴をそろえ、脱いだ服をたたみ、割った窓ガラスも補強するという礼儀正しさ。笑い話のような事件から起こる、30年前からの犯罪。
 死んでいた男はホームレスと思われたが、その家が30年前に少女殺人事件の起こった隣家だったことを定年間際の金本刑事課長が思い出す。
単なる偶然なのか。

 出世欲の強い卯月枝衣子警部補が、金本の勘を引きついで調査していると、ちょうど起こったばかりの別の事件との関連まででてくる。
そうやって次々と関連事項が増えて聞き、とうとう30年前の事件にもつながってしまった。
男たちの思惑にあきれたり振り回されたりと、枝衣子は忙しくなるが、枝衣子自身にも大きな進退の決断へとつながり、事件の広がりと枝衣子の人生の広がりに興味を惹かれて目が離せなくなる。
柚木草平が、「小説の登場人物」として出てきた。
でも山川は登場人物としてちゃんと登場していた。
前作はちゃんと実際に警察にいた人物として登場していたのに?

ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士(下)


 回復すれば拘束されるリスベット。そして裁判が待っている。
それまでにザラチェンコと公安が隠していることを反論できない証拠と共に見つけ出す。
ミカエルは見方を増やし、こっそりリスベットと連絡を取り合い、さらにはエリカの窮地をも救おうとしていた。

 『ミレニアム』にはそれらを告発するスクープを盛り込み、リスベットの裁判にぶつけて発行する。
そして活躍したのはミカエルの妹アニカ。
彼女は今までほとんど出てこなかったのに、ここでは一番の主役。
まだるっこしくて堅苦しく、長いだけの裁判の様子が残っているのかと思うと憂鬱だったが、アニカの追い詰め方にはスピード感があって一息に読み進められた。
自由を手に入れたリスベットは、これから変わっていけるのだろうか。

ミレニアム2 火と戯れる女(下)


 警察、リスベットが仕事をしていたミルトン・セキュリティ、そしてミカエルたちの『ミレニアム』。
三者それぞれがリスベットを探していたが、謎は一向に解ける様子もなく、リスベットの友人のミミまで拉致され、暴力を受けてしまう。
しかしパソコンを通じてこっそりやり取りをしていたミカエルは、やがてザラの正体にたどり着き、リスベットもザラの居場所を突き止める。

 強烈な印象を残したリスベットの過去が語られる。
ただ、事実はそれほど驚くようなことではなかった。リスベットが起こした「最悪の事件」以外は。
血はつながっていても冷酷な人たちに、リスベットはどう立ち向かうのか。恐ろしい場面が多くて怖くなる。
 前回の事件以来、1年も姿を消していたリスベットは、今度はどんな行動に出るのか興味が沸いた。
死んでしまったダグとミアの件が薄らいでしまうようなストーリーは前巻と似ているが、これもまた続くのだろう。

ミレニアム2 火と戯れる女(上)


 リスベットの後見人のビュルマンは、復讐を誓い策をめぐらせていた。
そしてその頃、『ミレニアム』では、人身売買と強制売春の調査をしているカップルと特集号と書籍の刊行を計画していた。
上手く出版に持ち込めそうだという時、突然カップルとビュルマンが銃で撃たれて殺されてしまう。
その銃にリスベットの指紋がついていたことから、リスベットは殺人犯として指名手配され、様々なところから行方を追われることになる。

 リスベットが姿を消していた間の出来事が平和で穏やかだったせいか、その後の展開が急なうえ恐怖も大きい。
正体不明の「ザラ」という人物、カップルとリスベットの関係。
ビュルマンがもっと腹黒いかと思っていたらあっさり殺されてしまうこと、ミカエルにハリエットとも関係を持てるほどの魅力が感じられない事、リスベットのミカエルに向かう怒りが強すぎる理由、今はまだわからないことばかりで、頭がいっぱいになってしまう。

上流階級 富久丸百貨店外商部 (3)


 神戸の富久丸百貨店芦屋川店で敏腕外商員として働く鮫島静緒。
静緒を信用して仕事を頼んでくれるお客様も増え、ますます忙しく動き回る。
美容整形に興味があるけど怖くて静緒に話を聞いてきてほしいという女性投資家。息子の中学受験で義親からの圧力と本人の希望がかみ合わないという主婦。
著作権を侵害されているイラストレーターに弁護士を探したり。
そんな中、母に初期のがんが見つかり、静緒は急に将来に不安を感じ始める。
今のうちに家を買い、母と暮らす場所を見つけておく方がいいのか、そして幼馴染からのヘッドハンティング。
悩みが増える一方の静緒。

 今回もいろんな要望に応えるべく走り回る静緒。
中でも終活の一環でホームパーティーを開いた清家の方々とのやり取りは、慌ただしい静緒にほっと一息つかせる穏やかさと柔らかさがあってこちらも和む。
家出した勢いで家をキャッシュで一括購入するような人たちの言動は、決して我儘ではない上品さがあるため、力になりたいと思ってしまう魅力がある。