風景を見る犬


 那覇市大道の栄町にある売春宿の息子・香太郎。
「アミーゴ」でバイトをして、平和な夏休みになるはずだったのに、近所で2件の殺人事件が起きてしまう。
狭いご近所さんでそんな偶然はおかしい。
 自由で頼もしい近所の有力者の母、いつの間にか疎遠になっていた隣の幼馴染、女好きで悠々自適な近所のゲストハウス「アミーゴ」のマスター、そしてふらりとやってくる本土からの素性のわからない旅行客。
香太郎はいつの間にか、母や居候と共に事件を探る役割を担う。

 被害者の過去が分かってくるととたんに複雑になる事件。
捜査に顔を突っ込んで不思議と情報を集めてくる母達に振り回されているようで、香太郎はしっかり周りを見渡している。
そして皆は、沖縄のゆるりとした曖昧な雰囲気の中で何年も前の重い秘密を探り出してしまうが、当事者がすべていなくなり、彼らの気持ちを注がれた「今生きている者」を守るために考える。
 むやみに犯罪を暴くことをしない。

書店員と二つの罪


 書店員の椎野正和は、ある日届いた新刊の中に、17年前の少年犯罪の犯人が書いた告白本を見つける。
それは正和が中学の頃、女生徒が殺され、バラバラにされた事件。
犯人は正和の隣家の同級生だった。
それ以来、マスコミや世間から受けた扱いでひどく傷つき、正和は地元から逃げて一人暮らしをしていたのだ。
その本を売るのか、正義はどこにあるのか、モラルとしてどうか。
葛藤の挙句、読むことを決めた正和だが、そこにある違和感を抱く。

 過去のある犯罪を思い起こさせる。
一貫して否定してきた正和だが、内容から気づいた違和感の結果に自信の信条が揺らぐ。
ミステリーとしては楽しめたが、現実の事件を思い起こさせるために嫌悪感も同時に起こる。

猿の悲しみ


 弁護士事務所で”事務員”として働く風町サエ。
ちょっと正当じゃない手段も使って依頼主のために情報を集めてくるのが裏の仕事。
モデルとの離婚のためプロ野球選手に請求された1億もの慰謝料を減額するためモデルの過去を洗っていたら、ついでに頼まれていたマンションで女が殺された事件も妙に気になる。
そしてサエがつかんだのは、34年も前の出来事。

 二つの事件が交互にやってきて混乱する。
でもサエの言動がさっぱりしているので重苦しくならず、凜花という面白い人物も出てきてやり取りに目が離せない。
事件もうまい落としどころを見つけられるが、このシリーズはどうも男たちに分が悪いようだ。
凜花の含み笑いが怖くて美しい。
もう一度「笑う少年」を読み返したい。

笑う少年


 名目は弁護士事務所の調査員として、本当はいろんな手段で「調査」をしているシングルマザーのサエ。
芸能界を牛耳る小田崎貢司から、自身がプロデュースしたアイドルが自殺し、その両親から莫大な慰謝料を請求されているが、減額できないかと依頼が入る。
若い女の子だけで安売りピザの売り子をさせ、人気投票をしてトップをアイドルとして売り出している小田崎に、サエは気味の悪さを感じていた。
そしてまた別の方面から、今度は小田崎貢司の弱点を調べるよう依頼が入り、サエは経歴がほとんどわからないという小田崎貢司の身辺を調べ始める。

 サエの威勢のよさが気持ちいい。
かつて不良で、仲間とのいざこざで人を殺してしまい、しばらく服役していたというサエは、気が強くて度胸もあり、愛しい息子のために「1億円貯金」をしているという可愛い性格。
世間知らずで乱暴で、善人ではないという自覚があるが、卑劣な人物に思わず胸が悪くなるのを何とか抑えようとする姿は応援したくなる。
エネルギーの強さを行動力に変えているので、周りには同じようなエネルギーの強さの人が多くて個性が豊かだから飽きない。
そして表現の仕方が独特で面白いので一文が長くても心地よく、リズムよく読めるので没頭できる。

あなたの隣にいる孤独


 母と二人、「あの人」から逃げながら各地を転々としてきた無戸籍児の玲菜。
もちろん学校にも行ったことがないけど、優しい母にきちんと躾けられてきたから勉強も得意。
いつものリサイクルショップで出会った風変わりな男・周東に頼られなんとなく手助けするうちに、玲菜はこの店の人たちに癒されてしまう。
ある日、母から急に「あの人に見つかった。必ず連絡するから、帰ってきてはダメ」と言われ、周東のリサイクルショップに居候することになってしまった。

 戸籍がなく、学校にも通えず、友人もすぐに入れ替わるような生活をしているのに、玲菜は母と仲良しで、優しく育てられていて歪んだところもない。
そんな生活が続いていたのに、なぜか今の街にはなじんでいるような気がして不思議に感じていたら、突然やってきた逃亡生活の終わり。
理由はすぐに明らかになる。
事実に愕然とはするが反発する気は起きず、頼もしいリサイクルショップの店主と飄々とした周東のおかげで淋しくもないし、むしろこれで「普通」の生活が手に入るかもしれないと期待をしたりしている。
事件としては10年以上も続いた残酷な出来事なのに、とてもさっぱりとしていて涼しい風に吹かれているような気分の話だった。

アンと愛情 和菓子のアン


 デパ地下の和菓子店「みつ屋」でバイトをしている杏子。
仕事は楽しく、お菓子もおいしいし、やってくるお客様との会話も楽しい。
何の不満もないのだけど、時々お客様から聞かれる和菓子の由来や謎に日々奮闘するうちに、ふと自信をなくしたりする。

 和菓子の可愛い姿と美味しそうな描写に気持ちが柔らかくなる。
登場人物も意地悪な人はいないし、困った客もいないため、和菓子のようなほんわかした気分のまま読み進められた。
美味しそうな和菓子と共に、優しい雰囲気を楽しめる話がほとんどだが、最後に杏子の子供っぽさが全開でガッカリしてしまった。
最後の短編を含めて、ほのぼのとしていて全体的に可愛らしいのに、その部分だけは気持ちがガサガサする。
でも、思わず検索してしまうほど美味しそうで可愛い和菓子たちに興味が出た。

超高速!参勤交代 老中の逆襲


 「5日以内に江戸へ参勤せよ」と無理をさせられた「参勤」が終わり、湯長谷の者たちは帰りはゆっくり行こうと決めていた。
それぞれの特技を生かして江戸で稼ぎ、お咲を身請けし、物見遊山を夢見ていた。
しかし老中・信祝はまたも湯長谷藩に無茶をつきつける。
「あと二日のうちに交代を終えよ」さらに「江戸城天守閣の普請」との沙汰を出し、一同は青ざめる。

 行きも帰りも知恵で乗り切り、傍から見れば滑稽な事を真剣にやっている姿が想像できて楽しい。
それは、どちらも最後の最後まで助けてくれない上様が呑気すぎて腹が立つほど。
死んだと思っていた段蔵は今度も頼もしいが、ほかのメンバーの個性はちょっと埋もれ気味。
映画を見てやっと区別できた。

じい散歩


 明石家の主・新平は90歳手前で散歩が趣味。
老妻は近頃認知症の症状が出始め、新平の浮気を疑って時々しくしくと泣き出したりする。
さらに3人の息子は50ほどになっても一人も結婚しておらず、長男は引きこもり、次男は自称・長女、三男は甘ったれの借金まみれである。
そんな家族で問題ばかりだが、新平はカラッと笑って今日も面白い建物や美味しいものを探して散歩に出る。

 新平の朝のルーティンから始まり、妻・英子とのなれそめや仕事の様子など、新平の人生を振り返りながら、散歩で出会う珍しい建物や景色に癒される。
事件は起こらないが退屈ではなく、むしろ淡々と語られる新平の周辺の出来事がやけに楽しい。
家族や新平が関わってきた人たちそれぞれの人となりも良く描かれていて、一緒に歩きながら次々と紹介してもらっているよう。
散歩のスピードでゆっくりと楽しめる。

ジグザグ模様のストール


使用糸:パピー クイーンアニー (833)
編み図:大人の手編み冬こもの より
    ジグザグ模様のストール 260 g 8号針

ミレニアム 6 下: 死すべき女


 やっと身元が判明した浮浪者が、エベレストの案内人”シェルパ”のリーダーだったことから、国防大臣の過去が明らかになっていく。
その悲劇は、たくさんの人の人生を傷つけていた。
そしてミカエルがリスベットをあぶりだすために拉致される。
リスベットは、過去を向き合う決意を固める。

 妹カミラとの決着をつける時がやってきた。
ミカエルが追っている事件に首を突っ込んでいたら、とんでもない目にあってしまうリスベットだが、それでも見捨てられないのがリスベット。
ミカエルの犠牲に比べたらカミラとの決着はちょっと肩透かしだったが、カミラらしい最後と言えばそう思える。
でも、『ミレニアム』やエリカの存在が薄くなっているのが残念だし、ミカエルの活躍もなんだか曖昧になった。
大げさな兄弟げんかで終わった感じ。