幽霊絵師火狂 筆のみが知る


 料理屋「しの田」のひとり娘である真阿は、胸を病んでいると言われ、外に出ずに部屋で寝ているか本を読んでいることが多かった。
ある時、江戸からやってきた有名な絵師だという火狂が居候をすることになる。
火狂は怖い絵を描くというが、真阿は彼の絵が気に入り、時折部屋へ訪ねて行っては絵を見せてもらっていた。
そして真阿は、夢を見るようになる。

 その夢は、火狂の絵と呼応するように人や景色を見せる。
体が大きく、みすぼらしい姿をしている火狂なのに、よく笑い、真阿には優しい。
二人の不思議なやりとりが短いのに核心をついているし、若い真阿が気づいたことと、父ほどの年の火狂が考える事の違いが比較されてなるほどと思わせる。
そして他人事なのにわざわざ出かけて行って事情を探ってくる火狂。
悲しい出来事と優しい人の話で、予想外に心に残る本となった。