捜査一課OB-ぼくの愛したオクトパス


 初老の巡査長・鉄太郎と、若手キャリアの警部・賢人。
二人が今手掛けているのは風俗嬢ばかり狙った通り魔強盗事件。
頑固な鉄太郎に冷や冷やしながらも、捕まえた容疑者に賢人は違和感を覚える。
そんな時、母が浜辺で捕まえた傷ついたタコを飼い始め、ソクラテスと名付けたそのタコに触れられると不思議な予感を得られることに気づく。
頭の良いタコに導かれる賢人。

 赤川次郎のような読みやすさと、大倉崇裕のようなタイトルで、どちらも二番煎じ感たっぷり。
特に個性的な部分があるわけでもなく、すぐに埋もれてしまうような話なうえ、プロローグ的な周囲の説明が長くてうんざり。
視点がそれぞれの登場人物に何度も切り替わるため、いろんな角度から見られるがちょっとうるさい。
賢人の母の久子が癒しとなる。

書店員と二つの罪


 書店員の椎野正和は、ある日届いた新刊の中に、17年前の少年犯罪の犯人が書いた告白本を見つける。
それは正和が中学の頃、女生徒が殺され、バラバラにされた事件。
犯人は正和の隣家の同級生だった。
それ以来、マスコミや世間から受けた扱いでひどく傷つき、正和は地元から逃げて一人暮らしをしていたのだ。
その本を売るのか、正義はどこにあるのか、モラルとしてどうか。
葛藤の挙句、読むことを決めた正和だが、そこにある違和感を抱く。

 過去のある犯罪を思い起こさせる。
一貫して否定してきた正和だが、内容から気づいた違和感の結果に自信の信条が揺らぐ。
ミステリーとしては楽しめたが、現実の事件を思い起こさせるために嫌悪感も同時に起こる。

ミレニアム 6 下: 死すべき女


 やっと身元が判明した浮浪者が、エベレストの案内人”シェルパ”のリーダーだったことから、国防大臣の過去が明らかになっていく。
その悲劇は、たくさんの人の人生を傷つけていた。
そしてミカエルがリスベットをあぶりだすために拉致される。
リスベットは、過去を向き合う決意を固める。

 妹カミラとの決着をつける時がやってきた。
ミカエルが追っている事件に首を突っ込んでいたら、とんでもない目にあってしまうリスベットだが、それでも見捨てられないのがリスベット。
ミカエルの犠牲に比べたらカミラとの決着はちょっと肩透かしだったが、カミラらしい最後と言えばそう思える。
でも、『ミレニアム』やエリカの存在が薄くなっているのが残念だし、ミカエルの活躍もなんだか曖昧になった。
大げさな兄弟げんかで終わった感じ。

ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女 (下)


 リスベットはある目的のためにNSAに侵入したのだが、ファイルの解析に手間取っていた。
一方ミカエルは、殺されたフランス・バルデルの息子アウグストを助けて共に姿を消したリスベットが心配でならない。
アウグストを狙う者、ハッカーのスワプを狙う者、リスベットを憎む者、いろんな悪意が入り乱れる。

 ずっと続く緊迫感。そしてやっと姿を現すリスベットの妹・カミラ。
知らなければ作者が変わったと思えないほどだが、どうにもつかみにくい内容だった。
結局、そこまで大げさにするほどの話だったのかと思うほど感想もうかばず、リスベットの個性も薄まっている。

ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女 (上)


 雑誌『ミレニアム』は経営不振に陥っており、株式を売り、ミカエルにも特ダネはなく、精彩を欠いていた。
そんな時、人工知能研究の世界的権威であるバルデル教授が大きな問題を抱えているというタレコミを受け取る。
胡散臭いと感じたミカエルだが、そこにリスベットが関係していると気づいたとたん、興味を持った。
一方、アメリカのNSA(国家安全保障局)では、バルデル教授が産業スパイ活動をしたとつかみ、情報収取をしている最中にNSAのネットワークに侵入されていた。
リスベットはなにをしようとしているのか。

 これまでと同様、ミカエルたちが停滞している時に物語が始まる。
作者が変わってもここまで違和感がないものかと驚いたが、導入部である事の起こりが分かりにくいところまでそっくり。
一般市民になったリスベットがこれまで通り動けるわけがないだろうと思っていたが、そんなことはなく、やっぱり思いもかけない行動に出る。
他人に興味を持つことが増えたようだが、そのせいかこれまで秘密の顔だった「スワプ」がついに表に出てこようとしている。

ダブル・ミステリ (月琴亭の殺人/ノンシリアル・キラー)


 不思議な招待状で〈日本のモン・サン・ミッシェル〉と称えられる天眼峡へ呼び出された探偵の森江春策。
ところが、会場となる月琴亭ホテルでは、同じように様々な理由で呼び出された者たちが5人。
皆、それぞれに興味をそそられる内容が書かれた嘘の招待状だった。
そして不気味な陸の孤島と化したそのホテルで、拉致されてきたと思われる男が一人、拘束されていた。

 両側から、二つの物語が進行し、真ん中で一つになる。
面白い作りだが、事件自体はありふれたもの。
しかし登場人物が交差し、二つの事件を行き来するため、人間関係がややこしい。
ミステリとして近年ではアンフェアと言われる手段を使っていたことも、面白いが混乱される要因だったため、何度も読み返すことになる。
最後に人物相関図が欲しいと思ってしまった。

うさぎ幻化行


 飛行機事故で死んだ義理の兄。
リツ子のことを「うさぎ」と呼んでかわいがってくれていた兄が残したのは、音風景の音源だった。
しかしリツ子は、その音は自分あてではないような気がして、義兄の残した音を訪ね歩くことにした。

 事故から始まった物語は、静かでもの悲しい様子でずっと続く。
しかしリツ子は、音源を求めて旅に出た道中で出会う人たちとの妙な接点から不穏な矛盾を見つけてしまい、少しづつ正気を失っていくような感覚で読み進めていく。
判明する謎あり、曖昧にされた謎あり。
でもどちらかというと余韻に浸れる謎ではなく、ただ突然打ち切られたという感覚が強く残る。
すべては幻想で終わってしまいそう。

攫い鬼 怪談飯屋古狸


 毎度のように怖い話を聞かされ、そこへ行かされる虎太。
今度は女の幽霊に「子供を探して」と頼まれごとまでされる。
怖がりのくせに正義感を発揮して、幽霊の依頼を受けてしまった虎太が突き止めた、生きている者の仕業。

 調べていくと、ほかにも攫われた子供がいたことが分かる。
そしてなぜか、昔名をはせた泥棒の話もついて回った。
関係なさそうなその二つが、なんととても近くで起こっていたことに虎太は驚く。
ハッピーエンドで終わるのはいいけれど、それまで虎太が「古狸」で受けた仕打ちはちょっとひどすぎるんじゃないかと思ってしまった。

誰もわたしを愛さない 柚木草平シリーズ


 月刊EYESの新人・小高直海が新しい担当になり、女子高生がラブホテルで殺されたという事件の記事依頼を受けた柚木草平。
行きずりの犯行と思われ、警察もその線で動いているのだが、柚木は事件現場の写真から不審な点をいくつか見出していた。
新担当の小高や、被害者の友人の姉である美人エッセイスト、娘の加奈子や元上司の吉島冴子、またもや女たちに振り回される柚木のシリーズ第6弾。

 一見おとなしく真面目な被害者。しかし隠された銀行口座には大金が預けてあり、どうやら後ろ暗いアルバイトをしていたと気づく柚木。
刑事とは違った視点で人物を観察し、言葉で説明できないような勘や印象を突き詰めていく様子はちゃんと探偵なんだけど、ところどころで女たちに踊らされていると感じている柚木が、それでも毎回口説き文句は言ってしまうので急に信用できなくなる。そんな様子がどんな女にも何度も繰り返されるので、事件の印象が薄くなってしまっていた。
真相がわかっても、後は警察の仕事とばかりに放りだすため、なんだか消化不良で終わる。

猫をおくる


 いつの間にか猫が集まり、「猫寺」と呼ばれていた都内の木蓮寺。
そこには、猫を専用に扱う霊園がある。
高校教師だった藤井は、住職の真道に誘われて猫専門のスタッフとして家族として過ごした猫たちの供養をしている。
炉の温度や時間を工夫し、骨がきれいに残るように。そして小さな星を見つけられるように。
 猫と過ごした時間、猫に救われたり、癒されたり、共に生きたものをいたわる人たち。

 小さな骨の中になってしまった猫たち。
猫に選ばれた人間たちが集まり、ただ優しい時間を過ごす。
これまでの辛い出来事を隠して、死んでしまった猫を思い、今生きている猫たちとの時を描いた優しい物語。
童話のよう。