ねじまき片想い (~おもちゃプランナー・宝子の冒険~)


 おもちゃプランナー富田宝子は、もう5年も片思いをしている。
相手は外注のデザイナーの西島。本人は隠しているつもりだが、周りはみんなとっくに気づいている。
ある日西島の自宅兼オフィスのマンションで、今まで見えていたスカイツリーが見えなくなったと不満を漏らすのを聞いた宝子は、なぜ突然向いのマンションの屋上に貯水タンクが設置されたのか、頼まれてもいないのに調べだした。

 子供たちにひたすら夢を見せるおもちゃプランナーが仕事の宝子が、なぜか急に探偵まがいのことをし始めることに、切ない片思いの話がいっきにスリルを含んだものに変わる。
でも勝手に西島の周りの危険を取り除こうとする姿はある意味不気味なストーカーでしかない。
周りは面白いキャラクターがたくさんいるのに、最後はみんなしてどっちつかずの曖昧な気付きで終わっている。

彼女はたぶん魔法を使う


 元刑事でフリーライター、私立探偵でもある柚木草平は、キャリア組の元上司から、「調べてほしい事件」を紹介される。
「車種も年式も判明しているのに、犯人も車も発見されないまま」だというその事件は、やがてもう一つの殺人事件を生んでしまう。

 洗濯が趣味という柚木。女にはつるりと口説き文句がこぼれるほどの女好きだが、マメで面倒見がいい。
権力はないがそのぶん勘で真実に近づいていて、いつの間にかカギをつかんでいる。
登場人物は皆魅力的だが、最後はそんな女性たちにはぐらかされたような結果でなんだか落ち着かなかった。

邪悪(下)


 キャリーの予想通りの行動をしているのではないかと、すべてのことに不安を感じるケイ。
ハリウッド女優の娘と、ルーシーやジャネットが知り合いだったかもしれないと思い、ルーシーの唯一安心できる場所までもFBIに暴かれ、そのFBIの行動はきっとベントンも知っていたはずと、疑心暗鬼が膨れ上がる。
そして、最初に出向いた現場で聞いた大きな音の正体を突き止めるため、結局は最初の場所に戻ることになる。

 今回もケイの気分は振り回されるばかり。
そしてベントンに裏切られた気分になり、誰も信じられないと感じ、口喧嘩をしかける。
ここのところ、事件そのものはあまり印象に残らなくて、ケイの精神的な浮き沈みがメインになっているよう。
最後は何事もなかったかのような団らんで終わるのも同じ。
ただ、今回は衝撃的な虐待に出くわした。しかし肝心のキャリーは姿を見せずじまいなので、直接対決は持ち越しか。

邪悪(上)


 海の中で太ももを撃たれて2か月。復帰したケイが現場で検死をしていた時、ケイの携帯に1通のメールが届く。
そのメールには、17年前、ルーシーがまだFBIの寮にいた頃の映像が添付されていた。
一時停止も巻き戻しもできず、ただ見続けることしかできない動画に、ケイは仕事の集中力を乱され、すぐさまルーシーに会いに行く。
するとそこでは、FBIがルーシーの家の家宅捜索をしていた。

 天敵との命がけの再会の後、やっと仕事に戻れたケイのところに送られてきたメールは、キャリーが何年も前から計画していたと言わんばかりの不気味なメール。
そして、ルーシーが丁寧に作り上げた安全な場所を踏み荒らされている場面に出くわして、ケイは動揺する。
仕事どころじゃないケイの様子は、恐れでいっぱい。
やっと仕事に頭が向いたころにはもう次巻で、恐怖と不安のやりとりばかりの上巻だった。
検死中の事件と関係があるのかが気になる。

バチカン奇跡調査官 王の中の王


 オランダ・ユトレヒトの小さな教会からバチカンに、「礼拝堂に主が降り立って黄金の足跡を残し、聖体祭の夜には輝く光の球が現れ、司祭に町の未来を告げた」という奇跡の連絡が入る。
ロベルトと平賀は、42人もの目撃者すべてに話を聞き、主の足跡の調査を始めた。
小さな教会にのこされた聖遺物。そしてそれが収められていたステンドグラスのケースまで。
そこで二人が見つけたものは、大昔の隠し部屋と隠し通路、そして聖遺物が持ち込まれた時代の宝だった。

 一つの奇跡のはずが、当時の先端技術や流行にまで広がり、教会の存在した年月の長さを感じさせる。
追及自体は興味深いし、盗賊は天の罰を受けたような形で見つかって、奇跡調査は終了する。
それでもなんだか消化不良な感覚が残るのは、解明された現象がどんな風なのか、想像ができないからだろうか。

オフマイク(スクープシリーズ)


 継続捜査を担当する捜査一課特命捜査係の黒田と矢口。
黒田の同期・多岐川から二十年前の大学生自殺について、不審な点があるが確証がないため、こっそり調べてほしいと依頼される。二人が聞き込みを進めていると、「ニュースイレブン」の報道記者・布施もこの事件に目を付けていると知る。
交友範囲の広い布施と情報交換を始めた黒田たちは、IT業界で注目の藤巻という男に注目した。

 ニュース番組のメンバーと継続捜査の刑事たちの、奇妙な協力捜査。
交互に語られるそれぞれの捜査が、やがて20年間隠されてきた事件の真相を突き止める。
でも、事件を追う人物が多すぎて一人一人の印象が薄い。
布施の飄々とした雰囲気にのまれる感じで、みんながいいなりになっていくよう。
もっと個性のある人たちが欲しい。

わが殿 下


 藩の負債をなくすため、幕府から大きな借金をして銅脈を掘り当てたり、食う分だけの金しか使わない政策で3年をすごしたり、大野藩は借金という敵と戦うために様々なことをしてきた。
やがて完済のめどが立ち、一安心できるかと思いきや、夢を語る若者はお構いなしに使いまくる。
しかし、そんな者たちへ頼もしいやり繰りを続けていた七郎右衛門に、見方する者だけではなかった。

 藩の金巡りを良くしようと店を出して商人とやりあってみたり、荷を運ぶ船を借金して買ってみたりと、相変わらず大きなことを大きな苦労をしながらやる七郎右衛門。
しかし、そんな話もずっと続くと飽きてくる。
そして急に藩の中からの不満を持った奴らから狙われ始めるのは、今までなかったことがおかしなくらい。
面白いキャラクターはたくさんいたけど、その割に単調だった。

儀式(下)


 投資運用会社ダブルSとの訴訟の途中で殺された大学院生は、ルーシーとは知り合いだった。さらにベントンは捜査方針の違いでFBIから孤立気味。
遺体からは3色に輝く微物が発見されており、過去の事件との関連も見いだされてきて、事件は混沌としてくる。

 今回はベントンが窮地に置かれるが、これまで泰然としていたベントンが卑屈でひがみっぽい言動を繰り返す。
冷静でいようとしているが、印象がどんどん悪くなっていくのは悲しかった。
そして、わりと始めの頃に手がかりとして注目させた3色の微物が解決へのヒントになるかと思っていたが、まったく使われず、解決後に犯人の持ち物から発見されるだけという結果に。何のためにあれだけ注目させたのか。

儀式(上)


 ケイがインフルエンザで寝込んでいた頃、マサチューセッツ工科大で女子大学院生の変死体が発見される。
マリーノと共に出かけたケイは、遺体に不思議な光る微粉末を発見する。そこへルーシーのヘリでベントンまでやってきて、「ワシントンDC連続殺人事件と同一犯ではないか」と言う。

 これまで通り、前半は事件や遺体の発見までにやたらと長い説明が入る。
ケイの身辺に不審な人物がうろつくのもこれまで通り。やや飽きた。
どんな性質の事件なのかが分かるまでが長すぎるし、会話のやり取りにすれ違いが多いのも不自然で不愉快になる。
質問に答えないで自分の言いたいことだけを言う人物が多すぎる。

高校事変 VII


 新型コロナウイルスで日本中が大騒ぎしている中、センバツ高校野球の中止が決まり、結衣の元には、1年前の甲子園で起こった事件に関して、事情聴取をしに刑事たちがやってきた。
その時一緒にいた他の生徒たちも甲子園に呼び出されていることを知った結衣は、コロナ禍の今だからこその甲子園で行われる犯罪に気づき、一人何も知らされずにいた刑事と共に甲子園へ急ぐ。

 1年前の甲子園と、コロナ禍で閉鎖中の甲子園と、二つの時間が交互に語られる。
さらに甲子園の内部の様子を知らないために混乱する。
これまでは、結衣を消そうとする者たちとの闘いとして自分の身を守るためだったのが、少し前からはむしろ罪のない生徒たちを巻き込むまいとする思いの方が、結衣の行動エネルギーとなっているように思う。
現実に起きた事件や事故を参考にした罠が使われているのも、現実味のない戦いを妙に身近に感じさせる一因となっている。
少し前に気味の悪い登場をした化学教師と、結衣の他の兄弟の存在が最後に意味深に出され、次作への興味をそそる。