シャーロック・ホームズたちの新冒険


 トキワ荘で手塚治虫が消えた。住人たちは皆漫画家で、それぞれに締め切りを抱えていたが、力を合わせて手塚治虫の「次回作」を書きあげる。
「黒後家蜘蛛の会」に持ち込まれたアイザック・アシモフが書いたといわれる手紙の謎。
誰もが知る人物たちの活躍を描く短編集。

 それぞれに「こんなことがあったら面白い」といった要素が詰め込まれている。
短編なのでちょっとのぞき見する気分で読めるので気軽で、最後に作者によるちょっとしたコメントがついているため、なぜ彼らに着目したのがが書いてある。
個人的にはアシモフのロボット話が楽しかった。
タイトルのホームズに関係するのは1作だけなので、その点でいえばガッカリ。

異邦人(下)


 人気テニスプレイヤーを殺した「サンドマン」を追うスカーペッタ。
ドクター・セルフに振り回されながらも、ルーシーの力を借りてなんとか真実を探り出す。

 意外な血縁関係が明かされる。
でもスカーペッタはもう検死をほとんどせず、証拠品の調査の方に力を入れているよう。
そしてベントンからは指輪をもらったのにすれ違う日々。
唯一ブルが固い雰囲気を和らげてくれた。

「再考し、配役を変え、一新する」という作者の言葉は、作品に魅力を足す結果にはならなかったようだ。
マリーノが心配。

異邦人(上)


 女子テニス界の人気者だったドリューが遺体となって発見された。
その様子は異様で、眼球がくりぬかれ、砂を入れられたうえで接着剤で瞼をくっつけられており、さらに複数個所で肉がえぐり取られていた。
イタリア政府から依頼を受けた法医学コンサルタントのスカーペッタは、ベントンと共に調査に乗り出す。

 もう過去の話となると思っていたベントンの脳の研究や、ドクター・セルフまで再登場してきた。
セルフとベントンのかみ合わない会話に息苦しくなり、マリーノの壊れ具合は痛々しくて見ていられない。
一貫してまっとうな人物であったローズにまで災難が訪れ、読んでいて気が滅入ってくる。
この雰囲気をがらりと変えてくれる人物が登場してきてほしい。

輪舞曲


 松井須磨子の舞台が忘れられず、女優になると決心した繁。
夫と子供を残して東京へ向かい、劇団でキャリアを積み、人気を得る。
女優・伊澤蘭奢の人生を、4人の男の目から描く。

 一大決心をして上京し、あくまで舞台にこだわり、40歳で死ぬと言い、愛人や息子との時間を楽しんだ女性。
いろんなことが起こるが、まるで教科書のように淡々と紡がれるだけで、そのうえ4人から見た彼女像ということもあり、
印象が一貫しない。
さほど活躍したようにも見えず、「二十歳になったら死ぬんだもの」と言っていた駿雄の友人の妹のほうがよほど印象深かった。

神の手 (下)


 遺体の体内から見つかった薬莢は、2年前に押収されたショットガンだった。
殺される直前には、庭のグレープフルーツの木に今はもう使われていない印をつける不審な人物が目撃されている。
また別のところでは、ベントンが調査していた被験者である囚人のDNAが、ルーシーが探していた魅惑的な女性と一致したりと、不可解なことが続く。

 ひどい経験が起こした人格障害が、今回のカギ。
不審な行動をする人物が多くて混乱したが、みな同じ要因だったことで納得はいくが、すっきりしない。
突然終わる結末が、すべてを解明されたわけではないような気がするためで、せっかく複数の人の目線で書くことに変えたのに、スカーペッタやベントン側以外からの解釈がされずに終わっているせいである。
書き方を変えたのは犯人側からの目線を盛り込むためではなかったのか。

痕跡 (下)


 死因不明の少女の口に残っていた微物と、その2週間後にトラクターに轢かれて死んだ成人男性の遺体に残っていた微物が同じものだったことで、ミスでなければ何らかの関連があるとして調べ始めたスカーペッタ。
次第に気づき始める不穏な監視者の元へ、スカーペッタはマリーノとルーシーの手を借りて乗り込んでいく。

 今回はマリーノが大した失敗をやらかす。
そのおかげで得たものはマリーノの大嫌いな変態たちの性癖の情報だった。
彼はいつも損な役ばかりな気がして気の毒になる。
そしてこれまでの性格異常な犯人とは違い、陰湿に思い詰める犯人だったせいで、マリーノが得意な追い詰め方をした。
この事件はマリーノのための事件だったのかもしれない。
 ところで、伏線としていろいろ張られていた出来事は大きな絡みにもならず、やっぱりいらなかったんじゃないかという気もする。

黒蠅 (上)


 バージニアの検屍局長を辞め、フロリダに移り住んだケイの元へ、死刑囚となった「狼男」から手紙が届く。
悪夢はまだ終わっていなかったことにおびえるケイ。
その頃、女性ばかり何人もが行方不明となっている事件も発生していて、「狼男」の一族との関連に感づいている人物がいた。

 検死局長を辞めたケイは、主人公から脇役へと移っていったかのよう。
さらに、いろんな人物からの視点にころころと移り変わるため目まぐるしい。
「私」という言葉でケイが語ることはなく、「スカーペッタは」と他人のような視点で描かれていて、言動もかつての勇ましさはない。
モリアーティと共に谷に落ちたホームズをよみがえらせたのと同じような手でベントンを出してくるのも不自然。

審問(下)


 ケイの審問の日が近づいてくる。
これまでの事件を洗い直していくうちジェイの身元が怪しくなってきた。
自殺した少年のことが気になるケイは、近くのモーテルで殺された人物がカギを握るのではないかと気づく。
そしてケイの判決は。

 「警告」から続くこの事件がやっと解決する。
ケイが感じたジェイへの違和感が意味を持ってくるまでは、ジェイの正体不明感が仕事柄のせいなのか区別がつかなかった。
検死局長を辞めると決めたケイだが、仕事を辞めて「検視官」としてのストーリーはどうなるのか。

審問(上)


 「狼男」に襲われ、危ういところで助け出されたケイは、精神科医である友人のアナのところへ身を寄せる。
しかし、いけ好かないと思っていたブレイ副所長が殺され、その容疑はケイにかけられた。

 ますます追いつめられるケイ。
不気味なだけでなく、あざとい手で回りを煙に巻く知能をもった「狼男」によって、ケイは一つの決断を下すことになる。
政治的な取引がメインのこの巻では、特にケイもルーシーも役に立たない。
アナの存在感が一番大きかったが、それはアナの家の中だけのこと。
物語が進んでいる雰囲気がない。

リケイ文芸同盟


 数学をこよなく愛する根っからの理系である主人公・桐生蒼太。
彼が務めるのは出版社の文芸編集部。理論的なことが全く通用しない「感覚」で仕事をする人たちとの葛藤のお仕事小説。

 全く違う分野に一人入り込むことの難しさは、言葉にしにくい。
感覚も常識も考え方も違うために話がかみ合わないもどかしさは蓄積するから。
 そんな環境を生き抜こうと決めた桐生が、腐れ縁の同期と起こした理系文芸同盟が、ミリオンセラーを出してやると意気込むところはまさに「お仕事小説」。そして、半ばに危機が訪れ、「4章でピンチは一度ではなく、畳みかける」を4章で起こす。最後にタイミングを見計らった驚きのニュース。
小説内で起こす定石をすべて盛り込んであるし、話の中で出てくる小説たちともリンクさせている。
ただ、中身が共感できるかのみ。