藍色ちくちく-魔女の菱刺し工房


 菱刺しの工房をやっているより子先生と出会ってから、憂鬱から抜け出せなかった綾の生活はがらりと変わる。
なぜかついてくる賢吾と共に工房へ通うようになり、そこで出会う人たちとの交流で目標を見つける。
母の認知症に悩む女性や、より子の孫で引きこもりの亮平など

、菱刺しを通してつながる人々。

 いろんな悩みを抱えた人たちが、どんな経緯でここに来ることになったのか、一人ひとりの背景を取り上げている。
菱刺しの歴史や模様の意味などもところどころで詳しく描かれ、知らなくても充分に楽しめ、興味を持てた。
実物を見てみたい。

競争の番人 内偵の王子


九州事務所への転勤となった白熊楓。
昔からいる人たちの結束が強い場所で、なかなか話をしてもらえず、パワハラ気味の上司と敵意むき出しの同僚、そして人当たりが良く誰に対しても優しいが自由な上司に疲れ切っていた白熊。
呉服業界のカルテルを探るうち、巨大なカルテルに行きつく。
本部のメンバーもやってきて、それぞれ別口の摘発に動くうち、地元の暴力団も絡むと知る。

 九州へやってきた白熊は、知り合いもなく、同僚ともなじめず、疎外感を感じていたが、本部の仲間がやってきてからは調子を取り戻す。
白熊と小勝負の関係も変わらずで安心する。
そして解決を見る頃には、また白熊は地元の大きな力によって戻されることになる。
普段は知ることのない仕事と、地域の権力者、個性的な登場人物の多さで全く飽きない。

屍人荘の殺人


 神紅大学ミステリ愛好会会長の明智と助手の葉村は、映画研究部の夏合宿に強引についていく計画を立てていた。
その合宿はなにやら曰くがありそうで、直前になって脅迫状が届いたため、多数のキャンセルが出たという。
一緒に参加してほしいと頼まれた同じ大学に通う探偵少女、剣崎比留子と共にペンションへ向かった明智と葉村だが、そこで予想もしない出来事に巻き込まれ、宿泊先のペンションに立てこもりを余儀なくされる。
果たして生き残れるのか!

 第27回鮎川哲也賞受賞作。
王道のミステリという感じのタイトルに、夏のペンションに閉じ込められるクローズドサークル。
そして次々と起こる殺人という、まさしく王道。
だけど襲ってくるのは人だけではなかった。
王道の中にちょっとおかしな点も入れ込んで、ダジャレまで混ざりこむのでギャグホラーの様子もあるが、最後はやっぱり王道の動機を持った犯人。
読みやすくてしっかり作りこんであった。
あれ、明智は?という肩透かしもあったりして、なんだか怖い思いはあまりしなかった。

アミュレット・ホテル


 このホテルには、本館と別館がある。
駐車場も通路も分けられた別館には、特別な会員しか宿泊どころか立ち入ることもできない。
そこは、二つのルールさえ守ればなんでも揃い、警察も介入しない犯罪者だけが使うことができるホテルだった。
しかしそこで、殺人事件が起こる。このホテル専属の探偵である桐生は、独自に調査を進め、犯人には相応の対価を支払わせる。
つまり、命を奪った者にはその命で、犯行方法と同じ方法で。

 犯罪者の集まるホテルでおこる、犯罪。
それを調査して推理し、犯人を特定して処分を下す。
犯罪者が集まるだけあって、その手口は普通ではない。
それらが解き明かされる過程は面白く、また読みやすいので重苦しい雰囲気もなく読める。
ホテルの存続にかかわるような事件も起こり、桐生も命を懸ける推理をする。

競争の番人


 公正取引委員会審査官・白熊楓は、ウェディング業界の価格カルテル調査をすることになった。
東大首席・ハーバード大留学帰りのエリート審査官・小勝負勉とチームを組み、あらゆる調査を進めるが、調査対象のホテル社長が強かで、なかなか決め手をつかめない。
それどころか逆に冤罪と責められ、楓たちは方針の変更を余儀なくされる。
どうしても証拠がつかめないまま罠にかけられ、裏切られたりしながら、楓たちはあらゆる角度で調べを進めていくと。

 ストーリーに覚えがあると思ったら、ドラマでもやっていたようだ。
体育会系の楓と、頭脳派の小勝負との対比も面白く、読みやすい文章でドキドキの調査の場面も多く、どんどん進む場面に目が離せない。
どんな仕事をしているのかイマイチ知名度のない仕事にフォーカスを当てたお仕事ミステリー。

パリ警視庁迷宮捜査班


 パリ警視庁警視正アンヌは、停職処分を受けた。
屋っと復帰が決まったと思ったら、上司が新たに作る問題児寄せ集めの部署をまかされることになる。
そこで未解決の事件を選び取り、いくつか調査を始めたら、それらにはつながりがあることが見えてきた。
これは仕組まれた班に違いないと考えたメンバーたちは、20年前のフェリー沈没事故へと注意を向ける。

 個性豊かなメンバーたちが、一見協力しそうにもない事なのにみんなの注意を惹き、そこから解決へと結びつけていく。
途中挟まれる回顧録と、メンバーの思いなどが記憶に残っていなくて読み直したりしていたら、気になるところをどんどんさかのぼる形でじっくりと読んだ。
このパターンは多く、割とオーソドックスな形だったので安心して読めた。

真夜中法律事務所


 検事である僕・印藤累(いんどう るい)は、ある夜幽霊と出会ってしまった。
それは突然の異動でプレハブ小屋に移動させられ、世間を騒がせた検事による証拠隠滅と情報流出の事件の後始末を命じられた頃だった。
出会った幽霊は、とある弁護士の元へと印藤をいざなう。
そこには、死者を現世に縛り付ける現象を知り、成仏させようともがく一人の女性がいた。

 幽霊が留まる理由がかなりしっかり設定されていて、それをうまく使った決着で妙な満足感があった。
検事の不祥事も単なる利己的な犯罪とは言えず、なんとも言えない哀しさは残るけど、それでもただの幽霊話ではなかった。
死者に関しても、不気味だとか復讐や怨念を持った存在としてではなく、ちゃんと生前と同じ性質の意思を持った存在として書かれていて、むしろ親近感を持たせて犯罪者との対比が協調されていた。
推理小説のような読後感。

倒産続きの彼女


 弁護士の美馬玉子は何もかも恵まれている先輩の剣持麗子が苦手だった。
なのに一緒に「会社を倒産に導く女」として内部通告された経理課の女性の身辺調査をすることになる。
確かに、彼女の年収では不似合いなブランドものを持っているし怪しいのだが、その会社での聞き取り調査をしている時、隣の部屋で首を切って死んでいる社員を発見してしまう。
そこは、通称『首切り部屋』と呼ばれる部屋だった。

 今回の主人公は剣持麗子の1年後輩。
訳あって祖母と二人暮らし。そして何でもできて美人で自信家の剣持麗子が苦手。
そんな彼女が麗子と組んで調べ始めた案件は、やがて自分の過去を知る事件となっていく。
思いのほか大きな事件となって驚くが、なんだかいたたまれなくなるような事実が判明して辛くなる。
だけどやっぱり、ドラマで重要な人物だった篠田が出てくる話が読みたい。

泥棒はスプーンを数える


 古本屋にやってきた客から頼まれた仕事を難なくこなしたバーニィ。
するとその客・スミスは、次の依頼をしてきた。
そんな中、刑事のレイが店にやってくる。
大きな家で一人暮らしをしていた老女が殺されたらしい。
いつものようにバーニィに容疑がかかっているのかと思いきや、なんと今度は恥を忍んでバーニィに知恵を借りに来たという。
自分のためではないのに、バーニィはこの事件を解決しなければならなくなる。

 今度はレイの方からバーニィの推理を聞こうとやってくる。
泥棒なのに探偵をやってきたバーニィにとって、これは一大事である。
自分のためではないのに仕事をするバーニィ。
でもちゃっかり美女と知り合いにはなっている。
これがきっかけで探偵をまっとうな仕事としないかと言われたバーニィだが、やっぱり彼の矜持には合わなかったようだ。

やさしい猫


 シングルマザーの保育士・ミユキさん。
災害地へのボランティアで出会った8歳年下の自動車整備士であるクマさんと、一年後に偶然再会してから付き合い始める。
そして何度目かのプロポーズでやっと結婚を決めた頃、二人に大きな問題が立ちはだかる。
ただ家族で一緒に暮らしたいという希望が奪われそうになり、必死で抵抗し戦う家族の姿を描く。

 語り部はミユキさんの娘であるマヤ。
誰かへの手紙のような語り口でさらさらと綴られるが、クマさんが外国人であるという理由で起こる大きな問題が暗くて大きな影を作る。
そして、勝率の低い戦いにも負けるもんかと乗り出す3人。
入国管理局で起こる事件が時々ニュースになるが、それを題材にしているので生々しい場面もあって、時に読むのが苦しくなる。
これは問題提起のために書かれた物語。