遺品博物館


 一見して年齢が分かりにくく、特徴もない男は、吉田・T・吉夫といった。
「遺品博物館」に収蔵する品を選ぶため、生前に依頼をうけた人から一つ、遺品をもらいにやってくるらしい。
金銭的価値は関係なく、死者の人生において最もふさわしい遺品を選ぶという。
 そんな吉田が引き取りに来た遺品にまつわる、依頼人と家族の話。

 遺産を残したことで起こる親族の争いや、死んでからわかる依頼人の交友関係、そして隠してきた思いなど、それぞれの人生が語られる。
悲しみに沈んだり、分け前を増やそうとしたり、出し抜こうとしたりする親族をしり目に、吉田は依頼人とその周辺を冷静に観察している。
そんな吉田の言動が時にコミカルだったり軽快だったりするため、全体の雰囲気もどこか明るくて読みやすい。
妙に感情移入することもなく、自分のことは謎のまま曖昧にして、依頼人の最も象徴的な遺品を選び取る様子は、何よりも依頼人の人柄を浮きだたせている。
こんな博物館があるならぜひ見てみたいし、依頼しておきたい。