鯉姫婚姻譚


 商才がないと早々に見切りをつけられ隠居の身となった呉服屋の跡取り息子・孫一郎。
身の回りの世話をする婆さんとひっそり暮らす家には、大きな池があった。そして父が家と共に残したのは、池に住む人魚だった。
ある日孫一郎は、まだ10歳ほどにしか見えないその人魚のおたつに求婚される。
そして、人と人ではないものの結婚の話をねだられ、決して幸せにならないと語る。

 人ではないものとの婚姻の話は、昔ばなしにもたくさんある。
知っている話もいくつかあったが、どれも幸せなのは本人たちだけで、周りは死んだりひどい目に合ったりする。
でもなぜかどれも、人が人外に歩み寄る話ばかりだった。
人に寄り添い、人の世界で生きようとしたものは少ない。
孫一郎の最後もやはり、傍から見れば恐ろしい、おたつからの究極の愛情をもらうことになった。