泥棒は深夜に徘徊する ― 泥棒バーニイ・シリーズ


 仕事の決行は週末と決め、今夜は下見だけのつもりだったのに、どうしても別のいい場所を見つけてしまったら立ち去れなくなったバーニィ。
しっかり道具も持っていたことから、忍び込むことに成功するが、そこでまたもや住人が帰ってきてしまう。
ベットの下に隠れたバーニィ。
そこで彼は、なんとも嫌な場面を見てしまう。
さらに、偶然その一画で別件の強盗殺人が発生しており、街角の防犯カメラに姿をとらえられていたために、今度は殺人の容疑者になってしまう。
そこでバーニィは今度も自分の無実を証明するために走り回ることになる。

 偶然だと思われたことが仕組まれたことだったり、そこにバーニィのちょっとした嘘も混ざってますますややこしくなってくる。
そして国をまたいだ犯罪に絡んできて歴史の知識も手に入り、バーニィはすっかり探偵となってしまう。
今回はちょっとわかりにくかった。
最後のキャロリンとの種明かしが楽しみになる。

累犯障害者


 刑務所内にいる受刑者には、障碍者も多くいた。
彼らは障害があるがゆえに、裁判で自分の気持ちを表現することができずに重い刑をそのまま受け入れてしまっていたり、通常の作業ができないために隔離されていたりする。
精神障害者、知的障害者、認知症老人、聴覚障害者、視覚障害者、肢体不自由者の彼らの話を聞いて、今ある日本の問題を訴える。

 福祉の手からすり抜けてしまった彼らがどうして罪を犯したのか。
そしてそんな彼らは出所後どうなるのか。
障害の理解が充分ではない時、どう扱っていいかわからずに放置される。
珍しく小説ではないけど、読みやすく、わかりやすかった。
福祉がいかに届きにくいかと強調されていた。

泥棒はライ麦畑で追いかける―泥棒バーニイ・シリーズ


 ある日、古本屋にやってきた美女に頼まれ、有名作家が昔書いた手紙を盗み出すことになったバーニィ。
ところが、作家の住むホテルへ忍び込んだら、またもや死んだ人間がいたのだった。
 正体を隠し続けた作家が、これまで書いた私的な手紙が競売にかけられるとなって、コレクターや恋人だったという人物たちが集まってきて、今回もにぎやかな謎解きとなる。

 またもやバーニィは、自分にかけられた殺人容疑を晴らすため、事件を解決する羽目になる。
そして今回は、ちょっと粋な方法も使って解決させていて、これまでの同じような印象を変えた結末となった。
さらに、前回の登場人物が奇妙な友人となって加わり、彼が面白い位置にいるので、今回の作家もまた出てきてくれるときっと楽しいと期待をする。

泥棒は図書室で推理する―泥棒バーニイ・シリーズ


 失恋の痛みを癒すために、バーニィは田舎の古い屋敷を改造したカントリーハウスへ行くことにした。
でももちろんそこはバーニィだから、ただ行くわけではない。
ホテルの図書室にあるというレアな初版で稀覯本があるというので、いただきに行くのだ。
キャロリンと猫のラッフルズを連れて向かったそのホテルは、どこもかしこも本だらけだったが、大雪に阻まれて陸の孤島と化していた。
そして起こる殺人事件。またもやバーニィは、探偵の力を発揮する羽目になる。

 失恋した相手は前作のイローナかと思ったら違っていた。
その時からいくらか時間がたっていたらしい。
雪で閉ざされ、橋は落ち、電話線が切られたホテルで起こる連続殺人というよくあるシチュエーションだが、バーニィの関心は稀覯本であり、事件の解決に乗り気ではなかった。
それでもキャロリンにせっつかれ、屋敷を調べ始めるバーニィ。
そして再開した恋人とは完全に分かれることを決める。
その決断をした理由を知り、より彼のことが好きになった。

泥棒はボガートを夢見る―泥棒バーニイ・シリーズ


 古本屋へやってきた美しい客に一目ぼれしたバーニィ。
その美女イローナとボガートの話で意気投合し、その夜から15日連続でボガートの主演映画を見に通う。
しかし、旧友からバーニィの話を聞いたというある客が持ち込んだ仕事をうけて侵入した高級アパートで、なんとバーニィは失敗してしまう。
恋をしたバーニィが見失ったものは、恋人か仕事か。

 恋をした女性は、バーニィに仕事を依頼した人物ともかかわりがありそうだし、依頼されて盗んでくる予定だった書類はどこへ行ったのか。
依頼者が死んでしまい、犯人はわかったのにバーニィにはできることがない。
今回のバーニィは、皆を集めて犯人を追い詰めるという名探偵もやるけど、どこか締まらない役どころだった。
恋に浸り、仕事に失敗し、犯人は突き止めるが逃げられ、追い詰めることができない。
それでもなぜか不思議と情けなくない。
不思議な泥棒さん。

育休刑事


 捜査一課の巡査部長である秋月は現在、育休中である。
男性刑事として初めての1年間の育児休暇中、生後3ヶ月の息子を連れていると、世界が今までと違った見え方をする。
そしてトラブルを呼び込む体質の姉と一緒に出掛けていたある日、偶然入った質屋で三人は強盗に出くわしてしまう。
育休中なはずなのに、被害者であるはずなのに、息子を抱いたまま捜査に加わることになってしまう秋月。

 育児中であるがゆえに気が付く目線で捜査をするという特殊なタイプ。
現在の社会問題もいくつも盛り込まれていてなるほどと思える部分も多いが、いくつも続くとうんざりしてくる。
縁のない人でも気づきにはなるが、ちょっと盛り込みすぎでしんどかった。

赤目姫の潮解 LADY SCARLET EYES AND HER DELIQUESCENCE


 早朝、手漕ぎのボートで三人、人里離れた屋敷へと向かう。
私と鮭川は、声を持たない美しい赤目姫といられることで最上の喜びを感じていた。
そして訪れた屋敷で、さらにはチベットやナイアガラの滝で、それぞれが赤目姫と過ごした時間を話すうち、意識も時間も錯綜し、やがて混線していく。

 視点も時間も入れ替わり、また人物も入れ替わったりしていくため、どれが本来の自分の感情なのかすらわからなくなる。
もちろん脈絡もないし、結末もない。
ストーリーが破綻してただ困惑するままに終わった。
この手の物は苦痛。

名探偵のままでいて


 第21回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。
ミステリー好きで、小学校の校長だった祖父は、幻視や記憶障害といった症状が現れるレビー小体型認知症を患い、介護を受けながら暮らしていた。
しかし孫の楓が周りで起こった不思議の話を始めると、かつての知性が顔を出し、さらりと解き明かしてしまう。
だから楓は、そんな祖父に会いたくて、今日も祖父の住む家へと向かう。

 先生が子供たちの目の前で突然失踪してしまったり、小さな居酒屋で起こった殺人事件や、さらには楓に付きまとう視線の謎など、どれもちょっと不思議で、ちょっと怖い。
楓に問題を出しながら理論的に謎を追う祖父は、老いたとはいえ素晴らしい推理力。
こんな風に優しく語り掛ける謎解きは、あまりなかったように思う。

泥棒は野球カードを集める


 このところ古本屋の仕事で満足しており、しばらくは泥棒を辞めていたバーニィ。
しかし大家から、急に家賃を上げると言われ、困り果てる。
そしてちょうどミュージカルのチケットを買おうと並んだ列で、裕福な夫婦が旅行に出るという話を小耳にはさんだ。
バーニィは家賃を払うために仕事をすることにしたのだが、入り込んだ部屋で、またもや死体を見つけてしまう。

 仕事先で死んだ人間と出会うのが上手いバーニィ。
今度もまた、美女に利用され、死体にも出会っている。
関係してくる人たちが皆誰かを利用してくるためにややこしかった。
警察官であるはずのレイがバーニィに解決をせかしてくるという妙な関係もすっかりなじみ、レイが出てくると、ここで流れが切り替わるという指針にもなっている。

泥棒は抽象画を描く


 友達のキャロリンが飼っている猫が攫われた。身代金は25万ドルで、払えなければある絵画を持ってこいという。
美術館のものは警備が厳重なので、個人所有の物を狙おうと計画たバーニィは、とある高級なマンションへ忍び込む。
ところがそこにあったはずの絵が無くなっていて、代わりに住人の死体があった。

 バーニィの入るところには必ず死体がある。
無くなった絵はどこへ行ったのか、バーニィは捜索を開始するが、今回は登場人物が多すぎて把握しきれなかった。
さらに同じマンションでもう一つ死体が出てきてからは、美術館や銀行の人たちも巻き込んでどんどん話が大きくなる。
そしてバーニィは泥棒なのに、皆の前で犯人を指し示すという探偵となる。