明智恭介の奔走 屍人荘の殺人シリーズ


 神紅大学ミステリ愛好会会長・明智恭介。
探偵に憧れ、謎を求めてあちこちに出入りしては名刺を配り歩く変人。
サークル内で起こった不可解な盗難、商店街での噂の真相、わずか数分で起こった試験問題の盗難騒ぎなど、身近で出くわす日常の謎に迫る。

 『屍人荘の殺人』より前に葉村と共に挑んだ謎。
変人だが、ミステリを求めるエネルギーは大きい。
屍人荘であんなにあっさり姿を消したのが今でも意外なほどの存在感で、葉村から見たちょっと滑稽な様子がまだ未熟な探偵感が出ていてでおかしい。
それに確かに小さな謎だが、商店街の謎はほっこりさせれたし、シリーズにあるような政治的な陰謀がない分読みやすかった。

乃井探偵社は今日も倫理観ゼロ


 女性専用の探偵事務所である乃井探偵社は、従業員3名ももちろん女性。
ある日やってきた女性の依頼は、「娘を殺した犯人を警察より先に探してほしい」というものだった。
若い女性がさんざん殴られた後に首を絞められて殺された事件は、警察の調べをもってしても容疑者は浮かんでこなかったという。

 ある程度、法を犯す覚悟がないとやっていけないような依頼。
そして従業員の悲惨な過去なども混ざりあい、過去と今を行き来しながら、捜査を進めながらという複雑な構成だった。
それでも登場人物の少なさゆえか混乱はせず、すんなりと読み進められた。

署長シンドローム


 大森署の新しい署長は、キャリアの藍本小百合。
この藍本所長は、誰もが目を見張る美人だった。
そんな大森管内の羽田沖海上にて、武器と麻薬の密輸取引が行われるという情報が入る。
海上ということで海上保安庁や麻薬取締官なども加わり、署内は賑やかになる。

 一度彼女の顔を見てしまったら態度が変わるほどの美人という藍本署長。
事件はいつものように特別ではない。警察官としては日常の出来事だが、一つの事件の捜査に関わる人たちの人間模様を描いているわりにはどこか薄っぺらく感じる。
登場人物の個性もなくなってきて、もうあっさり読めるだけが取り柄となった。

にわか名探偵~ワトソン力~


 空いた映画館でゾンビ映画を見ていた警視庁捜査一課の刑事、和戸宋志。
上映が終わって明るくなると、観客の一人が死んでいた。
そのうえ扉に細工がされて出られない。これでは犯人はスクリーンの中にいた者だけだ。
そんな中、観客が推理を始める。
和戸の周りでは、皆が推理を始める。
 故障したロープウェイで、間違えて入ったヤクザの事務所で、仮想空間で、和戸の周りで起こる事件で和戸以外の名探偵が生まれる。

 和戸の周りだけに起こる、不思議な推理力の高まり。
そこに出くわした普通の人たちが探偵となって事件を推理するのは面白いし事件も不思議なものばかりだけど、なぜか淡々としすぎて盛り上がりもなく、解決はするが気分はスッキリしない。
和戸が周りの意見を聞くだけというのが他人事すぎるからだろうか。

月影の乙女


 ハスティア公国領のセレの領主・ローデスの次女であるジオラネルは、幼いころに魔力を暴走させたことが原因で、訓練所へ誘われた。
そこで4年の訓練を経て、ジオは正式なフォーリ(魔法師)となる。
各地へ赴いて人力では難しい依頼をこなしていたが、平和なハスティアを狙う者がいた。
それは火を操る竜に変化できる、ドリドラヴのの王、ウシュル・ガルだった。
ウシュル・ガルの息子たちが潜入して火種を起こし、やがて戦争へとつながる。
フォーリであるジオたちは、戦うことを禁じられていたために攻撃できず、愛しい人や街を焼かれ、悲しみに暮れる人々。
彼らを救おうと立ち上がるフォーリたちが下した決断は。

 長編ファンタジー。
これまでのシリーズからは独立した物語だけど、周りの状況やさりげない動きの緻密な描写がすんなり流れてきてどんな不思議な魔法でも思い浮かべることができた。
小さな癒しとなる動物もいくつか登場し、フォーリたちを助ける。
長さのわりに疲れることなく、次々に起こる出来事から目が離せなくなってくる。
そうやって大きな戦いも終わるが、最後がなぜか急にありふれた結末となってしまった。
タイトルとなっている「月影の乙女」の印象も薄く、付け足された章で少し触れられている程度。
それならジオの持つ素質に注目させればもっと晴れやかに終われたのではないかと思ってしまった。

紺碧の海


 八丈島で生まれた留吉は、罪人の流刑地という場所から出たかった。
大工の棟梁をしている同郷の半右衛門の誘いで横浜へ移り、奉公先で商いを覚え異国語も学び、ウィリアム商館で番頭を務めるまで成長した。
半右衛門と留吉は、ある日見かけた羽毛の布団に衝撃を受け、鳥島という無人島でアホウドリを捕獲する事業を立ち上げる。
羽毛は売れ、富を手にする半右衛門と留吉。
しかし半右衛門は次の無人島を目指すことを毛隠していた。

 日本が鎖国の間放置していた近海の無人島を開拓しようと生涯情熱を持ち続けた半右衛門。
彼を目標にして学び、商人として力をつける留吉。
最初は半右衛門の力強さがまぶしく、魅力に惹きつけられるように勢いよく進むが、だんだんワンマンが目立ち、嘘も混ざってくる。
八丈島の人々を自力で生きていけるようにという目標が、いつしか半右衛門の王国へと進む工程に寒気を感じてくるようになってきて、大きな影響力を持つゆえの恐ろしさが協調され、不安が大きくなってくる頃、留吉は半右衛門の元を去る決意をする。
最後はなんとも苦しい結末。

姥玉みっつ


 静かな老後を送ろうと思っていたお麓は、幸いにも明主の書役の仕事を得て、明主の家からも近い「おはぎ長屋」に移り住んだ。
すると50年も前からの幼馴染が二人、なぜか同じ長屋に移り住んできて、毎日やってきては姦しい。
うっとおしいと思いつつも、ある日行き倒れた母娘を見つけてかくまうことになる。
母と名乗る女は数日後に死に、娘は声を出せない。
その出会いから三人はさらににぎやかな騒動へと巻き込まれていく。

 主人公が年寄というのが面白い。
うっとおしいと思いつつも50年も前からの知り合いでは気心も知れていて扱いも慣れたもの。
静かな老後とはかけ離れた生活だけどお麓も楽しそう。
世間や身分に縛られながらも、精いっぱい楽しもうとする3人を見ていると元気が出る。

仕事のためには生きてない


 ロックを愛し、大学時代の友人とバンド活動をしている多治見勇吉。
広報部で社長のSNSへの発言が炎上し、その対応に追われている最中、勇吉はスマイルコンプライアンス準備室〉という部署に異動になる。
社長の言い出した「スマイルコンプライアンス」という実態不明の思い付きを社則に入れろというのだ。
会議のための会議、忖度管理職への根回し、時間切れまで繰り返される「充分な検討」という名の意味のないやり直しに疲弊する勇吉。
なぜ自分はこんなになって働いているのか、と自分に問う。

 『被取締役新入社員』を思い出させる。
無茶ぶりと丸投げに消耗しながらも、なんとか抜け出す方法を探る。
仕事が趣味とはいえないが、一日の大半を過ごす職場は少しでも楽しい方がいい。
少しでも快適な場所にしたいと願う者たちの戦い。

青姫


 村の名主の弟であった杜宇は、ある日武士と悶着を起こし、村を出奔した。
放浪の末たどり着いたのは、青姫とよばれる統領の下で自由経済の郷だった。
そこで杜宇は米作りを命じられ、田を開墾から始める。
そのうち郷にもなじみ始めるが、ある日ぼろぼろの男が郷にやってきた。
それは杜宇の出奔の訳となった武士であった。

 これまでの朝井まかての作品とは全く雰囲気が異なり、ファンタジーのような趣があった。
不思議な郷で米作りに奮闘し、わがままで意地も悪い青姫に振り回されながらも郷になじみ、そこでの居場所を見つける杜宇。
やがてすべてを思い返す年まで長生きをする杜宇の一生を、その場にいたような感覚になって読んだ。

産婆のタネ


 浅草天王町の札差、坂田屋の娘お亀久は、幼いころかどわかしに遭い、その時助けに入ったぼて振りの魚屋が切り殺されるのをまじかに見てしまう。
それ以来、男と血が怖くなり、外に出ることもできなくなる。
さらに許婚である材木問屋、万紀の長男紀一郎が紀州で山崩れに巻き込まれ行方知れとなり、お亀久はもう死のうとした。
そんなお亀久に怒った母は、難産でようやく生んだお亀久を取り上げてくれた産婆のタネ様のところへ連れていき、しばらく見習いをしてみろという。
子を産み育てるのがいかに大仕事かをお亀久に教えるためだったが、お亀久は産婆という仕事に興味を持ってしまう。

 今でいう引きこもりになってしまうお亀久。
家が裕福なので勉強もさせてもらえていたのだが、見習いとなってからのお亀久はタネと稲に教えられながら、子を産み育てるという女たちを見てだんだんと考えが変わっていく。
女というだけでこんなに不自由なのかと愕然としながらも、自分の生き方を見つけたと感じるお亀久はまだまだ子供だが、周りの大人たちの頼もしさが非常に強い。
そのせいか安心してお亀久の考えも受け止められた。