氷の致死量


 聖ヨアキム学院中等部に赴任した教師の十和子は、14年前に何者かに殺された女性教師・更紗が自分に似ていたということを知り、驚く。
見た目が特に似ているわけではないが、まとう雰囲気が似ているという。
十和子は、もしかして更紗も自分と同じだったのかもしれないと思い始める。
一方、殺人鬼の八木沼は、また一人、ある目的のために女を殺していた。
性的マイノリティのいろんな種類を描く。

 LGBTQ2+。次々と増える種類に、もうマイノリティという分類ではなくなっている感じがする。
昔の殺人事件も解決していない上に、脅迫や物騒な事故が続く。
十和子が乗り越えられない過去、生徒の親や別居中の夫もまとめて問題の多い人物ばかり。
ただ、最後にはちょっと意外な真実も出てきて、全体的に暗いイメージだけどちゃんと解決していた。

シャルロットのアルバイト


 元警察犬のシェパードであるシャルロットは7歳。
引退後をのんびり暮らしているが、ある日散歩のときに、迷子のトイプードルに出会ってしまった。
だけどその子は、昼間に外に出るのを怖がったり、人間の食べ物を欲しがったりして、ちょっと不安なことがある。
さらに、お向かいに越してきた新しい家族は、ホームパーティーにも参加しない隠れたもう一人がいるらしいし、動物病院で出会った人からは、突然アルバイトを持ち掛けられたりする。
夫婦の真ん中にいるシャルロットは、もうかけがえのない家族である。

 シャルロットを通して出会う人たちとの、ちょっと不思議な出来事。
言葉が通じない犬だけど、表情がわかったり、説得したり、いろんな謎を考えている。
犬好きなら癒されたり考えさせられたりと、きっと楽しく読める。

忘らるる物語


 星卜で「皇后星」に選ばれた環璃は、次の帝を決めるための儀式のため、真珠で飾った輿に乗せられ、4つの国の王の元を順にめぐる。
そこで王と寝て、子ができればその王は次の帝となる。
住んでいた国を滅ぼされ、夫は殺されて子は連れ去られた。もう何も持たない環璃にから、まだ心を奪う儀式は続く。
そんな時、山賊に襲われた環璃を助けたのは、昔から女だけに伝えられてきた不思議な場所から来た、不思議な力を使う女性・チユギだった。
そして環璃はチユキと約束をする。

 男が支配する世界を変えたいと願い、復讐を誓う環璃が、国々で見聞きしてきたことで学んでいく様子が生々しく綴られている。
「トッカン」や「上流階級」の世界との落差が大きすぎてとまどうが、強烈な出来事や言葉たちが次々と押し寄せてくるのであっという間にその世界にのまれてしまう。
予想される結末ではあったけど、それまでの物語の迫力に押されてそんなことで落胆する余裕もなかった。

朝星夜星


 大きな背丈のゆきは、小さいころから奉公していた遊女屋から突然、嫁に行くことになる。
相手は阿蘭陀料理を作る料理人。
進められるまま嫁ぎ、やがて子も生まれるが、夫の丈吉は無口で何も教えてくれない。
それでもだんだんと自分の店を出し、大きくなり、大阪に出て、やがて政府からの客ももてなす大店となっていく。
日本初の西洋料理店を出した、草野丈吉に、生涯にわたり添ったゆきの物語。

 誰も客が来ない貧乏だった頃から、大成功を収めてもまだ足りないと働く丈吉に、どこまでも寄り添った妻のゆき。
外に女を作られて腹を立てる様子、子供にむける愛情、店でのやりがいなど、細かい心の動きまでじっくりと書かれていて読み飛ばせない。
時々入るつぶやきがとても端的でおもしろいし、少しも飽きなかった。
最後は老いて思い出を攫いながらの毎日が、目が覚める直前に見た夢のようでほっこりするが、この終わり方は他でもあった気がする。

秋麗 東京湾臨海署安積班


 遺体らしきものが海に浮いていると通報があり、引き揚げた遺体はかつて特殊詐欺の出し子として逮捕された戸沢守雄という七十代の男だった。
殺人らしいということで安積たちが動いていると、死亡する前日に仲間と3人で釣りに出かけていることが分かる。
仲間の二人を訪ねたところ、二人とも自棄におびえていて、安積は関連がありそうだと調べを進めることにする。
そこから、殺された男がやっていた詐欺事件も含めた捜査が始まる。

 安定の安積班。
こちらもパターン通り、始めは関係ないちょっとしたもめ事や困りごとから始まり、最後になってそちらも事件とは関係なく終わる。
でもなぜか樋口班より印象が良い。
班の仲間たちや速水など、個性的な人物が集まっているせいかもしれない。

敬語で旅する四人の男


 大学を出てから合っていない母に会いに佐渡に向かう真嶋。生まれ育った京都から出たくないと離婚された繁田。彼女からの束縛にうんざりする中杉。イケメンだけどこだわりが強く、曖昧な表現が苦手で空気を読むことができない男・斎木。
特に友人でもなかった男4人が、なぜか旅をする。

 不思議な距離感でつながる男たちの様子が奇妙で面白い。
特に大きな出来事が起こるわけではないが、友人とも言えない4人には、広々とゆったりした空間を感じさせる。
のんびり読むことができる。

優莉結衣 高校事変 劃篇


 ホンジュラスでの死闘の後、日本で帰ろうと少しでも日本に近づくために北朝鮮行きの船に潜り込んだ結衣。
ところが、途中で船が襲われ、結衣はかろうじて抜け出したが、気が付いたら北朝鮮の工作員と入れ替わっていた。
テレビなどの情報がない国だから、結衣の顔は知られていない。
それをいいことに、工作員を教育する学校へ入れられた結衣は、そこでまたもや銃撃戦に巻き込まれる。

 まさかの北朝鮮。
そこで優衣が淹れられたのは、潜入工作員を育てる高校。
必死で言葉を覚え、なんとかその生活に慣れた頃、結衣の素性がばれてしまい、クラスメイトや教師もろとも消し去られようとする国の圧力へ立ち向かうことに決める。
パターン化してきた。
また学校で、大人たちから狙われ、一部のクラスメイトと共に戦い、やがて命からがら抜け出す。
やっぱりどこへ行っても結衣は結衣。

ペットシッターちいさなあしあと


 子供の頃事故にあってから、陽太は匂いで生き物の死期がわかるようになった。
それを生かし、妻と動物を愛する柚子川と、不思議な縁でまた出会った動物の声が聞こえるという薫と共に、ペットの看取りをする会社を立ち上げた。
いろんなペットの看取りに立ち会ううちに、陽太は自分の家族にもその匂いがあることに気づく。

 周りに自分の特技を披露したばっかりに、有名になり、拉致された経験を持つ陽太が、それでもその力を隠さず強みとしている。
いろんな看取りをするうちに、両親とのかかわり方や、父の言った言葉の意味などを考えてゆく陽太。
そして生と死の両方を自然に受け入れられるようになっていく。

クローゼットファイル 仕立屋探偵 桐ヶ谷京介


 服飾ブローカーの桐ヶ谷と、アンティークショップの店長で人気のゲーム実況配信者である小春。
二人は、警察がどうしても見えなかった方向からの視点で事件を見、解決へ導く手伝いをしている。
今回も、杉並警察署の未解決事件の再捜査を行う部署にいる南雲から、いくつかの事件を見せられた。

 赤ちゃんの時に捨てられた子供が親を探している。服飾の学校へ通っていた女性が裁ちばさみで殺された事件。女子高生が必死で隠していた怪我など、身につけていた服から見えてくるものを見、推理する二人。
知らない世界のことだから、知らない事がいっぱいでとても興味が沸く。
いちいち調べていくからなかなか進まないが、それでもあっという間に読み終えた。
二人のキャラクターも、掛け合いも楽しいし、何より彼らの言葉はまっすぐ届いてくるので、きつい言葉でさえ清々しい。