産婆のタネ


 浅草天王町の札差、坂田屋の娘お亀久は、幼いころかどわかしに遭い、その時助けに入ったぼて振りの魚屋が切り殺されるのをまじかに見てしまう。
それ以来、男と血が怖くなり、外に出ることもできなくなる。
さらに許婚である材木問屋、万紀の長男紀一郎が紀州で山崩れに巻き込まれ行方知れとなり、お亀久はもう死のうとした。
そんなお亀久に怒った母は、難産でようやく生んだお亀久を取り上げてくれた産婆のタネ様のところへ連れていき、しばらく見習いをしてみろという。
子を産み育てるのがいかに大仕事かをお亀久に教えるためだったが、お亀久は産婆という仕事に興味を持ってしまう。

 今でいう引きこもりになってしまうお亀久。
家が裕福なので勉強もさせてもらえていたのだが、見習いとなってからのお亀久はタネと稲に教えられながら、子を産み育てるという女たちを見てだんだんと考えが変わっていく。
女というだけでこんなに不自由なのかと愕然としながらも、自分の生き方を見つけたと感じるお亀久はまだまだ子供だが、周りの大人たちの頼もしさが非常に強い。
そのせいか安心してお亀久の考えも受け止められた。

でぃすぺる


 小学校卒業まであと半年。
ユースケは、自分の好きなオカルトを聞いてほしくて、“掲示係”に立候補する。
すると、委員長になるとばかり思っていた優等生のサツキも立候補してきた。
転校生のミナも加わり、三人で掲示新聞を作ることになる。
サツキが掲示係を選んだ理由は、去年亡くなった従妹のマリ姉の犯人が捕まっていないため、少しでも解決に近づけたいという思いがあったのだ。
マリ姉のパソコンから見つかった、町の七不思議の話をヒントに、小学生最後の二学期を過ごす。

 オカルトを押すユースケと、理屈で責めたいサツキ、そして冷静な判定を下すミナという構図で七不思議を解き明かしていく様子は楽しい。
ふとしたきっかけで気づくことに喜ぶ姿は頼もしいし微笑ましい。
何か所か腑に落ちない場所があったけれど、登場人物の面白さがあったので突き進んでこられた。

縁切り上等!―離婚弁護士 松岡紬の事件ファイル


 夫のモラハラと浮気に耐えられなくなった聡美は、小さな子供を抱いて実家に逃げた。
その途中で出会ったのは、縁切寺として名高い「東衛寺」の娘で、離婚専門弁護士の松岡紬だった。
同性婚カップルの親権問題、定年間近の夫と別れたい妻など、離婚したい女たちの仲介をする紬だが、彼女は結婚どころか恋愛というものに感情が動かない。
幼馴染で探偵の出雲と組んで困っている女たちの悪縁を断ち切る。

 誰が見てもモラハラなのに本人は全く自覚がないなど、もうどうしようもない問題から、今を逃せば死ぬまでチャンスはなさそうだという案件など、いろんな問題に立ち向かう。
もし自分が何かのトラブルに巻き込まれたら、養育費を払いたくないから資産を隠そうとするような男にもきっちり交渉してくれる紬のような弁護士に出会いたいと思う。

魔眼の匣の殺人


 葉村譲と剣崎比留子は、葉村のクラスメイトから聞いた預言者の話が気になり、預言者と恐れられる老女の住む場所へ向かう。
人里を離れ、かつて班目機関の研究所だったという施設に一人で済むという。
そこへ、唯一の通行手段である橋が燃やされ、高校生と思しき男女、墓参りに来たという女性、ツーリングの途中でガソリンが切れて困っていた男性、車のトラブルで困っていた父子と共にその施設に閉じ込められてしまう。
預言者はこの二日のうちに男女二人づつが死ぬと予言しており、皆は慄きながらも救助が来るまではどうしようもなくなってしまう。

 葉村と比留子はまたしてもクローズドサークルでの恐怖と戦うことになる。
班目機関の秘密を覗こうとしたばかりに巻き込まれる参事に二人は慣れてしまったように見え、謎解きも複雑になってくる。
細かすぎて覚えていないこともあったりしたが、二人は危険を冒しながらもなんとか犯人を追い詰める。
そしてこの班目機関はまだ立ちはだかるようである。

モップの精は旅に出る


 大輪の花が描かれたワンピースにハイヒール、髪を頭のてっぺんでお団子にしたその女性は軽やかに歌いながら掃除をしていた。

英会話学校の事務をしている翔子のところに、受講生の男性から婚姻届けが届く。
たった一回面談をしただけのその男性が怖くなり避けていたら、その男性が死体で発見されたという。
翔子は深夜に出会った清掃員のキリコと仲良くなって話を聞いてもらう。
するとキリコは真相を見つけてしまうのだった。

 深夜に清掃員として働くキリコが活躍するミステリーだが、完結章を一番に読んでしまった。
知らなくても全く問題はなく、読みやすいしキリコの様子が楽しそうでミステリーだけど軽やかな気分になれる。
シリーズということなので、見つけたら他も読んでみたい。

うまいダッツ


 高校の喫茶部。
ゆるい活動の喫茶部のなかで特に「おやつ部」と言われている1年の4人は、それぞれ好みのおやつを持ち寄って食べていたある日、不思議な噂を耳にする。
「うまい棒一本で、世界の秘密がわかるらしい」
一人一回のみ、しかも一日に一人だけ、質問に答えてくれるというその人物を探しに行く。
 メンバーのうちの一人のおばぁちゃんが家でブローチを無くしたので探しに行くことにしたおやつ部。
SNSでつながった友達と気まずくなってしまった理由を知りたいというメンバーのために頑張るおやつ部。
先輩の頼みでお菓子のシルエットクイズに参加するおやつ部。
彼らの楽しい部活の様子。

 喫茶部ではあるものの、レトロ喫茶をめぐる人、コーヒーに凝る人などいろいろで、そのこだわりのうんちくも細かくて楽しい。
そんな中、コンビニやスーパーでも売っているおやつを食べる活動というなんとも微笑ましい4人。
高校生活の楽しみ方がいっぱいで、お菓子もいっぱい出てきて、懐かしいお菓子がたくさん食べたくなる。

剣持麗子のワンナイト推理


 亡くなった町弁のクライアントの仕事を引き継いでいたら、次々に舞い込む厄介で金にならない仕事。
ある日、「武田信玄」と名乗り、住所も本名も言わない男に呼び出される。
どう見てもホストだが、不動産会社の事務所に侵入したら、死体があったらしい。
他に、認知症のおばあさんを家まで送ったら、男が首をつっていたり、やたらと死体と出会う夜に、通常の仕事のために麗子は夜明けまでに解決しようと奮闘する。

ドラマに使われていた話もあり、イメージがしやすかった。
人懐っこいが胡散臭い刑事の橘にもいいように使われているような気もしながら、武田信玄と名乗っていた黒丑をアルバイトとして雇うことになったりして麗子のお人好しな面がたくさん出ていた。
最後の話は、黒丑の父親も出てきたたため時系列が混乱した。

犬は知っている


ゴールデンレトリバーのピーボは、警察病院のファシリティドッグだ。
小児病棟に常勤して患者の治療計画にも介入し、入院している子供たちの心を癒している。
だが、彼にはもう一つ大事な仕事があった。
特別病棟に入院する受刑者と接し、彼らから事件の秘密や真犯人の情報などを聞き出すことだ。
死を前にした犯罪者たちが語る本音を、今日もピーボは静かに聞いている。

 手術を怖がる子供に付き添って手術室の前まで行ったりする傍ら、凶悪犯と向き合うピーボ。
他に人間のいない部屋で彼らが語る事件の真実を聞き出す特殊な任務だが、その仕事に矜持を持っているような姿も見せ、なんとも頼もしい。
やがてハンドラーの笠門巡査部長の傷まで癒し、また次の子供たちの元へと行く。
ファシリティドッグという彼らの仕事が本当にあるものだと初めて知った。

藍色ちくちく-魔女の菱刺し工房


 菱刺しの工房をやっているより子先生と出会ってから、憂鬱から抜け出せなかった綾の生活はがらりと変わる。
なぜかついてくる賢吾と共に工房へ通うようになり、そこで出会う人たちとの交流で目標を見つける。
母の認知症に悩む女性や、より子の孫で引きこもりの亮平など

、菱刺しを通してつながる人々。

 いろんな悩みを抱えた人たちが、どんな経緯でここに来ることになったのか、一人ひとりの背景を取り上げている。
菱刺しの歴史や模様の意味などもところどころで詳しく描かれ、知らなくても充分に楽しめ、興味を持てた。
実物を見てみたい。

屍人荘の殺人


 神紅大学ミステリ愛好会会長の明智と助手の葉村は、映画研究部の夏合宿に強引についていく計画を立てていた。
その合宿はなにやら曰くがありそうで、直前になって脅迫状が届いたため、多数のキャンセルが出たという。
一緒に参加してほしいと頼まれた同じ大学に通う探偵少女、剣崎比留子と共にペンションへ向かった明智と葉村だが、そこで予想もしない出来事に巻き込まれ、宿泊先のペンションに立てこもりを余儀なくされる。
果たして生き残れるのか!

 第27回鮎川哲也賞受賞作。
王道のミステリという感じのタイトルに、夏のペンションに閉じ込められるクローズドサークル。
そして次々と起こる殺人という、まさしく王道。
だけど襲ってくるのは人だけではなかった。
王道の中にちょっとおかしな点も入れ込んで、ダジャレまで混ざりこむのでギャグホラーの様子もあるが、最後はやっぱり王道の動機を持った犯人。
読みやすくてしっかり作りこんであった。
あれ、明智は?という肩透かしもあったりして、なんだか怖い思いはあまりしなかった。