サナキの森


2015年02月18日 読了
 売れない小説家だった祖父が亡くなり、遺品を整理していた27歳の紅。
その時見つけた祖父の本には、祖父の最後のお願いが薄い手紙として挟まれていた。本棚の一番上の、いちばん端にさしてあった一冊の本。

『冥婚』を題材にして祖父が描いた小説が、本当はかつて起こった事件を描いたものだと気づいてから、紅はその真相が気になって仕方がない。
舞台となった遠野市に行き、祖父のお願いとともに80年前の出来事を探る。

 冥婚はあちこちで行われていた儀式だが、その禍々しさゆえに色んな想像が掻き立てられる。
結末はありふれているし、物語の流れを止める途中の砕けすぎた表現には違和感もあるし、陣野せんせーと言われる人物が中途半端すぎて最後まで納得いかないけど、祖父の時代の出来事にはとても引き込まれた。

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マル合の下僕


2015年02月03日 読了
 高学歴なのに大学の非常勤講師で月給10万ちょっとのワーキングプア。
しかも育児放棄された姉の子供の面倒を見ることになってさらに貧乏な主人公・瓶子貴宣。
大学の正規社員に少しでも成り上がろうとあがいているが、なにぶんここはカネとコネが生きる世界。

 始めはタイトルの意味も分からず、さらに愚痴と悪口ばかりでうんざりしたが、しだいに貴宣の熱意が伝わり、引き込まれる。
淡々とただ流れをたどるだけの文章なのに、それがつながると不思議とスピードが上がる。
 貴宣のやる、自分を陥れた相手への仕返しさえも清々しく思える。

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壁と孔雀


2015年01月14日 読了
 警視庁SPの土壁英朗は、警護中に撃たれてしばらく休暇をとることになった。
そしてこの機会に、子供の頃別れて以来の母親の墓参りに行こうと思い立つ。
 彼の母の実家である北海道の田舎、町の名家であったその家には、英朗の異父弟がいた。

 その町へたどり着いた時から、彼の計画された運命は動き出す。
何年も秘められてきた秘密が、その家を守り、傷つけてきたことに気付いた時、英朗はどう思うか。
いつもよりもちょっと勇ましい主人公。

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忘れ物が届きます


2014年12月23日 読了
 もう何年も前の、あの事件の時、実は。。。
古い思い出の中、とっくに解決した事件や問題が、ふとしたことで揺り起こされる短編集。

 もう何年も前の出来事だからか、語る者たちの口調は総じて優しい。
どうしても守りたいものだったり、約束だったりが、次第に解き明かされ、結末の一歩手前で終わる。
その後の想像と余韻にしばらく浸れる一冊。

 この作者の今までの本とは印象が違い、静かで落ち着いた雰囲気。

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ばけもの好む中将 参 天狗の神隠し


2014年12月21日 読了
 変わり者の中将に気に入られ、怪しげな噂のあるところへは必ず連れていかれる小心者の主人公・宗孝。
今度は、12人いる姉のうちの一人が山中で「踊る茸の精」を見たと聞き、紅葉見物も兼ねて現地を訪れることにした二人。

 今回は短編ながら少しづつ繋がっており、不思議さというより謎が大きくなっている。
12人もいる姉たちの個性も、だんだんと描かれてきており、面白さが増してきた。
そして毎回、鮮やかな表紙がとても綺麗で目を奪われる。
想像するだけでかわいい「キノコの物の怪」が見てみたくなる。

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水底の棘 法医昆虫学捜査官


2014年11月28日 読了
法医昆虫学者の赤堀涼子が荒川河口の中州で見つけた死体は、絞殺後に遺棄されたものと思われた。
しかしその死体には不可解な点がいくつかあり、赤堀は解剖所見のいくつかに齟齬を見つける。

 事件か事故か、さらには自殺なのかもわからないまま無駄足を踏む刑事たち。
そこへ赤堀は全く違った視点から意見を述べる。
今回は今まで程の気持ち悪さはない。でも虫の種類はたくさん出てくる。
今までの、一つの虫を注意深く細部まで観察したものも面白かったが、虫への興味を海にまで広げてすべてが自然だと言わんばかりの本作も、虫食が話題の今にはタイムリーで興味深かった。

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水底の棘 法医昆虫学捜査官 [ 川瀬七緒 ]
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夜泣き石 鬼坊主不覚末法帖


2014年11月20日 読了
 荒れ寺に住み着き、精進料理が嫌いな大食らいで女好き、寝言まがいのいいかげんな経を読む破戒僧の不覚。

 その不覚がインチキ乞食坊主に問答をしかけられたり、ひどくやつれた女から子供を預かり里へ送り届けたり、憑き物のある子供を助けたりと、坊主らしいことはどこをとっても見当たらない見た目をしているくせにやけに情に厚い。
 いたらいたで困るくせに、いないと寂しいと言われる不覚がとても頼もしい。

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ばけもの好む中将 弐 姑獲鳥と牛鬼


2014年11月15日 読了
 奇異なことを好む中将に振り回され、今宵も宗孝は人気のない暗闇へと分け入っていく。
 見た目はいいのに妖に興味があるせいで変人として名が知れ渡っている中将・宣能のお供として「泣く石」を見に行った宗孝たちが見つけたのは、石ではなく赤子だった。
その子供は高貴な生まれである印をもっており、成り行きで預かることになった宗孝は、姉たちの追及に耐え切れず自分の子だと嘘をついてしまう。

 『とりあえばや物語』や『落ち窪姫』のような、どこか滑稽に大慌てする宗孝が楽しい。
事実と思惑が複雑に絡まり合い、それぞれが画策する中で、最後はきれいにほどけて最もいい結末に落ち着くため、すっきりといい余韻が残る。

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ばけもの好む中将(2) 姑獲鳥と牛鬼 (集英社文庫) [ 瀬川貴次 ]
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太陽の石


2014年11月10日 読了
 捨て子だったデイスは、優しい姉と両親に愛されて育った。
ある日山で、たくさんの星々が詰まった肩留めを拾い、そして少しづつ思い出す。

 かつて、大地の力を持つ魔道師イザーカト九きょうだいといえば、コンスル帝国の近衛魔導師として強大な力と信頼を持っていた。しかし度重なる戦争による精神の疲労で兄弟の絆は崩れ、愛ゆえの憎しみにより一人の魔導師が闇に落ちる。その闇を、再び生まれなおした兄弟たちが決着をつけに蘇る。

 3百年をかけた壮大な兄弟げんか。
しかし、禍々しい霧、足元も見えない闇、身体が引きちぎられるような絶望の描写が並んだと思えば、次は息苦しいほどの緑や小鳥の小言、空や星々の歌までを清浄な空気の中で表現する。
その描き方は、読んでいるこちらが呼吸する空気までもがその世界の色をしている気がするほど。引き込まれた。

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夜の写本師


2014年11月06日 読了
 3つの石を持って生まれてきたカリュドウは、女魔道士エイリャに預けられて育つ。
そのエイリャが力を奪われ、目の前で殺された。
仇である大魔道師アンジストへの復讐を誓うカリュドウは、魔道士とは違う力を求めて写本師となる。
アンジストに殺された三人の魔女の運命を背負い、数千年の時を経て二人は再びまみえる。

 デビュー作とは思えないほど厚みのある内容。本を使った魔法で、しかも発動させるためにはちょっとした遊び心も必要で、そのカギは隠されているなど、本好きにはたまらない設定だけど、壮大な復讐の話。
痛く苦しく、気も狂わんばかりの思いを受けついだカリュドウが、息をつく間もないほど濃い人生を見せてくれる。

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