続々・珈琲屋の人々


2015年09月14日 読了
 かつて人を殺したことがある『珈琲屋』の主人・行介は、罪を償った後もずっと、自分を罰していた。
そんな行介のもとには、今回もまた、自分では決められない事や悩みを持った人たちがやってくる。

 切なくて辛くなる話ばかりでも、決して暗い気持ちにはならない。
何かきっかけがあれば決められるのかもしれないけど、そのきっかけなんてほとんどやってこなくて、「半分だけ」決まった自分の心という部分は、とてもよくわかる。

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ごんたくれ


2015年05月24日 読了
 京の絵師である、ふたりのごんたくれの生涯。
当代一の誉れ高い絵師・円山応挙の弟子・吉村胡雪となった彦太郎。
その師匠応挙の絵を『絵とは言わん』と否定した深山箏白こと豊蔵。
二人はことごとく対立し、悪口を言い合い、めったに顔も合わせないが、相手の絵は認めている。

 素直になれない二人のごんたくれの生き様が、師匠が逝き、仲間が逝き、やがて一人になるところまで描かれている。
始めは二人に興味を引かなかったが、すぐに所心読み返したくなるほど一文字も逃したくない思いが湧き、最後はどうなるのかとわくわくして止められなかった。

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魔道師の月


2014年11月09日 読了
 『夜の写本師』でカリュドウが使っていた本の魔法を生み出した、魔道師キアルスの物語。
 強烈で禍々しい闇が、ある日若い大地の魔道師レイサンダーの前に現れる。
なぜこの闇の存在に、誰も気づかないのか。あまりの圧力に彼は逃げ出す。

 心に闇を持たぬゆえに魔道師としての力がいまいちなレイサンダーと、この世に1冊しかない貴重な本を焼いてしまったために一生をかけてそれを復元しようとするキアルス。
二人は、その大きな闇<暗樹>に気付いたために命を賭してそれを封じる道を歩む。

 どんなに大きなことをやり遂げたと思っても、何千年と受け継がれてきた世界の前では見えないほど小さい。しかし、少年が大人になるだでは大きすぎる。
魔道師の力が全面にあった前作とは少し違った今回だが、前作では影の薄かったキアルスがこんな冒険をしていたのかと、魔道師というものにさらに興味がわいた。

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蜩ノ記


2014年08月27日 読了
 家譜編纂と十年後の切腹を命じられて幽閉中の秋谷の下に、城内で刃傷沙汰に及んでお咎めを受けることになった檀野庄三郎が遣わされた。
そしてそれは、いざ切腹の時に秋谷が逃げぬよう見張ること、幽閉のきっかけとなった事件の真相を探ることを命じられてのことだった。

 己に正直に、信条を揺るがせず、人を信じて生きる秋谷の生き様は最後まで変わらない。武士としての生き様だけとは言い切れない潔さと美しさがある。
予想を超えた気持ちのいい読後感。

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はなとゆめ


2014年04月28日 読了
 清少納言は28歳の時、帝の后・中宮定子付きの女房として仕えることになる。
始めは顔を見られるのすら恥ずかしく、夜の暗いうちしか参内しなかった彼女も、中宮である定子の人柄に触れるにつれ、少しづつなじんでいく。

 紫式部とのライバル関係が広く知られているため、気が強く自分を曲げないイメージがあるが、この本では気弱で内気、なんとも頼りない女性であるところから始まる。

 主を、都の雅を華とたとえ、それに魅せられる様子にこちらもうっとりする。
タイトル通り、最後まで夢の中で漂っているような感覚で、この夢に浸れる人には最高かも。
表紙も美しい。

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悪采師


2014年04月18日 読了

 賽子職人の音吉は、己が作った悪采でなわばりを広げようとする任侠の親分を打ち負かした。
ところが、その恨みから二人の子供の面倒を見る羽目になるが。。

 博打には必要不可欠なサイコロ。
それに細工をし、壺振の思うがままに扱えるものを作り出す。
職人としての心意気と才能が、時に身を亡ぼし、時に身を守る。
特に後半は勢いがあり、博打の見せ場では思わず息を止めるほど。
そのカラクリが意表をついていて面白かった。実物があるなら是非見てみたい。

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姫の竹、月の草―吉井堂謎解き暦


2014年04月17日 読了
学問、特に天文が好きな兄・吉井数馬は、妹の奈緒と江戸の神田で手習い所「吉井堂」を開いている。
 「神田川端の武家屋敷に幽霊が出る」
そんな噂が出始めた。奇妙なことが大好きな数馬は、いつもなら走って見に行くくらいなのに、なぜか今度はさっぱり興味を持たない。

 客に見せたからくり人形や、奉公先の御殿から消えた娘、あぶり出しの和歌。
不思議なことから膨らむ日常と、仲の良い兄妹の微笑ましい言い争いや暮らしぶりがとても心地よい。
過去に縛られることなく生きる二人の強さが気持ちのいい読後感を残す。

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金春屋ゴメス


2014年04月04日 読了
 江戸。でも江戸ではなく、近未来の江戸。
日本から独立した「江戸」では、生活や習慣も昔のままで、もちろん電気もなく現代科学や医学もない。

 そんな江戸へ激しい競争率をすり抜けて入国した辰次郎は、身請け先の長崎奉行馬込播磨守・通称ゴメスから、致死率100%の流行病の正体を突き止めることを命じられた。

 不思議な設定で惹きつけられ、惑わされた。
江戸の頃の理を忠実に守りながらも現代からは離れられない。
ゴメスのインパクトが強すぎて癖になりそう。

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烏金


2014年03月28日 読了
 借金のかたに手に入れた一軒家に住む金貸しのお吟。
毎朝あちこちまわって借金を取り立てて廻る。
そのお吟のところへ、何やら企んでいる男・浅吉がやってきた。

 お吟の貯めこんだ金をすっかりもらおうという腹は隠し、浅吉は仕事を手伝うと言い張り居候となった。

 浅吉は、かたき討ちでも始めるような悪い奴かとおもいきや、金を借りた者たちが何とか暮らしを立てていけるよう知恵を貸し、商いをさせたり暮らし方を変えさせたりする。
お吟との関係も途中まではすっかり予想を裏切られた。
目を離せない流れとすっきり気持ちのいい結末で、とても良い気分で読み終えることができた。

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黒猫の刹那あるいは卒論指導


2013年11月29日 読了
 『黒猫シリーズ』学生編。
美学科に在籍する「私」は卒業論文に苦悩していた。
そんな時、唐草教授のゼミに突然加わった黒いスーツの同級生。

 黒猫のあだ名がついた瞬間。「私」との出会い。
教授になっている黒猫より少し口が悪い分、「私」に対する優しさもわかりやすい。
早く読みたいけど、読み終わるのがもったいなくて一文字も逃すものかと思って読んだ。

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