ディーセント・ワーク・ガーディアン


2013年10月05日 読了
 労働基準監督官の三村は、働く人を守り、事業主を守る。
「人は、生きるために働いている。だから、仕事で死んではいけないんだ」という三村の、
「働くこと」を見つめた作品。

 最後の章では、大事にしてきた仕事と家庭の二つを脅かす大きな陰謀の前に膝を折りそうになる三村。
最後の盛り上げによくあるような白々しい危機で終わらなかったので面白かった。
現実とはそんなものだと思う。

 「トッカンシリーズ」、黒川鈴木の「田舎の刑事シリーズ」、「半沢直樹シリーズ」
仕事のドラマが流行るなら、これもきっといいネタになるだろう。
たいてい面白くはならないけど。

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シンクロニシティ 法医昆虫学捜査官


2013年06月15日 読了
 東京のとある小ランクルームで、人相も死亡推定時刻の推測すら難しいほどの女性の腐乱死体が発見された。

 殺害現場がそこではないらしいこと、周辺からはサギソウの種が落ちていたこと。
少ないうえに不可思議な発見ばかりなところから、また法医昆虫学者の赤堀が「虫のしらせ」を聞く。

 思いもかけない所から広がる発想と発見がおもしろい。
犯罪にありがちな動機だし、刑事ものならあたりまえな結末だけど、きっかけはすべて「虫」によってもたらされる。
相当気持ちの悪い場面もあるけど、そんな見方もあるのかと驚くことのほうが多い。

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147ヘルツの警鐘 法医昆虫学捜査官


2013年06月07日 読了
 全焼したアパートから見つかった遺体を解剖した結果、体内では不思議な現象が起こっていた。
食堂と胃が完全になくなり、腹にはソフトボール大のウジの玉が埋まっていたのだ。
これには捜査員も頭を抱え、専門の学者の知恵を借りることになる。

 学者の担当を任された一課の岩楯と鰐川は、昆虫で法医学を解こうとする赤堀の信念を見聞きし、法医昆虫学の有用性を思い知らされる。

 おもしろかった。
前作の「よろずのことに気をつけよ」もよかったが、こちらも予想を超えた繋がりだった。
流れは定石の事件モノだけど、解いていく過程にすごく興味がわいた。

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鈴の神さま


2013年05月22日 読了
 四国の田舎、小さな山のてっぺんに住む、かわいい神様。
鈴の神さまである少年は、安那と名乗った。
花が咲くように笑い、好奇心旺盛で何にでも喜び、走り回る姿はとても愛らしい。

 表紙のイメージそのまま、ほんわかとして優しい気持ちで読める。
人とは違う時間軸で生きる彼らと、村に住む人間たちとの交流がほほえましい。
そしてそれは、代々受け継がれていく。

 また会いに来ると約束した冬弥が、ある事情で14年もたってから村にやってきた時の安那の台詞に胸が詰まる。

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天地明察


2013年03月26日 読了
 江戸、囲碁の家元に生まれ、将軍の御前で碁を指す2代目算哲は、お役目を退屈だと感じていた。
 そんな折、算術も得意だという算哲の噂を聞いてある”命”が下る。

 映画を見てからの原作だったのだが、さすがに映画のそれぞれのシーンにまつわる出来事に深みがあって、読み始めたら止まらなかった。
算術はちっともわからないし、天文はもっとわからないけど、清々しい気持ちで終われる。

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西の魔女が死んだ


2013年01月20日 読了
 中学に入って学校に行けなくなった主人公のまい。
少しの間、おばぁちゃんのところで暮らすことにしたまいの、「魔女修行」の優しい日々。

 本屋に行くたび目が行っていた本。
映画を先に見たせいか、ずっとその映像と共に進み、その風景を文章がもっと深めた。
やっぱり素敵な物語だった。

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カンパニュラの銀翼


2013年01月14日 読了
 第2回アガサ・クリスティー賞受賞作。
裕福な貴族の身代わりとして大学に通うエリオット。
ある日美しい若者シグモンド・ヴェルティゴが現れ、そこからエリオットは、貴族の血に潜む神の呪いを追いかけることとなる。

 いくつかの代をまたぎ、血の濃さと時間に繋がれたシグモンドと、もう一人の人智を超えた存在のベネティクト。
哲学と言葉遊びとを使って、まるで数世紀前の英国の小説のようで没頭できた。
冒険小説のような余韻も残って、いろんな要素が味わえる。

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黒猫の薔薇あるいは時間飛行


2013年01月10日 読了
 黒猫がフランスへ行ってから半年、付き人は研究を続けていた。
次のテーマにポォの「アッシャー家の崩壊」と似た、綿谷埜枝の小説を選んだ付き人は、唐草教授と共にその作家の元を訪ねる。
 同じころ、黒猫もフランスで「アッシャー家の崩壊」に出会っていた。

 黒猫と付き人のシリーズ3作目。
相変わらず黒猫の美学講義は難しいけど、二人の思いは同期している。
文学を研究している人はこんな風に読み解いていくのかと思うと興味深い。

 黒猫の意地悪な言葉と裏腹な行動は、とても切なくてロマンチックだった。

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喪国


2012年12月24日 読了
 待ちに待った革命シリーズ完結編。
3人の日本人が作り、戦争から60年も守り続けた秘密は、その子孫にまで受け継がれ、ようやく今その欠片が地上に出ることになる。

 あの戦争から少しづつ少しづつ作られていった火種が動き出すまでには、今の世になるまで待たなければならなかった。
その革命は、彼らの望み通りだったが、それ以上のものも始まった。
 ファービーなんてなくても今の若者は充分無関心だし、統率者がいなくても事件は起こせる。
 正直なところ、もう少し大事になると思った。
でもそれは、若い者たちがまた新しい革命を起こそうとするための布石となることで十分だったのかもしれない。

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2012年10月30日 読了
 江戸時代、身分ある者達が庶民の生活を覗き見るために、それを再現した偽の宿場町。
 それは精巧に作られたおもちゃと言える。

 とある藩士の時代、そこに本物の庶民を暮らさせた。
そこに住む人々は、通常は普通に生活をしつつ、藩公や賓客の場合にはすぐさま姿を消さなければならない。まさに蛻の空に。

 籠の虫のような生活の中で、住民が殺され、人々が隣人さえも恐れるようになる。

 静かに細く息をしなければ生きていけないような世界で、突然精神の切れる音を聞くような、じわりと恐ろしい物語。
派手ではないし、始めは読みにくいと感じるけれど、投げやりにならないで見るべきものを見た者たちの強い心が伝わってくる。

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