お伊勢ものがたり 親子三代道中記


2017年07月23日 読了
 母、娘、孫の3代が、それぞれの思いを胸に、伊勢へ参る。
旅の案内をする御師の久松に連れられ、道中ではスリや子供の抜け参り、許されぬ敵討ちをしようとしている浪人者と知り合いながら、江戸にいたのでは味わえない経験をしていく。

 旅は、伯父の付き添いだったはずが一人で役目をこなすことになった久松の頼りなさでいきなり不安になる。しかし、3人それぞれの個性が出始めた頃、とたんに楽しい道中になり、最後は全て受け止める覚悟が皆それぞれできている。
久松が語る帰りの道中も聞いてみたい。

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残り者


2017年07月07日 読了
 江戸城の明け渡しが行われる前日、大奥では官軍の襲来を恐れて我先にと逃げ出す者で騒然としていた。
そんな中、どうしても気持ちの決着がつけられずに残った女が4人。
出自も身分も違う4人が、誰もいない江戸城に残った訳とは。

 たった二日間の出来事を描いているのに、とても充実した時間が長く続いたような気になる。
それぞれの身の上話もありながら、4人が言いつけに背いて残った理由も明かされていき、ここでの経験がその後の生き方を決めるほどに強く残る物を得た4人。清々しい気持ちで終われる。

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与楽の飯 東大寺造仏所炊屋私記


2017年03月11日 読了
 奈良時代。東大寺大仏造営事業に各地から徴発されてきた若者・真楯は、辛く厳しい3年という任期に就く。
しかし彼の運がよかった所は、造仏所の炊屋の炊男・宮麻呂が作る飯が格段にうまかったことだ。

 大仏作りの話なぞ少しも面白くないと思いながら読んでいたら、舞台はそこの炊屋だった。炊男の宮麻呂に興味を惹かれてからはあっという間に読み終えた。
人の業というほど大げさでもないが、生きる上での幸せや信念が様々あってじんわりくる。立場が違って敵であっても、悪人はいないし、お腹が満たされることが心にとってどれほど大事かが伝わってくる。

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潮騒のアニマ 法医昆虫学捜査官


2016年12月19日 読了
 伊豆諸島の「神の出島」でミイラ化した女性の遺体が発見された。
首吊りの跡があり、自殺と断定されたが、岩楯警部補は死体の一部に引っ掛かりを覚える。

 赤堀は相変わらずだけど、必至な様子がだんだん見ていて辛くなってくる。
そこまで駆り立てる熱意はどこから来るのか。
単純な自殺でミイラになってから発見された死体だったはずが、どんどん膨らんでどんどん面白くなっていく。
岩楯から見た赤堀の様子の描写がおもしろくて、何度も読み返すことになった。

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玉依姫


2016年09月13日 読了
 生贄のしきたりが残る山深い地域。
昔、そこから娘を連れて逃げたという祖母の嫁ぎ先へ、孫である高校生の志帆は一人で訪ねて行った。
そこで気味が悪いほどの歓迎を受ける志帆。
その後、無理やり連れていかれた場所は、山神の下だった。

 山神の母となることを強要される志帆。
恐ろしさが抜けぬうち、いつしか腹をくくり、自分も周りも変えていく志帆。
最後には思いもよらないところへ飛んで、今までの物語と繋がり、この巻までの八咫烏の物語は、とても狭い世界での話でしかなかったのだと気づく。
益々この先が楽しみになる。

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九十九藤


2016年06月25日 読了
 天涯孤独、継母に売られそうになって逃げてきたお藤は、様々な縁に助けられ、ある日、傾きかけた口入屋の再起を任されることになった。
 昔からの風習や、恵まれない生き方を続けてきた者たちは荒み、諦めの心根を叩き直すことから始めるお藤。
 ある日、江戸中の武家奉公人の上に立ち、畏れられている黒羽の百蔵という男と出会う。

 祖母から受け継いだ気の強さと情の強さ、肝の太さで生き抜いてきたお藤が、気の荒い男たちには思いもよらない方法で生きる術を身に着けさせる。
人との縁には恵まれても、家族には恵まれないお藤だったが、やがて細い糸の様なつながりが生まれ始めるところは、溢れだすような希望が見えた。

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名もなき毒


2016年06月03日 読了
 大企業の広報で採用したアルバイトは、トラブルメーカーだった。
彼女は嘘の履歴を言い、部内をかき回しトラブルを撒き散らす。
そして違う場所では、コンビニで買った飲み物に毒物が混入されていて死人が出ていた。

 関連がなさそうな二つの出来事が、ジワリとしみこむようなスピードで周りの人々を侵す。
物質としての毒だけではなく、嘘という毒、いじめという毒など、人を苛む様々な毒が出てくる。
とても長いが気にならない。

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メビウスの守護者 法医昆虫学捜査官


2016年03月10日 読了
 東京都西多摩で、男性のバラバラ死体が発見される。岩楯警部補は、死体が発見された村出身の山岳救助隊員の牛久と組み、捜査に加わる。
 ところが、司法解剖をした医師の見立てと、法医昆虫学者の赤堀が立てた死亡推定時刻に10日の誤差があった。

 今回もまた、赤堀の担当となった岩楯。虫が赤堀に知らせる遺体の状況と、法医学者との意見の違いを気にしつつも、刑事の勘は別のところで怪しい人物を探り出している。
 安定のスリル感。
寒気が起こるほどの状況がいくつも出てくるが、虫の恐怖と共に最後はうすら寒い狂気に触れてさらに恐怖が増幅する。
毎回新しい知識と驚きでわくわくする。

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メビウスの守護者 法医昆虫学捜査官 (講談社文庫) [ 川瀬 七緒 ]
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黒十字サナトリウム


2015年12月16日 読了
 ある日梶原教授は、自分が狂っていることに気付いた。
そしてそれを知る友人を殺し、死に場所を探して旅に出る。
たどり着いた北の診療所には、自分を異形の者だと思い込む人たちが暮らしていた。

 様々な時代、場所で登場する美しい女性の正体が明かされるにつれ、サナトリウムに集う人々の正体もわかる。
近頃多い、わざとしつこく修飾語を並べて複雑に見せる、内容のないライトノベルと違い、哲学的な美しさを感じる文章。はじめは読みづらく感じるが、そのうち取りつかれたように目が離せなくなってしまう。
物語自体は目新しいものではないけど、その文章が魅せる雰囲気は後を引く。

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黒十字サナトリウム [ 中里友香 ]
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図書館の魔女(下)


2015年09月26日 読了
 「キリヒト」としての使命が明らかになった後も、二人だけの指話でさらに絆が深まるマツリカとキリヒト。
 そして国の情勢が戦へと傾いていきそうになる時、マツリカは、唯一の言葉である左手を封じられる。

 一の谷を守るため、また左手を取り戻すため、周辺国への土産を手にして敵国へ乗り込むマツリカ。
上巻よりも量があったのに、少しも苦にならない。
大冒険となる下巻はスピード感が増し、読み応えたっぷり。

 小休止的に入っていた魔導書などの禁書に関する講義シーンが印象的で、納得したり苦笑いしたりと、本に関する興味が増した。

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図書館の魔女 烏の伝言 (下) (講談社文庫) [ 高田 大介 ]
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