亥子ころころ


 武家出身の菓子職人・治兵衛が、出戻り娘のお永、孫娘のお君と三人で営む「南星屋」。
地方を旅して集めた菓子の覚書を頼りに拵える菓子店は、小さいが繁盛していた。
ある時治兵衛が手を痛め、粉を捏ねるのもままならぬようになった時、まるで呼ばれたようにやってきた行き倒れの男は、菓子職人だったことから、「南星屋」で働くことになった。

 前作は治兵衛の出自が大きな問題となってしまい、やっと皆の心が落ち着いてきた頃に出会った運平。
人の縁を描くのが上手い作者らしい、厳しくも温かい出来事が続く。
今回も出てくる菓子を想像してしばらく手が止まってしまうくらい、魅力的なものばかり。
そして、地元の「塩味饅頭」が出てきので一層うれしくなる。
今後の人間関係にも興味があるが、次はどこの菓子が出てくるかと楽しみになる。

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グランドシャトー


昭和38年、母の再婚相手である義父の、次の結婚相手にされそうになり、ルーは大阪に逃げてくる。
あてにしていた母の親戚も見つからず、途方に暮れていたルーは、大阪京橋のキャバレー「グランドシャトー」のナンバーワンホステスの真珠に拾われる。
下町の長屋での真珠との暮らしにこの上ない幸せを感じながら、ルーは「グランドシャトー」でも人気を得ていく。

 ひたすら家族を思い続けて働いたルーが、家族からの拒絶によって打ちひしがれる様子が辛い。
心のよりどころとなった真珠の存在だけが、ルーのその後の生き方を決める。
18歳から50近くまでの、ルーの物語。

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てらこや青義堂 師匠、走る


2019年09月27日 読了
 かつて公儀の隠密であり、凄腕で有望と畏れられていた十蔵は、故合って寺子屋の師匠をしていた。ところが、藩の派閥争いに巻き込まれた加賀藩士の娘・千織を助けるために忍びの技を使ってしまう。

 隠していた過去にいやおうなく連れ戻されるという筋書きはありふれているけど、寺子屋の子供たちのやんちゃぶりや、かつての仲間や頭である兄との関わりが、微笑ましく、勇ましく、頼もしい。
身を案じて離縁した妻も一風変わっていて、個性が強い面々ばかり。
楽しくて最後まで目が離せない。

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てらこや青義堂 師匠、走る [ 今村 翔吾 ]
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髪結百花


2019年01月25日 読了
 遊女たちの髪を結う仕事をしている母について、髪結いの見習いをしている梅。
当代一の美しさと言われる紀ノ川や、その禿になったタネとの出会いが、お梅の心に覚悟を抱かせる。
 
 遊女と恋仲になった夫から婚家を追い出されたお梅には、辛い仕事。
でも女たちとの交流の中で、次第に仕事への矜持を見つけるお梅の様子が力強く描かれている。
そして悲しい出来事をいくつも乗り越える女たちの様子に何度も泣かされる。
美しさの表現も見事で、想像するだけでも息をのむほどの光景が何度も出てきて、そのたびに繰り返し文字を追った。
最後まで満たされた思いが続く。

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瑕疵借り


2018年12月13日 読了
 普通ではない死に方をした人が住んでいた家は、事故物件や瑕疵物件として、告知義務が生じる。
そんな家に住む藤崎は、オーナーや不動産会社から依頼を受けて瑕疵を洗い流すことを生業としていた。

 表情にとぼしく、やせた風貌の藤崎が、瑕疵物件に住むのはなぜか。
原発処理の仕事をしていた男の死、失踪した女性、謎の自殺。
様々な理由で死んだ人たちと、それにかかわる人たちの遺恨をも洗い流す藤崎の様子を見るうち、藤崎自身に興味が湧いてくる。
ただ人死にが出たというだけではない、あらゆる人の生き様の結果の死という厚みを感じさせる。

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瑕疵借り [ 松岡 圭祐 ]
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紐結びの魔道師


2018年08月20日 読了
 紐結びの魔道師リクエンシスは、様々な結び方をすることで、お守りを作ることも、罠を仕掛けることも、怪物対峙に加勢することもできる。
普通の人よりも長い時間を生きる魔道師の生きてきた、ある場面を切り取った短編集。

 『オーリエラントの魔道師たち』の中で一番印象に残っていた人物の物語。
相棒リコとの出会い、若い頃の衝動や、生き過ぎたと感じている頃の心の動きなどが、紐結びの魔法と共に生き生きと描かれていて、読み終えるのがもったいないと思えるほど。そしてリコとの別れを知った時の寂しさは大きすぎた。
 同じ魔道師のカッシやケルシュの話も読みたいが、次に興味が湧いたのは<星読み>のシンドヤ。
彼女が主人公になった話も読んでみたい。

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紐結びの魔道師 (創元推理文庫) [ 乾石智子 ]
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鹿の王 下 還って行く者


2018年07月29日 読了
 犬にかまれて生き残ったことが大きな意味を持つと悟ったヴァンとユナ、そして違う方向から同じ病を探っている医術師のホッサル。
これまで出会ってきた民族の長たちと知恵を出し合い導き出された病の元とは。

 ヴァンとホッサルが出会って、泥沼の政治的戦いが起こらなかったことでホッとした。邪な気を持つ者の人となりはあえてさらりと書かれているため、そちらに感情移入することはなく、複雑な善悪を感じずに済み、素直に物語に入り込める。

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鹿の王 下 [ 上橋菜穂子 ]
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御徒の女


2017年10月18日 読了
 武家の娘として生まれた長沼栄津(ながぬま・えつ)は、江戸患いの母に代わって家の仕事を引き受けながらも、娘らしい悩みに追われる日々。
そして幼馴染の求婚を断り、兄の進める結婚をする。

 栄津の、娘時代から五十を超える年までの人生。
ままならない人生の色んな場面が栄津の生き方を変えていき、その時々の考え方がとても正直。
不満や葛藤がそのまま描かれ、妙な正義感も同情も善人ぶった感情なども出てこないので、こちらも同意や反発がそのまま受け止められる。
 実の娘にすら道理を説いて厳しくあしらう栄津は、今の世では受け入れられないかもしれないが、とても好感が持てた。身内だからと何でも許して受け止めるのは違うと、私も思う。

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御徒の女 [ 中島要 ]
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風聞き草墓標


2017年10月02日 読了
 二十年まえ、父は何をしたのか。
佐渡島の鉱山開発、貨幣改鋳の断行など財政の舵取りを担った荻原重秀。彼は収賄の汚名を着せられ、獄中で死した。
時を経て今、その時起こったことの真相が明るみにでようとする。

 父への不審にじっとしていられず、佐渡を目指す娘のせつ。
旅立つ前の出来事と道中の思いが交互にやってきて、せつの心のように惑わす。
痛ましい死がたくさん起こり、どうにもならない悔しさが増えて、生きることのままならなさを存分に感じられた。

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風聞き草墓標 [ 諸田玲子 ]
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東京會舘とわたし(下)新館


2017年08月13日 読了
 上巻(旧館)とは打って変わって感動的な話が満載。
長い歴史の中で現代に近づき、人々の考え方が今に近づいてきた証かもしれないが、共感を誘うものが多かった。

 歴史ある建物はそれだけで感動を覚えるが、人々に誇りさえ与える。
そんな仕事をしてみたいと思ったり、関わってみたいと思ったり、素直にそれ(東京會舘)を見てみたい。

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東京會舘とわたし 下 新館 (文春文庫) [ 辻村 深月 ]
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