パリ警視庁迷宮捜査班


 パリ警視庁警視正アンヌは、停職処分を受けた。
屋っと復帰が決まったと思ったら、上司が新たに作る問題児寄せ集めの部署をまかされることになる。
そこで未解決の事件を選び取り、いくつか調査を始めたら、それらにはつながりがあることが見えてきた。
これは仕組まれた班に違いないと考えたメンバーたちは、20年前のフェリー沈没事故へと注意を向ける。

 個性豊かなメンバーたちが、一見協力しそうにもない事なのにみんなの注意を惹き、そこから解決へと結びつけていく。
途中挟まれる回顧録と、メンバーの思いなどが記憶に残っていなくて読み直したりしていたら、気になるところをどんどんさかのぼる形でじっくりと読んだ。
このパターンは多く、割とオーソドックスな形だったので安心して読めた。

倒産続きの彼女


 弁護士の美馬玉子は何もかも恵まれている先輩の剣持麗子が苦手だった。
なのに一緒に「会社を倒産に導く女」として内部通告された経理課の女性の身辺調査をすることになる。
確かに、彼女の年収では不似合いなブランドものを持っているし怪しいのだが、その会社での聞き取り調査をしている時、隣の部屋で首を切って死んでいる社員を発見してしまう。
そこは、通称『首切り部屋』と呼ばれる部屋だった。

 今回の主人公は剣持麗子の1年後輩。
訳あって祖母と二人暮らし。そして何でもできて美人で自信家の剣持麗子が苦手。
そんな彼女が麗子と組んで調べ始めた案件は、やがて自分の過去を知る事件となっていく。
思いのほか大きな事件となって驚くが、なんだかいたたまれなくなるような事実が判明して辛くなる。
だけどやっぱり、ドラマで重要な人物だった篠田が出てくる話が読みたい。

やさしい猫


 シングルマザーの保育士・ミユキさん。
災害地へのボランティアで出会った8歳年下の自動車整備士であるクマさんと、一年後に偶然再会してから付き合い始める。
そして何度目かのプロポーズでやっと結婚を決めた頃、二人に大きな問題が立ちはだかる。
ただ家族で一緒に暮らしたいという希望が奪われそうになり、必死で抵抗し戦う家族の姿を描く。

 語り部はミユキさんの娘であるマヤ。
誰かへの手紙のような語り口でさらさらと綴られるが、クマさんが外国人であるという理由で起こる大きな問題が暗くて大きな影を作る。
そして、勝率の低い戦いにも負けるもんかと乗り出す3人。
入国管理局で起こる事件が時々ニュースになるが、それを題材にしているので生々しい場面もあって、時に読むのが苦しくなる。
これは問題提起のために書かれた物語。

累犯障害者


 刑務所内にいる受刑者には、障碍者も多くいた。
彼らは障害があるがゆえに、裁判で自分の気持ちを表現することができずに重い刑をそのまま受け入れてしまっていたり、通常の作業ができないために隔離されていたりする。
精神障害者、知的障害者、認知症老人、聴覚障害者、視覚障害者、肢体不自由者の彼らの話を聞いて、今ある日本の問題を訴える。

 福祉の手からすり抜けてしまった彼らがどうして罪を犯したのか。
そしてそんな彼らは出所後どうなるのか。
障害の理解が充分ではない時、どう扱っていいかわからずに放置される。
珍しく小説ではないけど、読みやすく、わかりやすかった。
福祉がいかに届きにくいかと強調されていた。

泥棒は図書室で推理する―泥棒バーニイ・シリーズ


 失恋の痛みを癒すために、バーニィは田舎の古い屋敷を改造したカントリーハウスへ行くことにした。
でももちろんそこはバーニィだから、ただ行くわけではない。
ホテルの図書室にあるというレアな初版で稀覯本があるというので、いただきに行くのだ。
キャロリンと猫のラッフルズを連れて向かったそのホテルは、どこもかしこも本だらけだったが、大雪に阻まれて陸の孤島と化していた。
そして起こる殺人事件。またもやバーニィは、探偵の力を発揮する羽目になる。

 失恋した相手は前作のイローナかと思ったら違っていた。
その時からいくらか時間がたっていたらしい。
雪で閉ざされ、橋は落ち、電話線が切られたホテルで起こる連続殺人というよくあるシチュエーションだが、バーニィの関心は稀覯本であり、事件の解決に乗り気ではなかった。
それでもキャロリンにせっつかれ、屋敷を調べ始めるバーニィ。
そして再開した恋人とは完全に分かれることを決める。
その決断をした理由を知り、より彼のことが好きになった。

名探偵のままでいて


 第21回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。
ミステリー好きで、小学校の校長だった祖父は、幻視や記憶障害といった症状が現れるレビー小体型認知症を患い、介護を受けながら暮らしていた。
しかし孫の楓が周りで起こった不思議の話を始めると、かつての知性が顔を出し、さらりと解き明かしてしまう。
だから楓は、そんな祖父に会いたくて、今日も祖父の住む家へと向かう。

 先生が子供たちの目の前で突然失踪してしまったり、小さな居酒屋で起こった殺人事件や、さらには楓に付きまとう視線の謎など、どれもちょっと不思議で、ちょっと怖い。
楓に問題を出しながら理論的に謎を追う祖父は、老いたとはいえ素晴らしい推理力。
こんな風に優しく語り掛ける謎解きは、あまりなかったように思う。

泥棒は哲学で解決する


 世界に5枚しかないという貴重なコインを盗みに入った家には、すでに天窓から忍び込んだ泥棒たちによってめちゃくちゃに荒らされていた。
しかしバーニィが欲しかったコインはまだ残されており、バーニィは先客の犯行に見せかけられるとして楽な仕事をしたはずだった。
ところが、翌朝その家では住人の妻が死体で発見される。
そしてなぜかバーニィが殺人犯とされてしまうのだった。

 やっぱり仕事をした家で見つかる死体。
そしてさらに、コインや切手を扱っていた故買屋のなじみまで殺されてしまう。
バーニィが自らの無実を証明するために奮起するという流れも同じだが、これまでの登場人物も相棒になったり友人になったりと不思議で楽しい関係が起こる。
犯人を追い詰める探偵としても頼もしく、でも泥棒という特性もちゃんと生かした解決で変わっていて面白い。

泥棒は詩を口ずさむ


 引退する古本屋を買い取り、主人となったバーニィ。
元泥棒だと知っている人は少ないはずなのに、わざわざやってきたその客は、世の中に一冊しかない本を盗めと頼んできた。
楽勝で盗んでこれた本だったが、なんとそれを奪われてしまう。
しかもまた殺人事件にも巻き込まれ、バーニィはまたもや自分の無実を証明するために事件を解決する羽目になる。

 頼まれた仕事はしないはずのバーニィが、これで三度目の依頼泥棒なうえ、そのすべてで殺人事件の犯人にされてしまう。
同じ展開であきれてしまうが、話自体は面白い。
相棒となる女性もちゃんといるし、何かと融通を聞かせてくれる刑事のレイもいる。
奇抜な推理でもなく、ちゃんとヒントも隠されていて、ちょっと周りくどいが飽きずに読めた。

望月の烏 八咫烏シリーズ


 権力者・博陸侯の下、金烏代となった凪彦。
まだ幼いゆえに信用もなく、政はすべて博陸侯がになっていた。
それでも凪彦の妃選びのための四人の姫君たちが集う〈登殿の儀〉が行われることとなり、宮中は華やいでいた。
ところが、女の身でありながら髪を落とし、落女として下級士官となった澄生がとんでもない嵐を巻き起こす。

 雪哉の変わりように驚いて、まだ同一人物だと納得できない。
しかし年月は流れ、奈月彦は死に、外遊を終えた雪哉が何を考えているのかが気になってしょうがない。
さらに、強烈な存在感を残す澄生の素性に驚いて、しばらく相関図を眺めていた。
ますます複雑になっていく世界に、驚くことばかり。

泥棒はクロゼットのなか


 盗みに入った家で、まさかの家主帰宅。
集めた宝石を置いて慌ててクロゼットに隠れたに閉じ込められたバーニィは、そこで殺人現場を目撃してしまう。
さらにはその殺人の容疑者とされ、宝石までなくなっておりまさに泣きっ面に蜂の状態。
泥棒が本業のはずが、またしても探偵となって真犯人を探す羽目になったバーニィだった。

 ターゲットを紹介され、安全で確実なはずが失敗し、さらにはそこに死体までついてくるというのは第一弾と同じ展開。
そして魅力的な女性との出会いも。
樋口有介の「柚木草平シリーズ」に似た印象で、事件を深刻にしすぎないバーニィのおかげで読みやすい。
泥棒なのになぜか女にもモテるところも似ていて、若いのから老女まですべてに好かれる様子は見ていて楽しい。
ただ今回はちょっと疑問点の残る結末。
シリーズは続くが、展開は変わっていくだろうか。