宝石鳥


2017年11月02日 読了
 第二回創元ファンタジイ新人賞受賞作。
妻を事故で失い、すべての気力を失ったミュージシャンは、見つかったわずかな遺骨と共に、妻の故郷へ向かう。
 そこは、神の遣いである宝石鳥の子孫が治めるシリーシャ島。100年まえの女王が島を訪れた植物学者と恋に落ち、苦悩の末その身を二つに分けたという言い伝えがある島だった。

 美しいファンタジー。長い話にも関わらず、少しも飽きずにあっという間に読んだ。神の使いである宝石鳥も、その民族衣装も、舞も、そこを統べる女王も、たっぷりの美しい表現が満載でうっとりする。ただ、最後がなんだか密度が薄い感じで物足りなかった。女王となった者の様子の描写が少ないため、様子が浮かびにくく、理解するのに何度か読み直した。

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

宝石鳥 [ 鴇澤亜妃子 ]
価格:2090円(税込、送料無料) (2019/11/17時点)

風神雷神 風の章


2017年10月25日 読了
 扇屋「俵屋」の後継ぎとして養子になった伊年は、将来店を継ぐための修行などお構いなしにひたすら絵を描いていた。
ある日、幼馴染に頼まれ描いた平家納経の表紙絵の修繕を書の天才、本阿弥光悦が気に入り、料紙と下絵と文字の3つの美が一つとなった書物を作りたいと打診される。

 後に天才絵師と称されることになる俵屋伊年の若い頃の話。
我を忘れるほど惹きつけられるものに出逢い、のめり込み、モノにするには、天才といえども簡単ではなく、伊年が心を動かされたり焦ったりする様が目の前にいるかのように感じられて興味をそそる。
所々入る現代との比較や当時の文化の説明なども、テンポを途切れさせずにうまく配置され、するりと頭に入って来る。
次の章も途切れずに読みたかった。

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

風神雷神 風の章 [ 柳 広司 ]
価格:1650円(税込、送料無料) (2019/11/17時点)

すかたん


2017年09月28日 読了
 饅頭屋の娘だった知里は、江戸詰め藩士の夫に早くに死に別れ、大坂でも有数の青物問屋「河内屋」に住み込み奉公することになった。
関東と関西の文化の違いに戸惑いながらもなんとか慣れ、商いより野菜作りに情熱を傾ける若旦那に振り回される日々。

 全く違う環境に置かれ、慣れるまでの辛さもしみじみと伝わるが、しだいに食べ物の美味しさにほころび、野菜にも興味を持っていく知里が頼もしくて微笑ましい。驚くことばかりする若旦那の行いよりも知里の行動力に力が湧き、お見通しのおかみさんに背中を押され、だんだんと力がこもる。
何かをつかみ取る力ってこんな風に持つものなのかと感じることができた。

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

すかたん (講談社文庫) [ 朝井 まかて ]
価格:792円(税込、送料無料) (2019/11/17時点)

瓦版屋左吉綴込帳


2017年08月30日 読了
 わずか10か月で姿を消した写楽。
その彼が、瓦版屋をしていたという設定の本作。
左吉とその弟子・孫次がいち早く仕入れたネタを、ただ瓦版にするだけではなく、事の顛末まで自分たちで見つけてしまうという、探偵ばりの大活躍をする。

 巷で起こる、殺しや盗まれた富くじの行方など、あっという間に瓦版にして売りさばく左吉。挿絵は一つもないのに、鮮やかで生き生きとした絵が目に浮かぶ。

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

瓦版屋左吉綴込帳 [ 古荘多聞 ]
価格:1780円(税込、送料無料) (2019/11/17時点)


2017年08月10日 読了
 北斎の娘であり女絵師の葛飾応為。
幼いころから絵筆を握り、父の講釈に耳を傾けていた風変わりな娘が、次第に絵師として成長し、老いるまでの物語。

 小言の多い母や、気持ちを素直に出せないまま終わった恋、そして姉の忘れ形見である甥の悪行に困らされ、絵師としての技術に悩む姿が迫るような圧迫感を持って身を寄せてくる。
残っている絵はわずかだという彼女の絵に興味が湧き、改めて表紙を見て息をのむ。

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

眩 [ 朝井まかて ]
価格:1870円(税込、送料無料) (2019/11/17時点)

優しき悪霊 溝猫長屋 祠之怪


2017年08月03日 読了
 祠にお参りするようになって、幽霊と出会うようになってからも、忠治たち4人はちっともおとなしくならず、ますます幽霊を探して勝手に動き回るようになる。
 今度は空き家でかくれんぼをしていた時に出会った幽霊。

 次に殺される者の名前を告げていく幽霊に、怖がりながらも興味が勝つ4人。
長屋の大家さんにどんなに小言を食らっても、何度も幽霊に会いに出かけ、そのたびに死体を見つけて帰って来る。
怖い話のはずなのに、間を置かずくすりと笑えるところがあるのでちっとも怖くない。
この4人の言動が、楽しくて仕方ない。

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

優しき悪霊 溝猫長屋 祠之怪 [ 輪渡 颯介 ]
価格:1540円(税込、送料無料) (2019/11/17時点)

政略結婚


2017年08月02日 読了
 江戸から明治、大正、昭和までの、女たちの結婚。
生まれて半年で結婚相手が決まった加賀藩主前田斉広の三女・勇は、慣れない婚家で妊娠の兆候もなく、夫に側室を進めることに寂しさを感じていたが。。
 時代が変わり、常識も良識も変わっていく中、女たちの結婚が変わっていく様子を描く。

 苦しい日々も回想すれば満足のいく人生だったと静かに物思う彼女たちの物語は、悲壮感がなくて頼もしさすら感じる。
1つ目の物語で出てきた、「それでも死なぬものは死なぬ」というが一番心に残った。

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

政略結婚 [ 高殿 円 ]
価格:1650円(税込、送料無料) (2019/11/17時点)

恋する狐


2017年07月10日 読了
 俳人の与謝蕪村が出会う、不思議な話。
人から聞いた話、蕪村自身が出会った人外など、いくつかの短編が表紙の狐たちのように舞い踊っているような本。

 短い話ばかりだけど、どれも優しい終わり方で、一つの物語に1,2行づつ、心がほわっとする分があり、思いのほか癒される。

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

恋する狐 [ 折口真喜子 ]
価格:638円(税込、送料無料) (2019/11/17時点)

フォークロアの鍵


2017年07月06日 読了
 大学院生の羽野千夏は、民俗学の「口頭伝承」の研究の一環として、認知症グループホーム「風の里」を訪れた。
そこには、個性豊かで様々な症状の認知症の入所者6人と、仕事はできるがどこか諦めて表情を消すスタッフがいた。

 表紙からもタイトルからも中身が想像できず、とりあえずホームの現状にあまり興味を持てずにいたが、全く意思疎通のできないと思われていた一人の入所者のつぶやきがひっかかって、ふとしたことで出会った闇を抱える少年とともに大きな事件を暴き出す。

 どんどん引き込まれ、最後は手を止める事が出来ないほど。
ホームの話がこんなところに飛ぶのかと驚いたが、結局口伝の話ではなくなった。法医学の話のように、民俗学の追及へは向かわないまま終わったのが残念だけど、夢中になれるところはかわらず。

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

フォークロアの鍵 [ 川瀬 七緒 ]
価格:1650円(税込、送料無料) (2019/11/16時点)

愚行録


2017年06月19日 読了
 一家惨殺事件が起こり、1年たっても犯人がわからずじまい。
ルポライターを名乗る主人公(?)が、隣人や友人、会社の同僚、学生時代の友人にまで話を聞き、殺された一家の人物像を探る。

 最初から最後まで主人公は「聞き役」で名前もどんな姿かも描かれていない。
皆それぞれの立場から見た被害者の様子を語るだけのストーリーだが、この事件の犯人は実はどうでもいい位置にある。
犯人がわかることよりも、事件の解決よりも、語り手たちの言動が重く残り、これこそが愚かだと言っている。
 そのうえ、あまりにたくさんの毒気を浴びたせいで、殺人がなんてことないような気にさせられてしまったことも怖い。

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

愚行録 (創元推理文庫) [ 貫井徳郎 ]
価格:770円(税込、送料無料) (2019/11/16時点)