ばけもの好む中将 十一 秋草尽くし


 いつものように怪異を求めて夜歩きする宣能と宗孝。
しかし宗孝は、宣能が秘めている荒事のことで頭がいっぱい。その時、二人の面前にひらりと漂う白いものが現れる。
驚き慄く宗孝。
 一方、自身が企んでいたことが失敗し、夜な夜な悪霊に悩まされている弘徽殿の女御は、悪霊が実は巫女たちの仕掛けだったことを知り、復讐を誓っていた。

 宗孝の周りが一気に慌ただしくなる。
どんなことも権力に任せてやってしまう弘徽殿の女御、都の裏の仕事をしている多情丸、そしてそんな物騒なことは何も知らずに純情な恋心を育んでいる東宮と初草。
物騒なことが多く起こる今回だが、東宮と初草の微笑ましいやり取りが和ませる。
今回は周りの者たちのエネルギーに押されて、宣能と宗孝の印象が薄かった。
これからの二人が心配になる。

青い雪


 第25回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。
夏のひと時を過ごす3つの家族。
幼い時はただ楽しかった。でもある時、5歳の亜矢ちゃんがいなくなった。
子供だったために知らなかったことが、やがて少しずつ分かってくるようになり、亜矢ちゃんを取り戻そうと動き始める寿々音と大介、そして秀平。
やがて3つの家族の秘密も明かされ、あの日起こったことも明らかになる。

 3つの家族それぞれの子供たちの目線から語られるため、最初はバラバラな印象。
でも3家族の関係が分かり始めると、それぞれの出来事がつながり始める。
そしていつまでもつながらなかったタイトルは読み終わってはじめて気づく。
ちょっと関係者が多すぎて混乱した。

さよなら僕らのスツールハウス


崖に腰掛けるように建っているシェアハウス「スツールハウス」。
元恋人の結婚式にお祝いとして送った写真にこっそり隠した伝言。シャワールームから聞こえた、住人以外の音。植物が好きな青年に持ち込まれた月下美人についての相談。そして一番長く住んだ住人が急に思い立ったこと。

同じ時を過ごした記憶を、建物が思い出しながら語っているよう。
スツールハウスが建って最初の住人の話から始まり、入れ替わりながら、代々の住民それぞれの立場で起こったことを淡々と描いている。
しんみりしたり、後悔を解消できたり、ホラーだったりといろいろだが、私は一番最初の話が気に入った。

遺品博物館


 一見して年齢が分かりにくく、特徴もない男は、吉田・T・吉夫といった。
「遺品博物館」に収蔵する品を選ぶため、生前に依頼をうけた人から一つ、遺品をもらいにやってくるらしい。
金銭的価値は関係なく、死者の人生において最もふさわしい遺品を選ぶという。
 そんな吉田が引き取りに来た遺品にまつわる、依頼人と家族の話。

 遺産を残したことで起こる親族の争いや、死んでからわかる依頼人の交友関係、そして隠してきた思いなど、それぞれの人生が語られる。
悲しみに沈んだり、分け前を増やそうとしたり、出し抜こうとしたりする親族をしり目に、吉田は依頼人とその周辺を冷静に観察している。
そんな吉田の言動が時にコミカルだったり軽快だったりするため、全体の雰囲気もどこか明るくて読みやすい。
妙に感情移入することもなく、自分のことは謎のまま曖昧にして、依頼人の最も象徴的な遺品を選び取る様子は、何よりも依頼人の人柄を浮きだたせている。
こんな博物館があるならぜひ見てみたいし、依頼しておきたい。

道化師の退場


 永山櫻登は、俳優だが名探偵として名を馳せた桜崎真吾と面会する。
彼は、余命宣告を受けた病人だった。
前年の夏、小説家来宮萠子が自宅で殺害され、容疑者として櫻登の母春佳が逮捕されたが、「彼女の死に対して、わたしに責任がある」の言葉を遺し謎の自殺。
櫻登は、母の無実を信じてその真相を究明しようと桜崎を頼ってきたのだった。
桜崎の指示で、櫻登は母とその交友関係、さらに祖母やその親友にまで調査を広げ、母の残した言葉の意味を探っていく。

 誰からも変わっていると言われてきた櫻登は、会話のつなげ方が独特。
そんな彼に助言をする桜崎も風変りで、個性的な人物が多い。
だんだん広がる調査対象と人間模様に、より深くなってくるのは櫻登への興味。
イヤミスにはならない程度の、ホラーともいえるような最後は思わず読み返した。

よろずを引くもの お蔦さんの神楽坂日記


 高校生の滝本望は、元芸者で粋なお蔦さんと、神楽坂で暮らしている。
最近近所で万引きが増えていると、警官の馬淵刑事が商店街にチラシを持ってやってきた。
商店街の者は皆、ずっと昔からの知り合いばかりで団結も強い。
そんな神楽坂に来た、若い女性の万引き犯。

 ご近所さんのために、ただ自然に力になりたいと思って行動する高校生の望。
商店街のためだけじゃなく、部活で起こったちょっとした「事件」や、皆が知っているけど誰も触れたことがない地域猫、そしてお蔦さんの交友関係まで、いろんな方面に力を出し惜しみしない。
とりわけ、お蔦さんの芸者時代の話はもっと知りたいと思ってじっくり読んだ。
重ねた年月や苦労が、愚痴や軽口でも湿っぽさはなくてむしろ知恵や励ましに聞こえる。
そのため、お蔦さんの話は聞いておこうという気になる。

ヘンリーボーン柄のストール


使用糸:パピー NEW 2PLY(220),リッチモア エクセレントモヘア〈カウント10〉グラデーション(107) の2本どり
編み図:NHK すてきにハンドメイド 2022年 5月号 より
     ヘンリーボーン柄のストール 10号針 102 g

若旦那のひざまくら


 京都、西陣織の老舗の一人息子との結婚を決めた芹。
打ち込んでいた仕事も辞め、京都へとやってきて婚約者の両親と顔を合わせれば、しょっぱなからいくつも繰り出される「いけず」に戸惑い、京都ならではの文化に振り回される。
でもめげない。
大好きな彼との結婚のため、芹は打開策を練る。

 かみ合わない会話に頭を抱え、その裏を読み取ってうんざりする芹。
笑顔でやんわり嫌みを言う母親と彼の美人の幼馴染に、よくもここまでと嫌悪感が沸く。
京都特有のいじわるのバラエティに関心して、陰湿さに慄き、受けるだろうダメージを想像しては勝手にくじけそうになりながら、芹はなぜこの場面でこれほど頭を切り替えられるのだろうかと考える。
そして、いつしか一人づつ陥落していく様子は頼もしく、その発想とパワーはすごい。
ピンチってこんな風に乗り越えていくと気持ちいいだろうなと素直に思える。

Butterfly World 最後の六日間


 羽を持ったアバター、バタフライが生息するVR空間〈バタフライワールド〉にログインしたアキは、ずっとログアウトをしないでいられる人たちが住むという〈紅招館〉に行きたいと願っていた。相棒のマヒトと共に探し出し、やっとたどり着いたところで、トラッキングによってその〈紅招館〉周辺に地形変更プログラムが書き換えられてしまうという事故が起こる。閉じ込められた住人とアキたち。
 すると、非暴力が徹底されているはずの〈バタフライワールド〉で、殺人が起こってしまった。

 〈バタフライワールド〉が、アキに関係する12年前からの因縁によって壊れようとしていたことが分かってから、物語のスピードが上がる。
ちりばめられた謎を推理していくことを作者が願っていて、ヒントも与えられていたが、分かったのは半分ほどだった。
それでも、現実とVRを行き来するように、物語に入り込むことと推理とを交互にやりながら、たった6日の出来事を充分楽しめた。

楽園のアダム


 大厄災により人類は1%未満まで減少し、あらゆる問題を解決するために作り出された人工知能の「カーネ」により生活や判断、結婚や出産までも管理される世界。
しかしカーネのおかげで争いはなく、様々な役割をもった集団によって生活は十分に潤い、安定した人生を送れる時代。
「知識の島」で研究に勤しむ主人公・アムスは、ある日大好きなセーファと共に偶然死体を見つけてしまう。
それは良く知った人物で、しかもむごたらしい拷問の末、心臓を一突きにされた助教授だった。

 暴力などなく、平和で穏やかな暮らしをしていた島に、突然起こる不穏な出来事。
それは、助教授が南極から持ち帰った未知の哺乳類のせいだという。
その生き物によって幾人もが殺され、やがてアムスが聞かされるその哺乳類の真実に驚かされる。
情報が管理され、故意に知らされない事がある世界では、当たり前の自然であっても驚異となる。
それにしても、未知の哺乳類の獣っぷりはひどかった。ろくでもない性質のものを選んでしまったのか、知らないゆえの恐怖で大げさになっているのか。
そして男女の区別はあって知識もあるのに、割り当てられることに疑問がわかないのは不思議。