銀河鉄道の父


2018年05月31日 読了
第158回直木賞受賞
岩手県花巻に生まれた宮沢賢治。裕福な家に生まれたが、家業を嫌い、東京と実家を行き来しながら曖昧な夢を追った青年時代。
そして、やっと自分の道を見つけ、それに没頭する日々。
若くして逝った文豪の生き様を賢治の父の目線で見る。

 常に親の金を当てにする賢治が、幼く見える。
明治の時代の父が、まだ小さい賢治の病気につきっきりで看病したという話が妙に印書に残っていたせいか。
父を主人公にしたおかげで、賢治を英雄の様な扱いにはせず、迷いの多い一人の若者として見れた。
思いのほか楽しい時間だった。

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ホテルローヤル


2018年05月28日 読了
 湿原に建つラブホテル。
従業員も客も、知れば複雑な事情を持っていた。

 そのホテルを背景に、いくつかの人物を掘り下げた短編。
なんだか後味の悪いものが最初にあったせいか、だんだんその場所に同情心が芽生えてくる。
静かに海の底に住む生き物を観察している気分。

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花ひいらぎの街角 紅雲町珈琲屋こよみ


2018年05月25日 読了
 ある日届いた小包に、半世紀前の記憶がよみがえる。
それは旧友が書いた短い小説だった。
それを活版印刷で自費出版しようと思い立った草は、印刷会社を訪ねる。

 行った先の印刷会社で漏れ聞いた情報漏洩の噂が身近なところまで飛び火してヤキモキさしたり、近所の印刷屋では、自殺したという女性の行動に疑問をもったりと、お草さんは忙しい。
でも、ふとした日々の行動や思いがじんわりと沁みて、その間に考えがまとまるような間がいつも心地よい。

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とるとだす


2018年05月23日 読了
 江戸で名の知れた寺の高僧が、薬種屋たちを集めて話があるという。そのさなか、突然父の藤兵衛が倒れた。
どうやら、いくつもの薬を同時に飲んだらしい。
 
 藤兵衛が死ぬかもしれない。
そんな事態になったらさすがの若だんなも寝付いていられない、と動き出す。
今回は若だんなもいつもより危ない目に合う。
いつものほのぼのさがなかったためか、妖たちも活躍する割に印象が薄い。
毎回一つはしばらく余韻の残る話があるのに、今回は死にかけた印象しかなかった。

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暗夜鬼譚―春宵白梅花


2018年05月18日 読了
 平安、元服したばかりの夏樹は、最近近衛府に勤め始めたばかり。
なにかと面倒なことも多いが、それなりに楽しんでいたのだが。
ある夜、夏樹は恐ろしい鬼を目撃する。

 『ばけもの好む中将』で人気の瀬川 貴次。
しかしこれはあまりにも幼い感じで説得力もないと思っていたら、かなり昔のものらしい。

裸の華


2018年05月15日 読了
 舞台上での事故で左足を砕き、姿を消したストリッパーのノリカ。
故郷の北海道でダンスシアターを開くことにしたノリカは、二人の若いダンサーと、腕のいいバーテンダーに出逢う。

 もう怪我は治っているはずなのに、踊れない。
葛藤を隠しながらも若い才能に魅せられ、育てることに力を注ぐことにしたノリカだが、その語り口がどんな時も静かで、じっくりと読ませる。
暗い話ではないし、踊り子としての矜持や力強さがしっかりと伝わってきて、踊りに興味がなくても自然と想像してしまう。
ひと時の夢のような時間を、自分も過ごした気分になる。

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あなたの人生、逆転させます: 新米療法士・美夢のメンタルクリニック日誌


2018年05月12日 読了
 なかなか就職先が決まらず、焦りの末に飛び込んだメンタルクリニックで採用され、晴れて新米心理療法士となった森野美夢。
そこでは、変人に見える院長が実は名ドクターで、そこでの仕事は刺激に満ち溢れていた。

 いろんな悩みを抱えた患者との触れ合いの中で、その人の悩みや問題はどこから来るのか、少しづつ心を解きほぐし、気づかなかった問題に目を向けさせる。
 事例は面白くて、こんな動きがあるのかと興味が湧いてくるものの、特に注目させるような大きな出来事もなく、どちらかというとまだ導入といったところで終わってしまった気がして物足りない。

カーリー <3.孵化する恋と帝国の終焉>


2018年05月06日 読了
 オルガ女学院が閉鎖されてから四年。大学に進学したシャーロットは今でもインドへの思いを抱き続けていた。
どうにかしてインドに行く方法はないかと様々なことをしても、どうしても出国許可が下りなくてもがいていたカーリーの前に、インドの王子ル・パオンがある提案をする。

 大人になったカーリーは、小さな閉ざされた楽園の女学校で夢見るような生活を送っていた頃とは違い、少し世界が広くなった。
でもおてんばぶりは相変わらずで、そのおかげでインドへたどり着くこともでき、やっとカーリーとの再会もできる。情熱のなせるわざ。
でもやっぱり乙女な言動もそのままで、微笑ましくもハラハラさせられ、羨ましさと応援したい気持ちでいっぱいになる。

カーリー <2.二十一発の祝砲とプリンセスの休日>


2018年04月29日 読了
 シャーロットの学院に、バローダの第一王女・パティが編入してきた。
寮で一番の部屋に陣取り、コーラスの歌を返させ、象に乗って街に出る。
とんでもない行動に皆を巻き込み、振り回す王女。

 振り回され、いちいち腹を立てていた少女たちも、次第に気になり出し、王女に興味を抱く。
10代の女の子らしい発想ではしゃぐ姿が微笑ましいが、その分とんでもないことを思いついたりして、ハラハラする。
人の事には敏いシャーロットが、カーリーの様子にだけは鈍感なのも定石。
その力強さとノリが最後まで楽しかった。

奏弾室


2018年04月28日 読了
 森の中、墓地の奥にある古い洋館には、ピアノ教室があった。
そこは、彼女の音が聞こえる人だけが通える、なんでも教える教室。

 不思議なピアノ教室に迷い込んだ少年が、ひと夏そこでバイトすることになった。
始めは彼女の引くピアノに惹かれ、洋館の掃除や生徒の譜めくりをしていた主人公の祐介だが、やがて繰り返される7月の記憶に不自然を感じ始める。
どんな結末になるのかは後半に入ると予想できるが、祐介や彼女の描写が細やかでリアルなために引き込まれる。
彼女が幼い事祐介にささやいた言葉が気になって様々に空想が広がり、音であふれた余韻を残す。

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