江戸の千駄木町の一角に、心町(うらまち)と呼ばれる場所がある。
小さな川が流れていて、その両側には貧乏長屋が並んでいた。その川は流れが悪く、淀んで悪臭を放つ季節もあるが、ここに住む者からは心川(うらかわ)と呼ばれ、人々の生活の中にしみこんでいた。
そんな心町に住む人の、川と同じように流れだせずに行き詰り、もがく人生の様子を描く。
妾を4人も囲った青物卸の大隅屋六兵衛。妾の一人があるときふと思いついて、六兵衛が持ち込んだ張方に彫刻を施す。
若いころ、手ひどく捨てた女が今になってやたらと思い出される四文飯屋の与吾蔵。
半身麻痺となってしまった息子に異常な執着を見せる母。息子を殺した盗賊を12年も探している男。
いろんな闇を抱えた人たちがいて、でもそれらを詮索するような人もいず、皆何とか生きていけている。
暗くなりがちな生い立ちの人ばかりだけど、ゆったりと流れる川のように静かに互いを思いやっている様子が、やがて癒しとなっている。
心川の本当の名の通り、うら淋しい物語。