コロナ漂流録


 東城大学医学部付属病院の田口センセは、もうすぐ還暦。
このままゆったり引退したいと思っていたのに、いろんな肩書がついてしまい、定年が遠ざかってしまった。
そんな俺に初めてついた新人はなんとも理解しがたい方向にやる気満々な中堅医師だった。
彼はさっそく病棟に「効果性表示食品」を導入しようとしたり、コロナ患者を頑なに診ようとしなかったりと、手に負えない。
田口は最後の一手にと、禁断の助っ人を呼ぶことにした。

 相変わらずの皮肉がいっぱい。
政治家だろうが企業のトップだろうが人が入れ替わろうがお構いなしの悪口が、潔いほどたっぷり入った、ある意味これも病原菌のように頭に侵食してくる。
コロナ政策だけじゃなく、東京五輪やワクチン開発、果ては総理の国葬義まで。
どんな人でもこの中の不満の一つくらいは「自分も感じていた」と言うだろうというくらい、あらゆる疑惑や不満を網羅していた。

トランパー 横浜みなとみらい署暴対係


 神奈川県警みなとみらい署刑事第一課暴力犯対策係係長・諸橋夏男。
管内の暴力団・伊知田組が関わっているという「取り込み詐欺」を調べ始めたが、ガサ入れに失敗する。
そして、警察内部からの情報漏洩が疑われ、県警本部と協力して始めた捜査が、いつの間にか公安や監察まで加わり、大ごととなっていく。

 やっぱりこれも同じパターンだった。
主人公を他のシリーズの誰に変えても成り立ち、もう誰が誰かわからない。
主人公の性格がバラバラならともかく、同じような人たちばかり。

絞め殺しの樹


 根室で生まれたミサエは、孤児のため、十歳で元屯田兵の吉岡家に引き取られた。
しかしそこでは一家にこき使われ、見かねた出入りの薬売りに見込まれて薬問屋で奉公することになる。
そこで学んだミサエは、戦後に保健師となり、また根室に戻ってくる。
1人前になったとはいえ、吉岡家からの不当な扱いは変わらず、見合いで結婚させられ、子供を設けるが長女は自死を選び、次の息子は生まれてすぐに養子に出してしまう。
一人の女の、過酷な人生。

 勉強をして、職を得て、独立したにもかかわらず、周りに流されるまま見合いをして結婚し、自分勝手な男に違和感を感じながらも尽くす。
なぜ自分の意見を言えないのかとイライラした。
自立しているのに断れないのは性分だとしても、嫌な感情ばかりが湧き出る第1部だった。
第2部は、養子に出された息子・雄介からの目線だが、吉岡家の息苦しさはまだ残り、狭い集落の生きにくさをこれでもかと出してくる。
雄介が最後に決めた生き方だけが、強さを示して終わる。
時折現れる白い猫が癒しの瞬間で、それ以外はたいてい苦しい出来事だった。
不気味なタイトルだが、「人は誰もが誰かを締め上げ、締め付けられながら生きていく」という様子がよくあらわれている。

無痛


 「見るだけで病を当てる」と言われる医師・為頼。
彼の元へ訪ねてきた一人の女性から、ある依頼を受ける。
神戸市内で起こった一家惨殺事件をやったのは私だと、精神障害のある少女が告白しているので真意を確かめてほしいと。
為頼は精神科医師として事件に関わることになる。
姿を消した少女、執拗に元妻を追い掛け回すストーカー男、無痛症の男と、そして心神喪失で罪を逃れようとする犯罪者への憎悪を抱える刑事たちとの絡まり合う因縁。

 一家惨殺事件がきっかけで関わることになった人たち。
出てくる人物のうち、複数の行動が不気味すぎて投げ出したくなる。
そして事件は解決しても安心できない状況のままなので、読後ももやもやと不安が残ってしまう。

四日間家族


 ネットで集まった自殺志願者4人。
死ねればどうでもいいはずなのに、嫌悪感が沸いてくる人と一緒なのは気が重い。
そんなことを感じながら車を止め、練炭に火をつけようとしたその時、やぶの中からかすかに赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
「最後の人助け」をしようと赤ん坊を保護した4人。
しかし母親を名乗る女性がSNSに投稿した動画によって、連れ去り犯の汚名を着せられ、炎上騒動に発展、追われることになってしまう。
その日初めて会った4人が、赤ん坊でつながる。

 暗くてどうしようもなく嫌な雰囲気で始まる。
そして赤ん坊を拾ってからは追われる身になり、ひたすら逃げる。
どうしようもないクズばかりだと思っていた4人が、知恵を絞り得意を生かし、赤ん坊を助けるためだけに動き出す。
不思議な関係の4人。

黒猫と歩む白日のラビリンス


 彼の存在は4年になるまでほとんど知られることがなかったくらい存在感がなかった。
詩集を発表してから、彼は突然時の人となり、3年後にまた突然姿を消した。
 ある日、「本が降ってくる夢を繰り返し見る」という学生の相談に乗った付き人。
だが間もなく、彼の詩集がばらまかれた場所で昏倒する事件が起こる。
贋作収集家の元で起こった密室の秘密、覆面アートは落書きか否か、など、現代アートをめぐる5つの謎。

 本編よりも黒猫の意思が多く表現されているので優しい気持ちでいられる。
悩む付き人にそっとヒントを手助けする様子が楽しそうで、その他の悩める教授や学生の起こす物騒な事件の印象を和らげていていた。

カレーの時間


 25歳の誕生日、うちで誕生日を祝ってくれるはずだった。
しかしそこに突然現れた祖父のおかげで一転して重い雰囲気となる。
そしてなぜか、年寄を一人にしておくのは危ないからと、僕・桐矢が同居することになってしまった。
ゴミ屋敷を片付けることから始まった同居は、苦手だと思っていた祖父の生きてきた歴史を知ることであり、家族の歴史を知る事であった。

 頑固で口うるさく文句ばかりの祖父に、最初はうんざりしていた桐矢だが、祖父がなぜそんな風になっていったのかを知っていくうちに考えが変わる。
男だから、男のくせに、男らしくと育ってきた祖父が、女ばかり生んだ祖母をどう思っていたのか。
母達との確執が解ける日が来るのか。
桐矢と祖父の両方の心の内を覗いているうちに、幸せの時間だったカレーを囲んでお互いの価値観がぶつかる。
世代が変わるとこうも考え方が違うのかと思いながら読んだ。

さまよえる古道具屋の物語


 ある日ふと気づく、いつからあったのかわからないけど古ぼけた佇まいの古道具屋。
そこを見つけたら入ってみたくなり、そして何かを買わされる。
人生の岐路に立った人たちが、絶望や苦悩を抱えた人ならば入ることができる店。
買わされたのは、絵がさかさまになった絵本、そこが抜けたポケットがついているエプロン、取っ手のないバケツ、穴がない貯金箱。
それらを買って、いいことがある人もいれば、堕落していく人もいた。
そして彼らはどこかでつながっていることが分かり始め、不思議な店は彼らにしか意味がないのだと気づく。

 時空を超えて現れる古道具屋が、客の好みも意見も聞かず商品を売る。
あなたに今必要なものだからと言われて困惑する人たち。
いい話で始まったからほっこりして読み進めると、ひどい話も出てくるので油断はできない。
繋がっているけど時間はまちまちなので、人物の関係図がどうなっているのか混乱した。

魔法使いと副店長


 買ったばかりの新居に妻と息子を残して単身赴任中の四十路男・藤沢太郎。
スーパーマーケットの副店長として日々頑張っているが、そんなある日、窓を破って一人の少女が押しかけてきた。
一緒にやってきたモモンガに似た小動物は目付け役だと話し出し、太郎は困惑する。
一人暮らしの男の部屋に、どう見ても10歳くらいの女の子が急に出入りしたら警察沙汰になる。
慌てる太郎に少女はなんと、自分は魔法使いの見習いだと話し出す。

 見た目よりも言動が幼い少女はアリス。
人間界に修行に来たという話はどう考えても胡散臭いが、ドタバタな日々で考える暇もなく、友達を作ったり公園で飛ぶ練習をしてみたりと振り回される。
ファンタジーというには現実っぽく、ライトノベルというにもなんだか社会人生活のしんどさもしっかりあって、ねじくれ家族小説というだけあってよくわからない。
少女の成長物語という感じで読めば単純に楽しめる。

箱庭の巡礼者たち


 洪水でがれきだらけになった街の片隅で見つけた黒い箱。
それは箱庭だった。しかも生きている。その秘密を知る人たちとのぞき込むうち、彼らは箱庭の中に入っていってしまう。
そこでは王がいて、竜や吸血鬼もいた。英雄が生まれ、銀の時計で世界を移動したり、不思議な発明をする人、意思を持った機械人形、挙句の果てには不老不死の薬と、あらゆる異世界があった。

 一つ一つは現実なのに、合わさるとすべてがどこかの箱庭で誰かに観察されているという、入れ子のような世界。
どこと誰がつながっているのかを考えながら、それぞれに楽しい世界が広がる。
最後は壮大な話になり、広がっていく宇宙のような余韻で終わる。
でもちょっと大きすぎてうさん臭く感じてしまった。