後宮の烏


2019年03月12日 読了
 後宮の奥には、「烏妃」と呼ばれる特別な妃が住んでいる。
普通の妃とは違い、夜伽はせず、対価と引き換えに望みをかなえるという。
 ある夜、帝である高峻が烏妃の下へ訪れ、翡翠の耳飾りに憑いた鬼の正体を知りたいと言う。

 幼くして連れてこられ、誰からも顧みられず、侍女もおらず、ただ一人の碑女だけを使うその妃。
その少女は例にもれず孤独で、不思議な話し方で、人を寄せ付けない。
『図書館の魔女』に似た雰囲気。
それぞれの背景もそれ相応に過酷で、意外性はないが期待通りの世界に入り込める。

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スノウ・エンジェル


2019年03月09日 読了
 刑事だった神西明は、9年前に相棒を殺され、怒りの余り5人を殺して逃げた。
すでに戸籍では死んだことになっている神西に、かつての上司から「女麻薬取締官が潜入捜査をする人物を探している」と言われて、協力することに。

 薬物の売人に信用され、やがて元締めにたどり着いた頃、予想外の裏切りに合う。
結論はありふれたものだったが、そこまでは引き込まれる。
ただ、気にかけるべき人物は他に幾人かいるにもかかわらず、不思議な物言いをしていた伊佐のことは曖昧なままだったのが、気になってしょうがない。

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草々不一


2019年03月04日 読了
 江戸。兄がいたために奉公に出、商人としての面白みを知り始めた頃になって跡継ぎとして連れ戻された真吾。武士としてお役を頂くために日々努力してきたが、、。分不相応な格の家に婿入りすると、妻から3つの約束をさせられる。
 など、江戸で生きる人たちの生き様をいくつか。

 武士は文字など読めなくともいいと意地を張っていた男が、妻が残した文読みたさに子供たちに交じって手習いに通う。
最後がほっこりする話がいくつかあり、それを、合間の他愛もない物語が引き立てる。
 意地を張ってもそれを大らかに受け止める人がいるのは、傍から見ても微笑ましい。時間をかけてじっくり読むのに向いている。

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棲月: 隠蔽捜査7


2019年02月28日 読了
 私鉄と銀行のシステムが次々にダウンした。次いで殺人事件まで起こる。
それぞれは違う管轄だが、大森署署長の竜崎はどこか落ち着かない。
筋を通せと横やりが入りつつも、気になったことは管轄など気にしない竜崎は、調べを続ける。

 勘が働いたか、竜崎の嗅覚は最初から二つを繋げるそぶりがあった。
原理原則を重んじ、顔を立てるとか建前とかを無駄だと考えて行動する竜崎に、周りは少しずつ感化されていく。
今回は降格人事の禊や終わるという噂で動揺しつつも、いつも通りの淡々とした展開できちんと解決させる。
このシリーズは珍しく、前作をあまり覚えていないままでも楽しめる。

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ばけもの好む中将 七 花鎮めの舞


2019年02月25日 読了
 春、帝の寵愛を受けた梨壺の更衣が出産のため実家に戻ってきていた。
今にも生まれようという時、宗孝は不思議な怪異を体験する。
その後生まれたのは皇女。機嫌をよくした弘徽殿の女御から、皇子から引き離そうと十二の姉に縁談を持ちこむ。

 春爛漫の綺麗な表紙に心が躍る。
美しい話の裏には暗躍する人もいて、なにやら気持ちも上向いた宗孝の隣では息苦しい世界を覗いた中将がいる。
初草も、宗孝も、彼の姉たちも、それぞれに幸せを呼び込んでいる季節に一人だけ、辛い思い出に苦しみ、そしてこれからの苦悩を受け止める覚悟をした中将との対比がくっきり。
今までのように、ただ気の置けない友と外歩きを楽しめる雰囲気ではなくなってきた。

オネスティ


2019年02月20日 読了
 風が吹き抜ける丘の上に立つ双子のような2件の家。
そこに住んでいた二つの家族には、同い年の子供がいた。
彼と彼女は、二つの家の間に立つケヤキの木の下で、生涯の約束をした。

 互いに大好きだけど、恋愛はしない、結婚も、触ることもしないと言った約束を貫く二人。
純愛のように思わせるが、二人だけの世界を作り、周りを振り回している。
特にエピローグはおかしい。あれは単に続きで、エピローグというならもっと時間を区切って視点を変えてほしい。
途中で飽きたかのよう。

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雨上がり月霞む夜


2019年02月15日 読了
 紙問屋・嶋屋を営んでいた秋成は、火事で家を失う。
家業を失った秋成は、幼なじみの雨月が結ぶ庵のもとに居候して医者を目指すことにしたのだが、その庵の主の雨月は極度の人見知りで、秋成の他には会おうとしない。しかしそんな雨月のところに、ウサギの妖がやってきた。

 雨月と秋成は、子兎に姿を変えた妖の「遊戯」といることで、不思議に出会う。
それらはただ悲しい終わりしか招かなかったり、また救ったりもするが、どれも総じて暖かい終わりとなる。
『雨月物語』を知らなかった。手に取ってみたくなった。

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漂砂のうたう


2019年02月11日 読了
 第144回(平成22年度下半期) 直木賞受賞
明治に入り、武士の地位は消えてなくなる。そんな武士の出を隠し、根津遊郭で働いている定九郎は、馬の合わない上司の下でいつまでも昇格しないまま、鬱々としていた。
そんな時、うっかり登楼させ酔うと声をかけた人物は渡世人で、職を張っている花魁を引き抜こうとしている奴だった。

 常に身を低くして生きる者が、突然我に返ったように動き出す時は、得てして失敗に終わる。その結果、一人の花魁を死に追いやったとして定九郎はますます内にこもるようになる。
そんな主人公が起こす大事は、貯めていたエネルギーをすべて吐き出すかのように周囲に大きな波紋を広げるが、終始どこか水の底から眺めるような閉塞感が付きまとっていて暗い。
エネルギーを発しているのはたった一人の花魁だけで、重苦しい雰囲気のシーンばかり。
それでも充分読みごたえがある本だった。

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ドアを開けたら


2019年02月07日 読了
 横須賀のマンションに住む独身の鶴川佑作。
仲良くしている同じマンションの住人の雑誌を返そうと家を訪ねると、返事もなく、鍵も開いていた。
心配して中を覗くと、死体があった。

 マンションの住人同士の関係が様々で面白い。
好感を持っていた人が、他人にとっては気味の悪い人だったりすると知って怖くもなるが、すべては最後にスッキリ解決するので後味は悪くない。
書店シリーズは都合のいい出来事ばかりで飽きていたが、こちらは楽しかった。

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ドアを開けたら [ 大崎梢 ]
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お師匠さま、整いました!


2019年02月01日 読了
 年の離れた夫を亡くし、学者だった夫の代わりに寺子屋で師匠をしているお桃。
学問も算術も、それほど好きではないお桃だが、子供に教える程度なら大丈夫であった。しかしそこへ、酒匂川の氾濫で両親を亡くした春が寺子屋を訪ねてきた。
 自分にはない発想をする春と、算術が好きで才もある生意気な鈴と接しているうちにお桃は気持ちが乱れていく。

 第11回小説現代長編新人賞受賞作。
しかし、なんだかお桃のキャラクターが一貫しない気がしてずっと違和感があった。
主人公の気質がはっきりしないのは、混乱もするし感情移入もできない。
算術の面白さは伝わるが、桃の人となりは伝わってこなかった。
それ以外の、夫や平助、春や鈴はとてもスッキリ伝わってくるのに、なぜだろう。

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お師匠さま、整いました! [ 泉 ゆたか ]
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