優しき悪霊 溝猫長屋 祠之怪


2017年08月03日 読了
 祠にお参りするようになって、幽霊と出会うようになってからも、忠治たち4人はちっともおとなしくならず、ますます幽霊を探して勝手に動き回るようになる。
 今度は空き家でかくれんぼをしていた時に出会った幽霊。

 次に殺される者の名前を告げていく幽霊に、怖がりながらも興味が勝つ4人。
長屋の大家さんにどんなに小言を食らっても、何度も幽霊に会いに出かけ、そのたびに死体を見つけて帰って来る。
怖い話のはずなのに、間を置かずくすりと笑えるところがあるのでちっとも怖くない。
この4人の言動が、楽しくて仕方ない。

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政略結婚


2017年08月02日 読了
 江戸から明治、大正、昭和までの、女たちの結婚。
生まれて半年で結婚相手が決まった加賀藩主前田斉広の三女・勇は、慣れない婚家で妊娠の兆候もなく、夫に側室を進めることに寂しさを感じていたが。。
 時代が変わり、常識も良識も変わっていく中、女たちの結婚が変わっていく様子を描く。

 苦しい日々も回想すれば満足のいく人生だったと静かに物思う彼女たちの物語は、悲壮感がなくて頼もしさすら感じる。
1つ目の物語で出てきた、「それでも死なぬものは死なぬ」というが一番心に残った。

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恋する狐


2017年07月10日 読了
 俳人の与謝蕪村が出会う、不思議な話。
人から聞いた話、蕪村自身が出会った人外など、いくつかの短編が表紙の狐たちのように舞い踊っているような本。

 短い話ばかりだけど、どれも優しい終わり方で、一つの物語に1,2行づつ、心がほわっとする分があり、思いのほか癒される。

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フォークロアの鍵


2017年07月06日 読了
 大学院生の羽野千夏は、民俗学の「口頭伝承」の研究の一環として、認知症グループホーム「風の里」を訪れた。
そこには、個性豊かで様々な症状の認知症の入所者6人と、仕事はできるがどこか諦めて表情を消すスタッフがいた。

 表紙からもタイトルからも中身が想像できず、とりあえずホームの現状にあまり興味を持てずにいたが、全く意思疎通のできないと思われていた一人の入所者のつぶやきがひっかかって、ふとしたことで出会った闇を抱える少年とともに大きな事件を暴き出す。

 どんどん引き込まれ、最後は手を止める事が出来ないほど。
ホームの話がこんなところに飛ぶのかと驚いたが、結局口伝の話ではなくなった。法医学の話のように、民俗学の追及へは向かわないまま終わったのが残念だけど、夢中になれるところはかわらず。

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愚行録


2017年06月19日 読了
 一家惨殺事件が起こり、1年たっても犯人がわからずじまい。
ルポライターを名乗る主人公(?)が、隣人や友人、会社の同僚、学生時代の友人にまで話を聞き、殺された一家の人物像を探る。

 最初から最後まで主人公は「聞き役」で名前もどんな姿かも描かれていない。
皆それぞれの立場から見た被害者の様子を語るだけのストーリーだが、この事件の犯人は実はどうでもいい位置にある。
犯人がわかることよりも、事件の解決よりも、語り手たちの言動が重く残り、これこそが愚かだと言っている。
 そのうえ、あまりにたくさんの毒気を浴びたせいで、殺人がなんてことないような気にさせられてしまったことも怖い。

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藪医 ふらここ堂


2017年06月11日 読了
 江戸・神田三河町で小児科医をしている天野三哲。
無精髭とひっつめただけの縮れ髪、着物も気崩して「めんどくせぇ」が口癖の、近所でも評判の藪医者だった。
娘のおゆん、押しかけ弟子の次郎助、凄腕産婆のお亀婆さん、昔は武士だったという薬種商でイケメンの佐吉。個性豊かな面々が賑やかに周りを囲む。

 表紙の怪訝そうなおゆんの目が印象的。
いい加減そうな口調でも実はちゃんとしたことを言っていたり、子供を見て親を叱る三哲が、だんだん名医に見えてくる。
ありがちではあるが、当時の医学や家族の在り方なんかも含め、じっくり読める。

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シャルロットの憂鬱


2017年06月09日 読了
 警察犬を引退した雌のジャーマンシェパードのシャルロット。
子供のいない夫婦の家で暮らすことになり、犬を飼うことが初めての人間とゆるく幸せな生活を送り始める。

 主人公は人間で、犬の不思議を様々に描きながらも、シャルロットの表情豊かな感情をうまく描いていて、犬の行動を知っている者には納得のことばかり。
ご近所トラブルも野良猫問題も、家出娘も全部引き受ける器の大きさと、他の犬にはめっぽう気弱なギャップがかわいい。
ストーリーも、だんだん気を許してくるシャルロットの行動が面白く、相手の気持ちを汲み取ろうとするお互いの様子が微笑ましい。
そして、夫の鋭い観察力と推理力がチクリと気を引き締める素材となっていてだらけない。
 でも、最後の話はなんだか曖昧ですっきりしない。
せっかくテンポよく楽しく進んできていたのに、最後でぼんやりしたイメージが残るのが残念。

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御松茸騒動


2017年05月23日 読了
 尾張藩では、松茸を献上するのが習わし。
そのための役職まであり、松茸のとれる山には庶民は出入り禁止となっていた。
 江戸で育ち、算術が得意な小四郎は、上司の無能さに呆れ、侮り、蔑みながらも、出世のためにせっせと仕事をこなす日々。
 ところがある日、小四郎は藩元の松茸同心に任命される。

 有能なはずの自分がなぜ、と腐りつつも松茸や山に触れるうち、藩の借財の元である松茸の不作をなんとかしようと心が変わる。
ちょっとコメディチックで箸休め的な話かと思いきや、いつの間にか引き込まれてしまった。苦労が報われた時のうれしさはさらりとしか書かれていないのに後を引く。

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先生のお庭番


2017年05月11日 読了
 長崎の出島。
そこで医者として任務に就いていたシーボルトの薬草園をまかされることになった熊吉。
そこで知恵と努力でなんとか園丁としての力をつけていき、混乱の時代を出島で経験することになる。

 偶然シーボルトの話が続いたが、こちらの方が断然おもしろい。
シーボルトと妻の滝の性格の違いも興味深い。
そして地図の事件。
同じ部分をきりとった話を比較していくのも面白かった。

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夢幻花


2017年05月05日 読了
 花を愛でて暮らしていた老人が殺された。
第一発見者の孫娘・梨乃は、祖父の庭から消えていた鉢植えに気付く。
それは祖父が生前、「特別な花」だと言っていた鉢だった。

 どこへたどり着くのか予想できず、朝顔の不思議さにも興味がわく。
知り合いとなった蒼太の兄・要介の胡散臭さには違和感があったけど、面白く読めた。負の遺産を引き受ける者たちの、世代を超えた生き様。

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