藪医 ふらここ堂


2017年06月11日 読了
 江戸・神田三河町で小児科医をしている天野三哲。
無精髭とひっつめただけの縮れ髪、着物も気崩して「めんどくせぇ」が口癖の、近所でも評判の藪医者だった。
娘のおゆん、押しかけ弟子の次郎助、凄腕産婆のお亀婆さん、昔は武士だったという薬種商でイケメンの佐吉。個性豊かな面々が賑やかに周りを囲む。

 表紙の怪訝そうなおゆんの目が印象的。
いい加減そうな口調でも実はちゃんとしたことを言っていたり、子供を見て親を叱る三哲が、だんだん名医に見えてくる。
ありがちではあるが、当時の医学や家族の在り方なんかも含め、じっくり読める。

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シャルロットの憂鬱


2017年06月09日 読了
 警察犬を引退した雌のジャーマンシェパードのシャルロット。
子供のいない夫婦の家で暮らすことになり、犬を飼うことが初めての人間とゆるく幸せな生活を送り始める。

 主人公は人間で、犬の不思議を様々に描きながらも、シャルロットの表情豊かな感情をうまく描いていて、犬の行動を知っている者には納得のことばかり。
ご近所トラブルも野良猫問題も、家出娘も全部引き受ける器の大きさと、他の犬にはめっぽう気弱なギャップがかわいい。
ストーリーも、だんだん気を許してくるシャルロットの行動が面白く、相手の気持ちを汲み取ろうとするお互いの様子が微笑ましい。
そして、夫の鋭い観察力と推理力がチクリと気を引き締める素材となっていてだらけない。
 でも、最後の話はなんだか曖昧ですっきりしない。
せっかくテンポよく楽しく進んできていたのに、最後でぼんやりしたイメージが残るのが残念。

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防諜捜査


2017年06月07日 読了
「ゼロ」研修を終えた倉島。
所属は外事1課のまま、特別な任務「作業」を開始することになった。
それは、駅でロシア人ホステスが死んだことから始まる。

 ロシア人女性の死が、自殺とは思えないとつかみどころのない違和感を感じていた倉島。わずかな引っ掛かりから事件を突き詰めていくのはいつものパターン。
でも、殺し屋ヴィクトルが名前だけでも登場するわりにはあっさりといつものように進み終わる。
「曙光の街」の頃の密度はない。

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満願


2017年06月05日 読了
 いくつかの賞をとったミステリー。
刑事には向いてないと思っていた新人が、殉職する。その死の間際に漏らした言葉の意味は。刑を務めあげて出所した恩人の真の目的とは。呪われたと噂される峠の真実。

 いくつもの不思議で不気味な短編が、じわじわとしみこんでいく。
あまり好きな分野ではないが、短い中でも充分引き込まれる。
一つ一つをもっとじっくり読みたくなるが、後味が悪くて気分が悪い。

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綺良のさくら


2017年05月31日 読了
 南部藩御側用人・桜木兵庫の娘である綺羅は、幼い頃一緒に遊んだ初代藩主利直の五男・彦六郎の事をずっと慕っていた。
成長と共に二人の道は離れたが、桜木の家が落ちぶれても、お預人の方長老の御側人として通うことになっても、二人で見た枝垂桜が綺羅の心を支えていた。

 一人の藩主の心一つで人生が大きく変わる時代。
綺羅は様々な苦境に立たされながらも一人、自分の足で立っていくと誓う。
歴史的な動きも所々はさまれ、固い表現もある中、綺羅の心は「あっ」という表現が多くて子供っぽい。
最後まで彦六郎に向かう一途さよりも、なぜか倫三の不憫さが残った。

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カーリー <1.黄金の尖塔の国とあひると小公女>


2017年05月25日 読了
 父の仕事の都合で、インドの駐在英国人の子女が通うオルガ女学院へ通うことになったシャーロット。
そこで出会ったのは、オニキスの瞳を持った美しい少女・カーリーと、個性的な級友たち。
初めての経験ばかりのシャーロットは、そこで様々な事を学ぶことになる。

 作者があとがきで言っているように、「ハウス世界名作劇場」のような物語。
仲間たちに恵まれ、波乱万丈な出来事が次々と起こり、ちょっと嫌な奴もいて、少女たちは賑やかに成長する。
どんなことが起ころうとも、明るくて前向きな、かわいらしい学園ロマンス。

御松茸騒動


2017年05月23日 読了
 尾張藩では、松茸を献上するのが習わし。
そのための役職まであり、松茸のとれる山には庶民は出入り禁止となっていた。
 江戸で育ち、算術が得意な小四郎は、上司の無能さに呆れ、侮り、蔑みながらも、出世のためにせっせと仕事をこなす日々。
 ところがある日、小四郎は藩元の松茸同心に任命される。

 有能なはずの自分がなぜ、と腐りつつも松茸や山に触れるうち、藩の借財の元である松茸の不作をなんとかしようと心が変わる。
ちょっとコメディチックで箸休め的な話かと思いきや、いつの間にか引き込まれてしまった。苦労が報われた時のうれしさはさらりとしか書かれていないのに後を引く。

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花咲小路三丁目のナイト


2017年05月22日 読了
 昔からの顔なじみがほとんどで、皆がそれぞれに皆を思う町。
そこに子供の頃住んでいた望が戻ってきて、伯父の営む深夜営業店<喫茶ナイト>でバイトすることになった。
商店街で起こる人間模様をやさしく描いたシリーズ。

 どんな設定でどんなシチュエーションでもやっぱり小路幸也の話は同じ雰囲気。
どれほど辛い出来事やヒドイことに出くわそうとも、優しく静かで、必ずハッピーエンドとなる。
安心して読めるけど、読後感も同じ。

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マル暴甘糟


2017年05月20日 読了
 北綾瀬署刑事組織犯罪対策課の甘糟。
乱暴なことが大嫌いで、毎日いやいやながらマル暴の者たちと接している。
そんなある日、多嘉原連合の下っ端構成員・ゲンが殴り殺された。
甘糟たちは、防犯カメラに写っていた不審な車を追う。

 暴力団と乱暴な先輩たちの間で毎日冷や汗をかきながらも、実は肝が据わっている甘糟。会話がメインの文体でスラスラ読める。
そして人物が混乱することもないので状況が想像しやすい。
立場は違うが気が合う男たちのやりとりが楽しい。

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横濱つんてんらいら


2017年05月17日 読了
 第八回角川春樹小説賞受賞作。
明治初期。異人さんがたくさん行き交う横浜で、海産物問屋の四女・すずは車引きの幼馴染・才蔵や、カメラマンのモーリスさん達と賑やかな毎日を過ごしていた。
ある日、一番の親友である喜代から手紙を預かったすずは、ひったくりに荷物を盗られて困っていたところを清国人の劉に助けられる。

 明治の華やかな街並みや異人の麗しさの中に、昔から続く悪癖と新しい毒が入り乱れる。
すずの軽い足取りのような語り口もあるのに、所々くどく重い言い回しが混じり、印象が一貫しないので読みにくいが、序章を改めて読み直しては想像を膨らます。

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横濱つんてんらいら [ 橘沙羅 ]
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